魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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今回の現代魔法学の実技実習については、漫画版「入学編」のコマを参照しています。
また入試成績を基準としたクラス編成は『魔法科高校の優等生』の方を採用しています。(A組生徒が上位に並んだ定期試験の結果から考えると、こちらの方が事実に近そうなので)

今回ちょっと短いです。



#037 現代魔法学実習(1)

 2095年4月19日──火曜日。

 毎年、バカ騒ぎの一週間となる4月第三週は、今年も波乱の幕開けとなった。

 

 さすがに部外者による拉致未遂のような、対外的に問題となる事件はそうそう起こるものではない。だが校外であれば事件性を問われるトラブルは、昼休みから昼完全下校時間までの間に、呆れるほどに発生する。

 

 トラブルへの対応そのものにあなたが駆り出されることは無い。それは人手の多い風紀委員を中心に、生徒会と、部活連の上級生らが対応する。だがトラブルの記録とその処理の報告書の作成は、それぞれ所管の運営委員で行わなければならない。でなければ「生徒自治」という建前が崩壊してしまうからだ。

 課外活動の範疇で発生したのであれば、当然、そのほとんどは部活連で行うことになる。つまりあなただ。昨日処理しきれなかった報告書を片付けるべく、登校してすぐ部活連事務室へと向かう、あなただった。

 

「おう、来たな」

 

 あなたを出迎えたのは、生徒会副会長の服部(はっとり)刑部(ぎょうぶ)。事務処理では大して役に立たない(十人並み)の部活連会頭に代わって、今週一週間はこちらの手伝いに来てくれることになっている。

 

「トラブルの数が多いのは、例年通り(いつも)なら明日までだ。まずはそれまでの辛抱だな」

 

 新入生の八割がたは、最長でも三日程度で所属を決めるらしい。

 だからこそスタートダッシュが肝心と、毎年水曜日まではトラブルの山となるのだが。

 

「じゃあ昨日の分を処理するか。とりあえず半分回してくれ」

 

 席に着いて、端末からデータベースを呼び出す。

 昨日の未処理分は残り十七件。

 データの軽い順に八件を服部へと回して、あなたは自分の担当分を一つ開いた。

 

 しばらく黙々と作業を行う。

 報告書の大雑把な見出しと報告内容とが一致するかを確認し、内容を関係者、原因、過程、結果、報告者所見、適用規則に整理する。報告書の段階で提出用の書式に合わせてくれれば良いのだが、今は取り締まる側もとにかく多忙だし、何より彼らの責任範囲ではない。要請はするものの、叶えられた例はないそうだ。

 

 一人の生徒の勧誘から口論になったり、実力を見せるためと言って魔法の撃ち合いを始めたり、昼食を奢るからと言って部室に連れ込もうとしたり、見学に来た新入生を軟禁状態にして入部を強要したり、端末をこっそり拝借して入部届を勝手に出したり。

 よくもまあ一日でこんなに多彩なトラブルを起こせるものだと、呆れかえればよいのか、それとも感心すればよいのか。服部は苦笑いを浮かべながら「慣れるさ」と呟いた。

 

 

*   *   *

 

 

 このまま運営委員の特権により公休扱いで作業を続けるか? との誘いを断り、あなたは授業へ。昨日の授業が新入生歓迎会で潰れたため、その埋め合わせとして月曜日の魔法科目の授業が今日に編成されているのだ。休むわけにはいかない。

 服部もあなたの現代魔法に対する教養不足は承知している。「残りはやっておくよ」とあなたを送り出してくれた。

 

 そんな次第で、今日の一時限目は現代魔法学を、B組との合同授業ということになっていた。

 

 

 現代魔法学の実習は二度目。前回は設置型CADの原理や機材の準備、実習室の利用にあたっての諸注意で授業時間のほとんどを使い果たしてしまったため、見本として演習した数名を除けば、実技実習はこれが初めてとなる。

 指導教官は百舌谷(もずや)だが、他に三名の教員が立ち会う。

 

 やることは初歩の初歩、設置型CADに登録された光波振動系魔法をレーン内の一地点に発動させること。その目的は壁掛けスクリーンを見れば、以下の通り。

 

【魔法のコンパイル時間の短縮練習】

 *二人一組で実技すること。

 *制限時間を 1000ms とし、

  時間内に魔法発動を完了

  させること。

 

