【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

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第九話 「けんきゅうじょ! にー!」

研究所の中には研究施設の他にさまざまな設備が整っているようでした。

 

レミアが寝ている医務室に始まり、研究員の寝泊まりの場所となる居住区。研究員の胃袋を満たす食堂に、大浴場を抱えた娯楽施設などもあるようです。

 

要するに住み込みでここジャパリパークの研究を行えるようになっている、とても大規模な研究施設のようでした。

 

そんな研究所の一角、かなりの面積を誇る食堂に集まったのは、カバンさん、サーバル、セッキー、アライさん、フェネック、そして研究所に住んでいる教授ことキュルルと所長ことイエイヌです。

 

食堂の作りはよくある一般的なものと類似しているようです。

厨房エリアと食堂エリアがカウンターで仕切られていて、本来であれば大勢の食堂のおばちゃんが厨房でご飯を作り、研究員が机と椅子の並ぶ食堂で食事を摂るというスタイルです。

 

「とりあえず料理をするところから始めよう。食材はもう用意してあるんだ」

 

キュルルが厨房の方へ入っていきながらそう言いました。

みんなその後ろをついていきます。

 

食材、と書かれた棚の中には、それはもう多くの野菜が詰め込まれていました。

葉物から根菜、キノコもあります。近くには大きな冷蔵庫もあって、キュルルは扉を開けてその中からも野菜を取り出しました。

 

「研究所の畑で採れた野菜たちだよ。いっぱいあるから全員の胃袋を満たせるくらいはあると思う」

 

キョウシュウエリアの図書館に並んでいた食材もなかなかに大量でしたが、ここに蓄えられている量はその比じゃないようです。

カバンさんは感心するようにうんうんと頷きながら、

 

「この研究所には、結構頻繁にお客さんが来るんですか?」

「まぁたまにって感じかな。頻繁にというほどではないよ。ただ、ここで料理を食べておいしいと思ってくれた子たちがたまに遊びに来ては料理を食べていくからね。食材のストックは常にあるのさ」

 

これだけの量の食材を腐らせずに管理しているという手腕もさることながら、まず自給自足でここまでの食材を確保しているということが驚きです。

カバンさんは驚きと感心の気持ちに胸を昂らせながら、さて、この豊富な食材たちで何が作れるかと思案しました。

 

図書館で作ったカレーも作れそうです。はたまた今日は別の料理に挑戦してみるのも悪くありません。

 

と、そこでそういえば今回は自分がメインで作るわけではないことを思い出しました。

キュルルが招待してくれたわけですから、もしかするともうメニューも決まっているかもしれません。

 

「あの、キュルルさん」

「なんだい?」

「もう何を作るかは決めているんですか?」

「そうだね、とりあえず野菜のオーブン焼きとスープにしようかなって思ってるんだけど、何か食べれないものとかある?」

「ボクはないですよ」

「私もないよ! なんでも食べたい!」

「アライさんもないのだ! 早く食べたいのだ!」

「私もないかなー」

『ボクも好き嫌いはないよ』

「じゃあ決まりだね。とりあえず野菜を洗って皮を剥いてもらおうか」

 

人参やカボチャ、玉ねぎなどの野菜を取り上げたキュルルは、一同を見回して、

 

「アライさんにお任せなのだ! 洗うのは得意中の得意なのだ!」

「それじゃあ、お任せするよ。玉ねぎは皮を剥くだけでいいからね」

「了解なのだ!」

「アライさん手伝うよー」

 

アライさんとフェネックが水道の蛇口から水を出して野菜を洗い始めました。

 

「ボクたちは何を手伝いましょうか?」

「なんでもやるよー! 切るのとか得意だよ!」

「カバンさんは洗った野菜の皮を剥いてもらいましょうかね。その後切るのをサーバルさんにお願いかな」

「わかりました」

「まかせて!」

 

料理の準備が着々と進んでいきます。

みんなでやれば作業のスピードも段違いです。七人分の食材を洗い、皮をむき、カットする作業は、瞬く間に進んでいきました。

 

キュルルを覗き込みながら、イエイヌが所在なさげにそわそわとしています。

 

「あの、教授! 私は何か手伝えることないですか?」

「所長にはそうだなぁ、みんなが作業中に飲むためのお茶を用意してもらえるかな?」

「はい、よろこんで!」

 

そういうと尻尾をふりふりしながらイエイヌは棚から茶葉を取り出してお湯を用意し始めました。

キュルルも、カットされた野菜をオーブンにしかけたり、鍋に入れて炒めたりしています。

 

料理はすぐに出来上がりそうです。

 

 

「完成なのだ!」

「おおー、おいしそうだねぇー」

「すごく美味しそうですね!」

「これ絶対おいしいよカバンちゃん!」

『これはいいねぇ。シンプルだけど、だからこそ旨そう』

 

食堂のテーブルには七人分のオーブン焼きとスープが並んでいます。

 

「おかわりもあるからね、ぜひどうぞ」

「お茶も入れ直しました! ぜひ飲んでください!」

 

各自席につき、手を合わせてます。

 

「「「いただきまーす」」」

 

