【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

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前話で「キョウシュウチホー」「ゴコクチホー」となっていたところを「キョウシュウエリア」「ゴコクエリア」に修正しました。アニメ一期準拠の呼び方にします。


第二話 「うみべ! にー!」

 

「ドウモイ酸?」

 

カバンさんが怪訝そうな表情でセッキーの言葉を繰り返しました。

セッキーは口に出したドウモイ酸という物質について説明をします。

 

それは、簡単にいうと人体やアシカにとっての毒であり、摂取しないほうがいい物質であること。

自生する藻で生成され、それを食べたカニや貝類にドウモイ酸が蓄積され、そのカニや貝を食べることで影響を及ぼすこと。

記憶喪失系の毒で、症状は吐気、嘔吐、腹痛、頭痛、下痢に始まり、ひどくなると記憶喪失、混乱、平衡感覚の喪失、けいれんが起こり、最悪の場合昏倒の末死に至る毒です。

 

『人体だけじゃなくて、フレンズ化する前のアシカなんかもよく被害に遭う毒なんだ。餌場や縄張りを忘れてしまうから、大変なんだよ』

「それじゃあ、フォルカさんは……」

『うん、たぶんカニからドウモイ酸を大量に摂取してこうなっちゃったんだと思う。名前を忘れるとかの症状から見るにほぼ間違いないと思うな』

 

うなずくセッキーに、レミアは心配そうに口を開きます。

 

「毒の種類がわかっても、解毒剤もないしどうすることもできないんじゃないかしら」

『そうだね。治療するには…………どうしたらいいんだろう。サンドスターの作用で無理やり治したいところだけど、嘔吐しちゃうんじゃ摂取しようがないんだよね』

「あの」

 

困り果てるセッキーに、カバンさんがおずおずと手を上げました。

 

「セルリアンに毒だけを食べてもらう、というのはどうでしょう……? できませんかね」

『セルリアンに?』

 

驚きの声を上げたセッキーですが、すぐに立ち上がると『ちょっと待ってて』と言って波打ち際の海色セルリアンの元へ行きました。

 

『毒だけを器用に食べることってできる?』

 

ヒュルオ。

 

『本体とか、サンドスターは食べちゃダメなんだよ? できる?』

 

ヒュル、ヒュルオオオオ。

 

二言、三言会話を重ねています。セッキーはみんなの元に戻ってくると、

 

『で、できるみたい。なんかね、食べることなら任せてって。僕達より食べるのがうまい存在なんていないよって言ってた』

「わぁ!」

 

その場にいた全員が花の咲いたような笑顔になります。さっそく試してみようと、海色セルリアンを浜に上げてフォルカの元に近づけます。

 

『本当に、サンドスターとか食べちゃダメだからね? 記憶とかも食べちゃダメだよ? 大丈夫?』

 

セッキーは心配そうに念を押しますが、海色セルリアンはどこか頼もしく目を動かしてヒュルルとひとつ鳴きました。

仰向けで横たわるフォルカの首から下に覆いかぶさります。グニュグニュと音を立ててしばらく蠢くと、ぴたりと止まりました。

 

とたん、

 

「あ、気持ちいい……」

 

フォルカが声を上げます。ちょっとブルっと体を震わせたかと思うと脱力してセルリアンに身を委ねている様子です。

 

「うまくいってるのかしら?」

『たぶん……?』

 

レミアもセッキーも首を傾げます。アライさんがうずうずした様子で、

 

「アライさんもやってみたいのだ。フォルカとっても気持ちよさそうなのだ」

「やーアライさんそしたら一回毒を食べなきゃだよー? しんどいよー?」

「う…………それは嫌なのだ。やっぱりやめておくのだ」

 

しばらくするとセルリアンはゴソゴソと動いてフォルカから降りました。ヒュルルルとセッキーに何事か鳴きます。

 

『無事、ドウモイ酸だけ食べたって。もう体の中に毒は残ってないから大丈夫って言ってるよ』

「すっごーい! セルリアンってそんなこともできるんだね!」

 

サーバルの感嘆の声はみんなの心を代弁していました。セルリアンはどこか誇らしげにヒュルッっと一声上げると、海辺の方に戻って行こうとしました。

それを呼び止めたのはフォルカです。ゆっくりと体を起こしながら声を上げました。

 

「待って」

 

セルリアンが振り返ります。目はフォルカを見ていました。

 

「ありがとう…………本当に、助かったわ」

 

ヒュル、と。短く鳴いたセルリアンは波打ち際の方へ向き直ると数体集まっているセルリアンの集団の元へと戻っていきました。

 

