城下町の低身長   作:かるな

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眠い...


昔話1

少しだけ昔の話。

俺が中学に入って2年目の春。

 

 

 

「おはようございますマスター」

 

 

 

「おはよう優君。ずいぶんとここの仕事にも慣れてきたね」

 

 

 

俺がこの喫茶店でバイトを始めてから一年。

一年生の時にどうしてもお金が必要だった俺は、両親に頼み込んで特別に許してもらったのだ。

 

 

 

「この喫茶店って、ほんとに俺とマスター以外働いてないんですね」

 

 

 

「ああ、なんせここは小さい店だしね。あまり多すぎると、逆に息苦しいぐらいさ」

 

 

 

「ですね」

 

 

 

「ところで今日一人、新しいバイトの子が入るんだよ」

 

 

 

オーナーから突然そんなことが告げられる。

 

 

 

「え? いつの間に面接やってたんですか?」

 

 

 

「店を閉めた後だから、優君が知らないのも無理はないよ。年はそうだね、君の一つ下かな」

 

 

 

「1年生じゃないですか! 俺が言うのもなんですけど、いいんですか?」

 

 

 

「彼女は特別な事情を持っているからね。君みたいに、学校の先輩からのコネでバイトをしているのとは違うんだよ」

 

 

 

「うぐっ! そ、そう言えばオーナーは俺の母さんの後輩でしたもんね。ということは、オーナーの年って……」

 

 

 

「さて優君、減給はいくらがいいかな?」

 

 

 

「ごめんなさい冗談ですもう二度と言わないので許してください」

 

 

 

少し言い返してみようとしたが、給料には逆らえない……

 

 

 

「あまり思ったことをすぐに言わないように、君の悪い癖だよ」

 

 

 

「申し訳ございませんでした」

 

 

 

「分かればいいんだよ」

 

 

 

「ん? 彼女ってことは、新しい子は女の子ですか?」

 

 

 

「そうだよ。あと、彼女の教育係はもちろん君だよ?」

 

 

 

「え? 俺が女の子を教えるんですか!?」

 

 

 

「もしかして、優君は年下の女の子に手を出すのかい?」

 

 

 

「いえ、そんなことは無いと思います………多分」

 

 

 

俺だってまだ早いが年頃の男の子なのだ。

女の子と一緒に働いて平静を保てと言うのは難しいかもしれない……

 

 

 

「もし手を出せば、君のお母さんに連絡せねばならないね」

 

 

 

「命をかけても手は出しません!!」

 

 

 

絶対に手を出してはいけない。

出せば俺の命は無い。

 

 

 

「そろそろ彼女が来る頃だ。よろしく頼むよ優君。私は少し買い出しに行ってくる」

 

 

 

「了解です」

 

 

 

店の開店時間にはまだ余裕がある。

奥で時間潰すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おはようございます!!」

 

 

 

お、来たみたいだな。

 

 

 

「あれ? 誰もいない……時間間違えたかな?」

 

 

 

「大丈夫、合ってるよ」

 

 

 

「え? うひゃあ!」

 

 

 

突然声をかけられたことに驚いたのか、俺がいきなり出てきたことに驚いたのか、中々かわいい声で悲鳴を上げる。

 

やばい、理性を保たないと俺の命が……

普段話してる女の子が姉や妹ということもあり、全く面識の無い女の子との会話は少しドキドキする。

 

 

 

「あ、ごめんなさい! いきなり大声出してしまって……」

 

 

 

「いや、こっちこそびっくりさせてごめん。自己紹介しとくね、俺は櫻田 優 中学2年、一応、君の先輩になるのかな」

 

 

 

「さ、櫻田……優......お、王族の人!? す、すみません!ご無礼しました!!」

 

 

 

「そんなにかしこまらないで、王族として扱われるのはそんなに好きじゃないんだ」

 

 

 

「で、ですが……」

 

 

 

「なら、これはバイトの先輩としての命令。これならいい?」

 

 

 

「わ、分かりました……」

 

 

 

