悟空たちが村へと行った次の日、ある知らせがロズワール邸へと届いた。それも悪い知らせが。
「ロズワール様、村の者たちが何者かによって殺されていたそうです」
ラムが表情に影を落とし、主人のロズワールへと報告をしていた。それを偶然とはいえ聞いてしまったスバルは、慌てて悟空へと報告をしようとした。
その際、そばに立て掛けてあったほうきを倒してしまい、甲高い音が響き渡る。
「誰!?」
それに驚いたらしいラムが、自身が得意とする風魔法のフーラを放った。それはスバルの頬を浅く切り裂き、スバルはラムとロズワールが話していた部屋へと転がりこんでしまう。
「バルス?どうしてあなたがここに……?」
ラムが、スバルのことを疑うような眼差しで見つめていた。少しばかり殺気だっているようにも感じられるのは、きっとスバルの気のせいではないだろう。
「もしかして、バルスが村の者を……?」
ラムが声に出した言葉は、スバルのことを完全に疑うようなものであった。というよりも、実際にスバルのことを疑っているのだろう。
確かに、突然ロズワール邸へと転がり込んできたスバルは充分に怪しい存在といえるだろう。
そしてそれは、部屋で寝ているはずの悟空にもいえることなのだが。
「ち、違う――俺はやってない!」
スバルは慌ててラムへと弁明をしようとするが、その慌てようはまるで自分が犯人ですと言っているようなものだった。実際にやっていないとしても、少なくともそう思う者はいるだろう。
そしてそれは、この部屋ではラムに当てはまることであった。
「フーラ!」
ラムの魔法がスバルの脇腹を抉り、大量に出血をさせる。腸も飛び出て、スバルは大量の血を吐き出す。
血がロズワールの部屋の床を汚し、赤く染める。
スバルは慌てて部屋から出ようと手を伸ばすが、手首から先の感覚が急に消えた。
スバルはそのことを不思議に思い、視線を手へと向けると……手首から先がなくなり、床にスバルの手首と思わしきものが落ちていた。
瞬間、スバルを激痛が襲い、悶える。
――痛い。熱い。
その思うと同時に、スバルの意識が暗転した。
ラムの魔法が、スバルの命を刈りとったのだろう。
「ゴクウ、遊ぼ!」
スバルが目を開けると、そこに広がっていた景色は昨日見た村そのものであった。しかし、それはあり得ない。なぜなら、ラムが村の者が誰かに殺されていたと言っていたのだから。
しかし、その光景はまさしくアーラム村そのもので、なぜここにいるのかの説明がつかない。
どうやら、悟空も呆然と立ちすくんでいるらしく、子どもたちの問いかけに返事をしていなかった。
「どうしたの、ゴクウ?」
ペトラが可愛らしく首を傾げながら、悟空へと問いかけている。その姿を見る限りでは、死んでいるという話は、とてもではないが信じがたい話ではあった。
行動全てが、昨日の子どもたちと同じ。違っているのは、スバルと悟空だけ。
そう。まるで2人だけの時間が戻ったかのように。
「もしかして、戻ってる?」
スバルの呟きは、子どもたちの笑い声によってかき消されていった。