「優ちゃん、夏祭り行こうよ!」
リビングで朝のニュースを見ていると、突然光から夏祭りに行こうと提案される。
「う~ん......行くならみんなで行くか。この前は俺らでプール行っちゃったしな」
「決定!」
「その前にちゃんと母さんに言っとけよ」
「はーい」
「えっと、今日は何があったんだっけかな」
予定を確認するためにスマホのカレンダーを開く
10時~2時 バイト
17時~ 桜ちゃんと夏祭り
あれ?
朝だというのにこの状況を理解しようと頭がフル回転する。
落ち着いて整理しよう。
① 光に夏祭りに行く約束をする
② 予定を確認すると既に桜ちゃんとの約束が
どうしよう......
「ねえ優! 浴衣どっちがいいと思う?」
いつの間にか茜が浴衣のパンフレットを手に訪ねてきていた。
「葵お姉ちゃんは水色で、かなちゃんと栞は紫で、岬はピンクで、光は黄色にするんだけど、私は赤か橙で迷ってるんだよね」
なんてこった。
既に夏祭りに行くという話は皆に伝わっているらしく、浴衣の準備まで始めてる。
おそらくかなねえが買ってくれるんだろうか。
「う~ん、どっちかっていうなら赤かな」
「わかった、じゃあ赤にする!」
「ところで茜、それはかなねえが買ってくれるのか? それとも母さん?」
「え? 優が買ってくれるんじゃないの?」
「は?」
「光がそう言ってたけど......」
「光いいいぃぃぃ!!!」
光に制裁を加えた後はバイトへ向かった。
確かに桜ちゃんと約束はしていたが、まさか今日だったとは......
前のプールの事もあるし、どうすれば......
バイトに行き作業を始めても、中々いい案が浮かばずにいた。
「優くん、少しいいかな」
「はい」
食器を洗っているとオーナーから声が掛かった。
「君は少し考え事をしているみたいだね」
「え、そんな顔してました?」
「君の癖は君のお母さんに似ているからね。それなりには分かるよ」
さすが、母さんの高校時代の後輩ということだけあってよく知っているらしい。
なぜ知り合ったかは未だに知らないけど。
「他の事を考えながら仕事をされると危ないからね」
「す、すみません! 気をつけます......」
「でも君がそんなに悩むなんて余程の事なんだろうね。もし良ければ聞かせてくれないかな? 私に何か力になれる事があるかもしれない」
確かに青春という名の戦国時代を生き抜いたオーナーなら、こういう状況を打開できる名案を思い付いてくれるかもしれない。
「実は......」
こうして包み隠さず今の自分の状況を説明した。
「成程。君は見知らぬ小学生を連れ回した挙句、約束を忘れて予定を入れてしまったと」
「あの、どっちも間違ってはいないないんですけど、もうちょっと詳しく纏めてもらわないと僕が社会から抹消される気がするんですよ。特に前半の部分とか」
「とにかく、予定をブッキングさせてしまったのは君の落ち度だ。こればっかりは自分で何とかするしかないね」
「ですよね......」
「と、今までなら言ってたんだけどね。先に来ていた桜ちゃんにね、今日は先輩と一緒にお祭りに行くんです。なんて笑顔で言われてしまったからね。何とかしてあげよう」
「あ、ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
「話は帰り際にするから、取り敢えず君は仕事に戻りたまえ」
良かった、何とかなりそうだ。
「先輩。オーナーと何を話してたんですか?」
仕事に戻ったところに桜ちゃんが声をかけてくる。
「いや、大した事じゃないから気にしないで」
「先輩がそう言うなら私は気にしませんけど......」
その後はいつも通り時間まで仕事をした。
今日は俺と桜ちゃんのシフト時間を同じにしていたので、一緒に帰り支度をしていたのだが、打ち合わせ通りにオーナーに声をかけられる。
「2人ともお疲れ様。ところで、今日は桜ちゃんと優くんとで夏祭りに行くんだろう?」
「そうなんですよ! 先輩がどうしても私と一緒に行きたいと言ってたので」
数日前...
「先輩、この前のプールは楽しかったですか? あ、ごめんなさい、答えなくても大丈夫です。楽しかったに決まってますもんね? 小学生の女の子を抱きながら、2回も。しかも違う子とでしたもんね。どうしたんですか先輩? 顔が真っ青ですよ? 楽しい事をして来たんですからもっと笑顔でいてください。ところで今度の日曜日に夏祭りがあるのは知ってますよね? いえ、別に無理に私なんかを誘ってくださらなくてもいいんですよ? 先輩は小学生の女の子が好きですもんね? たこ焼きをフーフーして食べさせあげたり、射的の打ち方を後ろから体をくっ付けて教えてあげたり、綺麗な花火を見ながら、君の方が綺麗だよって言ってあげたりするんですよね? 小学生の女の子に。私は先輩のそういう優しい所を本当に尊敬しています。でも先輩がどうしてもと言うなら、私が一緒に行ってもいいんですけど、どうしますか?」
「是非、一緒に夏祭りに行ってください......」
といったやり取りだった筈だ。
「ふむ、私も夏祭りに君たち2人で行くのは別に構わないと思っているんだが、場所はちゃんと調べてあるのかい?」
「はい! そこはちゃんと調べてありますよ。確かに30分ぐらいで着くはずです」
「成程......」
時間を聞いて少し考える様子を見せるオーナー。
「どうしたんですか?」
「いや、最近ひったくりや誘拐事件が増えていてね。優くんが一緒にいるとはいえ相手は大人だ。それに夜道を襲われては桜ちゃんを護るのも困難だろう。それに片道30分となるとさらに心配だ」
「ですが、徒歩が無理となると移動手段が......あ、もしかしてオーナーが車を出してくれるんですか?」
「そうしたいのは山々なんだがね。今夜は忙しくて出来そうにない。ここで1つ提案なのだが、優くんの親御さんに車を出してもらうのはどうだい? 王族の車なら誰も手を出さないだろうしね」
「それは確かにそうですけど、急だとご迷惑ではないですか?」
そう俺に訪ねてくるが、父さんに頼めば何とかんるだろう。
「大丈夫だよ桜ちゃん。実際に運転するのは専用の人だし、最近は送迎の仕事を欲しがってたからね」
「ではそうさせてもらいます。心配してくださってありがとうございます、オーナー」
「では楽しんでくるといい」
お、大人ってすげぇ......
全然違和感無かった......
お待たせしました…
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