【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

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予想外に更新が遅れたのであらすじを少しだけ。

「あらすじ」
戦いによって深いダメージを負い、サンドスターの流出を招いてしまったレミアは、三歳児ほどにまで体が小さくなってしまいました。一週間後に目を覚まし、自分と戦ったセルリアンの少女は「セッキー」と名付けられ、フレンズたちに受け入れられたことを知ります。
レミアは、そのセッキーと直接話すべく、博士に抱っこされたまま部屋を後にしました。


第二十二話 「ろっじ! にー!」

「そう言えば、助手はどうしたの? いつも一緒じゃなかったかしら」

 

 木造りの暖かな廊下に、幼い女の子の声が響きました。博士は小さくなったレミアを抱えたまま答えます。

 

「助手は今、山についての資料を探すために図書館に戻っているのです」

「山? どうして?」

「噴火が止まらないのです。勝手にぼーぼーなっている分にはいいのですが、噴火の振動でまたフィルターがずれたら面倒なのです」

「自然現象ならどうしようもないんじゃないかしら……」

「調べるだけ調べてみるということらしいのです」

 

 博士は頷きながらそう言って、それからしばらく歩いていくと、開けた場所に出てきました。

 いくつかの椅子とテーブルが並び、その一つに誰かが座っています。この場所にいるのは、そのフレンズ一人だけのようです。

 

『あ!』

 

 座っていたフレンズは立ち上がると、博士のもとに駆け寄ってきて、

 

『レミア! もう大丈夫? ごめんね、あんなひどいことして』

 

 申し訳なさそうに口を開き、深々と頭を下げました。

 博士の腕から解放され、自分の足で立ったレミアは、目の前で頭を下げているフレンズを見上げて、

 

「…………いいのよ、セッキーちゃん。フレンズのみんなと仲良くしてくれれば、それでいいわ」

 

 ニコ、っと笑顔で許してあげました。じっくり話し合ったり、相談したりする予定だったはずですが、長かったセルリアン騒動はおおよそ五秒で決着がついてしまったようです。

 

「お前ら単純すぎなのです。(おさ)の苦労を考えやがれなのですよ」

 

 博士が一人、頬を膨らませながら率直な気持ちを言葉にしました。

 

 〇

 

 レミアが寝ていたベッドの上では、アライさんとフェネックが転がっています。穏やかに胸が上下しており、部屋の中には静かな呼吸の音だけが響いています。

 

「フェネック、まだ起きてるか?」

「起きてるよー。どしたの?」

 

 二人とも仰向けに寝転がったまま会話を交わします。

 

「博士たちに頼まれた〝まんまる〟を見つけたら、カバンさんは島の外に行ってしまうのか?」

 

 唐突な質問でした。

 バスを直して船にする。カバンさんに内緒のプレゼントとして、フレンズたちみんなで計画しているサプライズのことです。

 カバンさんは島の外に行きたいと言っていました。ですが、そのために使おうとしていた船は、巨大セルリアンと一緒に沈んでしまいました。

 

 レミアとセッキーの騒動にまぎれていましたが、巨大セルリアンがパークの危機を招いていたことは事実です。このことを知っているフレンズはそれほど多くありませんが、知っているフレンズのみんなが力を合わせてジャパリバスを船に作り替えようとしています。

 

 その計画にアライさんとフェネックも手を貸すことになっていましたが、アライさんはそのことで悩んでいました。

 

「〝まんまる〟を見つけて、船が完成したら、カバンさんは島の外に行くのか?」

 

 同じ質問を小さな声で、すぐ隣に転がっているフェネックに投げかけます。

 フェネックもまた同じく小さな声で答えました。

 

「たぶんそうだねー。そのために作るんだしさー」

「じゃあ、レミアさんはどうなるのだ?」

「それはー……」

 

 どうなるのだろう。

 フェネックは少し考えて、

 

