藍い苺の咲く頃   作:鶉野千歳

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年末から年明けまでの行事が続きます。


年末年始

24時間監視体制を敷いて1か月あまり・・・・。

12月に入り、建物の外はすっかり雪が積もり、一面の銀世界となっている。

哨戒機からの報告は・・・・敵を発見することはあっても、イ級程度の小物ばかりで、大規模艦隊や姫級や鬼級は確認されなかった。

その都度、警戒行動中の艦隊に連絡し、撃滅していた。

 

「ん---、結果は芳しくないなあ・・・・・。」

 

「哨戒に手を抜いているわけでは無いので、ここまで何もないとなると・・・・・」

 

「そうだねぇ・・・・  24時間監視体制を、一旦、終了させるか・・・・。」

 

「そうですね。」

 

「よし! 本日付けで監視体制を元に戻す。その代りに、哨戒範囲を東西方面それぞれ100カイリ延ばす。それで様子を見よう。」

 

「わかったわ。そう伝えるわ。」

 

大淀、曙が各チームに伝えに行った。

 

 

12月の半ばになって、平穏が崩されていく。

 

「!提督!! 那覇基地よる情報提供です。

『宛 各鎮守府および各基地、発 那覇基地 本日0645、那覇基地所属哨戒機が南シナ海南方500km付近で敵大部隊を電探で補足。各所におかれては警戒態勢を敷かれたし。』

とのことです。」

 

「見つけたか! しかし、どこへ向かってるんだ?・・・・・・」

 

しかし、その後の情報は途切れた。

 

「大淀さん、その後の連絡は?」

 

「ありませんね。」

 

「このまま何もなければいいけど、そうはならないだろうな。」

(頭に入れておくか・・・・。)

 

 

不安を抱えたまま年末、新年を迎える事となった。

何もしないわけにもいかず、かといって、警戒態勢を敷いている状況では、派手にも出来ず、ということで形式だけでも年末年始の行事を行う事となった。

年の瀬、30日に餅つきを行った。

餅つき機で餅をつくことも、丸もち、切り餅を買ってくることも考えたが、ここは杵で餅をつくことにした。

さすがに室内では大ごとになるので食堂の前庭で、雪をかき分けて場所を確保している。

もち米を前日から水に浸し、朝から蒸している。

いったい何升のもち米があるんだろう?

蒸し器と臼が3つずつもあるんだけど・・・・。

 

「どれくらいのお餅を作るの?」

 

「そうねぇ、餅箱30箱くらいかな?」

 

と間宮が言う。

 

「「げ! 30箱?!」」

 

「みんな、お餅、好きでしょ?」

 

「それだけじゃないわよ? 鏡餅もいくつか必要だし、ね?」

 

とにこやかに間宮が答えていた。

 

「あ、あたしは、あん入りのお餅がいい!」

 

「じゃ、あたしは、ヨモギ入り!」

 

「好き勝手言わないの! みんなで餅をつくんだよ?」

 

と制すのは衣笠だった。

蒸しあがったもち米を臼に移していく。

 

「じゃ、始めるよ」

 

と衣笠が臼をつき始めた。

あと2つは榛名、朝潮がついている。

コネコネ、グシグシ・・・・、ペタン、パタン、・・・・・小気味よくリズムにのって杵でついていく。

どこかのお店では、高速づきなるパフォーマンスがあるそうだが、そこまで早くは無いが、そこそこの速さだ。

 

「よし、こっちはこれくらいだね? これを餅台へ持って行って!」

 

と衣笠。

餅台の上には片栗粉がまぶしてある。そこにつきあがった餅が運ばれる。

湯気がホッカホカ出ている。

それを駆逐隊の連中が取り分けて丸めていく。

 

「アッツ!!」 「あちいい!!」 「わああ、どろどろ---」

 

なんて声が聞こえる。

 

「いい? これくらいの大きさにしてね?」

 

と間宮の指示が飛ぶ。

 

「「「「はああ---い!」」」」

 

「コッチもつき上がったわ。 そっちへ持って行ってちょうだい?」

 

と榛名。

 

「あたしの方も出来上がったわ。」

 

と朝潮。

 

餅台の方は、急に忙しくなった。

 

「ほら、早くしないと、お餅が堅くなっちゃうわよ!!」

 

次々と蒸し器からもち米が投入されていく。

 

「うさき型のお餅、完成にゃ!」といっているが、

 

「睦月ちゃん、遊んでないで手伝って。」

 

と如月に怒られていた。

 

「如月ちゃんは真面目だねぇ」

 

