魔法科転生NOCTURNE 作:人ちゅら
(違いについては本編にガッツリ関係するので今は秘密です。悪しからず)
「お帰りなさいませ」
帰宅したあなたに、シルキーが恭しく差し出したのは、
本家から調べておくようにと言われていた、本邦の古式魔法・陰陽道の大家である
剣道部部長・
あの悪魔に取り憑かれた少年が、そうであったらしい。
賀茂家の傍流として大分血は薄まっていたが、司甲は半ば偶発的な隔世遺伝によって魔法師としての資質──二科生レベルではあるが──と、加えて【見鬼】の気質──現代魔法学における“霊子放射光過敏症”──が発現している。
特に後者は日常生活にも困ったようで、彼の母親はその治療のため、小学生の頃から方々に足を運んだという。それが原因で彼が小学四年生のときに両親は離婚。彼は母親に引き取られ、以後、中学二年の終わりまで母一人子一人の母子家庭で育っている。
転機は中学三年の一学期。
前年度末に行われた魔法力測定で、それなりの魔法師としての資質を認められた彼が、進路希望に魔法大学付属第一高校をリストアップした。ちょうどその頃のこと。
母が急に再婚したのだ。
周囲の人間もあまりに突然の出来事に驚いたようだが、「母子家庭での暮らしに疲れたのだろう」と、この結婚そのものは概ね好意的に受け入れられている。
余談では有るが、このときに現在の姓へと変わっていた。
旧姓は
だがしかし。
好事魔多しというべきか。その再婚相手の連れ子、つまり義理の兄弟にあたる司
甲もブランシュの下部組織である“エガリテ”に属しているのではないかと思われる……らしい。
反魔法国際政治団体。
血統にその能力を左右される魔法師という
その主張も「魔法師は就職面で優遇されている」とか「魔法師であるだけで平均給与が高い」といった社会的・政治的なものから、「魔法師は魔法という奇跡を神より盗んだ罪人である」「魔法などという力は人間を堕落に導く悪魔の策謀だ」といった宗教的なものまで有る。
もちろん魔法技能が国力を左右するとまで言われ、特に治安維持においてはその力に依存する二十一世紀末の現代において、彼らのそうした振る舞いは公に認められるものではない。
いかなる理由であれ、少なくとも表立って魔法師を批判できない社会において、彼らの主張が受け入れられることはない。受け入れられないからこそ仲間内での結束を重んじ、より内向的な性質を強めてゆく。その不安を紛らわすかのごとく自らの正義を唱えるようになり、更に社会常識から乖離してゆくのだ。
反社会的な勢力の主張と行動が先鋭化していくのは世の常であった。
彼らが犯罪に手を染め、警察組織に捕らえられれば、社会の敵として大々的に報道される。ましてその背後に魔法後進国の影がチラついているとなれば、世間的な彼らのその名が「テロリスト」とほぼ同義とされることも、むしろ当然と言える。
これもまた魔法という新たな力、集団に勝る個人の登場に対する反応だろう。
魔法科高校に入学して反魔法組織に属する。こちらは完全に
* * *
「遅かったではないか」
書類を読みながら制服を脱ぎ散らかし、自室のドアノブに手をかけたあなたに、室内から声が問いかける。
中から聞こえるのはカチャカチャと鳴るプラスチックの音と、ドカン、バシンと派手な電子音だ。
「ほう、甘い香りを漂わせての帰宅か。また
青年はあなたを見るでもなく、ただ声だけで出迎えた。それはかつての
だがそれも仕方のないこと。声の主は神代において、自らの父たる神々の長からその
その名を“
死後に神格としてアマラの理に組み込まれた彼は、
そして近年においては、あなたの棲家に現れる回数が最も多い仲魔でもあった。
「まあ良い、それより早く座れ。ひと勝負といこう」
ああ、と
しばらくゲームの音と、熱中するギルガメシュの声だけが、あなたの部屋を賑やかす。
三戦三勝。だが危うい場面は何度もあった。今日はどうも調子が悪いようだ。
ふう。
一息吐いた後、「まだ続けるのか」と視線で問えば、ギルガメシュは当然といった表情でボタンを押す。
キャラクター選択画面が表示される。さてどうするか。
「ふん。貴様のそんな顔も珍しいな。何を悩んでいる?」
キレが悪いのは悩んでいたからなのかと、指摘されて初めて気がついた。
さて、自分は何について悩んでいるのだろうか? あなたは自問自答する。
客観的に考えれば、まず思い当たるのは、新しい生活への順応だろう。この十数年を山中の
いくら
既に死語となって久しい「リア充」のような生活に、戸惑いはあっても悩みはない。
強いて言えば、何故に自分のような
──これは違うな。
「ふん?」
あなたの無意識の独白に、それとなくギルガメシュが応じる。
モニタを見ると、キャラセレクトが残り五秒ほどしかなかったので、使用キャラはそのままで決定。
ゲームスタート。
とりあえず
分からない、といえば。
先ほど目にした報告書のことを思い出す。
現代における魔法師たちの
先の大戦で活躍したことによって、ある種の兵器としての役割が期待される魔法師。
国策機関として魔法大学、また附属の魔法科高校などがあり、その育成には大いに力が注がれている。そのくせ人員不足で全国に九つしか無い魔法科高校の指導教員すら満足に揃えることが出来ていない。
また
ならば非十師族の魔法師育成は急務であろうと思うのだが、その登竜門となるはずの魔法科高校では、生徒間での切磋琢磨よりも、上澄みのガス抜き目的としか思えない二科生制度が実施され、どうやらこれが一定の成果を上げているとして評価されているらしい。
お陰でドロップアウトした生徒たちが、反魔法結社などというテロリストグループに魅力を感じてしまう始末。
なにもかもがチグハグで、どうにも理解し難い。
──そうか。
「分かったか」
──ああ。
あなたが答えにたどり着いた時、大画面モニタの中では
* * *
「なるほどな。とはいえ、そう難しいことでもないと思うが」
ひとまずゲームを辞めて、あなたは考えたことをギルガメシュへと話してみることにした。半ば愚痴であるが、それに気付かせてしまった者として責任をとってもらおう。
厄介事だと思っていたその
──ほう?