『やーすごいね。まさかそんなことができるとは思ってなかったよ。フォルカ、体の調子はどう?』

「嘘みたいに軽いわ。吐き気もフラフラ感もないし、元通りになったみたい」

 

にっこりと笑顔でフォルカはそう告げました。ドルカとイッカクも胸を撫で下ろしたように安堵の表情を浮かべます。

ドルカはキラキラとした目でセッキーたちを見ながら、

 

「本当にありがとう! あたしの友達を助けてくれて!! これはなにかお礼をしなきゃだね!」

 

そういうとドルカは洞窟の奥の方へ行き、なにやら道具を取り出してきました。

 

「あたし達これで遊んでるんだけど、ちょっとした見せ物になると思うから見ていってよ!」

 

ドルカの手にはフラフープとボールが握られていました。サーバルが、

 

「なにそれなにそれ! 私も遊んでみたーい!!」

「後で貸してあげるよ! 海に出て、ぜひ見ていってよ!」

 

ドルカの誘いにサーバルはノリノリです。レミアとカバンさん、それからセッキーも顔を見合わせて、

 

「いいんじゃないかしら」

「はい。ボクもどんなふうにあれを使うのか見てみたいです!」

『あ、そうだ。それならバスの電池を充電しながら見ればいいんじゃないかな?』

 

セッキーはバスの方を指差しました。

そうです。バスは今電池がなくなっていて、自力では動きません。電池を充電する必要があるのですが、

 

「充電する施設はこの近くにあるの?」

 

レミアの至極真っ当な質問が飛びます。セッキーは『えーっとね』とちょっと目を瞑ると、

 

『あるみたい! この近くに風力発電の灯台があって、そこの小屋で充電できるみたいだよ。行ってみよう!』

「ドルカ達のショーはそれからね」

「アライさん楽しみなのだ!」

「これは期待できそうだよねー」

 

一行はバスに乗って洞窟から外へ出ました。

 

 

浜辺を少し行ったところに、小高い岩場がありました。その頂上に、風力発電をしている大きな風車と灯台、それから小屋が併設されています。

 

浜辺の方から小屋を見上げて、

 

『あそこだね。ちょっと行ってくるよ』

 

セッキーはバスを飛び降りました。

その様子を見ていたサーバルが、

 

「私たちも行っていい? カバンちゃんと一緒に、あのクルクル回ってるやつを近くで見てみたいんだ!」

 

セッキーの元へ駆け寄りながら聞きます。もちろんいいよとセッキーは返してから、

 

『レミアとアライさん達はどうする?』

「あたしはバスに残っておくわ。誰かいた方がいいでしょ」

「アライさんはセッキーについていくのだ! アライさんもあのクルクル気になるのだ!」

「じゃー私もついていこうかなー。レミアさん一人でも大丈夫ー?」

「大丈夫よ。何かあったらイッカクちゃんもいるし」

「任せておけ」

 

手に持ったスピアを誇らしげに掲げながらイッカクは胸を張ります。

 

バスの前部から電池を取り出して、カバンさんのカバンの中に入れてからセッキー達は出発しました。

 

『電池を仕掛けたらすぐ戻ってくるよ』

「戻ってきたらフォルカ達のショーを見るのだ!」

「アライさーん、突っ走らないでねー」

「だ、大丈夫なのだフェネック。ちゃんとみんなと一緒に行くのだ」

 

わいわいと騒がしく岩場に続く階段を登っていく背中を見届けて、レミアはバス後部の座席に座ったまま外の景色をぼーっと眺めました。

 

潮風が肩口まで伸びた茶髪を揺らします。磯の香りが鼻をくすぐり、太陽の光に反射した海面がキラキラと目に飛び込んできます。

 

「いい景色ね」

 

バスの外では、フォルカとドルカがなにやら作戦会議のようなものを話しています。チラチラと話し声は聞こえますがなにを話しているのかまではわかりません。この後のショーでなにをやるのか、段取りをしているのでしょう。

 

のんびりと外の景色を眺めていたレミアは、ふと、気になってポーチとホルスターに手を伸ばします。体をもとの大きさへ戻すためにサンドスターを使いたいが故に、今は取り外しています。二丁あるうちの一丁、壊れたままのリボルバーを取り出して、そっと指でなぞりながら、

 

「ごめんなさいね。あなた達を使うのはずいぶん先になるわ」

 

一言呟きました。すると、

 

「なるほどな、それがレミアの武器か」

 

イッカクがバスの中に入ってきました。独り言を聞かれてちょっと恥ずかしくなったレミアはごまかすようにリボルバーをホルスターに戻しながら座席に座り直します。

イッカクはその隣に座りながら優しい声音で質問します。

 

