【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

30 / 48
週一更新くらいで、またあの時の温かく楽しい物語を紡いでいけたらと思います。
よろしくお願いします。


第一話 「うみべ! いちー!」

『とりあえずこれで進めると思うよ!』

 

セッキーの元気な声がバスの中に響きました。改造を施して海の上に浮かべるようになったバスは、今は前部と後部をつなげてひとつ塊になっています。海の上にぷかぷかと浮かぶバスの底面には海色セルリアンがたくさん集まっていました。

 

レミアとセッキーはより広い後部に移動しながら口を開きます。

 

「島までセルリアンの力で移動できるのかしら?」

『できると思うよ! 数もたくさんいるし、海のセルリアンは泳ぐのが得意なんだって。任せてって言ってる』

 

そう、とレミアは笑顔でうなずきながらカバンさんの方を向きます。カバンさんは地図を取り出して、周りの景色を注意深く見ていました。

 

「カバンさん、進路はわかるかしら?」

「あ、はい! こっちの方角から来ているので、このままこの方向に進めば地図上では上陸できると思います。セッキーさん、よろしくお願いします」

『任せて! それじゃあしゅっぱーつ!』

 

セッキーの声と共に海の中からヒュルオオオと短いセルリアンの鳴き声が聞こえると、バスはゆっくりと進み出しました。

 

「快適なのだ!」

「なにげにペダルを漕ぐのは大変だったからねー。これなら楽ちんだよー」

 

アライさんとフェネックがバスの座席に座りながらくつろぎます。サーバルは立ち上がってカバンさんの後ろまで行くと、

 

「またよろしくね! カバンちゃん!」

「うん! サーバルちゃんも!」

 

ニコニコと笑顔で言葉を交わしました。

ゆらゆらと波の動きに合わせて揺れるバスは、ゆっくりと次の島へ向けて進み出します。

 

 

「これから行く島には名前があるんですか?」

 

ふと、カバンさんが疑問に思ったことを手元のボスに話しかけました。ボスはカバンさんの手首で緑色に光ると、

 

『今までいた島がキョウシュウエリアで、これから向かう島がゴコクエリアと言うよ。ちなみに管轄が違うから、ボクやセッキーでは案内ができないよ』

「え、そうなんですか?」

 

驚きの声を上げたカバンさんの後ろで、セッキーが立ち上がって近づきながら答えます。

 

『そうなんだよ。ボクたちラッキービーストはそれぞれのエリアで管轄が分かれてて、よりそのエリアに集中して案内ができるように他の地方のデータは入っていないんだ』

「それじゃあ、ゴコクエリアについたら、ゴコクエリアのラッキーさんを探さないといけない、と言うことでしょうか?」

『あ、いやその心配はいらないかな……?』

 

セッキーが人差し指を頬に持ってきてそんなことを言いました。カバンさんは振り返って首を傾げます。

 

『ほらボク、パークのシステムにハッキング仕掛けられるから、情報なら抜き出せるよ。監視カメラとかも操れるよ!』

「ええ!? そ、そんなことできるんですか!」

『言ってなかったっけ?』

「初耳です……」

 

カバンさんが驚愕の表情を浮かべる後ろで、レミアがあーそういうことかと膝を打ちました。

 

「だから戦う時の動きが私に似てるのね?」

『まぁねー』

 

悪戯っぽい笑顔を浮かべてセッキーが笑います。監視カメラにハッキングを仕掛けてレミアの動きを学習、それを真似て体術にしていたので、どことなくレミアの動きとセッキーの動きは似ているということでした。

 

『だから多分だけど、ゴコクに着いたらシステムを触ってみるから、道案内とかは心配いらないよ。情報もコピーしてそっちのラッキービーストに送ってあげるから』

 

セッキーはカバンさんの手元のボスを指差して言います。カバンさんはありがとうございますとお礼を伝えてから、前を向きました。

 

「あ! そうなのだ! これ、レミアさんに返すのだ!」

 

アライさんが突然声を上げると、持っていたリボルバーをレミアに差し出します。

 

「これはレミアさんが持っていてほしいのだ!」

 

