【第二期完結】けものフレンズ ~セルリアンがちょっと多いジャパリパーク~   作:奥の手

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第二十一話 「ろっじ! いちー!」

 レミアが目を覚ましたのは、お昼をほんの少し過ぎた時でした。

 窓から差し込む日の光をまぶしそうに避けながら、ゆっくりと目を開きます。ちょっとぼーっとして、それから仰向けのまま左手を目の前まで掲げました。

 

「…………?」

 

 包帯が巻かれています。添え木もされていて、しっかりと治療されていることがわかりました。ただレミアには治療をされた覚えがありません。小さな首をこて、っとかしげます。

 ゆっくりと体を起こして、慎重に包帯をほどきました。固定されていた添え木も外します。左手をおそるおそる動かして、握ったり開いたり、曲げたり伸ばしたりしてみます。

 

「……痛くない。痛くないわね」

 

 少し弾んだ幼い声が、木造りの部屋に響きました。

 サンドスターのおかげでしょうか。骨が折れていたはずの左手は、肌の色も元通りになっていて、曲げ伸ばしをしても痛みが出るような様子はありません。ヒビの入っていたであろうあばら骨や、ダメージの蓄積してた内臓も、今は何ともありません。レミアは少しだけ顔をほころばせました。

 

 ふと、部屋の中をぐるりと見渡すと、ベッド横の小さなテーブルにジャパリまんが置かれているのを見つけました。

 

 サンドスターの回復にはジャパリまんが必要です。砂漠の遺跡でツチノコから言われたことを思い出しながら、レミアはジャパリまんの山に手を伸ばしました。

 片手で取ろうとして、自分の手が随分小さいことに気が付き、両手でないと落としてしまいそうだったのでしっかりと左右の手を伸ばして掴みます。

 ベッドの端に腰かけ、顔の半分ほどもある大きさのジャパリまんにかじりついて、もぐもぐと口を動かします。ほんの少しずつですが体に元気が戻っていくのが感じられたので、きっとサンドスターを摂取できているのでしょう。

 

 かなりの時間をかけてジャパリまんを一つ食べ終えたレミアは、もう一度部屋の中を見渡します。

 

「……ない」

 

 探しているものが見つかりません。それというのは自分の武装です。ライフルやリボルバーはどこにいったのかと昨夜の記憶をたどると、あの港に置いたままだと気が付きました。

 

「博士に運んでもらってる途中で気を失ったのよね……? ってことは、ここはロッジかしら?」

 

 フレンズの誰かが都合よく届けてくれているかもしれないと思い、それから一通り部屋の中の引き出しやベッドの下を探しましたが、残念なことにライフルはおろかポーチさえも見つかりません。

 

「回収しないと。でもこの身体で外に出るのは……」

 

 少々危険でしょう。なのでレミアはとりあえず、他のフレンズを探すことにしました。博士か助手か、アライさんかフェネックに会うことができればラッキーです。会えなくても、どこにいるのかを知れれば後は待っていればいいのですから、とにかく事情を聴けるフレンズと話がしたいと思いました。

 そうと決まれば、とりあえず部屋の外に出ないといけません。

 トコトコと歩いて部屋の出入り口まで行き、ドアノブに手をかけようとしますが、

 

「た、高い……」

 

 頭のはるか上にドアノブがあるので、精一杯背伸びをしないと届きません。苦労しながらやっとのことでドアを開けて廊下に出ると、

 

「……?」

 

 さっそく困りました。右へ行くか左へ行くか迷います。今のレミアにとってこの施設は広大な迷路です。地図もありませんし、歩幅が小さいので移動にも時間がかかります。誰か見知った顔がいてくれればよかったのですが、どういうわけか物音一つしていません。近くに誰かがいるような気配すらもありません。

 

「…………はぁ」

 

 小さな口からため息をひとつ漏らして、レミアは木造りの明るい廊下を右へ進みました。

 

 〇

 

「なんで誰もいないのよ」

 

 体感ではもう十五分も歩いています。身長どころか体のすべてが小さくなってしまったので、鍛え上げた時間感覚もくるっている可能性がありますが、それでも移動し続けているのに誰とも会わないというのはおかしな話です。

