藍い苺の咲く頃   作:鶉野千歳

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急報、入る

3が日が開けきらないうちに、急報が入ってきた。

 

「提督! 至急、執務室へお戻りください!」と館内アナウンス。大淀の声だ。

 

食堂で、曙と喫茶中だった立華が二人して執務室に入ってきた。

 

「どうした??」

 

「本日1420、佐世保の、第2佐世保の艦隊が、五島列島沖で敵機動部隊に補足された、とのことです。」

 

「!!! 補足された? どういうことだ?」

 

「は、詳細は入っておりません。 届いた電文も、いつもと感じが違います。」

 

「そうか・・。 で、敵の侵攻方向は判明しているのか?」

 

「現時点での、敵の予想進路は、佐世保鎮守府と思われる、とのことです。」

 

「は?? 佐世保?」

 

「陸上基地を攻める気なのかしら?」

 

と曙が言う。

(今までにも、陸上基地を攻める事は何度かあった、と記憶しているが・・・・)

 

「まさか、佐世保とは・・・・。 国内でも5指に入る戦力と規模を持った鎮守府だぞ? なんでいきなりそんなところを襲う?」

 

「敵の思考は、分かりませんから・・・。」

 

「続報です! 本日1450、第2佐世保から迎撃の艦隊出撃。第1からも迎撃部隊が間もなく出航予定。第1第2佐世保鎮守府に迎撃態勢発令、とのことです。」

 

「敵の戦力は、分かる?」

 

「現在、不明です。」

 

「そうか・・・・。  では、当基地も即時出撃できるよう、全艦に出撃準備をさせて。」

 

「了解。伝えるわ。」

 

「大淀さん、曙、もしもの時に備えて、瑞稀を間宮に預けて。」

 

「はい。」

 

「それから、軍令部と、横須賀、呉、舞鶴の各鎮守府にも状況を問い合わせて確認してくれ。」

 

「はい。」

 

と返事をして通信室へ確認を取る。

 

「よし、今後は作戦室で指揮を執る。」

 

と宣言をして、執務室を後にする。

ここ大湊鎮守府の作戦室は、通信室とガラス張りで仕切られており、部屋の真ん中には、海図台がある。数台のモニターが並んでおり、基地内の状況カメラの映像、監視所の映像、レーダー画面などが表示されている。爆撃の被害を避けるため、あえて地下に造られている。当然、窓は無い。

大淀から報告があがってきた。

 

「呉と舞鶴から連絡が入りました。」

 

「何と言ってる?」

 

「はい、呉は、1520、主力艦隊を2艦隊、救援隊として出撃させたようです。 舞鶴からも、1515、救援艦隊を出撃させたようです。 到着までおよそ6時間ほど、だそうです。」

 

「クソ提督はどうするの?」

 

「恐らく、両部隊が到着する頃には、佐世保での戦闘は終わってる・・・・・・。

 我々からは救援艦隊は出さない。何しろ到着までに1日かかるからな・・・・。

 その代りに哨戒体制を厳にしよう。

 龍飛岬、大間崎、尻屋崎の監視所に厳戒態勢を指示。」

 

海図を前に腕を組んで立華が呟く・・・・。

 

「1420で五島沖か・・・・・。 五島沖の場所によるが、両艦隊とも1600までには砲撃可能距離に入るんじゃないか・・・・」

 

しかし、立華の予想よりも早く、1530、佐世保鎮守府の近海で戦闘が始まった。

 

「第2佐世保の第1艦隊より連絡。 敵深海棲艦、姫級1、ル級6、ヲ級6、他20隻以上、とのこと!!」

 

「!!!! やけに大掛かりじゃないか!! こいつはヤバいぞ。」

 

 

その頃佐世保沖では・・・・

戦艦による遠距離砲撃が距離3万5千から始まり、更に接近し、巡洋艦の砲撃が始まっていた。

双方の着弾による水柱がいくつも立ち上がる。

2射目、3射目と数をますうちに、命中弾が出始める。

快速な小型艦艇・駆逐艦が肉薄し魚雷攻撃を仕掛ける・・・・。

小型艦艇の類は1発、1撃で轟沈していく。

大型艦艇は2,3発喰らってもビクともしないが・・・・。

近距離の為、艦載機は緊急発進する。

艦上戦闘機は増槽を付けることなく飛び上がり敵攻撃隊を迎え撃つ。

零式戦のほうが小回りが利くことを利用し、敵艦載機の背後をとり、敵を撃墜していく。

艦上攻撃隊は航空魚雷を、艦上爆撃隊は50番を2-3発を抱え飛び出していく。

飛び出して10分もしないうちに敵艦隊を視認できる距離だ。

艦上攻撃隊は高度を下げ、艦上爆撃隊は急降下すべく高度を上げる。

爆撃コースに入るまでに撃ち落とされる機体もでる。

爆撃位置から爆弾を投下する。

ヒュルヒュルと空気を切り裂き落下していく。

雷撃位置に入り航空魚雷を投下する。

九一式航空魚雷が海面下を走る。

敵に命中すると、閃光が放たれると爆発音とともに爆炎があがる。

そんな光景があちらこちらに見える。

そう。

あちらこちらに・・・。

敵味方区別なくその光景が見えるのだ・・・・。

敵味方区別なく・・・という事は、味方にも損害が出ている、という事だ。 

損害・・・被弾くらいならいいが、撃沈、轟沈が・・・・・。

また、基地航空隊も緊急発進していく。

新田原、筑紫、鹿屋の他の基地航空隊も救援に出撃していく。

佐世保近海は、空と海に爆音と砲撃音が鳴り響いている。

 

