不眠転生 オールナイト   作:ビット

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事前に言っておきますが、当二次創作作品は、原作11巻までの内容で完結致します。また、後半につれてじわじわとシリアスな展開になっていく予定でございます。

今回勘違い要素はほとんどありません。ようやく物語が動き始めます。


訓練開始

 

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」

 

「オールマイトだ……!すげえや、本当に先生やってるんだな……!!!」

 

「銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ……!」

 

午前中の授業が終わり、残す所本日最後の授業となった。HAHAHA、と笑いながら登場した、青いヒーローコスチュームを身にまとったオールマイトに教室中がざわめき立つ。

 

かくいう俺は大興奮だった。とうとうこの時が来たか、と机の上で拳を強く握りしめる。他の生徒の興奮した様子の声があちこちから聞こえ、オールマイトはそんな声を聞きながら陽気な足取りで教壇立った。威圧感のない不思議な覇気を発し、いつもの様に笑顔を浮かべている。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ!!」

 

オールマイトは背中を強調する様なポーズを取り、マントを翻した。

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

「戦闘……訓練……!」

 

「そしてそいつに伴って……こちら!!!」

 

現役最強のヒーローが指導する戦闘訓練など、この雄英以外では有り得ない。ヴィランを取り締まる戦闘ヒーローを目指す生徒達が心底楽しみだ、といった風に声をあげ、その声を満足気に聞いたオールマイトはリモコンを壁に向け、スイッチを押した。

 

壁が静かにスライドし、1から21迄の番号が書かれた棚が出現する。

 

「入学前に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた……」

 

「戦闘服(コスチューム)!!!」

 

おおお!!!!と生徒達が声を上げ、切島や上鳴に至ってはガッツポーズまでしていた。無理もない、自分が考えた自分だけのコスチュームだ。俺だってわくわくが止まらない。

 

自分の出席番号が書かれた棚へと歩いて行き、鞄に包まれたコスチュームを取り出す。

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!!」

 

オールマイトの言葉に、生徒皆が更衣室へと急いだ。早足で移動する生徒達の少し後ろを歩きながら、自分のコスチュームの事を考える。要求通りの仕上がりになっているだろうか。

 

俺は今の所『不死』の個性を隠し通していた。それが例え国であってもだ。個性届けは「ダメージを受ける度蓄積される何か凄いエネルギーを自由自在に操る事が出来る個性(超速の再生機能有)」といった感じで提出している。

 

『不死』の個性は何が何でも隠し通さなければならない。“オール・フォー・ワン”に目を付けられてしまえば、不死身の個性とて意味が無くなる。

 

この世界において間違いなく最強にして最悪、『個性を奪う個性』でオール・フォー・ワンが不死身になったりしたら本当に笑えない。

 

だから俺の個性は俺だけの秘密にしておかなければならない。少なくとも、オールマイトがオール・フォー・ワンを倒すまでは。

 

ここまで考えて自嘲した。『オールマイトがオール・フォー・ワンに勝てるとは限らない』。俺の原作知識は、オールマイトが彼の個性であるワン・フォー・オールの誕生した秘密と、オール・フォー・ワンの悪行の事を後継者である緑谷に話したあの回で終わってしまっている。

 

もしかしたらオールマイトはオール・フォー・ワンに殺されてしまうかもしれない。平和の象徴が死ぬ所等想像も出来ないが、様々な個性を奪い大昔から生きている悪の象徴の力は、或いはそれさえも上回ってしまう可能性がある。

 

オールマイトを正面戦闘で殺せる人間がいるとすれば、それはきっと奴以外に有り得ない。

 

だからこその個性の秘匿だ。個性を奪われてしまわない様に。しかし、もしも不死身の個性無しでも、オール・フォー・ワンがオールマイトの手にも負えないと言うのなら。

 

俺が奴を――――――悪の象徴を、止める。殺してでも、死んででも。

 

俺達の未来に、お前はいらない。

 

いつの間にか着いていた更衣室で、そう決意を新たに、軍服を模した黒いコスチュームに袖を通した。特殊な機能を搭載した腕輪を左右の手首につけ、白い手袋に手を通しす。最後に銀色の『A』のエンブレムが光る黒い軍帽を模したキャップを眼深に被り、グラウンドβに向けて歩み出した。

 

後ろからの視線を、特に気にすることも無く。

 

 

 

 

 

「よっ!不死……って怖っ!?」

 

「お前……ヒーローってか軍人だなそれ……色も相まってどっちかっつうとヴィランぽいわ」

 

グラウンドβに出ると、既にコスチュームに着替えた切島と上鳴が話かけてきた。否定的なご意見に少し心が痛くなり、小声でうるせえとだけ言ってそっぽを向くが、このコスチュームの特性上仕方が無い。決してちょっとダークなヒーローのかっこよさの誘惑に負けてしまった訳ではないのだ。

 

