弾幕ごっこは萃夢想とか緋想天みたいな弾幕アクションな戦闘を想像してもらえれば有難やですね。
あと一応、夜霧くんはオリジナルスペカも使います。
――虹符『彩虹の風鈴』
美鈴がスペルカードを掲げて宣言すると同時に、妖力の塊である妖弾が美鈴から広がってこちらへ襲いかかる。
その妖しい光は螺旋の虹。虹色の彩りを魅せるそれは見ている
「そらよっと!」
螺旋は美鈴を中心として右に左に回転している。ならば、自分もそれに合わせて飛行すればまず被弾することは無いだろう。
「中々やりますね……では、」
そう言うと美鈴は螺旋の放出を打ち切る。――
「次の攻撃の構え。ってところかな?」
「御名答。なら遠慮なく行きます……!」
次のスペルカードか……。 しかし夜霧のそんな甘い考えは真っ先に否定される。
「せいっ!」
目の前から繰り出されたのは――妖力が纏われた拳。
「――なっ!」
夜霧は本当に間一髪、それを紙一重で回避する。
「いまのを避けますか」
「あ、危ねえ……」
美鈴の本領は己の肉体を使った武術において発揮される。弾幕ごっこの様な遠距離戦闘では無い。
「はぁっ!!」
ならばどうするか――。
それは簡単だ。弾幕ごっこの中で、自分の有利な土俵に持ち込んでしまえ。
「連、撃っ!」
繰り出される打撃の雨。目で捉えきれないほどの速さで放たれる攻撃と同時に放たれる弾幕。
「……くそ!」
夜霧は急旋回し、美鈴の攻撃の隙を突き、真下をくぐって背後に回って距離を取る。
――正直このままではキツイ。けどだからって、策が無いわけじゃ無い。生憎なことに、スピードには自信があるのだ。
目算で約五十メートル。美鈴の飛行スピードでも追いつくのに六秒はかかるであろう距離まで夜霧は離れる。だが距離を離したところで逃げはしない。まずは美鈴に勝たなければ何も始まらないのだから。
「……まずはこれだ」
夜霧はローブの中から一冊の本――
これの便利な点は二つ。一つは利便性だ。自分で作った物なので当然なのだが、確認しておきたい頁を自動検索して勝手に開いてくれる。だって、自分でそうなるようにしたかのだから。この一冊でほとんどの研究は成り立っていると言っても過言ではない。
「……来いよ」
距離を離してから、五秒経過。――美鈴がどんどん近づいて来る。
魔道書を開き、あるページを開く。魔法の展開式、それに関する研究の成果を書き記したページ。もう一つの便利な点……それはやっぱり、ページに書いてある魔法陣、
――六秒後、美鈴が来た。
「はあっ!!」
美鈴が勢いのまま蹴りを食らわして来る。……が、
「俺の方が速いぜ!」
魔法陣をなぞり、そこから現れたスペルカードを掲げ宣言する。
――流符『スターダストカーテン』
美鈴の蹴りを、夜霧の
そしてその散りばめられた弾幕は、夜空に燦然と煌めく無量の星々。
――無論、そこに美鈴が突っ込んで来たなら……無事では済まない。
「あひゃあ!?」
蹴りの衝撃が魔力とぶつかって跳ね返って来たのか。美鈴が思いっきり仰け反った。
「痛った〜。ちょっとあなた!」
「なにさ?」
「あれは躱せないですよ! 反則! ルール違反ですって!」
「いやいや何を言いますか。あれはついでの効果。本当はあそこから流れ星みたいな弾幕を打つはずけど、タイミングが悪かったんだ。許せ」
「むむむ……!」
まだ反論がありそうな顔。しかしその後で美鈴は、「……反則、と言うわけではないのですね?」と問う。
「ああ、反則はしない。当たり前だろ? そんなルールも守らない戦いの何が面白いんだか」
ちなみにこれは本心。弾幕ごっこが幻想郷の中で決闘されつつも楽しまれているのは、全ての住民がルールを守っているからこそだと思う。人と妖が平等なルールのもとで戦う……これを考えた人は誰だ、何度感謝しても足らないのでは無いだろうか。……そんな場違いなことを考えていると、美鈴は手に持ったスペルカードを何故かしまった。
「――降参、私の負けです」
「何だよ急に。まだ勝負はこれから……」
「なら大丈夫です。私はこの勝負を通して一つの答えを見出しましたから」
と、胸を張って語る美鈴。それと、戸惑う夜霧。
「……どういうことだよ」
「先程のあなたの挑発。正直言うと私、かなり腹が立ちました」
やっぱり。
よく考えなくても、あの脅しみたいな挑発は普通に不味かったみたいだ。
「そんな私が夜霧さんに抱いた感情は……『最高に嫌なタイプな人』って感じでしたね」
「…………」
……まあ、あんなことを言った時点で、第一印象はかなぐり捨てたような物だから今更と言う感じすらするのだけど。
「それで? 今はどうなのさ?」
「『戦いに自分の流儀を持った、正々堂々とした人』ですね」
