夜に降った霧雨はまだ止まない   作:平丙凡

9 / 19
第⑨話です。あの最強の氷精さんは出ませんけど。
戦闘はナシで説明会。
あと場面が結構移り変わるので注意を。




紅き悪魔の契約

 扉が開いて、目の前には赤色、というよりは()()のエントランスが広がる。

 右を向いても左を向いても、赤、紅、赫……。他の色は一切無く、ただただ紅いその展望。赤色に染まった果てしなく悪趣味な彩りの中を、咲夜の案内で夜霧は歩いていた。コツコツと階段を登り、やけに窓の少ない廊下を歩いて行くと、一つの大きな扉に辿り着く。

 

「……ここは」

 

 知ってる。このやけに大きな扉。この先に――永遠に紅き幼い月、レミリア・スカーレットがいる。

 

「お嬢様、お客様をお連れしました」

「入りなさい」

 

 扉が開き、一つの大きな玉座が見える。

 そこに堂々と静かに座する、吸血鬼。

 

「ようこそ人間。私の名はレミリア・スカーレット。ここ紅魔館の主としてお前を歓迎しましょう」

 

「恐悦至極、とでも言うべきですかね?」

 

「なに、そんな堅苦しくされても困るだけよ。そして単刀直入に聞くわ。あなたは運命を信じるかしら?」

 

「運命、ですか?」

 

 運命と聞いて連想するのは、レミリアの能力。つまりこの質問は、自分自身の能力の本質が理解できるかどうか問いているのだろう。少なくともそう夜霧は理解する。

 

「……少し漠然とし過ぎたわ。言い方を変えましょう。『あなたの正体を私は知っていた』と言えば……信じる?」

 

 ――ドキッ、とした。レミリアの能力、それは運命を操るだけのはずだ。正体を知ったとすれば、一体どうやって?

 

「――信じられない、とでも言いたげな顔ね?」

「うっ、」

 

 あの桃色髪の覚妖怪よろしくな力でもあるのだろうか。こちらの考えがことごとく読まれている。大恐失色だ。まさか、レミリアにはまだ知らない能力があったのでは無いのか。そんな飛躍したことを夜霧が考えていると、レミリアが話を始める。

 

「あー、愉快な勘違いをする前に言っておくけれど……私に未来予知とか心読の能力はないわよ? さっきはあなたの正体を知っているなんて言ったけれど、それは私の能力の一部。 ――私は運命を『見る』の。そしてそれは近い未来に起こる事柄も絡んでくる。その中にあなたの姿があった……それだけのことよ」

 

 その力は、未来予知となんら変わらないのではないかと。

 そう思った夜霧の考えは大体その通りだ。ただしレミリアのそれは、あまりにも限定的で短期的なモノだが。近い未来に起こる事柄に絡んだ運命ならば、レミリアはいくらでも見ることはできる。それが操れるかどうかは、また別の話。

 

 とにかく、レミリアが見れる未来は、その運命が絡んだ未来に限る。つまりどんな誰の未来を見るかまでは、レミリアは操作できない。常に第三者目線で、近々起こることを細切れに見ていく。そこからわかることは、その事柄に関わった人物像が少々ぐらいだろう。だからレミリアのそれは未来予知などという代物ではない。だから夜霧の秘密を知るはずも知る手段もないのだ。

 

 しかしレミリアは夜霧に対して秘密を知っているかのような素振りを見せていた。――要はハッタリ。こけおどし。

 

 愉快な勘違い。まさにその通りで、レミリアの言葉にまんまと引っかかった夜霧が勝手に秘密を知られたと勘違いして露骨な反応を示しているだけだ。

 

 しかしそんなことを知らない夜霧は不用意な言葉を発してしまう。

 

「なら! あの子……フランドールは!」

 

 ――その言葉がいけなかった。

 

 冷静に目の前の人間の話を聞こう。そう思っていた矢先、フランドールと言う名前が人間の口から聞こえてしまった。

 

 ――これが平静を保っていられるか。

 

 いくら秘密を抱えていようが、妹の名を口にされては冷静ではいられまい。

 

「――おい」

 

「………は」

 

