藍い苺の咲く頃   作:鶉野千歳

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藍い苺の咲く頃

次の日、急きょ、ブルーベリー摘み実施となった。

瑞稀の着任を兼ねたパーティーと同時開催することに、相成った。

 

 

この日の朝の事だった。

執務室に、曙と大淀、瑞稀が呼ばれた。

 

「薄々、知っていると思うが、実は、上からこういうものが送られて来てたんだ。」

 

立華が引き出しを開け、そこから小さな小箱を取り出し、机の上に置いた。

おもむろに蓋を開けた・・・・。

そこには銀色の、光り輝く指輪が入っていた。

 

「それって、ケッコン指輪・・・・」

 

大淀が呟いた。

 

「そう。ケッコンカッコカリの指輪だ。俺としては2回目なんだけどね。」

 

鳳翔との指輪は、瑞稀のペンダントに加えられており、今、立華の左手には指輪はない。

 

「お父さんの指輪は、ココにあるもんね。」

 

と胸のペンダントを見つめる瑞稀。

 

「装備品としての意味は、知っての通り、練度上限を超える機能を有することだが、君たち艦娘にとっては別の意味合いを持つ代物だ。俺もそう思っているけどね。 ここで、この話をする意味は、分かると思うが・・・・。」

 

「曙ちゃんに渡すんですよね? 提督。」

 

と大淀が念を押す。

 

「ああ。」

 

立華が、肯定する。

曙が、ボッと顔を赤くする。

 

「瑞稀と大淀さんには、見届け人になってもらいたい。いいかな?」

 

「はい。そういう事なら喜んで。」

 

「うん!」

 

では、と小箱を持って曙の前に進んだ。

 

「曙。 練度上限に達した君は条件をクリアしている、と言うのは、完全な建前だ。 俺の本心は・・・、俺の愛情と思いをこの指輪に込めて、君に受け取ってほしい。そして、俺の傍にいつまでもいて欲しい。」

 

いつになく、真剣な眼差しが曙を見詰める。

 

「もう、いつになったら言ってくれるのかと、思ってたわよ、クソ提督。 いいわ、貰ってあげる。だ、だから・・・・・つけてくれる?」

 

相変わらずツンデレではあるが、目に涙を浮かべ、顔を赤らめ、すっと、左手を差し出す。

 

「ああ。」

 

小箱から指輪を取り出して、曙の手を取り、指輪を填めていく。

スッと、納まった指輪を、見つめる曙。

 

「これが、ケッコンカッコカリの指輪なのね・・・・。 嬉しい・・・・。ありがとう。 あたしもアンタの傍にいるわ。いつまでも。 じゃ、あたしも、つけてあげる。」

 

そう言って、曙も立華の指に指輪を填めた。

二人が手を重ねて、互いを見つめ合う。

 

「曙・・・好きだよ。だい好きだ。」

 

「は、恥ずかしい事言わないでよ。」

 

曙の顔が耳まで赤くなる。

 

「あ、そうだ。 この指輪、返せって言われても返さないわよ。」

 

「ああ。返してもらうつもりは無い。 ずっと、曙に持っていてもらいたいな。」

 

もぅ、と声が聞こえそうなほど、互いを見つめて動かない。

 

「これで、夫婦だな。」

 

と立華が言う。

 

「おめでとう! 曙ちゃん。」

 

手を叩いて祝ってくれている大淀も目に涙を浮かべている。

 

「おめでとう!」

 

瑞稀が立華と曙に抱き着いた。

 

「ぼのママ! これでホントのあたしのママだね!」

 

瑞稀も祝ってくれている。

 

「ええ、そうね。アンタのママね。」

 

立華、曙、瑞稀の3人は抱き合って涙を流している。

それを見ている大淀の目にも涙が溢れている。

しばらく抱き合っていた3人であったが、涙を拭き・・・

 

「そろそろ行こうか。」と声を掛ける。

 

『ええ。』

 

そう、皆でブルーベリーを摘みに行くのだ。

 

 

基地から少し離れた畑。

枝には、藍く濃い色の、小さな、丸みを帯びた実がたくさん実っていた。

皆、籠いっぱいに摘んでいく。

中には摘んだ先から、そのままを口に放り込む奴もいる。

う~ん、甘酸っぱい! なんて言いながら。

瑞稀も一緒になって摘んでいく。

力加減を間違えて、実を潰してしまっている。

掌が真っ蒼になっているのが見える。

皆笑顔だ。笑いあって、いかにも楽しそうだ。

そんな姿を見ながら立華はいう。

 

「皆のこの笑顔を見れるのがいいよなあ。」

 

「ええ。平和よね。これって。」

 

「あれ? 前は暇すぎるって言ってなかったか?」

 

「ヘ、ヘンな事覚えてんじゃないわよ。あ、あれは言葉のアヤよ!」

 

二人は寄り添って皆を見ている。

二人の左手薬指に、同じように光る指輪があった。

この藍い苺が実るこの地で、手を繋ぎながら思う。

平穏を手に入れるために、戦い続けなければならないけれど、誰一人失うことなく、来年もこの光景が見られるように、と。

 

「おと-さ-ん!! ママ-!! 早く-! 無くなっちゃうよ!!!」

 

曙が長い髪を風に揺らしながら、立華に向かい、手を差し伸べる。

立華がその小さな手を取る。

 

「ええ、今いくわ!! さあ、行くわよ、クソ提督!」

 

「ああ。」

 

二人は繋いだ手を離すことはないだろう。

そして、その呼び名だけは変わらない。

この後、二人は皆に散々な質問攻めにさらされるのであろう。

心の安寧を得たこの二人は、皆の元へ、笑顔の輪の中に入っていく。

更なる笑顔と歓喜の声が広がる。

 

ここ下北半島の空は青く、山はまだ緑だった。

 

(完)




いかがでしたでしょうか。
初投稿でしたが、一気に書き上げてみました。
これで立華と曙のお話は終わりです。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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