「今回は合同実習なので、一つのレーンを挟んで(ふた)組で使用します。向かって右側がA組、左側がB組です。入試成績を基準に、端末に(ペア)分けと使用するレーンの番号を送りましたので、各レーンのCADの前に移動してください」

 

 整列していた二クラス合わせて五十人の生徒たちが、自分の配置を探してバラけてゆく。中ごろのレーン前で多少もたついたものの、生徒たちは特に騒ぐこともなく手早く並んだことに、あなたは密かに感心する。

 

 あなたの端末に表示された番号は「01レーン」でペアは当然、入試主席の司波(しば)深雪(みゆき)。細長いレーンを挟んだ反対側には、B組の生徒二人が並んでいる。

 隣の02レーンには北山(きたやま)(しずく)森崎(もりさき)駿(しゅん)

が、その奥の03レーンには光井(みつい)ほのかと十三束(とみつか)(はがね)が、それぞれ他人行儀に挨拶を交わしていた。

 

「あの……」

 

──? ああ、すまない。よろしく頼む。

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 他所を眺めていたあなたに、深雪が水を向けてきたので、こちらでも挨拶をしておくことに。

 本音を言えば、あまり関わり合いにはなりたくはない。彼女がただのブラコン娘でないことは、そのマガツヒの異常さからもよく分かる。未練と切望の神(アラディア)気配(におい)が染み付いた人間など、トラブルの種以外の何物でもない。

 だが、ペアになってしまったからには仕方がない。そうした内面はなるべく出さないようにと思いながらも、ぶっきらぼうに頭を下げたあなたに、相手も丁寧ながらも一定の距離を感じさせる、見事で空虚な礼をしてみせた。どうやら意見は一致(TALKに成功)したらしい。

 

 隣のレーンの森崎が、そんな深雪の所作に見惚れて何やら口走っていたことも、それに対して雫やほのかが冷たい視線を送っていたことも、あなたは見なかったことにした。視線の合った十三束と、苦笑いを浮かべあって。

 

 

 あらかたの生徒が配置につくと、百舌谷の話は続いた。

 

「今回は入試で行った試技の成績順にペアを分けましたが、このペア分けは今月中のものです。来月からは、今月中に行われる三回の実習の成績で決定されます。内容はそれぞれ魔法力の国際評価基準である速度(スピード)干渉力(パワー)規模(キャパシティ)に関するものですので、各自真剣に行うように」

 

 現代魔法で魔法師の力量を計るその基準となるものが、魔法力。そして魔法力の国際評価基準は、魔法の発動速度、魔法による現実への干渉力、構築できる魔法の規模の三つとなっている。魔法科高校の魔法学カリキュラムは、魔法力の強化を軸に構築されているという。

 

 魔法力と呼ばれる能力については、現代魔法学の黎明期より幾度となく変化していたらしい。

 歴史を紐解けば古くは魔法師の開発に始まり、感応石の発見、古式魔法の研究、CADの発明、起動式と魔法演算領域の研究、そして現代のCADと魔法式の開発競争に至るまで、それぞれの時代において有用、有力とされた魔法師には違いがある。

 たとえばあなたが生まれた頃には、まだCAD開発が未発展だったこともあり、想子(サイオン)保有量の大きさも魔法力として扱われていたという。無駄の多い魔法式を力技で発動させたり、力の弱い魔法を回数で補ったりする能力が必要だったからだ。要はロールプレイングゲームにおけるMPの感覚だろう。現在でもこうしたスタミナ資源としてのニュアンスは、俗語表現に残っている。

 

 こうした評価基準に、魔法師たちは翻弄されてきた。そんな中で揺るぎない標準規格が求められ、長い時間と少なくない手間が惜しみなく費やされた末に生み出されたのが、現在の三要素からなる魔法力だそうだ。魔法師の就職先を左右する国際ライセンス認定試験にも、この三要素からなる魔法力が大きな割合を占めている。

 魔法師の卵たちが気合を入れるには十分な理由だろう。

 案の定、生徒たちのざわめきに熱気が籠もった。

 

「では改めて。試技の方法については前回説明していると思いますので省略します。必要な人は個人用端末か、設置型CADのマニュアルを参照してください。今回は一本のレーンを両側から半分ずつ使いますが、くれぐれも効果範囲には注意してください。まずは壁掛けモニタの時計で十五分まで、記録をとってください。実習中は指導教員が巡回しますので、質問があればそちらにどうぞ。それでは実習開始」