 冷や汗。夜霧の首元には、ほんの一瞬の間に妖力を圧縮して作り出した槍――グングニルが突きつけられていたのだ。少し見上げると、そこにはただ冷酷に自分を睨みつける、怖ろしき冷徹な吸血鬼の姿。……とんでもない威圧感。目の前に彼女がいるというだけで、その存在によって息苦しくなる様な。

そして、その時初めてあの秘密を知っているような発言が、この威圧感に任せたハッタリだったと理解する。ああ成る程、このまま無事では済まないだろうな。

 

 そんな、夜霧の脳内で繰り広げられた悲劇が実際に演出されることはなかった。

 

「……お嬢様」

 

「ああ、咲夜……そうね」

 

 夜霧の想像とは裏腹に、レミリアはグングニルを引っ込めたのだ。

 

「どうやら、私も相当ヤキが回ってるわね……悪かったわ。先に理由を聞くのが先決よ。――どうしてあなたが……顔も見たことの無い初対面のはずの人間が……いろんなことを知り過ぎているのかを、私は聞かなければならない」

 

 そう言って、レミリアは地面から少し高い玉座へと戻る。月の光を背に、紅い紅魔の吸血鬼は羽を広げて目の前の人間を見下す。

 

「改めて聞こう。幾多もの秘密を抱え、幾多もの運命に関わっている人間であるお前は。――お前は、何者だ?」

 

「やっぱり、話すしかありませんね」

 

 そうして夜霧は語る。

 自分の秘密を。そして、この紅魔館が迎えた一つの未来の話を。

 

「――俺の名前は霧雨夜霧。ただの魔法使いですけど……なんと言うか、未来からの漂流者、ですかね」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 話は夜霧が紅魔館に通い始めてから数日経った頃に遡る。この場合未来で起こる事項だから、遡るという表現はおかしいのだが……これはあくまでも夜霧の主観、だからこれは過去の事項なのだ。いつものように大図書館へ本を返し本を借りてさっさと帰ろうとしたある日、咲夜に呼び止められたのだ。

 

「いい加減お嬢様に挨拶してくれない?」

 

「……おじょうさま?」

 

 はっきり言って夜霧はレミリアのことを知らなかった。吸血鬼という種族の習性で夜行性、そして()()()()()()()()として有名だったから。それは、紅魔館の主人が実はレミリア・スカーレットだったということを大図書館に来て初めて知ったことから伺える。だから当然挨拶などしているわけが無く、夜霧は館の主人を堂々と無視してかつ、何度も入り浸っている不届き者として呼ばれてもおかしく無い立ち位置にいた。

 

 ――そして現に、

 

「お前が私を堂々と無視していた愚かな人間ね?」

 

 お嬢様は怒っていた。

 

「………………」

 

 対峙する夜霧とレミリア。かたや白黒のローブに身を包む魔法使いの人間、そして方や、見た目だけなら明らかに年下な、幼すぎる吸血鬼。見た目も中身も本質も西洋風な両者が向き合うのは、東の果ての秘密の楽園、幻想郷。

 

 おかしな話だ。とレミリアは思う。

 実のところ、別にレミリアは怒ってなどいなかった。寝ているうちに顔も見たことのない人間が館に入り浸るようになっていた……結構だ。別に構わない。むしろ客人が増えるのはいいことだと思っている。そんな考えを持つレミリアが今日こうして人間、霧雨夜霧を呼んだかと言うと、『興味があったから』と、『ちょっとした()()期待をしている』からである。

 

「……無礼に対するお詫びはします。挨拶が遅れて申し訳ございません。俺は……」

 

「霧雨夜霧、でしょう?」

 

 頭を下げ、名乗ろうとする前に名を呼ばれたことに夜霧は驚く。――というよりは、警戒する表情。

 

「そんな顔をしなくてもいいわよ……ただ咲夜から聞いただけよ」

 

「え? あ、なんだ……」

 

 ホッ、とでも聞こえそうなくらい表情が緩む。なるほど、話に聞いていた通りだとレミリアは内心悦する。

 

 ――素直な人ですよ。あと、感情がすぐ顔に出ます。つまりわかりやすい人なんです、彼は。

 

 そんな咲夜の評価もこれを見れば頷けるものがあるというものだ。

 

 そうしてレミリアと夜霧は会話を続けた。

 弾幕ごっこの話題でも、何気無い日常の話でも良かった。ただ久しぶりの()()との会話をレミリアは楽しんだ。

 

