魔法科転生NOCTURNE   作:人ちゅら

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今回えらい難産でした。

精霊(SB)魔法については、メガテン世界とクロスしたことで「精霊」というカテゴリの悪魔が現れ、魔法科世界の解釈とは異なったものになっている部分があります。

わりとどうでもいいことですが、「竜神」は広域気象操作が可能な神霊の俗称、「龍神」は悪魔分類法における種族名として一応使い分けています。



#020 堕ちた神童

 吉田幹比古は()()()ではない。

 だがあの目をした少年を、(あいつ)の目をした少年(こども)を、二度も見捨てることなどであなたに出来ようはずがない。

 勇のことは、あなたにとってほぼ唯一の後悔なのだから。

 

 

 あの時、あなたは自分の力があれば守ってやれると思った。

 勇は弱者(ニンゲン)で、あなたは強者(ヒトシュラ)だった。

 その力があるのだから、そうしてやらねばと。

 

 だが、あなたは勇を囚われの身にしてしまった。

 

 必死に走ったが、救助の手は間に合わなかった。

 

 身勝手な振る舞いも、自分本位の責任転嫁も、仕方がないと見過ごしてしまった。

 

 そして勇に、独りを選ばせてしまった。

 

 

 そんなすれ違いの末、あなたは勇を()()()()()()()()()

 

 

 導いてやらねばなるまい。

 せめて自分の意志を押し通せるようになるくらいには。

 そのための力、理不尽を撥ね付けるだけの力を身につけるまでは。

 

 

 先ほどの振る舞いが、強者に武器(ちから)を向けることがどれほど危険なことか。イメージを現実のものとする魔法師として、あまりに想像力が欠如している。それは彼の将来を良いものにはしてくれまい。そして何より、あなたの想う魔法師の未来にとっても都合が悪い。

 

 とはいえあなたも他人様(ひとさま)に道理を説き、教え導くことができるような人間ではない。なにしろ前世、再創世後の四十年余は興味本位の研究に浪費してしまった。その中では少なからず他人様に迷惑をかけてきている。そして今生の十五年間はこの二十一世紀末という時代、古式魔法師の間薙家という環境に馴染むだけで精一杯であった。

 そもそも混沌王たるあなたの権能は、およそ人間スケールの()()などというものとは相性が悪すぎた。色々と面倒になって、ひどく大雑把な生き方をするようになったあなたに、子供を諌める言葉などありはしない。

 

 あなたが知るのは、()()()()()()()()()()()()()()という一つの()()

 故に今ここでできることは、彼に過ちを実感させること。それだけだ。

 

(実際は創世主(あなた)がそれを真理(コトワリ)だと信じるが故に、この世界が()()()()のだが)

 

 

*   *   *

 

 

――どうする? ()ちた神童(しんどう)

 

 次の瞬間、あなたの顔面すれすれを吹き抜けた風が後方の樹木にあたって爆発、強烈な爆風があなたの背中を強く叩いた。

 とはいえそれしきの事で揺らぐほど、あなたは()()では無い。

 

「君も魔法師ということで、()()()()()?」

 

 血の気の引いた顔面に、瞳ばかりは爛々と光を宿した狂気が、あなたを睨みつけている。

 あなたが()()()()()()というのなら、そう認めるのであれば、容赦なく全力で攻撃する。そういう宣告だろう。

 臨戦態勢に入って、彼の気合も充実しているようだ。呪符を構えた右手から首筋にかけて、強い意志(マガツヒ)の光が漏れ出している。あなたが先ほど【アナライズ】で視た、彼の持つ興味深い能力。どうやらあの光は、その兆候のようだ。

 

 ともあれ、()る気になったのなら都合が良い。

 きっちり()()してやるとしよう。

 

 あなたはそう覚悟(はら)を決め、彼の問いに頷いてみせた。

 

 

 バヂバヂィ――ッ!!