え、いいのに別に、とレミアは言いますが、アライさんはグイッとレミアの手元に押し付けて強引に渡しました。五歳児の体格であるレミアの手には大きすぎるリボルバーです。受け取ったレミアは困り顔で微笑みながら、そばに置いていた空のホルスターにすっと入れました。

 

「今のあたしには大きすぎて扱えないわ」

「でもヒトのものはヒトが使ってこそなのだ。どのみちアライさんじゃそれは扱えないから、ちゃんとレミアさんに返すのだ」

「もう……まぁ、そういうことなら預かっておくわ。ありがとね」

「どういたしましてなのだー」

 

そんなやりとりを見て、サーバルもバス後部に置いていた帽子を持ってカバンさんの頭にかぶせます。

 

「私も! これはカバンちゃんが被っててほしいかなぁって!」

「サーバルちゃん…………うん、わかったよ。ありがとね」

 

はにかみながら帽子をぎゅっと被ったカバンさんをサーバルは満足げに見つめていました。

と、その時。

 

「ん?」

 

サーバルの耳がピクリと動きます。フェネックも耳をぴくぴくと動かしています。

 

「何か聞こえるねー」

「これ、なんだろ? あれ……この音、もしかしてセルリアン??」

 

サーバルの言葉にレミアが首を傾げます。セルリアンなら今バスの下でせっせと働いてくれています。その音がどうしたのでしょうか。

レミアはフェネックの方に向き直り、

 

「どうかしたの?」

「ううーん? なんかねー、これたぶんねー、セルリアンが散ってるっぽいー?」

 

フェネックの言葉にセッキーがばっとバスから身を乗り出します。真下の海を見て、

 

『うわわわわわわ! ストップストーップ!! 待って待って待って待ってぇーッ!!』

 

大きな声で、バスの下で暴れているフレンズに叫びました。

 

 

海面から顔を出したフレンズは二人でした。二人とも焦ったような表情をしていましたが、セッキーの『その子たちは味方だよ!』の声に動きを止めたのでした。

 

一人はグラデーションがかったスカイブルー色の髪を肩口まで伸ばしたフレンズです。セーラー服とワンピースを一緒にしたような涼しそうな服装をしています。

もう一人は灰色と黒色の二色の髪を、左側で細く一つにまとめ上げたような髪型のフレンズです。スカイブルーの髪色の子と同じような、セーラー服とワンピースを混ぜたような服装をしています。手には特徴的な細く長いスピアを一本持っていました。

 

セッキーの慌てた制止の声に二人は怪訝そうな表情を浮かべながらも、セルリアンを屠る手を止めました。バスとセルリアンを交互に見て、スカイブルーの髪色の子が声を張り上げます。

 

「襲われてるんじゃないの!?」

『ちがうちがう! この子たちはボクのお友達だよ! 安全だからやっつけないで!』

「そっか! わかった! にしても変わったものに乗ってるね! そっちに行ってもいい?」

 

スカイブルーの髪色の子の申し出に、セッキーは一度バスの中を見回してから、

 

「レミア、カバン、上がっても平気?」

「あたしはいいわよ」

「ボクも、いいと思います」

『オッケー! いいよいいよ! 上がってきて!』

 

二人のフレンズをバスに乗せました。

 

 

「あたしはバンドウイルカのフレンズ! ドルカって呼んでね!」

「わたしはイッカククジラのイッカク。セルリアンハンターだ。襲われているのかと思ったぞ」

 

スカイブルーの髪の子がドルカ、スピアを持った子がイッカクと言うそうです。

二人のフレンズはイルカと鯨なだけあって泳ぐのが得意そうです。この辺りをうろうろしていたらセルリアンが集まっているバスを見て、襲われていると思ったそうです。

 

セッキーは両手を合わせながら、

 

『紛らわしくてごめんね。ボクはセッキー。ラッキービーストのフレンズだよ』

「ラッキービーストのフレンズぅ!? そんなのいるんだ! すごい!」

 

ドルカが拳を握りながらはしゃいでいます。その横でイッカクが怪訝そうな顔で首を傾げながら、セッキーに質問します。

 

「お前はセルリアンを操れるのか?」

『うん、そうだよ。バスを動かすのに手伝ってもらってるんだ。ゴコクチホーに行きたくて』

「なるほどな。それはまぁ……勘違いとはいえすまなかった。友達を消してしまって」

『大丈夫大丈夫』

 