画して砲撃音が鳴り始めて以来、激闘4時間。

深海棲艦はほぼ全艦が撃沈され、残るは姫級を残すのみ。

対して第1第2佐世保の艦隊は出撃の半数が撃沈され残りも大破中破であった。

無傷は皆無であった。

そして・・・佐世保のうち、第2佐世保鎮守府は深海棲艦の攻撃をまともに受け、壊滅状態であった。

姫級の1隻は、残った戦艦群の砲撃を一方的に受け、爆散していった・・・。

2000、激闘4時間を経過して敵が壊滅したことで戦闘は終わった・・・。

 

立華の予想通り、呉と舞鶴の救援艦隊は、戦闘に間に合わなかった。

海域には、硝煙と燃料の燃える匂いが辺り一帯に広がり、艦や航空機の破片があちこちに浮いている。

 

その被害の集計は翌朝には纏められた。

 

被害集計:

第2佐世保鎮守府:壊滅

〃所属艦隊:沈没 戦艦2、航空母艦2、軽空母1、重巡洋艦3、軽巡洋艦1、駆逐艦10

      大破 戦艦2、航空母艦1、軽空母1、軽巡洋艦5、駆逐艦12

      中波 航空母艦1、重巡洋艦1

第1佐世保鎮守府:損害軽微

〃所属艦隊:沈没 戦艦2、駆逐艦8

      大破 航空母艦4、重巡洋艦2

      中波/小破 軽巡洋艦4、駆逐艦5

空母航空隊:出撃総数650機、帰還435、未帰還215

基地及び応援航空隊:出撃総数170機、帰還105、未帰還65

惨憺たる結果である。迎撃戦とはいえ、損害が大きすぎた。

第2佐世保は使用できる状況にない・・・・。

報告は続く・・・。

・第1佐世保所属艦艇はそのまま第1佐世保で入渠。

・第2佐世保の生き残り艦艇は、呉、舞鶴、大湊まで回航の上、入渠。

また、救援に参加した呉艦隊、舞鶴艦隊はそのまま佐世保に留め置きとなった。

戦力補充の意味を込めて・・・・・。

 

戦闘結果を聞いた大湊では・・・・

 

「酷いな・・・・。 第2佐世保はほぼ壊滅か・・・・。 あいつらが沈むなんて・・・・・」

立華が呆然と呟く。

(敵の強襲を受けたとしても、脆過ぎる・・・・。)

 

半年前まで其処にいた立華はショックを隠し切れない。

 

「それで、大湊まで回航してくるのは、誰か分かるか?」

 

「はい、この時期の日本海を24時間以上掛けてくるのは、傷ついた小型艦艇では無理と判断され、大型である、空母3隻、重巡洋艦1隻と、艦体の損害が比較的少ない駆逐艦3隻が護衛に就くそうです。空母は、翔鶴、瑞鶴、龍鳳。重巡洋艦は、利根。駆逐艦は、照月、秋雲、巻雲、ですね。戦艦その他は呉と舞鶴へ向かうようです。」

 

「そうか・・・・・・分かった。 大淀さん、大湊鎮守府の警戒態勢を通常に戻して。 今入渠してる艦は無いから、到着次第、則入渠できるように手配を。 それから、医療班とバケツを準備させておいてくれ。 我々も通常体制に戻ろう・・。 哨戒範囲の100カイリはそのままで。 では、解散。」

 

 

執務室に戻った立華は、椅子に座って、1枚の写真を見つめていた。

(第2佐世保、壊滅・・・・ お前との思い出が何もかも消えてしまったのか・・・・。 何もないところから創り上げた第2佐世保・・・・お前以外いなかった艦娘を増やしていったあのドックも・・・ あの執務室も・・・・・何もないのか・・・・バカ言いあったあの食堂も・・・・・何もかも・・・・・。)

眼頭が熱くなる・・・・。

眼から光るものが流れ落ちていく・・・・。

 

「俺が居たら、皆無事だったのだろうか・・・・誰も沈むことはなかったのだろうか・・・・・」

 

壊滅との報を聞いて、思ってしまった立華だった。

そこへ・・・・

 

「そんな事、分かるわけないでしょ、クソ提督!!」

 

執務室に曙の声が響く。

 

「?!!」

 

いつから居たのか、曙は机の前まで来ている。

 

「アンタが居ても、皆助かったか、なんて分かるわけないでしょうが!! 奴らが攻めてこなかった、とでも思ってんの? 冗談も休み休み言いなさい!! アンタは今、ココに居るの!! これは事実!! だから、弱弱しい姿を見せないでちょうだい!! 皆が心配するんだからね!! いい? しゃんとしなさい!! 」

 

語気の強い言葉を並べる曙だったが、なぜかしら瞳が潤んでいるように見える。

 

「アンタが泣くと、あたしまで悲しくなるわよ・・・。だから、毅然としてて。 お願い・・・。」

 

曙の声が、小さくなりながらはっきりと言う。

 

「そうだな・・。 悪かった。」

 

立華が涙を拭い、顔を自らの手で叩いた。

 

「ほら、瑞稀も居るんだし、しゃんとしてよね? 分かった? クソ提督!」

 

容赦のない一言だ。 うん、その方が落ち着くような気がするのは・・・Mかな?

 

「ああ、ありがとう。 曙。」


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