 

 声や気配もありません。延々と続く、手入れの行き届いたきれいな廊下と、時々見えてくる誰もいない空いた部屋。窓の外には日の光が木漏れ日となって降り注ぐ森の風景のみが目に入ります。ロッジの中にも外にも一人の影すらありません。

 

 それから倍の時間をかけてロッジの中を歩いたレミアは、自分の部屋に戻ってきました。すべてを見て回ることはできませんでしたが、今自分がいる建物ぐらいはざっと見回すことができました。

 

「困ったわ。なんで誰もいないのかしら」

 

 人っ子ひとり見当たりません。何かの事件に巻き込まれたのでしょうか。

 あるいはあのセルリアンの少女が何かしたのでしょうか。それとももっと別の何かでしょうか。

 

 そもそもここがロッジであるということに疑いが出てきました。確かに森の中のログハウス、木造りの小屋が集まった宿泊施設という意味ではロッジという名前がふさわしいですが、あの時博士から聞いた〝ロッジ〟とは違う場所なのかもしれません。

 博士やフェネック、アライさんが何らかの問題に巻き込まれて、自分はここに誘拐されたのかもしれない。突拍子もありませんが、そんな感じのことが頭によぎります。

 

 一人でいるのが心細いと感じました。らしくないと自分で自分をたしなめますが、よくよく考えればこの身体では、何か起きても十分に対処することができません。敵が出てきて、襲ってきても、なすすべもなくやられてしまいます。そう思うと途端に不安がこみ上げてきました。

 

「…………」

 

 とにかく安全の確保をしないといけません。ここがどこなのか、みんなはどこに居るのか、なるべく早くそれを知る必要があります。知ったところでどうするかは、知ってから考えることにしました。

 

 窓際まで移動して外の様子を確かめようとします。ですが、身長が足りないため何も見えません。つくづく不便な体です。部屋の中にあった椅子を引っ張って窓際に置き、苦労しながらそれに登って、やっと外の景色を見られました。

 木漏れ日の降り注ぐ広大な森が広がっています。外に出て調査をしようにも、今の体格ではいくらも進めそうにありません。木の根を超える事すら重労働です。

 

「みんなどこに行ったのよ……」

「ここに居るのですよ」

 

 突然後ろから声がしたかと思うと、口元にむぎゅりと何かを押し当てられました。口の中に甘い味が広がります。

 何かというのはジャパリまんで、声というのは博士の声でした。レミアは急なことに驚いて飛び上がり、意図せず足を踏み外しました。ぐらりと揺れて、倒れる先にベッドのふちが迫ります。

 

「危ない!」

 

 とっさに動いた博士がレミアを抱え上げ、間一髪、頭をぶつけずに済みました。

 何が起きたのかわからずきょとんとしていたレミアに、

 

「……本当に、退行というのは恐ろしいことなのです。図書館でぶん投げられたのがウソみたいなのです」

 

 博士は冷や汗をかきながら、レミアの目をまっすぐに見てそう呟きました。顔をあげて部屋の入口の方へ視線を送って、

 

「入っていいのですよ。目を覚ましてるのです」

「お久しぶりなのだレミアさん!」

「おー、よかったー」

 

 笑顔でアライさんとフェネックが入ってきました。

 二人の両手には、レミアのライフルやリボルバーやポーチやナイフが抱えられていました。

 

 〇

 

 レミアが目を覚ました部屋のベッドに、三人のフレンズが座っています。レミアとフェネックとアライさんです。アライさんはベッドの上に寝転がってごろごろしています。

 博士は窓際の椅子に座りながら「さっきのは謝るのです」という謝罪の言葉を述べた後、「とりあえずそのジャパリまんを食べるのです」と半ば無理やりレミアにジャパリまんを勧めました。仕方がないのでレミアはもそもそと食べ始めます。落とさないように小さな両手でしっかりと持って、ちょっとずつですが口にしていきました。

 

 博士と、それからベッドの上のアライさんもジャパリまんを食べながら、レミアが寝ていた間に何があったのかを話してくれました。

 

 レミアが目を覚ましたこの施設は、博士の言っていたロッジで間違いなかったようです。

 ただひとつ勘違いをしていたのが、

 

