開幕の岬ちゃんがかわいかったです(表紙の方じゃないよ)!
「ただいま~」
王家の次女、奏が帰宅した。
その表情はいつものに比べると幾分沈んで見えた。
「あ、かなちゃんお帰り」
妹の茜が笑顔で出迎えてくれる。
「あれ? 優は一緒じゃないの?」
「え? あいつなら先に帰ったけど......もしかして戻って来てない?」
カフェから先に帰ったはずの優がまだ戻って来ていない。
茜は事情を知らないため不思議そうな顔をしているが、当事者である奏の頭には不安がよぎる。
「うん。というか一緒に帰って来てると思ってた。さっき優に電話したんだけど、部屋にスマホ置いてあるから......」
「茜、これお願い。ちょっと探してくる」
「え、ちょっとかなちゃん!? どういうこと!?」
茜に荷物を預け、来た道を引き返す。
何が何だか分からない茜に呼び止められるが、今は少しでも早く優を見つけることが先決だ。
「(全く、何処にいるんだか......)」
公園、学校、住宅街と捜し歩くも、一向に見つからない。
今日優は生徒会の手伝いのために外出していたので、財布を持って来ていない。
しかも茜が言うにはスマホも持って来ておらず、連絡が取れない。
奏の中で徐々に焦りと苛立ちが生じ始め、それと同時に日は沈みかけ、空には大きな雨雲が広がっていた。
「あっ......」
ポツリポツリと雨が降り始め、次第に強くなっていく。
幸いにも風は無いが、この様子だと大雨になってもおかしくない。
急いで能力を使ってカッパを生成して羽織り、また歩き出す。
雨が強くなってから約1時間が経った。
奏は思いつく限り優の行きそうな場所を回ったが、いまだに見つからない。
ここで一区切りつけ、一旦茜に電話をかける。
「(あたしにここまでさせといて入れ違いだったらタダじゃおかないからね!) もしもし茜? 優は戻って来てる? .........そう、分かったわ。お風呂沸かしといて。あんたには教えとくけど、状況的には優がちょっとした行方不明なのよ。あと、皆にはこのこと内緒にしておきなさい、いいわね? それじゃあ」
必要なことだけを伝えて電話を済ませ、とりあえず時間を確認しようとスマホの画面を見てみると、一見の不在着信が。
しかも未登録の番号であったため、もしや優が誘拐されたのでは? と頭が勝手に考えるが、直ぐにその番号に電話をかける。
不安を感じながらも、相手が出るのを待つ。
しばらくして電話が繋がり、相手の声を聴くために集中する。
『もしもし、奏さんですか?』
「え?......桜さん?」
なんと電話に出たのは、優のバイト先の後輩である加藤 桜であった。
相手が知らない人だったので安堵したが、それよりもなぜ彼女が自分の番号を知っているのだろうか。
「あの、桜さん。どうしてあなたが私の番号を?」
『す、すみません! 本人の了承を得てないので躊躇ったんですけど、状況が状況なので......。それで、奏さんに伝えたいことがありまして......その、先輩がお店に来てるんですよ』
「本当ですか!?」
『は、はい!!』
優が店に戻る可能性を考えなかったわけではないが、あの出来事の後だと戻りづらいだろうと考えて候補から外していた。
「あ、ごめんなさい、急に大きな声を出して......。今から向かいますね」
『はい、お待ちしております』
電話を終えると、安心感と共に疲労感が襲ってくる。
かれこれ2時間以上歩き続けたのだ、しかもところどころ走ったりしているので結構足にきている。
それでも何とか足を動かし、先程のカフェへと向かった。
「いらっしゃいませ~......あ、奏さん! お待ちしておりまひっ!!」
「桜さん、優は何処にいますか?」
おそらく今の奏は外用の顔で笑顔だが、今までの苦労とストレスによるものなのか、内心の怒りが外に漏れだしていた。
その証拠に、奏での笑顔から放たれる言動にかなりの怒気が含まれている。
「せ、先輩なら向こうの休憩室にいます......」
「そう、ありがとう」
奏はそう言うと、足早に部屋へと向かった。
「いって~......」
湯船につかりながら、赤くはれた左の頬をさする。
鏡を見るとしっかりと手形が残っていた。
「かなねえめ、何も本気で叩くこと無いじゃんかよ......」
店で奏と別れた後、頭を冷やすために外を歩いていたのだが、急に雨に降られてしまった。
傘を買ってやり過ごそうかと考えたが、財布は家。