 

 

 あなたが首肯すると同時に、あなたは立っていた場所に降り注ぐ雷を、間一髪で躱した。

 頭上に青白い光の球――あなたがエアロス(風精)と呼ぶ風の精霊(スピリチュアル・ビーイング)が集まっていることには気がついていた。でなければその攻撃を受けていたかもしれない。【ジオ(感電)】を時間差でかけ続けることで、対象に行動させないままなぶり殺す技。かつて魔界でも恐れられた感電(ジオ)ハメと呼ばれる戦術だ。

 かすかに聞こえた「雷童子(らいどうじ)」という呟きが術の名か。

 

 それを間一髪で躱したあなたは、瞬時に大きく息を吸い込むと、ワダツミ(海神)のマガタマの権能(ちから)の一つ、【フォッグブレス(濃霧の吐息)】を吹いて周囲に濃霧を作り出した。

 

 海の伝説、大蛤の妖怪の仕業ともされる蜃気楼を模したこの権能は、濃密な霧によって方位を見失わせるとも、数多の幻を形作りそこにいる者を惑わせるともいう。今回はひとまず仕切り直しの時間を作るため、また彼の対応力を測るため、物理的な濃霧だけに絞った。

 その霧が出ている間に自分に【スクカジャ(神経強化)】を重ね掛けして準備は完了。あとは霧にまぎれて密かに彼の側面へと移動しつつ、しばらく様子を見ることにする。

 

 

 さて、どのように戦おうか。

 

 正直なところ、これまで見てきた彼の攻撃能力では、公の加護(マサカドゥス)を身に帯びたあなたに傷一つ負わせることはできないだろう。だが生徒会室での約束の件もある。彼の自信を損なわせ、魔法を失わせるような権能は、見せるべきではない。

 故にあなたはあなたを守護するマガタマの一つ、その権能を一時的に封じ込める。

 

 周囲は自然に囲まれたエリアだ。多少強力な魔法を行使しても構わないだろうが、いかんせんあなたの権能は、指向性に難のあるものが多い。トウキョウでは単騎で集団を相手にすることも少なくなかったし、そもそも破壊が後々まで問題とされるような社会は無かった。

 

 たとえばここで【放電】の権能を放ったとしよう。そうすれば一瞬で周囲の木々を、落雷に遭ったように縦に裂いて焼き焦がすことなど容易いことだ。それどころか、力を込めれば山火事すら引き起こしかねない。それよりいくらか穏当な【竜巻】ですら、大木をその根本から引きちぎり、空高く舞い上げる()()の力はある。そして威力を強めるならともかく、弱めることには限度がある。

 故にあなたはマガタマの持つ強力な魔法(マガツヒの力)を使わず、より指向性が高く威力の調整がし易い体術のみで戦わなければならない。

 

 

 こちらのスキルは体術系のみと決まった。

 

 では勝利条件はどうか。

 

 まずは活を入れること。

 これは一つのゴールと設定してよいだろう。現段階での達成を急ぐ必要はない。だがその筋道くらいは付けておきたい。そのためには彼の能力、彼の人格、彼の意志を見定める必要がある。まずはそれを看破することに努めよう。

 個人的にも短期決戦向きの()()()()を、少年がきちんと理解し戦術にどう組み込んでいるのか、長期戦化した時にどうなるのか、興味もあるのだ。

 

 それからもう一つ。牽制のためとはいえ半ば脊髄反射であなたに攻撃をしかけた、先ほどの行動は矯正しておかねばならない。

 あなたは自身の経験として、相手のことを良く知らずに手を出し、手痛いしっぺ返しを喰らったことなど数知れない。もしもあの時、あなたが【マカラカーン(魔法反射)】でも唱えていれば、あるいはアダマのマガタマが|その加護【電撃反射】を発現させていたなら、その時点で彼の短い人生は終わっていたのだ。

 素直に話を聞くようなら良いが、そうでなければ少々手荒な手段で痛い目をみせてやるしかない。

 

 

*   *   *

 

 

「くそっ」

 

 吉田少年があなたの【フォッグブレス】に驚き戸惑ったのも、そう長いことではなかった。

 彼はすぐに魔法式を発動して概念上(サイオン)の鎧をまとうと、呪符を構えて目蓋を閉じる。下手に動いて罠にかかることを避け、防御を整え感覚を研ぎ澄まし、即応(カウンター)できるよう備えた。そんなところか。

 格上相手には危険もあるが、魔法の展開速度と威力に自信があるのなら、悪くない判断だろう。まだ彼の首筋の光は消えていない。ならばその選択は理解できる。

 

 ……いや、既にもう一つ、魔法を行使していたようだ。喚起されたエアロスたちがあなたの周囲に飛び散ると、あなたの視界が小さく揺れた――と同時にあなたの中のイヨマンテとヴィマーナのマガタマが震え出し、即座にあなたの状態を回復させる。イヨマンテは精神を、ヴィマーナは神経を正常に保つ力を持つ。これらが働いたということは、それらに影響を及ぼす魔法だったのだろう。

