城下町の低身長   作:かるな

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皆様お久しぶりです!

長らく更新していないのに、まだ読んでくださってる読者さんがいることに感謝です!

ps:実は一周年がとっくに過ぎてました......。


お食事

 買い物を終えた俺たちは、光の提案で一緒に夕飯を食べることになった桜ちゃんと共に帰宅した。

 

 買った材料を料理当番の葵姉さんに渡し、俺と光と桜ちゃんはリビングで談笑していた所に二階から降りてきた輝や栞、修兄(この三人は初めて会ったため)に桜ちゃんを紹介した。

 

俺が初めて女の子を家に連れてきたということもあってか、桜ちゃんは皆から質問攻めを受けていた。

 

 

 

「桜さんは、優兄様とはどういったご関係で?!」

 

 

「輝君のお兄さんとは、バイト先で知り合ったんだよ。お兄さん凄く頑張って働いてるの。だから輝君も、負けないように頑張ってね!」

 

 

「優お兄様、お顔真っ赤......」

 

 

「そ、そんな事ないぞ栞!ほら桜ちゃん、余計な事言わなくていいから!」

 

 

 

恥ずかしい事を弟に吹き込んでいる桜ちゃんを少し窘めると、「はーい」と、軽くニヤついた当人に返事をされる。

 

そのやり取りを見ていた他の兄妹達(茜を除いて)は暖かい目でそれを見ており、あまり面白くないと感じたのか、茜は少し不機嫌そうな顔をしてリビングを出て行った。

 

それを見かねた俺は、桜ちゃんに一声かけてから茜を追った。

 

 

 

「ったく、茜は変わんねぇな......ま、追い掛けてる俺もなんだろうけど」

 

 

 

俺は何の迷いもなく玄関に向かった。こういう時、茜は決まって一人でぶらぶらと何処かへ行ってしまう。

 

茜の事は分かっているつもりだ。俺が家族以外の女の子、しかも年齢が近い子と親しげに話していると、茜は嫉妬してしまう。

 

だが、茜は昔からこうであった訳では無い。

 

原因は、俺がバイトを始めた事による、茜と接する時間が極端に減った事だ。

 

バイトのシフトを多く入れるようになってからは更に茜との時間は減り、基本平日に2人きりで話す事はかなり少なくなってしまった。

 

そんな中、茜と衝突が起こった。

当時はバイトと勉学で手一杯だったため、自分以外の事に気を配る余裕が無かったせいなのかもしれない。

 

俺は自分の身内がバイト先に来る、という事を嫌がっていた。

 

勿論やりにくいし、恥ずかしいからだ。

 

更に日々の忙しさにストレスが溜まっていた。そんな時、茜が客として店にやって来たのだ。

 

その時に溜まっていたストレスが爆発してしまい、茜に酷い事を言ってしまった。

 

 

 

「はぁ......。思い出したくねぇ~」

 

 

 

口ではそんな事を言いつつ、当時の状況を自分への戒めとして思い出している。

 

 

 

「お、茜ー!」

 

 

 

少し歩いていると、赤いツインテールの女の子を見つけた。

 

服装からしても間違い無く茜である。俺は後ろからサッと近付くと、茜の肩をポンポンと叩いた。

 

 

 

「何?」

 

 

 

茜が振り向こうとした所に、少しイタズラ心で、丁度頰っぺに指が当たる位置に手を構えていたのだが......。

 

 

 

「ゴフッ!!」

 

 

 

俺が構えていた指は茜の頬に当たることは無く、代わりに拳が腹へと飛んできた。

 

 

 

「お、お前......」

 

 

 

振り向きざまに上半身を屈めて指を回避し、拳を俺の腹へと放った茜は、痛みに悶えて膝を地に付いた俺を見下ろしていた。

 

 

 

「優の考えてる事ぐらい分かるから。どうせ、私の頰っぺに指当てようとしてたんでしょ?」

 

 

 

茜の言葉にぐうの音も出ない俺は痛む腹を擦りながら立ち上がり、そのまま家とは逆の方向に歩き出した。

 