 そんなレミリアに対して、夜霧は最初の方、かなりの警戒をしていた。

 

『吸血鬼には気をつけろよ? 不意打ちで血を吸われるかもな。あるいは……跡形も無くなったりしないようにな』

 

 それは師匠の言葉。しかし話してみるとそうでも無く、むしろ不意打ちなんていう卑怯な手は使わない、正々堂々とした性格をしているんじゃないかとすら思えてきている。

 現に警戒など一切して無かった。

 だから師匠の――魔霧の警告の真意にだって、夜霧は気づけなかったのだ。

 

 レミリアと夜霧の会話が始まって数分後。「失礼します」の声とともに銀色の髪を揺らす赤色の眼のメイド長、咲夜が部屋に入室する。

 

「お嬢様……妹様が、目覚めました」

 

「――そうか。さて、夜霧」

 

 瞬間、何か大きな力に背を押される感覚が夜霧を襲う。そう、まるで……何か強制的に特定の方向へと押し出されるように。

 

 そう。レミリアは能力を使ったのだ。この後の流れを確定させるために。そしてそれは確実に、そして全ては確信に……そう思えてならないほどにうまく()()()()。すでに断言すらできよう。

 

 ――運命は、収束した。

 

「私の頼みを聞いてほしい。……地下の妹と会ってほしいのだ」

 

「頼み、ですか」

 

 ……夜霧はいま目の前で起こった事象に対して、おおよその憶測を立てていた。あの背を無理やり押される感覚。あれはおそらく、目の前の吸血鬼の能力。

 そして実際、夜霧の推察は当たっている。レミリアは『運命を操る程度の能力』を夜霧の運命に対して使用したのだ。

 

 運命を操るとは、つまり特定の事項をある結果へと導くことに他ならない。その気になればどう転んでも死ぬはずだった命を生き長らえさせることでも可能なのだ。

 

 しかしレミリアはあまりこの能力を使わない。

 それは運命を操るという性質上、物事に及ぼす影響が大きすぎるから。しかしそんなものは建前。本当は運命を操るということ自体、あまり好きでないからだ。結果よりもそれに至った過程を大事にしたいというのがレミリアの考え。それを根本から否定するのがレミリアの能力。運命を操るとは過程を操ると同義だから。……なんとも皮肉な話だ。そうレミリアは内心自嘲する。自分の考えを貫こうとすれば、それを否定するのも自分なのだから。

 

 それでも、レミリアが自らを否定するようなロクでもない忌むべき力を使用した理由は、そうまでしてもこの結果が欲しかったからだろう。

 

「……なるほど、わかりましたよ。お嬢様」

 

 だから夜霧は、何も言わずにただ従ってレミリアに着いていく。

『跡形も無くなったりしないようにな』という洒落にもならない師匠の言葉を思い出しながら。

 

「……ここだ」

 

 階段を降りて地下に向かい、大図書館の奥の扉からさらに奥へと降ったその場所こそ、レミリアが夜霧を連れて来た場所だった。そしてそこは、冷たく閉ざされた大きな大きな鉄の()。壁と同じように赤い塗装が塗られているも、ところどころ剥がれて年季を感じることから夜霧は察していた。……イヤ、察してしまっていた。

 

 ――この扉は、俺が産まれるずっと前からここにあるのか?

 

「この部屋の奥にいる私の妹と今から会う。そこにお前には……着いて来てほしいのだ」

 

 そう言うレミリアの目は、曇る。

 

「……なぜ、地下にいるんですか?」

 

 夜霧は問う。当主の妹ともあろうものがこんな地下のさらに奥深くの地下にいる理由が、夜霧には到底理解できなかったのだ。

 

「――それは、」

 

「待ちなさい、レミィ!」

 

 レミリアが言葉を発すその瞬間、遠くの方から叫ぶ声。声の主はパチュリー・ノーレッジ。紫色のローブを揺らし、血色が悪い顔で息を切らして階段を駆け下り、走っていたのだ。

 

「レミィ! 貴女、正気なの?」

 

「はぁ。ねぇパチェ、この話は前にもしたことだけど……」

 

「質問に答えなさいッ! ああ、貴女は物事を冷静に捉える感覚さえ失ってしまったと言うの? 本当に冗談じゃないわ!」

 