 時間稼ぎか、位置を知るためか、あるいはその両方か。なんにせよ実に容赦がない。

 

 

 これまでわずか三十秒ほどのことだが、見たところ総じて能力は高く、突発的な状況の変化(フォッグブレス)にもそれなりに対応できている。

 罠に備えてか待ち(カウンター)の姿勢を取ったあたりは減点するべきかもしれない。だがまあ、あの時点では十分()()な選択だったとあなたも思う。

 なにより十五歳でこれと考えれば、神童と言われただけのことはある。

 

 魔法のプロセスも興味深い。まず精霊を喚起し、喚起した精霊に魔法式を預けて魔法現象に変えているようだ。自分の内側にある可能性か、外にある精霊かの違いはあれど、昔見たペルソナ能力にも似ている。

 神祇魔法を謳いながら、そのプロセスは神霊の奇跡を模倣する神祇官より、むしろ式神を使役する陰陽師に近い。なるほどこれが吉田家が他門の魔法師たちに()()()と言われる所以か。

 

 

 ところでこれまで少年を観察してみたあなたは、二つのことに首を傾げている。

 

 

 一つは彼が未だにこちらの気配を捉えていないらしい、ということ。反撃に備えて感覚を広げているわりに、隠れ潜んでいるあなたに気づいた様子がない。もしかすると彼は【マッパー】や【アナライズ】系、本邦の古式魔法であれば【見鬼】や【垣間見】、【式盤】【八卦見】などに代表される()()()()系の魔法が使えないのだろうか。だとすれば酷い手落ちだ。それでどうやって悪魔と戦うというのだろう?

 

 古式魔法師は悪魔との戦いに備えるもの。

 あなたの知るその慣習は、あなたが古都で古式魔法師らと交流していた前世のもの。彼らの修行場を散々に破壊しては生み出し、畏れられ避けられてきた今の時代にまで受け継がれてはいないことを、あなたは未だ知らない。

 

 

 もう一つは、少年の魔法の成功率だ。

 彼は「魔法の行使が不安定」で問題視されていたはずだが、あなたが視ていた限りにおいて、彼はこれまで一度として、魔法の発動を失敗していなかった。

 それとも今まで使われた魔法も、実は吉田家の基準では何かしら失敗と見做されたり、不安定化していたということなのか?

 

 だが古式魔法をあれだけの速度で展開できれば十分以上だろう。

 もちろん、()()()()によってゲタを履いているのは確かだ。だが展開速度の遅さは古式魔法の欠点とされるのに、これまでの魔法展開の速度は現代魔法にすら食らいついていけそうなレベルだ。

 もしかしたら、既にスランプを脱しているのか?

 

 

 だとするならば、残りは懲罰の(おしおき)時間(タイム)だ。

 強い力を弱者に向ければ相手を容易に殺傷しうることを、そして万が一()()()()()()()()、その時は自分の命が無いことを、はっきりと理解させておかなければなるまい。

 

 あなたの視線の先には少年の首筋の、すでに幽かにしか感じられない薄れた光があった。

 

 

――こちらから往くぞ。

 

 

 茂みから飛び出して、手始めに目一杯手加減した【突撃(ショルダータックル)】を一撃。その衝撃に、サイオンの鎧で強化していたにも関わらず、吉田は思わずたたらを踏む。続けざまにあなたが()()()()()()()()()()()()に合わせてなにか試みたようだが、喚起されたエアロスを残して体勢を崩して、そのまま大きく転倒した。

 気丈にもすぐさま飛び起き身構えていたが、そこはまだあなたの攻撃圏内だ。あなたに軽く小突くように蹴り転がされればサイオンの鎧ははじけ飛び、純白だった浄衣も、線の細いその面相も、今や泥にまみれてしまっていた。

 

 対するあなたの衣服には、茂みに屈み込んだ際の細かな枝葉が散見されるのみ。軽く払ってやれば、それらはすぐに落ちた。

 決着はついていた。

 




感想、お気に入り、評価、いつもありがとうございます。

人修羅さん、攻撃魔法は基本的に範囲系ばかり(竜巻とか)なので、一対一だと体術メインにならざるをえない不具合。人修羅らしいバトルが出来るのは明確な敵勢力を相手取って情け容赦ない殲滅戦カマせるときくらいしか無いというのが難しいトコロ。

次回で吉田幹比古のターニングポイントその1(説教タイム)
その次からやっとこ勧誘合戦のエピソード、となる予定です。

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