「……一週間? そんなに寝ていたの?」

「そうなのですよ」

 

 あの港での出来事からすでに七日が経過しているということでした。

 ロッジの中に誰もいなかったのは、レミアの装備を探すために周りのフレンズが港まで行っていたからだそうです。

 

「あたしのために……ありがとう。手間をかけさせたわね」

「べつにお前のためだけではないのですよ。カバンと同行していたラッキービーストを探したり、セッキーの能力を確かめたりと――」

「〝セッキー〟?」

「あぁ、あのラッキービーストのフレンズの事なのですよ」

 

 いろいろ話が飛んでいるようなので、レミアはまずそのあたりの詳しい話を博士から聞くことにしました。

 

 〝セッキー〟という名前は、あの夜の翌日にサーバルが付けた名前のようです。元はラッキービーストで、一度セルリアンになり、今は博士達の判断でフレンズになったので、

 

「〝ラッキービーストのセルリアンのフレンズだから君はセッキーだね〟と、ぶっ飛んだ思考回路でサーバルが命名したのです」

「本人は……セッキーちゃんはそれでいいって?」

「喜んでいたのですよ」

 

 ジャパリまん片手に話された内容に、レミアは満足げに頷きました。両手に持っているジャパリまんはもうあと二口で食べきれるほどに減っています。

 

「あの子はずっと、それこそラッキービーストだったころから、フレンズとお話がしたかったんだと思うわ」

「原則、ラッキービーストはフレンズと話せない、というやつですか」

「そうよ。サンドスターに当たって、セルリアンになって……たぶん、あたしもセルリアンなんだけどね。あたしはフレンズとお話ができるのに、あの子はずっと出来なかったから。だからたぶん〝羨ましい〟って言ってたんだと思う」

 

 レミアはジャパリまんの最後のひとかけらを口へ放りました。

 フェネックの耳がピクリと動き、

 

「ん? レミアさん今なんてー?」

 

 レミアのほうへ振り向きます。アライさんもレミアの発言に違和感を持ったのか、ベッドから起き上がりました。

 視線を向けられたレミアは首をかしげながら、

 

「あれ、言ってなかったっけ? あたし、もしかしたらセルリアンかもしれないのよ」

「うえぇぇ! そうなのか!?」

「やー驚いたねー」

 

 アライさんは大声を上げて目を丸くし、フェネックも、声はいつもの調子でしたが表情は驚愕のそれでした。

 レミアは困ったように笑いながら、

 

「おどかしてごめんなさいね。大丈夫よ、あたしはあなたたちを食べたりなんてしないわ」

「そりゃーまぁーねー。食べるとしたらもうとっくに食べてるよねー」

 

 にへー、とフェネックが笑います。そのとおりです。もしもレミアがただのセルリアンだとしたら、そしてフレンズを食べるような存在だとしたら、アライさんとフェネックを襲える隙はいくらでもありました。今でもレミアの隣に二人がいてくれるということは、つまりはそういうことです。

 

 しかし、レミアは少しだけ視線を落とし、それからフェネックの顔を見上げました。

 口を開いてから一瞬ためらい、そして意を決したように言葉にします。

 

「…………セルリアンと話をするのは嫌?」

 

 その質問は、セルリアンであるセッキーとレミアを、フレンズ達が受け入れてくれないかもしれない、というレミアの不安が表れた質問でした。

 フェネックは一瞬きょとんとして、それから何を今さら、というような顔で肩をすくめながら、

 

「ぜんぜん、そんなことないよねー」

「セルリアンだからって悪いやつとは限らないのだ!」

 

 即答でした。アライさんが言葉を続けます。

 

「セッキーはいいやつなのだ! アライさんも最初は怖かったけど、話してみたら普通のフレンズと変わらないのだ!」

「セッキーちゃんは…………フレンズを襲ってたんじゃないの?」

「違うらしいよー?」

「もともとレミアさんが狙いだったそうなのだ! 食べられたフレンズもいなかったって博士と助手も言ってたのだ」

 

 レミアが博士の方を見ると、博士はこくりと頷きました。

 

「というわけでー、一連の騒動は〝レミアさんとセッキーのただのケンカ〟だってみんな言ってるよー」

 