「元は大きかったそうだが、どれくらいの大きさだったんだ?」

「あなたより頭一つ大きいくらいかしらね」

「そうか。サンドスターの消費が原因……つまり、闘いすぎて小さくなったんだよな?」

「えぇ、まぁちょっと前にセッキーちゃんと色々あってね。今はもう仲直りしてるわ」

「そうか。まぁ、仲が良くてよかったよ。セルリアンを従えるような奴が敵に回るとは、考えたくない」

「ほんとね。大変だったわ」

 

くすくすとレミアは柔らかく笑います。

その様子を見ていたイッカクも、にこりと笑みを浮かべながら「そういえば」と言葉を続けます。

 

「仲直りといえば、セルリアンが味方しているという状況もなかなか不思議だな」

「そうね。ずっと危険な存在、いわば敵として対峙していたものとこうして力を合わせて何かをしているのは、運命の悪戯のようなものを感じるわね」

「一度従えたセルリアンはずっと仲間になってくれるのか?」

「今の所はそうみたいよ? ちゃんとジャパリまんをあげてサンドスターを摂取させてれば襲われることはないそうよ」

「すごいな、なんだか。現実味がない話だ」

「そうね」

 

イッカクはハンターです。ハンターとしてセルリアンとも相当数戦っているでしょうし、その分、食べられて別れを告げることとなったフレンズも大勢見てきているはずです。

急に仲良くなる、というのは戸惑いを隠せないのでしょう。

 

「あぁそうだ、レミア、ひとつお願いがあるんだ」

「なにかしら?」

「あの毒を食べてくれたセルリアン、我々の縄張りに置いてはくれないだろうか」

 

少し困ったような表情でそう言うイッカクに、レミアは、

 

「そりゃ、セッキーちゃんに頼めば大丈夫だと思うけど…………なんで?」

「実はな、フォルカ、カニが大好物なんだ」

「?」

「これからもカニを食べたいだろうし、でも毒を摂取するのはもうこりごりだろうから、セルリアンに毒を抜いてもらってからカニを楽しむというのはどうだろうかと思ってな」

「できなくはないと思うけど、セッキーちゃんに聞いた方がいいわね。話ができるのはあの子だけだし」

「よろしく頼む。フォルカの体調を良くしてもらった上にこんな頼み事は不躾だとは思うが……」

「いいのよ。好きなものは楽しまないと」

 

あたしもビールが飲みたいわ、という言葉は胸の内にしまったレミアでした。

 

 

『ただいまー』

「帰ったのだ!」

「お待たせしたねー」

「ゴウンゴウンいってて大きかったね! カバンちゃん!」

「すごかったね。あれで電気を作るんだって、すごいなぁ」

 

電池充電組が小屋から帰ってきました。レミアはさっそく先ほどイッカクから聞いた内容をセッキーに確認します。

うんうんと頷いたセッキーは、そのまま波打ち際にいる海色セルリアン達の元へ行くと、先ほどフォルカを治療した一体を見つけて話しかけます。

 

『と言うわけなんだけど、できそう?』

 

ヒュルルロ。

 

『そっか! じゃあお願いするね!』

 

ヒュル、と、短いやり取りでしたが心良い返事がもらえたようです。

フォルカの方にはイッカクから話をしたようで、まず最初に驚いた様子のフォルカはそのあと恥ずかしそうにしながらセッキーの元へ駆け寄り、

 

「あ、あの、ありがとうございます。おかげで大好物をこれからも楽しめますわ」

『いいっていいってー! やっぱり好きなものは諦めきれないしね! あ、でも、これからは気をつけて、ちゃんとセルリアンに解毒してもらってから食べること。あと食べ過ぎにも気をつけることだね』

「はい。わかりましたわ。本当に、何から何までありがとう、セッキーさん」

『いいってことよー』

 

フォルカは、恥ずかしそうにはしていましたが、とても嬉しそうな満面の笑みを浮かべていました。

 

 

「そーれじゃー! ドルカとフォルカのウォーターショーを始めるよぉー!」

 

ドルカの元気な声が浜辺に響きます。ドルカとフォルカは波打ち際に、他の全員は浜辺に座って二人を見ています。

 

「イッカクちゃんは混ざらないの?」

「わたしはあれ得意じゃないからな。見る専門だ」

 

イッカクも観覧側に回っています。

 

ドルカとフォルカは一斉に海の方へ泳いでいくと、ドルカが持っていたボールを空中高く放り投げました。

放物線を描いて落下していくボールのすぐ真下へと泳いできたフォルカが、頭でボールをキャッチします。

そのまま頭に乗せたまま立ち泳ぎでドルカの元まで来て、今度はドルカにバトンタッチします。頭から頭へ、ボールが手を使わずに移動したかと思うと、今度はドルカからフォルカへ、これまた手を使わずに頭の上だけでボールをやりとりしています。