 そう語気を荒げて、噛みつくような話し方をする彼女は、明らかに夜霧の知る『動かない大図書館』では無かった。夜霧は初めて見た。パチュリーが感情豊かに話すところを。……もっとも、話すと言うよりは一方的な口論であったが。

 

「貴女があの時決断を渋って! ……数百年経ったわ。『運命が見えない』なんて言い訳じみたことを言って逃げたりしたから、フランドールは永遠の狂気に囚われてしまった! 貴女は愚か者よ、レミィ。そうしてまた、彼女の狂気を深めようと言うの!?」

 

 しかし、レミリアの方も聞いているだけでは無かった。

 

「冗談じゃない? 逃げたりした? 愚か者だ? ハッ、私がいつだって本気だったということを貴女は忘れてしまったのかしら? ねぇパチュリー、冷静に考える方なのは貴女の方ではなくて?」

 

「わかってるわよ、それくらい。……でも、でもね――」

 

 目の前の文字通り袂を分かつ議論の終わり。その合図は、パチュリーの言葉では無く、レミリアの言葉で無くて――。

 

 

 

「――俺、やりますよ」

 

 ただ一人無関係なままの、霧雨夜霧の一言だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ――ずっと、気のせいだと思っていた。

 

 

 俺がやると言った時、向けられた視線は()()()

 一人はパチュリー。動揺するような、信じられないものを見るような、いずれにしてももう金輪際見れないでだろうパチュリーの予想外とも言うべき表情。

 そしてもう一方は、レミリア・スカーレット。

 こちらも予想外といったような表情だったが……パチュリーとは違い、むしろ喜ぶようなそんな表情。

 そしてもう一人は……。

 

「夜霧……アンタはこの扉の奥に()()()()()()わからないの!?」

 

「違う、()()()()()んでしょ? パチュリーさん。さっきから俺たち、見られてます」

 

 そう、もう一人の視線は、この扉の奥からだった。……奥にいる誰かが、ずっと見ていた。

 

「話はパチュリーから聞いたな? ……では改めて聞こう、霧雨夜霧。協力してくれるか?」

 

「――それが、俺にできることならば」

 

「ああもう! あんたたち……!」

 

 それ以上、パチュリーは何も言わなかった。『もう勝手にしろ』と言わんばかりの表情をしたまま。

 

 対しレミリアは、口角を上げて悪魔じみた――否、悪魔の笑みを浮かべて続ける。

 

「では、開けるぞ?」

 

 ギイィという甲高い金属音を上げながら、重い扉が開く。地下室の埃っぽい空気が流れ込んでくる。ベッドとテーブル、そしてぬいぐるみがポツポツ置いてあるような可愛らしい女の子の部屋。――その部屋の中心にいた、小さな幼い女の子。

 

「……やっと入ってきたのね。魔法使いさん」

 

 姉と同じ紅色の瞳と金色の髪、そして背中についた羽。姉のコウモリのような羽とは違い、宝石の形をした石が羽に左右対称に付いた、羽としては破綻した形状の羽。

 

 ――それが、永遠の狂気に侵された少女。フランドール・スカーレットとの、最初で最後の出会いだった。

 

 あのフランドール(少女)との出会いを忘れることは無いし、忘れる気だってない。

 

 

 先に結論だけを述べよう。

 ――彼女を救うことは、結局叶わなかった。

 

 

 ああ、そうだ。俺は、失敗したんだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 夜霧が全てを話終えた後、目の前には大いに威厳を感じさせる佇まいをした吸血鬼と、若干戸惑いながらも、相変わらず瀟洒に銀髪を靡かせたメイド服の少女がいた。

 

「これが俺の見た未来であり……変えるべき未来です」

 

「なるほど……そういうことか」

 

 レミリアは、何か合点したような表情をする。

 

「人間……名は夜霧と言ったな? つい先日から私が見る運命には軒並みお前の姿があった。それはつまり、全ての運命がお前に収束しているということに他ならないが……その理由がわからなかった。だがたった今、その理由も理解できた」

 

「お嬢様、それはつまり……」

 

 咲夜が調子を合わせたように、人差し指を立てて堂々と宣告する。

 

「――彼の行動はこの幻想郷を揺るがす、ということですか?」

 

「未来を変えるのだからな。それくらい当然だろうな」

 

