藍い苺の咲く頃   作:鶉野千歳

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提督、寝込む

3月の半ばになったある朝。

立華は、気分の悪さによって眼が覚めた。

 

「ん・・?? う・・・???」

(頭が重い、喉が痛い・・気がする・・・もしかして・・・・・)

 

人生経験から、風邪っぽい症状らしいと推測する。

時間は0545。

ちょっと早い・・・。早いが、隣で瑞稀が寝ている。瑞稀にうつすことはことはマズイ。

皆に何を言われるかたまったものではない。

館内電話で曙を呼んだ。

 

「曙、ちょっと来てくれないか?至急だ。」と。

 

0600。

曙が寝室に入ってきた。

途中、廊下で大淀と翔鶴にあったらしく、3人で来た。

 

「すまん、寝起きから頭が重く、喉が痛いし、寒気がする。風邪だと思うが、念のためしばらく休ませてもらう。そこで瑞稀の面倒を頼みたい。お願いできるかな?」

 

「構いませんが、うつらない事を前提に考えれば、翔鶴さんにお願いしましょう。私や曙ちゃんは提督と話す機会が多いでしょうから。」

 

「ったく、何やってるのよ。気が緩んでんじゃないの?」

 

「・・・全くもって、反論できません・・・。」

(ちょっとは労ってくれよなぁ。)

 

「私でよろしければ、瑞稀ちゃんの面倒を見ていますよ。 私はまだ艦体が入渠中ですし。」

(ふふふ。これは、チャンスですねぇ・・・。)

 

「ああ、ならよろしく頼む。ゴホッ」

 

「では、そうしますね。」

 

といって、翔鶴が瑞稀を抱きかかえて寝室を出ていく。

 

「では今日の予定を確認しますね。」

 

と大淀と曙が今日すべきことを聞きだしていく。

聞き終わると、

 

「それじゃあ、薬を貰ってくるわよ。」

 

と曙が出て行った。

 

「済まない、大淀さん・・・。 しばらく、頼むよ・・。」

 

「提督はゆっくりお休みください。今日1日、何とかなりますよ。」

 

と連絡のために寝室を出て行った。

 

一人になった寝室で、咳き込みながら、ボーっと天井を見る。

(休みなく働いてきたツケが来たかねぇ・・・)

大湊着任後、事務作業に加え、旗艦に乗って出撃する事数十回。冬の日本海、太平洋へと出ていくが、最初は緊張感からあまり気にもしなかったんだろうが、それも半年近くになると、どこかで”慣れ”が生じ、気が緩んだ隙を突かれたのだろう。

出撃や遠征は、提督が乗艦しなくても実施が可能なだけに、病弱の提督を載せなくても問題は無い。だからと言って、全く乗艦しないわけにもいかないので、早めに治癒する必要はあるのだが。

 

しばらくすると、曙が朝食よ、といって朝食をお盆に載せて持ってきた。 薬と体温計付きで・・・・。

上半身を起こして、食べようとするが・・・・頭がクラクラして食べる気になれなかった。

パン一切れとリンゴ半分を何とか食べ、薬を飲んで寝込んでしまった。

 

「ちゃんと食べないとだめじゃない!」

 

と言ってはくれるが、どうも動く気になれないのだ・・・。

 

やっとの思いで体温を測ると、39.5度・・・・。しっかりと風邪症状だった。

 

「すまない、少し寝させてくれ。」

 

「もう!!」

 

って怒ってるなあ、と思う傍から意識が薄れて行った。

 

 

その頃食堂では・・・・

翔鶴が瑞稀にミルクをあげていた。

 

「瑞稀ちゃあん、ミルクですよ--。 今日はパパさんは調子が悪いんだって。」

 

「あれ、翔鶴姉。今日は翔鶴姉が面倒見てるの? 曙ちゃんは?」

 

「曙ちゃんは執務室で秘書艦業務中よ。」

 

「ふ---ん・・大淀さんも?」

 

「大淀さんも副官だからねぇ。」

 

「ショーカク、ズイカク・・・」

 

と喋る瑞稀を見ながら二人であやしていた。

 

「グッド・モーニン!! おや! 瑞稀ですネェ!! あれ? なんで翔鶴が面倒見てるでース? 曙ママさんは、お休みですカ?」

 