みんなフォークを手に持って、まずはオーブン焼きから頬張ります。

 

「な! この野菜すごく甘いのだ! たまねぎ? 旨すぎるのだ!」

「じゃがいもがホクホクだねぇー。これはおいしいよー。おかわりしよー」

「わぁ、人参がすごく甘いです! この油は……?」

「それはオリーブオイルと言ってね。オリーブという木の実から生成した油なんだ。オーブン焼きとの相性は最高だよ」

「カバンちゃんカバンちゃん見て! このカボチャ? ってこうやって潰して食べるとなんだかおいしいよ! ねとねとしてる!」

『きゅうりって焼いてもおいしいんだ…………』

 

みんな思い思いに口へ運びます。どの野菜もしっかり火が通っていて、ホクホクで、そしてオリーブオイルの香りがとっても食欲を引き立てます。

一通りオーブン焼きを楽しんだら今度はスープを飲みます。

 

スープにもたっぷり野菜が使われていて、甘みがどっしりと出ているようです。

 

「やー、いいねぇこのスープ。優しい味だよー」

 

フェネックの言葉にみんな頷きます。会心の出来のようです。

 

「イエイヌさんの紅茶もすごくおいしいです。料理に合いますね!」

「いやーありがとうございます。これでも毎日入れて練習してますから」

「毎日! すごいです! アルパカさんのお茶とはまた違った香りで、とってもおいしいです」

「アルパカさん? ということは、お茶を飲んだことがあるんですか?」

「はい、キョウシュウのカフェをやってるフレンズさんです。そこで飲みました」

「はえー! あ、そうだ。ぜひぜひみなさんの旅の話を聞かせてください! 特にカバンさん! 人であるあなたの話はとっても興味があります!」

「そうですね! じゃあまずはボクとサーバルちゃんが出会った時の話から————」

 

それから、食堂はカバンさんたちのキョウシュウでの旅の話、レミアとアライさんとフェネックの旅の話、それから巨大セルリアンやセッキーとの戦いの話、そして巨大な爆撃機との戦いの話と、それはそれは大盛り上がりとなったのでした。

 

 

「それじゃあ、レミアさんはヒトとセルリアンのハーフ、カバンさんは純粋なヒトのフレンズというわけだね」

『そういうことになるかな。キュルルはヒトのフレンズ…………ではなさそうだね。正体はわかってるの?』

 

みんなひとしきり食事を終えて、あとは紅茶をゆっくり楽しむ時間になりました。

途中イエイヌが持ってきてくれたくし切りのリンゴをつまみながら、セッキーとキュルルが話をしています。

 

「フレンズではなさそうだ、というところまでしかわかってないかな。本当に、何年も研究してるんだけどいまだにボク自身が何者なのかはよくわかっていないんだ」

『そうなんだね。まぁ、正体がわからなくても生きてるってことに変わりはないからさ。そう気を落とさないでよ』

「大丈夫。ボクはもうボク自身のことはとりあえず置いて、他の研究を進めているからね。今パークで起きていることを究明することの方が大事かな」

「ビーストとか、ヘリのセルリアンのこととか?」

「そうそう」

 

キュルルは一口紅茶を飲みました。

キュルルとセッキー以外のみんなも、それぞれ別々に会話しています。

イエイヌはカバンさんと、ヒトとはどういう動物なのかについて話しています。それをサーバルとアライさん、フェネックが聞いてそれぞれの意見を言うような形です。

 

特に、アライさんの話にはみんなが耳を傾けました。まだパークに人がいた頃の話です。

アライさんの記憶の中の思い出話だけでしたが、イエイヌにとっては大切な研究材料のようでした。どこからか持ち出したメモ帳に真剣にメモを残しています。

 

キュルルとセッキーは主にパークのこと、レミアのこと、そしてカバンさんのことについて話をしていました。

レミアもカバンさんも人のフレンズで、原則フレンズは一種一体であることを考えると稀有な存在であること。

ましてセルリアンとのハーフとなると、一体何がサンドスターに反応したのか興味深い、というような会話でした。

 

『無機物にサンドスターが当たるとセルリアンになる、っていう暫定的な定義的にはボクもセルリアンなんだけどね』

「そこも再考の余地があるだろうね。最新の研究というか、この研究所に残されている比較的新しい研究レポートによると、セルリアンはセルリウムという物質に反応した場合に生まれるとされているんだ」

『セルリウム? 聞いたことないなぁ』

「かなり構想段階で、まだ一般的な研究論文にはなっていないみたいだったからね。実際、ボクの手でセルリウムを抽出することに成功している」

『そうなの? あれ、でもじゃあサンドスター・ローはどうなるの? あれと何かが結びついてもセルリアンになるよね?』

「なるよ。そっちはあらかた予想がついているんだ」

『もったいぶらずに教えてよ』

「そうだね…………サンドスター・ローが反応しているのは特定の物質だけなんだよ。その物質というのは」

『いうのは?』

「軍事兵器、あるいは軍事作戦に使われたもの、だと思うんだ。これまで出会った黒いセルリアンの大元を思い出してほしい」

『巨大セルリアンも、爆撃機も、ヘリも、軍事兵器が元になってるってこと?』

「その可能性が高いって話。キョウシュウに現れたという黒い巨大セルリアンはおそらく兵装運搬用の四脚ロボット。爆撃機と攻撃ヘリはまんま兵器だよね」

『じゃあ、レミアから感じたサンドスター・ローの存在も』

「そう。ドッグタグは軍事作戦に従事するものの象徴だからね。サンドスター・ローが反応してもおかしくはない」

 