 

 ざわめく生徒たちを全く意に介さず、必要最小限の説明をさっさと済ませると、百舌谷は手を叩いて開始の合図をする。壁際に並んでいた指導教官も──予め決めていたのだろう──それぞれ生徒を見るために担当範囲へとバラけていき、ついに実習が始まった。

 

 

*   *   *

 

 

 あなたのペアは、手短な話し合いの結果、深雪からということになった。

 設置型CADを使った計測の手引に従い、端末を計測用筐体にセット。表示される確認画面でYESを押して接続完了。これで試技データのバックアップが取れるらしい。試技データは演習者本人の端末にも記録されるが、危険行為などが有った際の検証用に、必ず正副二つのデータを保存するよう決められているのだとか。

 この辺りからも、社会が魔法師という存在の危険性に危惧する対応が見て取れる。

 

「では始めます」

 

 彼女はそう宣言すると、CADのタッチパネルに両手を置き、触れた手指をわずかに痙攣させて小さく眉をひそめ、目標地点に視線を合わせ、発動。次の瞬間にはレーンの中央からやや自分たち寄りの位置、指定範囲に複雑な幾何学模様の光が発生する。たっぷり三秒ほど光ってから、それはフッと消えた。

 「ピッ」と電子音が鳴り、モニタに記録が表示される。352ミリ秒。0.352秒で発動したということだ。

 確か実戦魔法師の目安が、単系統魔法を0.5秒で発動できることだったはず。彼女は十五歳にして、既にその基準を大きく上回っているということになる。まさに驚愕すべき能力だ。

 

 記録の表示とともに周囲がどよめいたことで、あなたは室内にいる人間のほとんどが、固唾を呑んで深雪の試技を見つめていたことを知る。やはり主席は注目されるということなのか、それともその美貌の為せる(わざ)なのか。

 特に至近、隣のレーンの森崎などからは質量すら感じる熱視線を投げかけられていた。しかし深雪はそれらを全く気にもとめず、優雅にCADの前から一歩下がり、あなたに「どうぞ」と場所を譲る。

 

 深雪がCAD前から離れたことで、ようやく周囲も「自分たちも実習を始めよう」というムードになったらしい。中には良い記録を出して、来月から深雪とのペアになろうと燃えている生徒もいる。異性ばかりか同性の中にもそうした子供たちがいるあたり、彼女の非凡な魅力の表れということなのか。

 ともあれ実習室内がにわかに活気づき、あなたは深雪に再度促されるまでの数秒間、その光景を微笑ましく眺めていた。

 

 

──済まない、待たせた。

 

「ええ。お気にならさず」

 

──では。確か……

 

 こうだったか、とあなたがCADに手を置いたその瞬間、偶然、レーン向かいのB組の生徒も試技に入ろうとしていた。何気なくあなたは視線をそちらへと()()()()()()()

 次の瞬間──

 

 ビーッ!!「何してくれてますか!」

 

 ──B組の生徒から、強い怒気が放たれた。




感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
500字ばかり短いですが、とにかく書けてる内、キリの良いところまでで更新しました。

ちょっと生活環境がまた変わってしまい、執筆にあてる時間もなかなか取れなくなってしまい、相当お待たせしちゃってますね。スミマセン。
その間にも真3リメイクは発売されるわ、魔法科はアニメ来訪者編が始まるわで、感想にも頂いていますが本作に大波が来ていた感。なのに乗りそこねてしまったようで、忸怩たるモノが。ぐぬぬ。

そんな次第で毎度のことながら、更新がいつになるか分からない無責任連載になってしまっていますが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
次回はエイミィ登場からの美少女探偵団ルートか、それとも人修羅さんの治安維持を入れるか。
何気に十文字との対決エピソードだけ9割がた書けちゃってるので、早く進めたいんですガー

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(20201116)加筆修正
 消し忘れていたプロット部分を削除しました。

(20201116)誤字訂正
 楓流様、銀太様、誤字報告ありがとうございました。

(20201116)誤字訂正
 ROCKBEAR様、甘塩1859様、鷺ノ宮様、誤字報告ありがとうございました。
 (久々の更新でなんちゅーミスを...orz)

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