「レミアさんも、カバンさんと同じ〝ヒト〟だから、もしかしたら島の外に行くかもねー」

「…………」

「過去に戻りたいって言ってたしさー。島の外に出れば、何かわかるかもしれないじゃないかー」

「…………そう、なのだ」

 

 力なく声を漏らしたアライさんに、今度はフェネックが質問します。

 

「アライさんは、レミアさんが行っちゃうのいやかなー?」

「いやなのだ。できればずっと一緒に居てほしいのだ。でも」

「まぁーそれは難しいよねー」

「フェネックは? レミアさんが行ってもいいのか?」

「んー……正直に言うと、私もさみしいかなー」

 

 肩をすくめながらそう言ってから、フェネックは体を起こすとアライさんのほうに向きなおりました。

 

「ねぇアライさーん。いい考えがあるんだけどさー」

「どうしたのだ?」

 

 フェネックは口の端を上げながら〝いい考え〟を説明しました。話を聞いたアライさんは瞳をキラキラと輝かせて、

 

「フェネックはやっぱりすごいのだ!」

「やー照れるなー。…………それで、アライさんは手伝ってくれるかなー?」

 

 いつも通りの余裕たっぷりな笑みを浮かべながらそう言ったフェネックに、

 

「アライさんにお任せなのだ!」

 

 いつも通りの自信たっぷりな笑顔で、アライさんは答えました。

 

 

 

 〇

 

 

 

 レミアが目を覚ました日から、ちょうど三週間が過ぎました。

 長いようで短かったこの三週間、体格を戻すためにずっとロッジでジャパリまんを食べていたレミアでしたが、

 

「全然戻らないわ」

 

 思いのほか戻りが悪く、今は推定五歳ほどの体格になっています。アライさんとフェネックと比べるなら、頭一つ分レミアのほうが小さい感じです。からだを戻すことにサンドスターを使いたかったので、その間ずっと装備は外したままでした。なので、壊れてしまったリボルバーが元通りになる事もなく、弾薬だって一発も増えていません。

 

 レミアはずっと不安でした。もし今セルリアンが出てくるような事態になったら、フレンズを守るどころか自分の身すら守れない丸腰の状態です。体格だって小さいままですから、満足に逃げることもできません。

 

 ですからできることと言えば、なるべく外に出ないという事だけでした。館内を散歩したり、訪ねてくるフレンズとお話をしたり、ロッジに住んでいるフレンズと活動したり。つまりは療養することに努めていました。

 アライさんとフェネックがしばらくロッジから離れていた時もありました。三日ほどして帰ってきて、また三日ほど出ていたように思えます。レミアには理由がわかりませんでしたが、ついて行くと邪魔になるかもしれないと思い、特に何も聞きませんでした。

 

 そんなのんびりとした生活が三週間続きました。

 心配していたセルリアンの襲撃もどうやらなかったみたいです。実に平穏に、何事もなく悠々とした日々を送りました。

 

 〇

 

「ん……?」

 

 かすかに感じる振動と、遠くの方から響いてくる大きな音に目を覚ましたレミアは、眠そうにまぶたをこすりながらあくびを一つ。それから立ち上がって椅子を引きずり、窓際まで来ます。

 

「また山が噴火してるわね」

 

 遠くの方にかすかに見える山の頂上からは、朝日に照らされたサンドスターの粒子が光っているのが目に入りました。

 レミアは椅子から降りると部屋を出て、ロッジの一番高いところを目指しました。特に何かをしようというつもりではなく、ただ何となく山がよく見えるところに行きたいと思い、小さな足を動かします。

 

 〝みはらし〟と呼ばれている、森の中を一望できるその場所に着くと、

 

「あら?」

 

 先客が居ました。肩より少し長い青色の髪は、毛先だけが白くなっています。陶磁のように白い肌と、風に揺れている白のワンピースが、朝の光によく映えます。

 

