藍い苺の咲く頃   作:鶉野千歳

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提督の過去2

2月の終り近くになって、照月、秋雲、巻雲の修理が終わった。

案外、早く終わったのだ。

完了してすぐに、他の駆逐隊と艦隊運動の練習に入った。

陸奥湾は、艦隊運動するのは十分の広さを持ち、波が穏やかなので、結構激しい運動も安全に行える環境にある。

3人には久しぶりの出航であったが、そこは高練度の3人である。

久しぶりだというのに、動きは衰えていないようだ。

むしろ、鬱憤を晴らすかのように、走り回っているように見える。

 

「艦隊、面舵20、第3戦速!」

 

「次! 減速、第2戦速へ。 取り舵10で180度回頭!」

 

「みんな、速度合わせて!! 巻雲!遅れてるわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

「お~~、寒!!」

 

まだまだ積雪の残る基地の外から立華が執務室に帰ってきた。

最近、積雪があるにもかかわらず、立華は出かけることが多くなった。

 

「どうだったの? クソ提督??」

 

曙がお茶を煎れ、立華に差し出す。

 

「ああ、新飛行場の建設は冬にやるんもんじゃあないな。除雪が大変だよ。」

 

「原因を作ったのは、クソ提督なんだから、自業自得ってヤツね。」

(相変わらず、手厳しいなぁ・・・・)

 

「反論は出来んなぁ・・・。ま、翔鶴、瑞鶴、龍鳳の3空母を望んだのは俺だけどさ。その分の航空隊の陸上施設基地が必要だからな。」

 

立華が望んだ3空母の配属が大湊鎮守府になったことで、在地の空母航空隊と新たに配属される航空隊をあわせるとおよそ600機分の駐機場が必要となったのである。

当然、大湊鎮守府にも飛行場はあったのだが、ここまで機数が増えることは想定していなかったので、急遽造成しているのだ。

ただ、大湊鎮守府近辺では平坦な土地が確保できなかったため、やや離れたところに造成されていた。

その規模は、通常四発レシプロ機なら800mもあればいいのだが、敢えて1500mと2500mの滑走路2本と横風用1500mと2500mの滑走路2本、

追加の哨戒用機体、基地防衛用機体を含め、400機分の駐機場、掩体豪、整備場など、である。

この時代、連絡用などで使用する、高速度輸送機などはジェットエンジンを搭載している。こいつらは、通常離着陸に2000mを必要とするのである。

 

既に工事開始から2ヶ月近くなっており、積雪の中、急ピッチで行われている。

滑走路完了と同時に3空母分の航空隊が配備される事になっている。

 

「あれ? 瑞稀はどうした? 大淀かい?」

 

「違うわよ。今は翔鶴と瑞鶴が面倒を見てるわ。」

 

「そうか。 あいつらは佐世保で、僅かだけど面倒を見てもらっていたから、懐かしいんじゃないかな?」

 

「そうなの?」

 

「ああ。 瑞鶴なんて自分の妹みたいにあやしてたなぁ。」

(いっつも、翔鶴姉、翔鶴姉・・って言ってた方だから、妹が欲しかったんじゃないのかな。)

 

 

夕食後の自由時間の食堂・・・。

今日は翔鶴と瑞鶴が瑞稀をあやしていた。

 

「はぁい、瑞稀ちゅわああん、瑞鶴おねぇちゃんよん。」

 

といって瑞稀に頬をスリスリしている。

 

「これ、瑞鶴。 瑞稀ちゃんが痛がってるわよ。もう、いい加減になさい。」

 

「ええ~、いいじゃん、ねぇ、瑞稀ぃ。」

 

そこへ曙が声を掛けてきた。

 

「ちょっと、いいかしら。」

 

「あら、曙ちゃん、どうしたのかしら?」

 

「あなたたちに、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」

 

「なに? あたしたちで答えられるなら、いいわよ。」

 

「ありがと。 そ、その、・・・・第2佐世保での、クソ提督のことなんだけど、鳳翔さんとどんな感じだったのかなって。」

 

「? 提督さんと鳳翔さん?」

 

「ええ・・・あの後だから、無理に聞きたいわけじゃないから、話したくなければいいのよ?」

 

「あたしらも、ずっと後を引いている訳にはいかないから・・・・・。いいわよ。 ん~~とね、あたしたちが第2佐世保に来たときには、第2佐世保が出来て半年くらいたってたのかな。 その時には、もう二人の関係って、夫婦そのものだったわよ。」

 

「夫婦そのもの?」

 

「ええ。提督さんの傍には、いつも母さん、あ、鳳翔さんね。が居たし、母さんの傍にはいつも提督さんがいたし。 時々二人で見詰め合って、微笑んでるし。 あたしたちがつけ込む隙なんて、微塵もなかったわ。 その時には、既に寝室も一緒だったし、お風呂も時々一緒に入ってたんだっけ・・。ねぇ、翔鶴姉?」

 

「そうね。ホントにつけ込む隙は無かったわ。 こっちが目を覆いたくなるほどの、ラブラブってやつね。」

 