 レミアは驚きました。あれだけ大きなセルリアン騒動になっていたにもかかわらず、食べられたフレンズはゼロ。被害は自分のケガだけだったというのです。

 

「でも、じゃああの黒い巨大セルリアンは……?」

「あれはセッキーの仕業じゃないそうなのですよ。山火事みたいなものなのです」

 

 だからこそ今後も気を付けないとダメなのです、と博士は付け足しました。レミアは、少しの間言葉を失って、

 

「…………それは本当によかったわ」

 

 ふっと肩の力を抜いて心の底から安堵しました。フレンズたちはあのラッキービーストの少女を、セッキーを受け入れてくれるそうです。それはレミアが心から願い、レミアだけでは叶えられなかったことでした。

 嬉しすぎてなんだかこそばゆい感じがしたので、紛らわすためにぱたりとベッドに寝転びます。

 そんな様子を見ていた博士はため息をつきながら、

 

「まったく、ここ最近はおかしなことばかり起きるのですよ。巨大セルリアンの出現にヒトのフレンズの誕生。ラッキービーストのセルリアンが出て、それがフレンズになって。それからヒトのセルリアンまでいるのです。もうわけがわからないのです。なんなのですか。いい加減にしろなのです」

 

 レミアは肩をすくめながら苦笑いし、それから顔だけをあげて博士をまっすぐに見て、

 

「セルリアンはジャパリパークの敵かしら?」

「〝昔は〟敵だったのですよ。今は違うのです」

「……ありがとう」

 

 レミアは心底安心したように微笑みました。博士はふぅ、っと小さくため息をついて、苦笑いしながらあきれた声で、

 

「我々フレンズは賢いので」

 

 そう、言いました。

 

 〇

 

「それで、話が変わるけど、カバンさん達はどうしたの?」

 

 しばらくダラダラして、それから起き上がってベッドのふちで足をプラプラさせていたレミアは訊きました。

 応えたのは隣に座っているフェネックと、後ろでゴロゴロしているアライさんです。

 

「ボスを探しに行ってー、見つかったからひとまずここのロッジに居るよー」

「ボスはなんだか小さくなってしまったのだ。今はカバンさんの手にくっ付いているのだ!」

 

 アライさんの言っている意味がレミアにはよくわかりませんでしたが、レミアが聞きたいこととは少し違った回答だったため、質問の仕方を変えました。

 

「そうじゃなくって、帽子は……?」

「あーそれねー。アライさーん」

「ほいなのだ! アライさんの帽子は見つかったけど、カバンさんにあげたのだ!」

「え、あげた!?」

 

 驚きの声を上げて、アライさんのほうに振り返ります。

 仰向けの大の字になっていたアライさんはくるりと体の向きを変えてうつぶせになり、レミアの視線に応えながら、

 

「そうなのだ、あげたのだ」

「いいの?」

「あの後フェネックとも話したけど、アライさんはあれでよかったのだ。あの帽子はミライさんの帽子で、カバンさんはきっとミライさんから生まれたフレンズなのだ」

「????」

 

 ミライさんから生まれた? どういうこと? まさか出産??

 と、目を白黒させ始めたレミアに、博士が補足で説明してくれました。

 

「アライグマの持っていた帽子に、きっとそのミライというヒトの毛髪が付いていたのです。サンドスターが当たればそれだってちゃんとフレンズになるから、カバンはきっとそうやって生まれたのですよ」

「そうなのだ! だからあの帽子はカバンさんにあげるのだ」

 

 アライさんの決めたことなので自分が何か言うことではない、とレミアは思いましたが、それでも少し引っかかるものがありました。それが顔に出ていたのでしょう。アライさんは言葉を続けて、

 

「アライさんとミライさんの思い出はアライさんのものなのだ。帽子じゃないのだ。それにやっぱり、あれはヒトが被ってたほうがよく似合うのだ。だからカバンさんが持ってた方がいいのだ」

 

 その言葉は偽りではなく、正真正銘、アライさんの本心からのものでした。

 なるほどそうかとレミアは納得して、ふっと微笑み、それからしっかりと頷きます。

 アライさんの、自信と満足に満ちた笑顔は、やっぱりこの旅をして良かったと思えるようなものでした。

 