実際、消えてしまったセルリアンが戻ってくることはないのですが、そこまでセッキーは気にしていない様子です。

その後はレミア、アライさん、フェネック、サーバル、カバンさんと自己紹介をしました。

 

ドルカは、

 

「ヒトのフレンズ? ヒトってどんな動物なの?」

 

と、初めて聞くフレンズに興味があるようです。

答えたのはサーバルとアライさんでした。

 

「いろんなこと考えたり、やったりするのがとっても得意なフレンズなんだ!」

「へえー!」

「レミアさんは戦うのも得意なのだ!」

「え? こんなに小さいフレンズなのに?」

「今は小さくなってるけど、元はもっと大きかったのだ! とっても強くて頼り甲斐のあるフレンズなのだ!」

「そーなんだ! すごいね!」

 

ドルカはキラキラとした目で胸の前に拳を握ってうなずきます。そのままの調子で首を傾げながら、

 

「ところで、みんなはどこからきたの?」

 

サーバルが「向こうのほうだよ!」と指を刺した先、元いたキョウシュウエリアは今はもう遥か遠くにうっすらと影が見えるくらいになっています。

ドルカは、

 

「向こうのほうは行ったことないなぁ! ねぇねぇ、どんなところなの?」

 

目をぱちくりさせながら聞いてきます。答えたのはアライさんでした。

 

「いろんな地方があって、いろんなフレンズがいるのだ! あと時々めちゃくちゃでかいセルリアンが出るのだ!」

「ええー! じゃあじゃあ、そんな大きなセルリアンが出た時はどうしたの? 逃げたの?」

「逃げたり戦ったりなのだ! アライさんの周りにはゆーしゅーなフレンズがたくさんだから、パークの危機でもへっちゃらなのだ!」

 

アライさんの言葉に「危ない時は危ないけどねー」とフェネックが横槍を入れておきます。できればもう巨大セルリアンとは顔を合わせたくないなぁという率直な思いからくる言葉でした。

 

「ゴコクエリアは、どんなところなのかしら? 知ってるの?」

 

レミアはドルカとイッカクに首を傾げながら訊きました。口を開いたのはイッカクです。

 

「わたしたちは海と海辺が縄張りで、普段はそこにいるからな。海辺より向こう側がどうなっているのかは知らないが、特に代わり映えはしないと思うぞ?」

「セルリアンがやたらたくさん出てきたり、大きなのが出たりとかは?」

「最近では見ていないな。海の方では、時々セルリアンは出てくるが、わたしを含めたハンターが対処可能なくらいのやつしか出ていないぞ」

「そう」

 

レミアは納得した様子でうなずきました。というのも、キョウシュウエリアの火山とサンドスターがどの程度影響しているのかを知りたかったのです。よその地方や海にまで影響しているのか否か。答えは否でした。

 

「ゴコクエリアにも火山はあるのかしら?」

「あるよ? というか海の中にもあるよ!」

 

ドルカが元気よく答えます。その言葉に驚いたのはサーバルとアライさんで、目を丸くしながら、

 

「う、海にも火山があるのか!」

「すっごーい! 見てみたーい!」

「潜れば見れるけど、君たち泳ぎは得意なの?」

「ちょっとなら泳げるよ!」

「アライさんは苦手なのだ…………」

「だいぶ深いところにあるからやめておいた方がいいと思うな!」

 

屈託のない笑顔でドルカはそう言いました。海底火山、そうなかなか簡単には見られそうにありません。

ドルカの笑顔を横目に、今度はイッカクが不思議そうな表情でレミアに質問を投げかけます。

 

「それにしても、お前たちはどうして縄張りを離れてそんな遠くへ行こうとしているんだ?」

「あぁ、それには訳があるのよ。主にあたしとカバンさんの目的を果たすためね」

「目的?」

 

首を傾げるイッカクに、レミアは言葉を続けます。

 