「へ?」

 

 その事実に驚いたのはレミリアでも咲夜でもなく……当の本人である夜霧だった。

 

 歴史上の異物。

 この世界から見れば、未来から遡ってきた夜霧は、いわば正史には存在し得ない異物でしか無いのだ。

 この世界全ての事柄との関係は全て失われ、本来自分が存在するはずのなかった歴史にただ一人放置された夜霧の運命は、レミリアの運命を操る力でも干渉できない。

 レミリアの運命を操る力。それはつまり人と人の縁を結び繋いで事象の結果に作用する力。その繋がりが一切皆無となった夜霧は、あらゆる縁と結びつくことがなく、一方的に運命を捻じ曲げることが可能となった()()()()()()となっていた。

 

 ――つまり一言で言うと、今の夜霧は未来をいくらでも自分の行動次第で変えることのできるのだ。

 

 それは、夜霧が目指した魔霧が普通に生きて死ぬ世界(理想の世界)を目指すことが、ただの絵空事で無くなることを意味していた。

 

「俺、そんな事になってたのか……」

 

 驚く夜霧。しかしその表情には、驚きよりも喜びの感情の方が色濃く表れている。

 当然だ。未来を変えられる力を持っていることが、今この瞬間、証明されたのだ。それはすなわち、スタートライン。

 

「……未来を、変える」

 

 その言葉は、重く、辛く(おもく)大切い(おもい)もの。

 夜霧を未来に飛ばし、希望を確かに残した八雲紫。その彼女の心を乗せたまま、夜霧は呟いた。

 

「霧雨夜霧。私の結論を述べよう。――いいわ、あなたのその考え、嫌いじゃないしむしろ好きだわ。ね、そう思わない? 咲夜」

 

「そうですね……彼の話の中でいくつか信じられない部分もありましたが……特に私のくだりです。まさかお嬢様の眷属になっているとは思いもしませんでしたわ。夜霧くん、嘘じゃないわよね?」

 

「そんな嘘はつきませんよ。あと眷属になった理由を聞いても、『不本意ながら、今もこうして生きてるわよ』って答えしか返ってきませんでしたし」

 

 相当捻くれてるわね、そう言うのは咲夜自身。

 何を言ってるんだと思っても無駄なことだ。幻想郷の少女たちは必ずと言っていいほど、自分のことは棚にあげるのだから。

 

「それで夜霧。紅魔館(私たち)はお前の行動を支援することを約束したが――お前は何を約束してくれるのかしらね?」

 

「……え?」

 

 そう、レミリア・スカーレットは吸血鬼――すなわち、悪魔なのだ。

 悪魔との契約には代償が必要だ。

 それは血であったり、寿命であったり、目に見えないもの……魔力や生気だったりだ。

 

 共通することは、悪魔から要求される、つまり契約者は受け身の姿勢しか取れないという点だ。

 それを魔法使いでありながら夜霧が知らないのは、単に夜霧の勉強不足としか言えない。

 ちなみにパチュリーが大図書館で使役している小悪魔の契約は、一日三食の食事と毎日の魔力提供の保障という超ゆるい要求の元に成立した。

 これは小悪魔曰く、「無茶や要求で身を滅ぼされるよりも安定した条件の方が楽しめるんですよ……色々と、ね?」とのこと。

 正直本を運んで整理しての毎日のどこが楽しいのだろうという疑問は尽きないものの、本人が楽しめれば良いのだろう。

 

 そしてレミリア――悪魔の要求、その内容は――。

 

「夜霧、地下室の妹の話し相手になってくれ」

 

「――はい?」

 

 ――それは、夜霧にとっての罪の歴史であり、変えるべき過去の一つでもあり、償いでもある、そんな条件だった。

 

 




地の文多すぎ。(確)
ややこしくて訳わかんねえと思ったらどうぞご質問ください。なるべく丁寧に答えますので……。
視点を三人称にしてみましたが、どうですかね?
一人称のままでいくか検討中です。


軽い次回予告。

――紅き館の主との契約は交わされた。少年はただ覚悟する。自らが過去、向き合えなかった狂気との邂逅を。
そしてその扉は開く。

少年は、儚く狂う少女と出会った。

次回ッ、第十話! 『フランドール』

――乞うご期待。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。