「ところでレミアさーん」

 

 ちょんちょん、とレミアの細い腕をフェネックがそっとつつきました。

 

「これ、どうするー?」

 

 ベッドの上に置いていた装備を指さしながら首をかしげています。

 

 どうしようかしら、と呟きながら、レミアは四つん這いでベッドの上を移動して、置かれている装備の前にちょこんと座りました。

 白いシーツの上に広がる、土ぼこりを薄くかぶった装備を軽く検めます。

 

「リボルバーはひとつ壊れちゃってるし、他のもほとんど弾がないわ。ジャパリまんを食べ続ければ元に戻るけど……」

「その体で鉄砲って撃てるのか?」

「それもそうなのよね」

 

 アライさんの言うとおりです。何をしようにもこの幼児体型では人並みに動けません。

 アライさんの帽子を追いかけるという旅の目的は果たしました。なので、これからどうするかはまたゆっくり決めて行けばいいのですが、何をしようと決めたところでこの身体では何もできません。

 

「体を戻すことが最優先ね」

「ジャパリまんたくさん食べないとねー」

「……この身体だとあまりいっぺんに食べられないのよ。一つ食べたらだいぶ時間をおかないといけないわ」

「ってことは、やっぱりレミアさんの持ち物は」

「そうね。せっかく取ってきてもらったのに悪いけど、体が戻るまでは放置だわ。装備はしばらくこの部屋に置いて……あ」

 

 言って、何か思い当たることがあったのか、レミアは博士のほうに振り返ります。博士は窓から外の景色を見ていましたが、レミアの視線に気が付いて椅子に座り直しました。

 

「どうしたのです?」

「このロッジ、妙に綺麗だったわ。誰か手入れをしているの?」

「アリツカゲラがいるのです。泊っていくフレンズのためにこの施設の管理をしているのですよ」

「…………この部屋、しばらく借りてもいいかしら?」

「いいんじゃないのですか? 特に何も聞いていないのです」

「後で会って来るわ」

 

 博士はこくりと頷いて、それから席を立ちました。

 

「ロビーに行けばたぶんいるのです。カバンやサーバルもいると思うし、何よりレミアはちゃんとセッキーと話をしておく必要があるのですよ。ケンカをしたら仲直りなのです」

 

 そう言いながら、博士は極々自然な動作でベッドの上に座るレミアの両脇に手を入れて抱っこしました。

 

「…………博士? 何してるのかしら?」

「本で読んだのですよ。お前くらいの体格の人間は抱っこされてればいいのです」

「偏見だわ」

「おとなしく抱かれろなのです」

 

 語弊のありそうなことを言いながらひょいとレミアを抱えた博士は、そのまま部屋の扉まで行き、「お前たちも来るですか?」と、アライさんとフェネックのほうへ視線を向けました。

 博士の腕の中から二人の様子を覗き見たレミアは、先ほどまで気が付きませんでしたが、二人が少し疲れているのが見て取れたので、

 

「二人とも休んでてちょうだい。装備のこと、ありがとね」

「いいよー。うーん、寝心地がいいからここで寝させてもらおっかなー」

「フェネック、アライさんもう寝るのだ。おやすみなさいなのだ」

「おやすみー」

「ええ、おやすみ」

 

 寝転がってまぶたを閉じた二人を横目に、博士とレミアは部屋から出ました。

 廊下に出ると、遠くの方から誰かの話し声が響いてきました。どうやら他のフレンズも数人いるようです。

 

 博士の腕の中にすっぽりと納まっているレミアは、控えめにごそごそと体をくねらせて、

 

「博士、下ろしてもらえないかしら? 自分で歩けるわ」

「歩かなくていいのです。抱えられてろなのです。活動するだけでサンドスターを消費するので、なるべく動かないほうがいいのです」

「むぅ」

 

 もっともらしい理由で抱っこされたまま、レミアは声のする方へと運ばれていきました。

 レミアからは見えませんでしたが、博士の顔は楽しそうでした。

 

 

 




次回「ろっじ! にー!」


雛鳥ってぽわぽわしてて可愛いですよね。


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