「あたしの目的は、過去へ戻るために、神に匹敵するフレンズに会うこと。カバンさんは……」

「ボクは、人のいる場所、人の縄張りを探しています」

「なるほどなぁ……」

「イッカクちゃん、何か知らないかしら?」

「神に匹敵するフレンズというのも、ヒトの縄張りというのも聞いたことがない。そもそもわたしたちはヒトという動物を今日初めて聞いたからな」

「神様……のようなフレンズのことは何か噂話程度でも聞いたことないかしら?」

「ないなぁ。そんなのがいるって話を聞いていたら忘れる訳がないから、とんと思い当たる節がない」

「そう……」

 

レミアは少し残念そうです。カバンさんも前を向いたまま話だけは聞いているようですが、カバンさんの方は慣れているのか、落ち込んでいるふうには見えませんでした。

そのままカバンさんは「ん?」と一言唸ると、目を細めて水平線の彼方を見遣ります。それからパッと笑顔になり、

 

「みなさん! 島が見えてきましたよ!」

 

運転席の方から声を上げました。

みんな一斉にバスの前方へ集まります。はるか水平線の向こう側、うっすらと、しかし確かに、島の影が見えてきました。

レミアがごくりと唾を飲み込みながら言葉を漏らします。

 

「あれがゴコクエリアね」

『どんなところなんだろうね!』

「楽しみだわ」

 

 

島を目指して進む一行のバスの中、時刻は昼前になりました。

太陽がもうすぐ一番高いところへ昇ります。海面にキラキラと反射する光を眺めながら、レミアたちはジャパリまんを食べていました。

イッカクとドルカにも渡して、みんなでお食事タイムです。

 

レミアは両手でジャパリまんをもってもふもふと食べながら、ドルカの方へ向き直って口を開きました。

 

「それにしても、あなたたちの縄張りはずいぶん広いのね。島の岸からかなりの距離じゃないかしら」

「ん? ううん? 違うよ。あたしたちの縄張りはもっと島に近いもん。今日はちょっと遠出してて」

「あらそうだったの。なにか用事?」

「うん。実はね……」

 

ドルカがジャパリまんを食べる手を止めました。心なしかバスの車内に静かな空気が流れます。

 

「あたしの友達ね、様子がおかしいんだ。あたしたちの名前が思い出せなかったり、体が小刻みに揺れたり、食べたジャパリまんを吐いちゃったりするんだ」

 

深刻な面持ちでそう切り出します。イッカクもジャパリまんを食べる手を止めてつぶやきます。

 

「前はこんなことはなかった。二、三日前から急になんだ。原因がわからなくて、とりあえず何か元気が出るものをと思って食べ物を探してここまで出てきたんだ」

 

冗談を言っているふうには見えません。レミアはドルカに、

 

「その子の名前は?」

「フォルカ。カリフォルニアアシカのフォルカだよ」

「アシカって、生態的に忘れっぽかったりするのかしら?」

 

セッキーの方へ向いて聞きます。セッキーは首を横に振って、

 

『そんなことないよ。食べ物を吐くような習性もないし、まして痙攣なんてことも……たしかに、様子がおかしいかもね』

 

セッキーは持っていた最後の一口のジャパリまんを口へ放ると、ドルカの方へ心配そうな目を向けながら言いました。

 

『もしよかったら、そのフォルカって子見せてくれない? ボクも、それからカバンの腕に巻かれているのもラッキービーストだから、なにか治療法が見つかるかも』

「ありがとう。出会ったばかりなのに心配してくれて、本当に……」

『困った時はお互い様だし、フレンズを守るのはパークガイドロボットの務めだからね! レミアたちも、いいかな?』

 

セッキーの言葉に一同賛成の意を示します。是非ともフォルカの様子を見せてほしいということでした。

そうこうしているとバスは島へと近づいていました。きれいな浜辺が見えてきます。

 

「こっちだよ! あの岩場に住んでるんだ!」

 

ドルカの指し示した岩場のところまでバスを進めます。それなりに広い洞窟のようになっていて、中は空洞です。バスが余裕で入る作りをしています。

海の水が内部まで入り込んで、波打ち際には砂浜があります。確かにそこには一人のフレンズが横たわっていました。

 

海色セルリアンにバスを浜辺まで押し上げてもらい、全員がバスから降ります。セルリアンは波打ち際に待機です。

 

セッキーがフォルカに駆け寄ります。後に続いてみんな、フォルカを心配そうに囲みました。

 