評価が百八十度回転してるのだが。
「何でそんな急に評価が上がったか聞いても?」
「先程の夜霧さんの話に共感したから……じゃ、ダメでしょうか?」
「………………」
――つまり、だ。美鈴は夜霧の弾幕ごっこに対するスタンスに共感してくれたらしい。そしてそれは、夜霧の人間性に対する評価の改変にまで繋がったと。
「でもそれと降参は関係ないだろ?」
「いいえ、関係大アリですよ。……まあ折角ですから、飛びながら」
そう言うと美鈴は夜霧に背を向け飛んで行く。その方向は紅魔館。そういえば戦闘中に幾らか離れていたのを思い出す。しかし普通に飛べばあっさり着いてしまうので、少しスピードは遅めに。
「まずですね。私の門番としての仕事は二つです。一つは門を守ることです。紅魔館に踏み入ろうとする不届き者を時に優しく、時に厳しく追い返すことです」
門番、紅美鈴。つまり夜霧は彼女から見れば客でも何でもなく不届き者だったわけだ。今の言葉だけで彼女が門番としてかなり優秀なことが伺える。
「……まあ」
「そんな度胸のある人中々来ないから寝ちゃうんですけどね!」なんて言わなければ。
「それでですね。二つ目は
「何だよそれ」
「ええっと……あの門ですけどね。実は、呼び鈴が付いてないんですよ」
ああそう言えば。あの門をまじまじと見たことはないけれど、確かに呼び鈴は付いてなかった気がする。――って違う、そうじゃ無くて。
「それ全く関係ないじゃん」
「ああ、言い方が悪かったですかね」
悪いと言うよりは全く的外れな気すらするが。
「要するにこの門を通るのにふさわしい人間かどうかを見極める役目だと思って貰えば結構ですよ」
「そう言えば分かりやすいのに。何でそんな喩えで言ったんだよ」
「いや……うちのお嬢様が私を門番にした時、『あなたは呼び鈴よ!』と言ってたのをつい思い出しまして」
「呼び鈴ねえ」
――どうやら『お嬢様』は、独特な感性を持ってるようだ。
「とにかく、その見極める方法は人それぞれなんですよ。例えば会話してみたり、例えば手合わせしてみたり……ええ、さっきの様に」
「その割には、俺の申し出をあっさり断ったじゃないか」
「まさかそっちから勝負を挑んでくるとは思いませんよ……」
『まさかそっちから』そう言ったくせには、美鈴の目に何故かうんざりした様な色。何かあったのだろうか。別に聞かないけれど。
「で? 俺は美鈴のお眼鏡に叶った……そう言う事で良いのか?」
「ええ。あなたが門を通ることを私、紅魔館門番の紅美鈴が許しましょう」
どうやら、美鈴との勝負は勝ったという結果が全てでは無いらしい。戦闘こそ中断されたが、美鈴が夜霧のことを認めた。それだけで美鈴との戦いは終わり。勝利していたのだ。
その理論で行くと、わざわざ戦闘をする理由だって無くなる気もするのだが、そういう訳では無いのだろう。と言うよりも、そんな発想が夜霧にはまず無い。
『まず戦え。後はその後わかるから』と言う考え方が身に染み付いているからだ。……言うまでもなく、師匠の影響。
門も通れて美鈴との仲も何とかなりそう……なんという僥倖。これ以上ないくらいに上手くいった。
――そう思った矢先、まだ困難は続く。
超スロー飛行の果てに、紅魔館に戻ってきた夜霧たちは門の前に降り立つ……その時だった。
「――え?」
隣にいたはずの美鈴がいない。そう思い夜霧が足元を見ると、そこには美鈴が倒れていた。
倒れていたのだ。――頭にナイフを刺して。
「あら、誰かしら?」
「――!」
おさげで凛美な銀髪。それに着こなして、よく似合ったメイド服。そして何故か両手に持った
「少し様子を見に来たら、誰もいないものですから」
そう言ってこちらを見るメイド。その視線は懐疑と興味が入り混じった好奇なもの。初めて見る人物に対して警戒しているのだろう。妥当な反応だ。 ……しかし夜霧は、向こうと違って
あの銀髪、あのナイフ……そしてあの
――完全で瀟洒な従者。十六夜咲夜。
「あなたは誰?」
「……霧雨夜霧。ただの魔法使いです」
ただ名乗る。多少ビビりながら。そう、忘れていたのだ。そういえば、よく美鈴に向けてナイフを投げてたことに。夜霧に投げたことは一度も無かったが、現在侵入者と客人の曖昧な境界というとても怪しい立場に夜霧はいる。ナイフを投げられても文句は言えまい。
「そう。なら霧雨くん――いえ、それだとあの白黒と同じだから、夜霧くんね。あなたはここに用でもあるのかしら?」
「ええ、ちょっと地下の大図書館に。そこの魔女さんに用があるんです」
ダメだ……気を抜いちゃいけない。油断したらすぐナイフが飛んで来そうで怖いから。
「…………」
くっそぅ! 美鈴、そこでピクピクしてないで早く起きてくれ!