既に”曙ママ”と皆の間では認知されてしまっていた。

 

「提督が体調不良でお休みで、秘書艦と副官が代行業務中なので、私が面倒見てます。 瑞稀ぃ、ほら、金剛姉さんですよ!!」

 

「提督が体調不良? それはいけませんですネ-! 後で様子を見に行くでース!! グッド。モーニングでース、瑞稀!!」

 

瑞稀は、翔鶴の胸に抱き着いたまま、首だけを廻して見ている。

 

「Oh! よっぽど翔鶴のオッパイが好きなんですネ!」

 

翔鶴の顔が赤くなる。

 

「金剛さん!!!」

 

翔鶴の声が食堂に響く。

 

 

1300になって、曙が厨房に居た。

残りの秘書艦業務を大淀に代わってもらっていた。

曙が立華の為にお粥を作っていた。

 

「曙ちゃん、料理出来るから安心して見ていられるわぁ。」

 

と間宮が言うと、

 

「これくらい簡単よ。」

 

と答える。

が、そこへチャチャが入る。

 

「ぼのたんが料理することろ、久しぶりに見るぅ。」

 

「漣、黙りなさい。」

 

「やぁ、愛しき提督の為に料理をふるう、ぼのたん、カッコいいわよぉ。」

 

「煩い!朧!」

 

「ぼのたん、優しいですね。でも、顔がニヤケテルよ。」

 

「あ、あんたたち、うっさいのよ! 潮、あんたも黙ってなさい!」

 

顔が赤くなりながらも手を休めない。

 

「瑞稀ちゃん、見て見て。曙ママがパパの為にご飯作ってるわよ~。」

 

「翔鶴さんまで茶化さないで! もう! 恥ずかしいったらありゃしないわ!」

 

といじられながら料理を完成させていく。

出来上がったお粥をお盆に載せて持って出て行った。

 

 

コンコンと寝室のドアを叩く音がする。

返事は無い。

 

「入るわよ。 クソ提督、起きてる?」

 

と曙が入ってくるが、それでも返事はない。

布団が盛り上がっているから、寝てはいるんだろうが・・・・。

ベットサイドまで来て、お盆を置いて、顔を覗き込む。

立華の顔はまだ赤いようだったが、薬が効いて朝よりかはマシになっていた。

 

「起きてる? 」

 

「ん・・・ う・・・・」

 

と目を開けると、目の前に曙の顔があった。

 

「曙か・・どうした?」

 

「お昼ご飯、持ってきたわよ。 食べれる?」

 

「・・・・・・まだ、食べる気にはなれない、から、そこに置いておいてくれるかい?」

 

再び目を瞑って眠ってしまった。

 

「あ、もう、せっかく作ってきたのに!」

 

その時、無意識かどうかは分からないが、立華の手が曙の手に触れた。

曙がすっと握ると、そっと握り返してきた。

(もう、しょうがないわね。)

と呟きながらベットサイドの椅子に座って立華を見ていた。

(こんな時くらいね、寝顔をじっくり見れるなんて・・・・。)

1500過ぎになって、寝室のドアを叩く音が。

 

「ていと-ク、入るでース!」

 

金剛だった。

 

「Hi、曙。 提督の具合はどうですカ?」

 

「朝よりはマシね。だいぶ良くなってるとは思うけど。まだ寝てるわよ?」

 

「それはなによりでスねぇ。 曙、何か必要な物はありますカ? あるんだったら持ってきますヨ?」

 

「ありがと。 今は大丈夫よ。」

 

「それなら、OKネ。 じゃ、後はよろしくで-ス。 お大事に、ぼの妻チャン。」

 

はうっ、っと顔が赤くなる曙をよそに金剛が戻っていった。

 

「まったく、金剛のヤツはぁ、一言多いんだよ。」

 

といって立華が目を覚ました。

 

「起きてたの、クソ提督?」

 

「今ね。」

 

まだ二人は手を握り合っていた。

曙が手を放そうとするが、立華が離さなかった。

 

「・・・・もう少しこのままで・・・・・。」

 

小さいてだなぁ、と思うのである。

 

「どう? 何か欲しいものはあるの?」

 

「ん-、腹減った・・・・。」

 

「ちょっと待ってて。お粥を温めてくるから。」

 

