そういえばfgoフェスに行ってきました!
初めてああいう場所に行ったのでかなり疲れましたが、行けて良かったです!
ダンデライオン
「ふぇ~ん、終わんないよー!!」
「はぁ......」
夏休み最終日の朝、毎年恒例と言うかなんというか、光の宿題を手伝っていた。
「光、あと何が残ってんだ?」
「えっとね、算数と理科と国語のワークに、絵日記でしょ、あと......」
「じゃあな光、俺出かけてくるから」
「お願いだから見捨てないでー!!」
立ち去ろうとする俺を何とか引き留めようと、後ろから抱き着いてくる光。
こら光、最近のお前は茜より発育がいいんだからそんなことするんじゃない。 色々と柔らかいだろうが。
「ったく、しょうがないな」
「わーい! 優ちゃんありがとー!!」
なんだかんだで俺は妹に甘いのだ。
「その代わり条件がある」
「どんなの?」
「今日の午後は俺の言いなりになること」
「うっ......午前中に終わるのは嬉しいけど、身の危険を感じる」
光は両腕で自分を守るように抱きしめ、目はまるで不審者を見るかのような目だ。
「そんな変なことしねぇよ! とにかく、嫌なら俺は手伝わないからな!」
「う~、分かったよ......」
渋々と承諾する光であった 。
「やっと終わった~!」
握っていたペンを置き、両腕を上げて軽く伸びをする。
「よし、これで全部だな」
終わった問題集や絵日記などを、夏休み明けに忘れないよう光のランドセルに詰めてやる。
「さて光、そろそろ行くぞ」
「どこに行くの?」
「俺のバイト先にね。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだよ」
「いらっしゃい優君。すまないね、今日はシフトが入ってないのに」
昨日の夜、急遽店に来てくれないかと店長に頼まれたのだ。
ただいつも通りバイトをしてくれと言うわけではなく、ちょっとした手伝いで。
「いえいえ、大丈夫ですよ店長。丁度暇してたので。あと、今日は光も連れてきました」
「いつも優ちゃんがお世話になってます!」
アイドル活動を始めてからか、光の目上の人に対する話し方などがしっかりしてきた気がする。 兄としてその成長は嬉しいのだが......。
「光、頼むから店長の前で優ちゃんはやめてくれ......。
「まあまあいいじゃないか。可愛い妹さんだからね、多めに見てあげたらどうだい、優ちゃん?」
「やめてください......」
店の入り口で他愛もない会話をしてると、奥の方から足音が聞こえてくる。
「先輩! 来てくださったんですね!」
出てきたのは、エプロンを付けてボウルを抱える桜ちゃんだった。
丁度例のあれをしているところだったのだろう。
「とりあえず中に入りたまえ」
「おじゃましまーす!」
「光、あんまりはしゃぐなよ」
「分かってるってー」
今店は臨時休業なので多少は騒いでも問題無いが、流石に光に限っては何をしでかすか分からないので心配だ。
「先輩、もう少しで出来上がるのでそれまで待っててください」
「そうだね、なら出来上がるまでコーヒーを飲んでるといい。今淹れてくるよ」
「いいんですか店長?」
「もちろんそれくらいはするさ。さて、では出来るまで席で待っててもらえるかい?」
店長にそう言われた俺は、店の中を散策し始めた光を捕まえて席に座って待った。
「ねえ優ちゃん。そういえば何であたしはここにいるの?」
「おや、優ちゃんから聞いてなかったのかい? 今日は今度うちの店で出す新作のケーキを試食してもらおうと思ってね」
「ケーキ!?」
店長の優ちゃん呼びが定着しつつあるが、半ばあきらめ状態である。
「ん? てことはもともと誰かつれてくる予定だったの?」
「まぁな。でも兄妹全員連れてくるのは材料や時間的に厳しいから、たまたまいた光を連れてきたんだよ」
「あたしが宿題頑張ったご褒美だね!」
「いや、あれほとんど俺がやっただろうが」
「えへへ......」
まあ光と俺だけ食べるのも皆に申し訳ないので、余った分は持ち帰らせてもらおう。 茜と岬辺りがうるさそうだし......