「睦月! 遊んでる暇無いの! ほら! 睦月、邪魔!」

 

と衣笠に怒られた。

 

「ひゃいぃぃぃ!」

 

「ほら、怒られた。」

 

そのうち、間宮が大きな鍋を持ってくる。 そこには、数日間コトコトとじっくり煮込んだあんこがいっぱい入っていた。

 

「こっちは、あん入りにするわよ!」

 

そしてもう一つ。

 

「それからこっちは、ヨモギね!」

 

あん入り、ヨモギ入りの手順を教えつつ、間宮がテキパキと餅を丸めていく。

打ち手も、榛名、朝潮、衣笠から変っていく。

立華も餅をつく。

大淀は瑞稀を抱いて「はいはい、お餅ですよ---」なんて言ってる。

片栗粉をののった餅台を、瑞稀がバンバン叩いている。

粉が飛び散って、手や顔が粉まみれだ。

おまけに、大淀の顔や黒髪まで片栗粉がついている。

白い肌が、更に真っ白だ。

 

「あははっ、瑞稀ちゃん、真っ白---!」

 

とはしゃぐ涼風に、

 

「大淀さんも、白粉塗ったみたいに真っ白-----!」

 

と五月雨。

 

「ったくもう・・・・。 大淀さんは、瑞稀と一緒にお風呂に行ってきて。 真っ白けだよ。」

 

「はああい。 行こうか? 瑞稀ちゃん。」

 

そのうち、午前の哨戒組が帰ってきて、作業に加わる。

午後組が準備の為、離れていく。

餅箱がどんどん積み上がっていく。

お昼時。

朝から始めた餅つきだが、予定を超える40箱を作り終え、今は鏡餅を作っている。

鏡餅は大小30個ほど作るのだ。

食堂、執務室のほか、各寝室の分までも。

ようやく、用意したもち米が無くなったころ、大淀と瑞稀が帰ってきた。

 

「お風呂、いただきましたあ。」

 

鏡餅を作り終えたときには、お昼を過ぎたあたりになっていた。

 

「はああああ-----、疲れたああああ」

 

という溜息と声があちこちから聞こえた。

 

「「「でも、面白かったねぇ。」」」

 

「「「うん、疲れたけど、楽しかったあ。」」」

 

”ぐうぅぅぅぅぅ・・・・”

昼食抜きで今までやっていたので、皆、お腹の虫がなった。

 

「お疲れさま。 みなさん、つきたて餅でお昼にしましょう。」

 

と間宮が言うと、

 

「「「やったぁ!!」」」と歓声が上がる。

 

「一人2つずつね? 安倍川餅に、あんころ餅よ!! こっちはヨモギ餅。 あ、お昼ご飯は巻き寿司よ。」

 

「やっぱり、つきたてを食べなきゃ!」

 

「うん、つきたては美味しいなあ。」

 

とは鈴熊。

 

「この、伸びがいいのよねぇ。」

 

とは龍田。

餅を伸ばしながら食べている。

 

「食べ過ぎないでよ? お正月の前に無くなっちゃうよ?」

(いくら餅好きでも、そんなに食えるかよ。)

 

「あ、瑞稀はまだ食べられないよ-。」

 

と言って、餅から引きはがす曙がいた。

 

昼食を食べ終え、いつもの仕事に戻っていく。

後片付けの人員を残して。

 

翌日、各部屋に鏡餅が飾られた。

基地入口と食堂入口には小さいながらも門松と注連縄が飾られている。

31日も静かに、いつも通りに過ぎていく。

この日は夜食に年越しそばが出た。

明けて元旦。

朝食の前に、立華から一言があった。

 

「新年明けまして、おめでとう。 不確定要素が多い年末からの案件があるが、今年も元気で、誰も欠ける事の無い1年にしよう! みんなには悪いが、豪勢な料理は用意してない。ちょっと小さいながらサプライズを、間宮に用意してもらっているので、楽しんでね。」

 

お節料理はあるが、豪華とは程遠い。

派手さは必要ない、との立華の指示によるものだが、味は間宮の折り紙つき。

 

「さあ、お雑煮ですよ-。今日は白みそベースです。」

 

「ん?今日は?って???」

 

疑問に思う扶桑。

 

「はい、明日はお澄まし、その次はアゴ出汁にしようかと。」

 

「へぇ--、いろんな味が楽しめるって寸法ね。」

 

と曙。

 

「はい、提督に言われて、全国のご当地お雑煮にしてみようってことになって。」

 

「「「そうなんだ。」」」

 

おやつは、焼き餅だそうだ。


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