『ボクはラッキービーストのフレンズのセッキーだよ。声聞こえる? 返事はできる?』

 

優しい声でセッキーがフォルカを抱き抱えながら話かけます。フォルカはゆっくりと瞼を押し上げ、力のない声で返事をしました。

 

「ええ…………聞こえるわ。ごめんなさいね……ちょっと、体調がすぐれなくて」

 

体調がすぐれないどころか今にも死んでしまいそうなほど元気がありません。セッキーはフォルカを一度砂浜に下ろすと、ドルカの方へ向き直って質問します。

 

『なんか最近、変わったことをした? 危なそうな場所に行ったとか、ジャパリまん以外の食べ物で、慣れないものを食べたとか』

 

ドルカは少し考えて、それからハッとして口を開きました。

 

「そういえば、フォルカ、ジャパリまん以外のもの食べてた! たしか、カニだったと思う!」

『カニ?』

 

セッキーが首を傾げます。

確かに、アシカの生態的にはカニを食べてもおかしくはありません。動物だった頃は魚と並んでよく食べていましたし、フレンズ化した今、すなわち人の体になってもカニくらいなら食べても問題はありません。

 

カバンさんがフォルカの様子を心配そうに見ながらおずおずと手を上げています。

 

「その、カニって、何か毒が含まれていたりしないんでしょうか? ボクも料理をするときには、毒のある食材を使わないように気を付けていたので」

 

その質問に答えたのはセッキーです。

 

『毒のある個体もいるけど、そんなのごくわずかだよ。ドルカ、なにか食べていたカニの殻とかない? 見ればすぐにわかるよ』

 

ドルカはえーっとと言いながら薄暗い洞窟の奥の方へ行き、蟹の殻を一つ摘んで持ってきました。

 

「これなんだけど」

『うーん、別に普通のカニだね。どこにでもいるやつだ』

 

特に問題はないそうです。蟹の殻が珍しかったのか、サーバルは手にとってころころと転がし始めました。

 

「なんでだろーねー」

「アライさんもさっぱりわからないのだ。でもフォルカ、とっても苦しそうだから楽にしてあげたいのだ」

「ジャパリまんを食べてればサンドスターの力で治りそうだけどー、吐いちゃうなら意味ないよねー」

 

フェネックとアライさんもお手上げのようです。カバンさんはサーバルが転がしているカニの殻をじっと見つめて、それから何か思いついたのか、手元のボスに話しかけます。

 

「ラッキーさん、カニってフレンズになることはあるんですか?」

『ならないとも限らないけど、魚介類がフレンズになる確率はとても低いよ』

「そうですか……」

 

カバンさんが残念そうに肩を落とします。レミアは、

 

「カニのフレンズ、がいたら聞こうと思ったのね?」

「あ、はい。何かわかるかもと思って」

「まぁ仮にそうだったとしてもちょっと、自分を捕食する者にはしたくない話よね」

「たしかにそうですね…………」

 

いないのでは聞きようもありませんが、仮にいたとしてもなかなかしにくい話の内容です。自分を食べて体の調子を悪くした相手のことなど知っていたとしてもあまり話せる内容ではないでしょう。

 

どうしたものか、と一同頭を悩ませていましたが、ふと、再びカバンさんが声を上げます。

 

「もしかして、少量食べるだけなら大丈夫でも、たくさん食べたら毒になる個体だったりしませんか?」

『たくさん食べたら……? うーん、このカニはそんなことないような……あ、いや、まってよ、もしかして』

 

セッキーは何かに気が付いたかのように振り返ると、洞窟の奥、カニの殻が捨てられているところを注目します。

 

『ずいぶん多いね。どれくらいの期間でこれを食べたの?』

「たしか一晩で……」

『一晩!?』

 

そこに捨てられている殻の数はゆうに百は超えています。一晩でよくもまぁここまで大量に食べたものです。

 

「セッキーちゃん、何か原因に思い当たるものがあるの?」

『うん、もしかしてなんだけど…………』

 

セッキーは、横たわって苦しそうにしているフォルカの顔を一度見て、それから自分を見つめるみんなの視線に応えるようにつぶやきました。

 

『ドウモイ酸……かも』




次回「うみべ! にー!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。