「お待たせ、取りあえずコーヒーだよ」
「ありがとうございます。あ、光はコーヒー飲めたっけ?」
「何言ってるの優ちゃん。あたしだってもう子供じゃないんだから、ブラックだって平気だもんね!」
小学生風情が何言ってやがる。
しかもお前が家でコーヒー飲んでる姿なんて見たこと無いぞ。
「なら砂糖とミルクは必要ないな。じゃ、下げてくるわ」
「えっ......」
角砂糖とミルクが入ったカップを厨房に下げようとしたところを、光が何のつもりか服の裾を引っ張って止めてくる。
「どうした光?」
「わ、わざわざ下げる必要は無いと思うんだ......」
割と必死に光が止めてくるので元から察してはいたが、今ので確信してしまった。
こいつブラック飲めないな......。
よし、飲ませるか。
「大丈夫だ光、お前は出来る子だ。それに今どきのアイドルはブラックなんてしょっちゅう飲んでるぞ」
「そうなの!? よ、よしっ! ならあたしだって!!」
「光ちゃん! そんなこと無いからね!? 先輩も変なこと教えないでください!」
意を決してブラックを飲もうとしていた光を桜ちゃんが止める。
ちっ、後もう少しだったのに......。
「ケーキ出来ましたよ。試食お願いします」
俺と光の前に置かれる二種類のケーキ。 一つはシフォンケーキ、もう一つはガトーショコラである。
「それじゃあ、いただきまーす!」
「いただきます」
光がシフォンケーキ、俺がガトーショコラを一口ずつ食べる。
「このシフォンケーキ美味しい! フワフワでクリームも滑らかで......最高だよ桜ちゃん!!」
「こっちのはしっかりビターな感じで、クリームの甘さが控えめなのもいいね」
光と俺は次々と桜ちゃんの作ったケーキを賞賛した。
その度に桜ちゃんが顔を赤くして俯きながら、「ありがとうございます......」 と口にし、かなり照れていた。
「ねぇ優ちゃん、あたしにもそれ頂戴!」
光が身を乗り出して、俺のガトーショコラを求めてくる。
「ああいいぞ、ほれ」
俺は食べていたガトーショコラを一口フォークに乗せ、光に あ~ん をしてやる。
光もそれに応じ、差し出されたケーキを食べる。
「あんまり甘くない......」
「光にはまだ早かったな」
甘い物が大好きな光に、ビターな味は合わなかったのだろう。
「優ちゃん、お返し!」
今度は光がシフォンケーキを一口フォークに乗せて俺に あ~ん をしてくる。
特に断る理由も無いので、それに応えてやる。
光の言ってた通り生地がフワフワで、食べていると頬が緩んできそうだ。
ゾクッ......!
不意に隣から寒気がし、恐る恐る視線を向けると、そこには桜ちゃんがニッコリと微笑んでいた。
一瞬兄妹の仲睦まじい光景を見て自然と笑顔になったものと見えるが、これは嫉妬の微笑みだ。
さらに俺はこの笑顔の危険性を知っている。
幸い光のケーキはもう貰ったので、これ以上桜ちゃんの機嫌が悪くなるような事は起こらないはず.........。
「はい優ちゃんもう一口、あ~ん!」
「え...ちょ、光......」
何故か再び差し出されたケーキ。
戸惑う俺。
殺意が増していく桜ちゃん。
これ以上は本当に後が怖いので、光にやめさせるように言おうとしてあることに気付く。
光の顔が何かよからぬ事を考えている時のものだった。
まさか妹に弄ばれる日が来ようとは......
結局光のしつこさに負けてしまった俺は、あ~んを受け入れてしまい、さらに機嫌が悪くなった桜ちゃんの対応に追われるのだった。
気付いたらいつもより長くなってました。