 

「おおー! すごいのだー!」

「やるねぇー」

「すっごーい!」

「あはは、すごいすごい!」

「あれ立ち泳ぎしながらやってるのよね? 半端じゃないバランス感覚だわ……」

『レミア真似できそう?』

「無理よ」

 

各々拍手しながら目の前のショーに夢中になります。

ドルカは、今度はボールを手放して、フラフープをいくつか持っています。

フォルカが少し離れたところで待ち構えています。

 

「いっくよー!」

 

ドルカは一声とともに、フラフープを同時にばっと投げました。広がる輪っかが海面に吸い込まれていく直前。

 

「はい! はい! はい!」

 

フォルカが海面に近い順に全て潜っていきます。潜ったフラフープは腰のところで押さえて保持しています。最後にドルカがボールを投げて、それをフォルカが頭でキャッチしてウォーターショーはおしまいになりました。

 

割れんばかりの拍手が浜辺から二人に寄せられます。

二人は満足そうにはにかみながら波打ち際へと上がってきて、

 

「どうだった! どうだったかな!?」

「すごい迫力だったのだ! アライさん感動したのだ!」

「バランス感覚がすごいよねー」

「すっごいすっごーい! 私もやってみたーい!」

 

サーバルが手を上げて、ドルカに「なげてなげてー!」と手を振ります。

 

「じゃーいっくよー! それ!」

 

放物線を描いたボールの先で、サーバルはピョーンと飛ぶと、

 

「とりゃー!」

 

空中でボールに頭をタッチさせて、そのまま手で掴んで地上に降り立ちます。手で持ったボールを頭の上に乗せようとしますが、

 

「あ、あれ? あれ? だ、だ、だめかー」

 

ぽろりと落ちてしまいました。

 

「まぁ、そう簡単にはできないかもねー!」

「ううーもう一回! 次は成功するよ!」

「アライさんも! アライさんもやってみたいのだー!」

「順番だねーアライさーん」

 

その後、浜辺はしばらくボールを頭に乗せたいフレンズ達でわいのわいのと賑わっていました。

サーバルとアライさんが満足したのは、数時間経った後のことです。ドルカとフォルカはその間ずっと、笑顔でボールを投げてくれていました。

 

 

時刻は夕暮れ。海の向こう側に太陽がオレンジ色の光を残しながら沈んでいくところです。

浜辺には長い影が落ちていました。

 

「じゃーねー! ドルカ! フォルカ! イッカク!」

「うん! また遊びにきてね!」

「待ってますわ」

「ありがとうな。また遊びに来いよ」

 

サーバルが元気な声で手を振ります。バスの充電も無事終わり、一行はゴコクエリアの中へと向かっていくことになりました。

これからしばらくは陸路での旅になります。海色セルリアンは地上をそう早くは動けないそうで、ドルカたちの縄張りにおいていくことになりました。

フレンズ達を襲わないこと、何かあれば、例えば敵対するようなセルリアンが現れた時にはドルカ達を守るようにとセッキーがよく言い聞かせています。あと、ついでにカニの解毒もよろしく頼んであります。

 

キョウシュウエリアから連れてきている水色セルリアン四体はバスの上に乗せています。移動はこれで大丈夫そうです。

バスはゆっくりと、一行を乗せて出発しました。

 

バスが見えなくなるまで、ドルカ、フォルカ、イッカクは手を振ってくれていました。

見えなくなってからしばらくして、

 

「ふー! たのしかったー! フォルカも、体良くなってよかったね!」

「ええ、本当に。あの子達には感謝しても仕切れませんわ」

「もうあんな状態にならないように気をつけないとな」

「えぇ、でも…………回復祝いにまたカニが食べたいですわ」

「さすがフォルカ」

「さすがだな」

 

ええ、何か問題ですの? とフォルカは困ったような表情をしましたが、ドルカはううんと首を横に振って、

 

「ちゃんとセルリアンに解毒してもらってから食べよう! あたしも食べる! イッカクも食べる?」

「わたしも、食べてみようかな」

 

それじゃあ、とドルカは拳を空高く上げて、

 

「今夜はカニパーティーだー! いえい! かにかにー!」

 

満面の笑みで叫びました。

夕暮れの浜辺には、どこまでもどこまでも、ドルカの嬉しそうな声が響きわたっているのでした。

 

 




ドルカのビジュアルめっちゃ好きです。あのグラデーションのかかった髪色とちょっと癖のあるところ最高に好き。

次回「ちくりん! いちー!」

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