ぶっちゃけるとこのコスチュームのコンセプトは「いかに相手に気付かれずに自傷するか」である。よって刃物や電気ショックといった自分を傷付ける為の機能満載のマゾ仕様だ。自傷する所を隠すために肌の露出をかなり減らしている。

 

個性の特性を知られていない。これだけで戦闘における有利性がある。「何か凄いエネルギー飛ばすだけの個性」と勘違いしてくれた方が俺は助かるのだ。

相澤先生を筆頭に、メディアへの露出を抑える事で個性や自身の情報を隠匿し、ヒーローとして活動している者は一定数存在する。個性秘匿の有用性は彼等の成績が実証してくれている。

 

手袋をした手を2回開閉すると、手首に刃物の感触を感じた。もう一度手を開閉し、刃を仕舞う。どうやら機能は不具合なく作動している様だ。

 

コスチュームを自慢してくる切島と上鳴の話を聞いていると、緑色のコスチュームを来た緑谷が到着した。どうやら彼が最後の様で、オールマイトが声を張り上げる。

 

「さあ始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!と生徒達を褒めるオールマイトに、フルアーマーのコスチュームを着た飯田天哉が手を挙げ、質問を投げかける。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

「いいや!もう二歩……いやもう三歩先に踏み込む!屋内での大人数戦闘訓練さ!」

原作とは違う。それが俺が真っ先に抱いた感想だった。少し戸惑いはしたが、考えてみれば当然だろう。本来ならば存在する筈がなかった『俺』というイレギュラーがある。原作では20名だったA組の生徒数も、俺が存在している為21名という中途半端な数になってしまっている。

 

「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうがヴィラン発生率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会、ゲフン、真に賢しいヴィランは、屋内(やみ)にひそむ!!」

 

だからこその屋内での戦闘訓練、か。原作で知っていはいたけど、確かに理にかなっている。俺のエネルギー放出も、屋内だと加減に気を付けなければならない。

 

「近年のヴィランは、組織立って行動するヴィランも多い。大人数で群れてしまえば、ヒーローも中々手が出しにくいのさ。プロとはいえ数の差で押し潰されてしまう危険性がある。だからこそ、他事務所同士のヒーロー達でチームアップし、ヴィランの制圧に踏み込む事もある。よって今から『ヴィランチーム』と『ヒーローチーム』に分かれて、10対11の屋内での戦闘訓練を行ってもらう!」

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知る為の実践さ!ただし今度はぶっ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

 

猫背で蛙のような愛嬌のある容姿の女子生徒、蛙吹梅雨(あすい つゆ)がオールマイトに質問を投げかけ、オールマイトがそれに答えた。蛙吹の質問を皮切りに、生徒達が次々と質問を投げかける。質問の量に唸りながらも、一つ一つの質問に答えていた。

 

「いいかい!?状況設定は『ヴィラン組織』がアジトに『核兵器』を所持していて、『ヒーローチーム』はそれを処理しようとしている!『ヒーローチーム』は制限時間内に『ヴィランチーム』全員を拘束するか『核兵器』の回収をする事。『ヴィランチーム』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーローチーム』全員を拘束する事」

 

俺の個性で屋内戦はどうしても火力が落ちてしまうが、どのみち全力で放てば100パーセント死人が出る。もちろん死人を出す訳にはいかないし、大火力でエネルギーを使い過ぎたりしない分、長時間の戦闘続行が望めるな。原作知識により、他のクラスメイトの個性をはっきり把握出来ている事も大きい。懸念はあるが全力を尽くすだけだ。

 

「チームは既に私が決めている!今から発表するチームにそれぞれ分かれて、戦闘訓練開始だ!」

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

『ヴィランチーム』 轟焦凍、障子目像、爆豪勝己、飯田天哉、峰田実、八百万百、口田甲司、砂糖力動、芦戸三奈、青山優雅、常闇踏陰

 

 

「核兵器の置かれている部屋と、その付近の部屋はかなり広いな……全員対全員の乱戦も考えられてるらしいな」

 

俺、轟焦凍は1通り訓練場の下見を終え、核兵器の絵が描かれたハリボテの置かれている部屋を見渡す。『ヴィランチーム』全員がそこに集まり、作戦会議を開いていた。

 

既に個性の情報は共有済。索敵能力に長けた障子は、今回の戦いではかなり有用な個性と言っても過言ではない。他にも運動能力が優れた芦戸や、増強系の個性の砂糖、サポートアイテムを瞬時に作成可能な八百万、機動力はクラスでも随一の飯田に、そこそこ以上の機動力・A組トップクラスの破壊力を持つ爆豪、制圧に優れた個性の俺と、役者は揃い過ぎている。

 

今あげた者以外も、戦闘や拘束が可能な個性持ちが多くいる。

 

「防衛戦に徹する方がよろしいかと。ただ、序盤の内に出来るだけ数は減らしましょう」

 

「同感だな」

 