「セッキーちゃんじゃない、久しぶりね」

『おぉーレミア! 久しぶりだね。あれからどう? どこか痛いところない?』

「まったくないわ、大丈夫よ。しばらく見なかったけど、何かしてたのかしら?」

 

 木で作られた手すりを掴みつつ、レミアはセッキーの隣に立ちました。心地よい朝日と柔らかい風が、レミアの栗色の髪を揺らします。

 

『ハンター達と一緒に〝パトロール〟をしてたんだ』

「パトロール?」

『そう。ボクの配下に置けないセルリアンは危険なセルリアンだから、そういうやつがいないかどうか島の中を見回ってたんだ』

 

 レミアは納得して頷きつつ、確かに今はもう、すべてのセルリアンが敵として襲い掛かってくるわけではないことを改めて思い返しました。

 ただ気がかりなことは、山が噴火し続けていることです。山が活動を続けているということはサンドスターもたくさん出ているはずですから、もしかするとその分、セルリアンも出ているかもしれません。

 助手が気にしていたフィルターのこともあります。もしフィルターがはずれると、サンドスター・ローが流れ出し、あの黒いセルリアンが出現してしまいます。

 

「それで、どうなの? セルリアンはいたのかしら」

『少しだけいたよ。そんなに大きくはないんだけど』

「色は? 黒セルリアンはいた?」

『ううん、水色だった。どれだけ呼び掛けても言うこと聞いてくれないから、食べちゃった』

 

 食べちゃったそうです。さすが元セルリアンです。

 

 レミアの予想通り、今現在パークには敵対するようなセルリアンが少しずつ出ているようです。大部分はセッキーのおかげで無害化できているそうですが、それが効かない、もしくは明らかに敵として出現しているセルリアンも少なからずいるようです。

 

 セッキーとハンターが見回りをしてくれているので、今はそれほど大きな問題にはなっていませんが、山が噴火し続けている以上セルリアンの数が増えてしまうことは確かです。

 

「山の噴火、博士たちが調査してくれてるって聞いたけど、何かわかったのかしら」

『それがわからないみたいだよ。ボクもパトロールの間にラッキービーストに聞いてみたり、こっそり山に入って調べてみたりしたんだけど』

「どうだったの?」

『何もわからなかった』

 

 山の噴火が収まらない原因があるのならば、それを突きとめたほうがいいに決まっています。それで噴火が収まるなら願ったりかなったりです。

 

「噴火が止められなかったら、またあの巨大セルリアンが出ることだって考えられるのよね」

『その巨大セルリアン、ボクたちハンターだけじゃ止められないかも。カバンとサーバルから聞いたけど、レミアよくやっつけられたね』

「運がよかったのよ――――あなた今〝ボクたちハンター〟って言ったかしら?」

 

 セッキーの顔を見上げながら訝し気に聞いたレミアでしたが、

 

『そうだよ! ボク、セルリアンハンターになったんだ!』

 

 いろいろとツッコミどころ満載の返答に、レミアは小さく笑うしかありませんでした。

 

 〇

 

『あぁ、そうだ、話が変わるけどさ』

 

 セッキーは思い出したようにポンと手を叩くと、レミアのほうを見ながら弾んだ声で言いました。

 

『明日、この島の真ん中にある遊園地でパーティーをするんだって! レミアとカバンのためのパーティーだからぜひ来てほしいんだ!』

「えぇ、いいわよ」

 

 あたしとカバンのためのパーティー? という疑問がほんの一瞬頭をよぎりましたが、特によぎっただけでレミアは何も考えず、久々にロッジの外に出られることに心を弾ませます。

 ですが、すこし心配なこともありました。

 

「あたしこんな体だから、遠くまで行くのに時間がかかるわ」

『そのへんは大丈夫。ボクに任せて』

 

 とん、とセッキーは胸を張ります。

 なにをどうするつもりなのかよくわかりませんでしたが、

 

「そう、じゃあ任せるわ」

 

 レミアは笑顔で頷きました。

 

 




次回「ろっじ! さーん!」



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