 

 

「ちょ、ちょっと優!?私を追い掛けてきたんじゃないの?」

 

 

「まぁそうだけどよ、お前が結構距離歩いてたからな。このまま帰るより、どっか寄ってこうぜ」

 

 

「で、でも夕飯は?」

 

 

「葵姉さんにはさっき伝えといたから大丈夫だ」

 

 

 

茜の返答を待たずに、そのまま早足で目的地へと向かう。

 

後ろから「待ってよ~!」と声が聞こえるが、気にせずに歩き続けた。

 

そして目的の物を見つけると立ち止まり、それをじっと見つめた。

 

 

 

「はぁ、はぁ。優!少しは待ってくれても......」

 

 

 

割と大きめの声で文句を言ってくる茜の唇に、俺は人差し指を軽く当てた。

 

 

 

「夜なんだから、大きな声出すな」

 

 

「う、うん......///」

 

 

 

茜は顔を赤らめながら軽く俯いた。俺と茜の身長はあまり変わらないため、その表情はしっかりと見えた。

 

双子の兄とはいえ流石にキザ過ぎるかとやった後に後悔したが、ここで謝ってしまうとカッコ悪いので、早速本題に入る事にした。

 

 

 

「茜は、本当に王様になりたいと思うか?」

 

 

「いきなりどうしたの?」

 

 

「どうなんだ?」

 

 

「私は......なりたい、かな?」

 

 

 

俺の質問に弱々しく答える茜。それを横目で確認してから、また質問をした。

 

 

 

「それは何故だ?」

 

 

「えっと......国の皆が期待してくれてるのなら、私はそれに答えたい」

 

 

「そうか。なら、国民が俺達に期待してる事は何だと思う?」

 

 

「それは......」

 

 

 

今度は答えが思い浮かばないのか、茜からは次の言葉が出てこなかった。

 

 

 

「質問を変えるぞ。お前は王様になって、やりたい事はあるか?」

 

 

「やっぱり、国民の期待に......」

 

 

「それじゃあ、王様は国民の奴隷だな」

 

 

「でも王様ってそうなんじゃないの?」

 

 

 

茜の質問に、俺は淡々と言葉を返す。

 

 

 

「そりゃあ国民の声に耳を傾けるのは必要さ。でも、それを一々叶えてたら、国は滅茶苦茶になるぞ」

 

 

「良い事と悪い事の違いは分かると思うけど?」

 

 

「じゃあ、その善し悪しの基準は何だと思う?」

 

 

「王様の考え......あっ」

 

 

 

俺の質問に何かを感じた茜は、ハッと顔を上げた。

 

顔を上げた先にあるのは、櫻田家の兄妹の選挙ポスターが貼ってある掲示板。

 

そのポスターには、それぞれが掲げるスローガンが書いてあった。

 

 

 

「ま、茜のはスローガンなのか大部怪しいけどな」

 

 

「しょ、しょうがないでしょ!急すぎて全然思い浮かばなかったんだもん......」

 

 

 

茜のポスターには、「私は...負けません」と書いてあった。

 

 

 

「優はどんなのだっけ?」

 

 

「『恵まれない子供たちに救いを』、だな」

 

 

「結構ストレートだね......」

 

 

「これでも大部オブラートに包んでるんだがな」

 

 

 

俺は数カ月前に掲げた自分のスローガンを見て、震えながら拳を握った。

 

 

 

「優、寒いの?」

 

 

「いや大丈夫だ。それより茜、俺のスローガンをどう思う?」

 

 

「どうって、優らしくて良いと思うけど?」

 

 

「俺らしい......か」

 

 

 

俺は街灯で照らされた自分のポスターを一瞬睨みつけ、すぐに視線を外した。

 

そして、自分の考えを妹に伝える事にした。

 

 

 

「茜、俺は王様にはならない。なっては......いけないんだ」

 

 

 

俺がそれを言い終わると、冷たい夜風が俺たち二人の間を流れて行った。

 

 




もうそろそろ二年目に突入します!

これからも「城下町の低身長」をよろしくお願いします!

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