とベットから離れて行った。

その間、立華は寝間着を着替えていた。 寝汗を書いていたらしく、気持ち悪かったのだ。

着替えが終わって改めてベットに入ったとき、曙がお粥を温めなおして来た。

 

「はい、温めなおしてきたわよ。」

 

「ありがと。」

 

上半身を起こしてお粥を食べ始めた。

 

「あつっ! ハフ、ん、美味しい・・・。 ちょうどいい塩加減だ・・・。 曙が作ってくれたのかい?」

 

「え、そうよ。 口に合ってよかったわ。」

 

顔を赤く染めながジッと眺めていた。

お腹が空いていた立華は、お粥を平らげてしまった。

 

「ぷうう。 ごちそうさまでした。 美味しかった。 ありがとう、曙。」

 

「どういたしまして。」

 

にっこりとほほ笑み返してくれた。

(やっぱ可愛いい・・・・。)

 

「さ、薬を飲んで、もう一眠りして頂戴。」

 

「お、おう。 あ、そうだ。 曙、悪いんだが、今晩瑞稀を預かってくれるかい?」

 

「ん? いいわよ。」

 

「悪いな。 よろしく。」

 

そういって立華は寝入ってしまった。

(また明日ね。 クソ提督。)

この夜は、曙が瑞稀を預かることになった。

 

食堂で翔鶴から瑞稀を受け取り、お風呂に入って、自室に戻っていった。

第731駆逐隊部屋には、曙の他に、朧、潮、漣の3人が居る。

 

「ボーノマーマ・・・」きゃっきゃ言ってる瑞稀を見つけた朧が、

 

「あれぇ、ぼのたん、今日は瑞稀ちゃんと一緒なの?」

 

「うん。クソ提督が寝込んでいるから、預かってきたのよ。 ちょうどいいから、あんたたちにも手伝わせてあげるわ。感謝しなさい。」

 

「それは違うでしょ? ぼのたんが預かってきたんでしょ? 愛しの提督から。」

 

と茶化す漣。

 

「相変わらず、素直じゃないねぇ、ぼのたんは。」

 

と呆れる潮。

 

「うっ、さいわね。 いいから手伝わせてあげるって言ってるでしょ。」

 

「「「はいはい・・」」」

(((拗ねると面倒なんだから・・・・)))とは皆の共通認識であった。

 

「ミルクは飲んだし、後は寝かしつけるだけね。」

 

「赤ちゃんかぁ、かわいいね。 手、ちっちゃ。 すっかり懐いてるわね。」

 

「懐いてくれるのはいいんだけどね。」

 

「ん? 何かあるの?」

 

曙の顔が耳まで赤くなる。

 

「大したことじゃないんだけど・・・・お腹が空いてくると・・・・あ、あたしのオッパイを吸ってくるのよ。」

 

ぶっ!

はい??

 

「この間なんて、一緒にお風呂に入っていると、あたしのオッパイに吸い付いたんだもん。びっくりしたわよ。 背中ゾクゾクして、さ。」

 

「あははははっ、ホントにママと思ってんじゃないの? 瑞稀ちゃん。」

 

「母乳なんて出ないのにね。」

 

「もう1歳になるんでしょ? そしたら離乳食だね。いいんじゃない? ママ気分が味わえてさ。」

 

「ひ、他人事だと思ってええええ!」

(マジ、顔が赤いわよ。ぼのたん。)

 

さあ、もう遅いわ。寝るわよ、との声が掛かり、寝間着に着替え、各々のベットに入っていく。

曙は瑞稀を胸に抱きながら。

(お休み。 瑞稀。)

 

翌朝は冷たい風が吹いていたが、雲一つない快晴だった。

立華は0530に目が覚めた。

(う--ん、調子は良いみたいだ。 体も頭も重くないゾ。)

すっきりするため、朝風呂に出掛けて行った。

朝風呂から帰ってくると、曙が瑞稀を抱いて部屋に居た。

 

「「おはよう。」」

 

「ア---ウ--」

 

二人同時に言いあう。

 

「体調は大丈夫なの、クソ提督?」

 

「ああ。すっきりしてる。昨日は迷惑かけたね。 おはよう、瑞稀。今日もゴキゲンだね。」

 

また新しい一日の始まりである。


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