時は流れ文化祭当日。
全てのクラスが準備を終え、始まりのチャイムを皆が今か今かと待っている。
俺たちのクラスはメイド&執事喫茶、だれもメイド喫茶などに行ったことは無いが、櫻田家に従えている曽和さん達の仕草や言葉遣いなどを勉強するためにビデオで隠し撮りをしていたのだ。
勿論バレないわけが無く、計画・実行した俺と茜は静かに曽和さんに怒られたのだった。
三時間みっちりと......。
「そういえば、曽和さんって結構怖かったね」
「確かにあれは葵姉さんと同じ......いや、もしかしたらそれ以上! あの時の冷え切った目とか特にやばい......」
いつも通り茜の人見知りのせいで遅刻しそうだったが、何とか間に合った。
開始時間までにはしっかりと服に着替えないといけないので、足早に教室へと向かう。
「あらアンタ達、やっと来たのね」
「あれ、かなねえじゃん。生徒会はどうしたの?」
教室のすぐそばにある曲がり角でばったりとかなねえに出くわした。
ん? 俺らの教室の方から来たよね?
「やっと来たって、俺らを待ってたの?」
「そうなのよ。正確には優、アンタを待ってたのよ」
「じゃあ俺準備があるか......ぐえっ!」
学校行事の時に俺に用があるということは、ほぼ生徒会関係である。
生徒会長である三年の卯月先輩には、アルバイトの件で頭が上がらないため出来る限りの事は手伝いたいのだが、今は流石に時間が無い。
というのにこのバカ姉は......。
「お姉ちゃんが話をしようとしてるのにどこに行く気かしら?」
「店の準備をしたいんだけど」
「心配すること無いわよ。話自体はすぐ終わるし、なにも今すぐにやってもらいたいわけじゃないしね」
「そうなの? なら茜、悪いけど先に行っててくれ」
「うん、分かった」
茜はそう言って小走りに教室へと向かう。
教室に茜が入ったのを見届けてから、かなねえの方に向き直る。
「それで、俺に何を頼むつもり?」
「急で悪いんだけどね、来年の学校のHPに学園祭の様子を乗せたいから、衣装を着て写真に写ってもらいた......」
「それじゃあ!かなねえごめんね、もう時間だから!!」
「え!? ちょっと優!?」
かなねえから写真を頼まれた瞬間、これに応じてはいけないと頭が判断し、体が勝手に動いたのだ。
ま、体が勝手に動いたんだから、許してくれるよね!
ほんとにごめんお姉ちゃん!
衣装を着たままは駄目なんだ!
後でちゃんと謝りに行こう......。
「はい、優。脱いで」
「い、いきなり何言い出すんだよ花蓮/// こんな人前で......俺でも流石に恥ずかしいぞ///」
「誰か金属バット持って来て」
「俺が悪かった! だからそんな物騒なこと言わないでくれ!!」
俺は今、メイド服の着付けを花蓮にやってもらっている。
当初は茜がやる予定だったが、全てのクラス委員長が生徒会に招集されてしまったのだ。
「なんで俺がメイド服を......」
「優が自分で言ったことでしょ? 無理やり言わせたのはあたしたちだけどさ……。ま、その分不便なことは手伝ってあげるから」
「はいはい......」
「お帰りなさいませご主人様」
「まあかわいいわねこの子!」
「ありがとうございます。お褒めに預かり光栄です」ニコッ
死にたい......。
接客は散々バイトでやってきたので慣れてはいるが、口調やら仕草はまだかなり違和感がある。
しかも女装......過去に一回したような、しなかったような......。
「櫻田君、厨房お願い!」
「は~い、今行きます」
ホールと厨房を兼任しているので、行き来が激しい。
慣れていると言えば慣れているが、服がメイド服なので動きにくい。
「はぁ~、疲れた......」
「お疲れさま、優」
「おう茜か、やっと休憩だよ......」
簡易的な休憩スペースの中にある机に伏せてぐったりとしている俺に、茜からねぎらいの言葉がかけられる。
茜も看板娘?としてホールを担当している。
人見知りの茜としては、慣れないことに疲れているだろう。
「お前もお疲れ様な」
そう言いながら頭を撫でてやると、顔を赤くしてうつむいてしまった。
「い、いつまで撫でてるの?」
「悪い悪い、ついな」
茜の恥ずかしがる仕草が、疲れている俺にとっては癒しと感じられたのか、結構な時間撫でていた。
さて、休憩時間もそんなにあるわけじゃないし、ちょっと他の所も回ってみるかな。
「茜、一緒に見て回るぞ」
「うん!」
いつも一緒にいる花蓮たちはまだ作業中なので、茜と二人きりである。
最近茜と一緒に行動することが無かったからな。
今日は一杯構ってやろう。
兄とし...姉として。
「ほら茜、早く行くわよ?」
「お姉ちゃん......///」
裏声で何とか清楚な女子の声を出しつつ穏やかな笑みで語り掛けるように話すと、茜の中でときめいたのか、うっとりとした目をしていた。
「そこの君、このクレープを二つ頂戴!」
「は、はい/// 400円になります!」
となりのクラスで販売していたクレープを買ったのだが、たまたま店番をしていたのが一年生の間でもめずらしい彼女持ちなのだ。
これを見逃す俺ではない。
茜の時とは違う活発な女子を演じ、しかもお釣りをもらうときにはしっかりと手に触れておく。
去り際にウィンクをするのも忘れずに行う。
別の場所に向かい始めた時に彼女らしき人物が尋問を始めていたが、気にしないことにした。
「茜、おいしい?」
「うん! でもいいの? 奢ってもらっちゃって......」
こいつ...!
いつもは奢らないとグチグチ言うくせに!
「ほら茜、ほっぺにクリームが付いてるわよ」
「え? あっ///」
茜のほっぺに付いたクリームを指で取ってぺろりと舐める。
他から見たら仲のいい姉妹にしか見えないだろうが、姉の方の中身は男で、しかもメイド服を着ている。
やばいやつじゃん......。
ピロリロリン! ピロリロリン!
「あら、電話だわ。茜、ちょっと待っててね」
「うん」
廊下の隅まで来た俺は、スマホを取り出して電話に出る。
『もしもし、どなたかしら?』 ※裏声
『え、先輩?』 ※桜ちゃん
あ、やっべ......。
ここのところ熱いせいか、中々寝付けません......。
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