おまけにスマホも持って来ていないので、仕方なくビショビショになりながらも店まで戻ったのだ。
店に着いたときには桜ちゃんにかなり驚かれて心配されが、とりあえずタオルを借りて体を拭き、温かいコーヒーを貰って、雨が止むのを待ち、ついでに先に帰ると言っておきながらまだ戻っていないことにかなねえが気付かないはずがないと思い、桜ちゃんに電話を頼んだ。
一回目は出なかったが、二回目で出てくれたのでひとまず安心していた。
が、俺の事を探していたらしいかなねえに再会した瞬間に引っぱたかれ、挙句こっぴどく叱られたのだ。
この説教は桜ちゃんが止めに来るまで続いた。
説教が終わった後、桜ちゃんに礼を言って家に帰り、茜が沸かしてくれていた風呂に入るように言われ、今に至る。
「まだヒリヒリする......」
口の中が切れていないことが不幸中の幸いだろう。
浴槽の縁にもたれながら、冷えた体を温める。
「あの怪力ババアめ!」
「聞こえてるわよ!」
「げっ......あいたっ!!」
いつの間にかドアの向こうにいたらしいかなねえが、ドアを開けて瞬時に生成した桶を投げつけられた。
桶のダメージから何とか立ち直り、すでに閉まっているドアの方を睨む。
まだかなねえのシルエットが見えるので、何か用があるのだろうか。
「弟の風呂でも覗きに来たの?」
「あんたの裸なんか興味ないわよ」
くっ! ふざけて言ってみたはいいが、そう返されるとなんか癪だ......。
「で、ほんとは何しに来たの?」
「あんたに謝ろうと思っただけよ」
「まだほっぺ痛いんだけど」
「そっちじゃない」
なんだ違うのか。
「あんたの本心を無理やり聞き出しちゃった気がしたのよ。それだけ」
「.........。」
「で、こっからは別の話し。最初はあたしの勘違いかと思ったけど、桜さんの話を聞いてから確信したわ」
ドアに向けていた視線が床に行く。
これ以上は言って欲しくないと思ったが、それだと店での自分と何も変わらない。
自分の夢を、誤魔化し続けている自分と、何も―――
「あんた、桜さんのために王様になるつもりなんでしょ?」
「............。」
「沈黙は肯定と同じよ。桜さんに幸せになってほしい、でもそのために王様の権力を使っていいわけがない。だから王様になる表向きの理由が欲しい。それで思いついた理由に、あんたは苦しんでるのよ」
「そんなこと......」
「嘘はやめなさい。そりゃあ、貧しい暮らしをしてる子供たちを助けたい。それ自体は立派な考えよ。でも、あんたは心の底からそうしたいわけじゃない。別にあんたを否定するわけじゃないけど、そんな気持ちじゃ本当に助けることなんて無理よ。あんたは自分の欲望のために子供たちを利用しようとして、罪悪感を感じてるのよ」
かなねえの言う通りだった。
確かに俺は桜ちゃんのために王様になろうとしてる。
具体的に言うと、王様になって桜ちゃんの生活を支援することだ。
今のままの暮らしを桜ちゃんが続けてしまったら、間違いなく彼女は心身ともに疲労でボロボロになってしまう。
保護者が近くにいない彼女にとって、学費と生活費を一人で稼ぐのは無理がある。
実際に過去何度も、桜ちゃんは過労による体調不良などで倒れている。
一度桜ちゃんに「今の生活で満足か」と聞いたことがある。
彼女は「勿論です」と言ったが、あれはおそらく気を使わせないようにしたものだ。
いつも見てる桜ちゃんの笑顔だって、昔に比べたら随分と違う。
うまく言えないが、今の彼女は無理に笑っているようにしか見えない。
だが王様になれば、資金面は権力でどうとでもなるだろう。
そうすればかなり楽になるはずだ。
そのための口実も必死に考えた。
真の願いと偽りの願いがなるべく近くなるようにし、気持ちがぶれないようにもしてきた。
罪悪感が無いわけではない。
でも胸を張って言えるわけでもない。
そんな不安定な状態で、かなねえとのあの会話だ。
ボロが出ない方がおかしい。
でも......
「それでも、俺は王様になる。このままじゃ、桜ちゃんが幸せになれない」
「そう、王様を目指すことを止めるつもりは無いわ。でもね優、それで本当にあの子が幸せになれるのか、良く考えなさい」
その言葉を最後に、かなねえは脱衣所から出ていった。
今日はいつもと違う時間帯にしてみました(とくに意味はないけど!)
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