渋々と承諾してくれたが、これは慣れるまで時間がかかりそうだな……

 

 

 

「ところで、君の名前は聞いてなかったね。良ければ教えて」

 

 

 

「は、はい。私は加藤 桜 中学一年生です。よ、よろしくお願いします……」

 

 

 

なにか仲良くなれるきっかけがあればいいんだけど……

 

 

 

「加藤さん、まずは最初の仕事なんだけど、いきなり接客は厳しいと思うから、今日は

俺の対応を見ててね」

 

 

 

「はい、でもそれだけでいいんですか?」

 

 

 

「もちろん、他の仕事もしてもらうよ。まだ開店まで時間はあるから、すぐ出来そうなことだけ教えるよ」

 

 

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

とりあえず加藤さんには掃除の仕方だけを教え、残りは空いている時間に少しずつ教えていくことにした。

 

 

 

「いらっしゃいませー、何名様ですか?」

 

 

 

「かしこまりました。当店全席禁煙です。お好きな席へどうぞ」

 

 

 

「ご注文は何にいたしますか?」

 

 

 

「かしこまりました、少々お待ちください」

 

 

 

加藤さんの手本となるように。いつも以上に丁寧に接客をする。

あ、いつも適当にやってるわけじゃないからね?

 

 

 

「加藤さん、ちょっと来てくれる?」

 

 

 

キッチンに入り、注文された品を作り始めようと思ったが、加藤さんが掃除を終えたよ

うなので声をかける。

 

 

 

「はい、何ですか?」

 

 

 

「バイト初日だけど、喫茶店らしく何か作ってみようか」

 

 

 

「え、いきなりですか!?」

 

 

 

「大丈夫だよ、作ると言ってもコーヒーを入れるだけ。ちゃんと教えてあげるから、やってみよう」

 

 

 

「は、はい! お願いします……」

 

 

 

先程来たお客さんは2人で、コーヒーとサンドウィッチを2つずつ注文していた。

まずは一杯、コーヒーを入れるところを見せて器具の使い方を教えてあげる。

 

その後は実際に加藤さんに入れさせながら、違うところを教えてあげる。

 

 

 

「お待たせいたしました、お先にコーヒーでございます」

 

 

 

届けた後は、先程使った器具を洗うためにキッチンへ戻る。

 

 

 

「…………。」

 

 

 

コーヒーを出してから、加藤さんがそわそわしている。

初めてお客さんに対して入れたコーヒーだからな、無理もない。

俺も最初は緊張したもんさ。

 

しかも初めて飲んでくれたお客さんの感想が……

 

 

 

「なんか微妙ですね」

 

 

 

しかも苦笑いされながら言われたんだぞ、こんなのトラウマもんだろ……

 

 

 

「あの、ウェイターさん、ちょっといいですか?」

 

 

 

「はい、なんでしょう」

 

 

 

「今日のコーヒー、いつもと少し違うのね」

 

 

 

「今日は僕と新人が一杯ずつ入れたので、そのせいかもしれませんね。少々お待ち下さい」

 

 

 

キッチンの掃除をしていた加藤さんを呼んで、お客さんの所へ連れていく。

 

 

 

「お客様、この新人に味の感想を言ってやってください」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

加藤さんが驚愕の表情でこっちを見てくる。

 

 

 

「そうねぇ、いつもとは確かに違ったわ……」

 

 

 

加藤さんが表情を曇らせてうつむく

 

 

 

「でも、すごくおいしかったわ」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

加藤さんの顔がバッと上がり、表情が嬉しさに包まれている。

 

 

 

「良かったね加藤さん。というか僕の時は微妙って言ってたのに!!」

 

 

 

「あらあら、そうだったかしら」

 

 

 

まったく……あの後俺がどんなに落ち込んだことか……

 

 

 

「あはは…」

 

 

 

「加藤さんまで!?」

 

 

 

「あ、すいません先輩。つい……あはは」

 

 

 

なんだろう、後輩との距離も縮まったし、まあいいとするか……

 

 




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