「二人がケッコンしたのはそのあとね。あの時の母さんの顔ったら、もう、見てられなかったわ。ニヘヘヘヘヘヘって感じで。 指輪をしてる左手をじっと見て、クネクネしてるのよね。」

 

「でも、怒るときはケッコンを境に、より怖くなったわね。瑞鶴も散々怒られたでしょ?」

 

「うっ・・、そこはあんまし触れて欲しいくないんだけど・・翔鶴姉・・・・。」

 

「そう? あなたの為を思ってお説教してくださったのよ? わかってる?」

 

「分かってるよ・・・。もう、あんな失敗しないから!  と、とにかく! 提督さんより母さんのほうが怖かったわよ。 提督さん、優しいし。」

 

「あら、そう? 優しいのではなくて、瑞鶴が甘えてたんでしょ? よく提督に膝枕してもらってたの、どちらさんでしたかしら?」

 

「わああああああああああああ。 ストップ! なんで翔鶴姉が知ってんのよ?」

(クソ提督に、膝枕してもらったあ? 今度してもらおうかしら・・・・。)

 

「母さんが言ってたわよ。あの人に甘えてくるのよ、瑞鶴ったらって。」

 

「ぐぅぅぅぅ、母さんがいたら文句言ってやるのにぃ。 と、とにかく、翔鶴姉はそれ以上、いわにゃいで!!」

(咬んだ・・・・。)

 

顔を赤めて瑞鶴が叫ぶ。

そして翔鶴が呆れ顔で返事をしていた。

 

「はいはい。」

 

「ま、まあ、そのうち母さんのお腹に赤ちゃんが居るって分かったときは、母さん、嬉しそうだったわ。 提督さんと母さんと、二人して指を絡めて見詰め合って泣いてたもんね。 今から思えば、2人で一人、みたいな関係だった、と言えるわね。 あの日までは・・・。」

 

「そうね。提督が居なくても母さんがいて、母さんが居なければ提督がいて、鎮守府を廻してたもの。 瑞稀ちゃんが生まれても、あの二人の関係は変わらなかったわ、というか、より大きく、強くなった、っていう方がいいかしらね。」

 

「だから・・・・母さんが沈んだって聞いたときの提督さんの落ち込みようは尋常じゃなかったもんね。 だって、提督さん自身が指揮してた艦隊だったし・・・・結局は、母さんが盾になって一人攻撃を受けたんだから・・・・。

 帰ってきた提督さんは、入渠や補給を指示した後、執務室に籠っちゃったの。

 誰も入室させないでって言って。

 部屋からは提督さんの泣き声?うめき声?がずっとしてたもの。

 誰も声を掛けれなかったわ。

 結局、次の日ね。部屋から出てきたの。

 提督さんの眼は真っ赤だった・・・・。

 誰の眼にも明らかに泣き腫らしてたわ。」

 

「当然、私たち空母も他の艦娘たちも泣いたわ。私たちを慈しみ、育て、指導し、導いてきた母さんが沈んだんですもの・・・・。 でも、提督の悲しみはそんなもんじゃなかったのね、きっと。」

 

「それからは、出撃も遠征もしなかったし・・・・。

 提督さん、母さんのお墓は作らなかったわね。その代り写真があったかしら。

 そのうちに、軍令部に異動願を出したのよね。

 あたしたちもショックだったわ。置いて行かれる気分だったし・・・・。

 でも、ちゃんと最後の挨拶の時には、全部話してくれたわ。

 あたしたち以上に、母さんの存在が大きかった提督さんは・・・・・もっとショックだったのよね・・・・。

 あたしたちは、何も言えなかったわ・・・・。」

 

「その後、クソ提督は軍令部へ行ったんでしょ?」

 

「そう聞いているわ。 そこで何があったかは、知らないけど・・・・・。 でも、今の提督さんを見たら、軍令部へ行って良かったんじゃないのかな、って思うわ。 全然、昔に近い感じがするわよ。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ そう・・・・。 ありがと。」

 

「こんなんでいいのかしら。    曙ちゃん、提督の事、好きなんでしょ?」

 

「ふぇ??? な、な、なんで、そうなるのよ!」

 

慌てふためく曙だが、既にボロが出ている。

 

「だって、興味が無ければ、母さんのこと聞きに来ないわよ、ねぇ、瑞鶴?」

 

「そうよねぇ。 あれ、提督さんのこと、好きじゃないの? 好きじゃないんだったら、翔鶴姉が持って行っちゃうわよ?」

 

「これ! 瑞鶴!!」 

 

翔鶴の頬が赤くなる。

 

「曙ちゃん、提督さんのこと、好きならアタックあるのみね。頑張ってね。 はい、瑞稀ちゃん、もう寝ちゃったわよ。あとはよろしくね。曙ママ?」

 

と茶化す瑞鶴。

 

「な、な、なんで、知ってんのよ?」

 

「あら、みんな言ってたわよ? 違うのかしら?」

 

「う・・・・ ち、違わない、かな・・・。」

 

「じゃ、よろしくお願いね。」

 

そう言って、鶴姉妹は部屋へ帰って行った。

はあああ、とため息をついた曙も瑞稀を寝かしつけに食堂を出て行った。

(あたしも、膝枕してもらおうっと。)

 


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