セッキーと、キュルルは一度紅茶を口に運びました。

一口飲んで、それからふうと息を吐いて、言葉を続けます。

 

「なんにしても、一般的なセルリアンと黒いセルリアンは性質が大きく異なるというわけだ」

『ボクが使役できるのも、今までは水色とか赤色とかのセルリアンだけで、黒はダメだったからね』

「何かしらの性質が違う、あるいは妨害されているってことだね。案外、作戦命令に従うことが軍事の基本だから、別系統からの命令はシャットアウトしている、とかなのかもしれないね」

『なるほどなー。どうりで黒セルリアンとは話が通じないわけだ。納得したよ。ありがとう』

「こちらこそ。セルリアンを使役するという特殊な能力の話が聞けて助かったよ」

 

キュルルとセッキーが話している一方で、カバンさんたちはヒトの行方についての話で盛り上がっていました。

 

イエイヌが食い気味にアライさんに詰め寄ります。

 

「じゃあやはり、ヒトはジャパリパークの外にいるということなのでしょうか?」

「そこまではわからないけど、とりあえずジャパリパークにはいないと思うのだ! 人の住む場所も、もしかしたら海の向こうにあるかもと思ったけど、これじゃあ多分ヒトはジャパリパークにはいないのだ!」

 

アライさんの言葉に、カバンさんも身を乗り出して話を聞いています。

 

「じゃあ、ヒトの住む場所、ヒトの縄張りはパークの外にあるんでしょうか……?」

「キョウシュウの島を出て、ゴコクを見てきた感じだとそうなのだ! たぶんパークの外なのだ!」

「パークの外…………」

 

カバンさんは視線を落としてつぶやきます。

カバンさんの旅の目的、ヒトの縄張りを探すというこの旅を続行するためには、パークの外へ出ないといけないみたいです。

 

「イエイヌさん、パークの外って出られるんですか?」

「普通には無理、という結論を教授と出していますね。私もヒトを探すためにパークの外へ行くことを検討した時期があったのですが、サンドスターの供給ができないという大きな問題を前に頓挫してしまいました」

「サンドスターの供給って、ジャパリまんじゃだめなの?」

 

サーバルが首を傾げます。イエイヌははいと頷き、

 

「多くのフレンズは、サンドスターの供給を呼吸と摂食から行なっていると予想されています。そのどちらかが欠けるとダメみたいで、フレンズの形を維持できなくなるとか」

「じゃあ、パークの外へは出られないんでしょうか?」

「それは研究中です。要するに、サンドスターを摂取し続ければいいので、サンドスターを高濃度で抽出、保存、そして摂取できる方法を探しています」

 

イエイヌのその言葉に、フェネックが不思議そうな目で続けます。

 

「レミアさんの傷口に振りかけてたあの瓶のサンドスターじゃダメなのー?」

「あれは一時的に取り出せているだけみたいなんです。数日置いておくと気化するのか、無くなっちゃうんですよ」

「そっかー。難しそうだねー」

「サンドスターを、何か保存性の良い別の形に変換できれば希望が見えてくるんですけどね。それがなかなか見つからなくて」

「そうなんですね…………」

 

人の住む場所。人の縄張り。それらを探すためにはおそらくパークの外へ出なければいけませんが、出るためには研究を進めてなんらかの装置を作らないと出られない、ということでした。

 

「…………」

 

カバンさんは視線を落として、何かを考えているようでした。

そのまま紅茶を一口飲んで、少し難しい顔をしたまま、何かを必死に考え込んでいる様子です。

 

そんなカバンさんには気づかずに、イエイヌは、

 

「まぁ、何か進展があったときには報告しますよ! 私もヒトを探して長いですから、カバンさんのお役に立てるよう頑張ります!」

 

屈託のない笑顔で、そう言い放ちました。

 

テーブルの上には空いたお皿とカップが立ち並んでいます。

そろそろお話もいいくらいでしょうか、ひと段落ついた様子です。

 

「それじゃあ片付けをして、このあとはこの研究所の案内を所長にしてもらおうかな。ボクはちょっと研究の続きがあるから席を外すよ。頼めるかい?」

「任せてください教授! 隅から隅まで案内しますよ!」

「それじゃあ、よろしく頼むよ」

 

キュルルの一声で、みんなお皿を片付け始めました。

食器洗いを名乗り出たのはアライさんです。

 

「もちろん洗うのは得意なのだ! まかせろなのだ!」

 

とはいえ広い厨房の広い流し台です。みんなで手分けして皿を洗って、ピカピカの食器が干されるまでそう時間はかかりませんでした。

 

 

 




次回「けんきゅうじょ! さんー!」

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