乱戦になって隙を付かれましたじゃカッコが付かない。相手が仕掛ける前に、制圧と拘束に長けた個性持ちでこちらから仕掛ける。数を減らして防衛に徹し、じわじわ追い詰めていけばいい。

 

「デクは俺に抑えさせろ」

 

「構わねぇ」

 

何やら殺気立つ爆豪にそう答えた。あの破壊力は脅威足りうる。一撃だけの力とはいえ、その一撃で形成逆転を狙えるだけの力がある。

どの道戦闘に長けた個性持ちで抑える必要があった。

 

「あと1人、抑えてほしい人がいますわ」

 

「……不死だな。あいつは俺が抑える」

 

八百万の台詞に、その場にいた全員が真っ先にあいつの名前を浮べただろう。広範囲・高火力攻撃、身体強化の両方を併せ持つあいつの個性はかなり厄介だ。

 

それに、やけに戦闘慣れした印象をチラつかせる。相澤先生の気配を察知した時や、たまに浮かべる不気味な笑み。

 

先程更衣室へ向かう途中、俺は不死の後ろを歩いていた。だからこそ気付く事が出来たのだろう。あいつはあの時から既に、闘気を、いや、殺気を練り上げていた。他のクラスメイトが浮き足立っている間に、あいつだけはただ一人、既に戦いの中に在ったのだ。

 

油断が出来る相手ではない。全力でかからねば、負けてしまう可能性も考えられる。

 

しかし、個性の範囲や威力では決して負けない。身体強化においても、幼い頃からあのクソ親父に仕込まれた体術で対応可能な範囲と言える。

決して負けるつもりは無い。油断も慢心も全て削って、本気で封殺する。

 

「でしたら、開始後すぐに轟さん、爆豪さん、峰田さん、常闇さん、飯田さんの5人で奇襲を仕掛けましょう。轟さん、峰田さんの個性を中心に拘束し、一旦退却してこちらに帰還。爆豪さんと轟さんは各々のターゲットを誘導、足止め、可能なら撃破して下さい」

「当たりめぇだ」

 

「ああ」

 

「他の皆さんは通信機で連絡を取り合い、核兵器の防衛に徹しましょう。防衛の要は障子さんになります」

 

分かった、と頷く障子。作戦会議が終了し、各々が準備に取り掛かる。俺含め、奇襲を仕掛ける先鋒隊は比較的入口に近い通路で待機する事にした。

訓練だろうが、本気でいく。俺は負けない。証明の為に、負ける訳にはいかないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

『ヒーローチーム』 不死透也、緑谷出久、麗日お茶子、上鳴電気、切島鋭児郎、耳郎響香、蛙吹梅雨、尾白猿尾、葉隠透、瀬呂範太

 

 

 

「一番槍を――――――不死君、君に、君一人に頼みたいんだ」

 

司令塔として推薦した緑谷が、俺を見据えてそう言った。

 

「君の個性なら、一対多の状況下に置かれた時でも対応出来る、ううん、“一対多でこそ、真価を発揮出来る個性の筈だ”。味方を気にせずに、大暴れして欲しい」

 

胸の奥から、熱い何かがせり上がって来る様な感覚を覚えた。

 

「現状僕達のチームは、真正面からの総力戦になったら正直厳しい。かと言って戦力を分散しようにも、君が言う障子君の個性が本当なら、分散した戦力にすぐに気付かれて対策を立てられてしまう。更に言えば、僕の読みが当たっているなら、彼等は勝ちを確実にする為にこちらの数を減らしにくると思う」

 

「少数精鋭で数を減らすってか。数の差がある相手に真正面から挑んでくる程、馬鹿じゃねぇよな」

 

「うん、切島君の言うとおりだ。だからこそ、裏をかく必要がある。不死君には、最低三人、出来れば五人の『ヴィランチーム』の人達相手に、“時間稼ぎ”をして欲しいんだ」

 

笑う。自分の口角が上がるのが分かり、思わず帽子の鍔で顔を隠した。くつくつという笑い声が漏れるが、俺の笑いは止まらない。俺の感情に同調する様に、俺の体から小さな白い炎が出現した。

 

「君が抑えている間、数の利を利用して、何が何でも核兵器を奪い取る」

 

少数精鋭を、たった一人で抑えろときた。オールマイトの後継者に、最大のライバルに。これがどうして、燃えずにいられる?

 

「了解した、緑谷。だけどな――――――

 

 

 

 

――――――別に全員、倒してしまっても、いいんだろ?」

 

 

 

戦闘訓練開始まで、あと五分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

不死透也は悪である。

 

 




とにかく書くのがしんどい回でした。
最後の言葉……一体誰の言葉何だ……(すっとぼけ)

いつも感想・評価ありがとうございます。励みになっております。

最近生まれて初めて支援絵なるものを頂きました。素敵なイラスト、本当にありがたく思っています。

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