「要は魔法師とやらの立場よ。同国人だの同じ人間だのと考えるから分からなくなる。奴らは別の氏族なのだ」
──氏族?
「ふん。この国にも
この
現在は近隣の図書館の蔵書を片っ端から読み漁っているらしい。
「ならば
それは確かに、道理だろう。
だがそれだけでは、チグハグさの理由が分からない。
「貴様は我らに君臨する大王ではあるが、統治する者ではないからな。分からぬでも仕方がない。だが、それについても以前、何かで読んだぞ。
──ああ。
なるほど、それは確かに道理に適っている。
そうした危惧があったから、特定の人間に対する忠誠心を植え付けるエレメント計画なんて実験が行われていたのだ。仔犬のような
──しかし、そうなると……
それでは魔法師という新たな存在は、ただ道具として既存の国家へと組み込まれるだけになる。
確かにそれも“力”の行く末ではあろう。だがこれまで人類が積み重ねてきた、強大な“個”に対して理知で挑む“集”、という歴史に対する初めての反逆も、所詮はコップの中の
「それで構わぬのではないか? 貴様は乱を願うわけではあるまい。そうであるなら、この世はとっくに修羅の巷と化していよう。暴れたがっている
あなたはそんなことを望んではいない。
そんなわけがない。
だが魔法師の力が戦いのために特化している以上、彼らが台頭するなら闘争を全く行わない、ということもありえないだろう。おそらくあなたの望みの先には、戦いは不可欠となる。
とはいえこのままでは、あの日あの時あの場所で、
「魔女の神・アラディアといったか。
そうだ。
名もなきコトワリ。
“自由”なる虚構。
虚構は所詮、真実の前には無力なもの。故にあなたの戦った真なるボルテクス界で影響力を持つには至らず、氷川が招来せしめた虚無の魔王・アーリマンの神性に消し飛ばされてしまった。
そんな
祈ることも許されないのかと、絶望した
絶望とともに蓋を開き、最後に見つけた希望が、あなただったのだ。
「その末が今の世なのだろう。もはや誰にも確かめるすべはないが」
未熟だったあなたが、あの日あの時あの場所で
いつか答えを見るために。その約束を守るために。
結果として闘争は無くならなかった。
だが、あなたは確かに願ったのだ。いつか
故に再創世された今の世界には、
その可能性である魔法を、魔法師の生きる道を、そう容易く剪まれては堪らない。
「気に入らんなら
──そうするか。
あなたの中で、のそり、と何かが蠢いた。
感想、評価、お気に入り、いつもありがとうございます。
更新ペースは亀の歩みになってしまって久しいのですが、今後ともお付き合いいただければ幸いです。
ギルガメシュ登壇。
『真・女神転生3』には登場しないんですが、人間寄りの相談役がいなかったもので。
当初はシルキーに相談役もお願いするつもりだったんですが、書いてみたら甘やかすばっかりなので没に(笑)
本作におけるギルガメシュは、『Fate/Grand Order』第一部第七章に登場する「ウルク王」のギルガメッシュ(いわゆる「術ギル」)をイメージしています。「性格:ヒーホー」のように、現実世界の創作物に影響を受けて変質した悪魔とか、なんかそんな感じで。
というわけで、やっとこちょっと動く気になった人修羅さん。
でもその前に片付けなきゃいけない魔法科原作のイベントがあるんだよなあ。
……月曜更新に間に合わなかった...orz
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(2020/06/02)ルビ訂正
鷺ノ宮様、報告ありがとうございました。
(20240405)誤字訂正
汽水域様、誤字報告ありがとうございました。