「そう……で、あなたは今まで何をしてたのかしら? 美鈴」
本当に
「……え? あ、さ、咲夜さんっっっ!?」
「何よその反応。さあ美鈴、何があったのか洗いざらい話してもらいましょうかしらね?」
冷たい声色で話す咲夜。それにカタカタ震える美鈴はまるで哀れ小動物のよう。おまけに手元のナイフをチラつかせるものだからさらに怖い。見てるこっちがさらに怖い。
――それからは……美鈴が話して、咲夜が急かして、夜霧が見ているというおかしな状況が何分か続いた。たまにチラッと向く咲夜の視線に震えた回数は……十回を超えたあたりで数えるのをやめた。そして何度目かの震えの後。再び咲夜が夜霧に訊いてくる。
「つまり夜霧くん……あなたは美鈴が認めた御客様、というわけね」
「……まあ、そうなる」
「なら私もここ紅魔館のメイド長としてあなたを歓迎しなくてはね」
そう言った時だった。咲夜のどこか気さくで、ちょっとだけ恐ろしかった雰囲気は影を潜め、『完全で瀟洒な従者』な十六夜咲夜が、そこには居た。
「――ようこそ、紅魔館へ。私の名は十六夜咲夜。我が当主レミリア・スカーレットの名の下に客人、霧雨夜霧を歓迎しましょう」
すっかり日も暮れて、夕焼け時に鴉がなく頃。雲の切れ間にわずかに見える太陽は沈み始め、月は登り始めている。
「……はぁ」
――溜息混じりな夜が、始まろうとしていた。
◇◇◇
「……あ、」
誰かが門を通った。意識を研ぎ澄まして足音を聴いて見る。ずっと地下に居たせいで、やたらと外の音には敏感になった。だから少し集中すれば外の足音だって聴こえる。
この足音は……うん、咲夜だ。ブーツが奏でる、軽快かつ緩急のある音色。そして咲夜のリズミカルな足音。もう一人も……ブーツかな? でも歩き方は力強い……女じゃない。足音の間隔は……大きい。結構背の高い人、霊夢でも魔理沙でも、美鈴でも無い。
……じゃあ、誰? 私の知らない人ね。
「誰だろうなあ」
そんな疑問を口にして見るけど、きっと会うことは無いだろう。え、どうしてそう思うかって? ……当然のことよ。何故わざわざ地下に降りて来てまで気の狂った私と話そうと思うのさ。
だから私は今入って来た誰かと会うこともないだろう。……もしかしたら、また
「もしそうだったら、壊さないようにしないとね」
ええ、わかっているでしょう? 人間でも妖怪でも、壊されたら痛いんだ。だったら壊さない方がいいに決まってる。
「あ〜あ」
笑った。すごく何と無くだけど、意味なく笑った。
「あはははは」
この広くも狭くもない質素な部屋に笑い声は響く。――ごくごく虚しい。
床を一瞥。
「ごめんなさ、い?」
そんな私は笑ってる。あはあはあはは。自分で言うのもアレだし、もう何度も何度も言うのも飽きたけれど……。
「本当に私って、おかしいのね」
そう言う私の目は、濡れない。金輪際これまでもこれからも濡れることは無い。
「でも、なにか、何かの間違いでいいから」
そう、そんなものでもいいから。
「――泣きたいなあ」
くだらない矮小な願いと願望と羨望の果て、腐っても吸血鬼な狂ってる私が思うことは、そんなくだらないものだ。
妹様……うん。あと三話くらい待ってくれ。
美鈴との戦闘が終わった後の咲夜さん。夜霧くんからすれば知り合いとの再会なわけです。(夜霧くんから見れば、だが)ちなみに夜霧くん、紅魔勢以外との交流もちゃんとあります。その話はおいおい本編でも触れます。