夜に降った霧雨はまだ止まない   作:平丙凡

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この章の導入です。
多分これを読んで貰えばepisode.1で何をするかは大体わかってもらえるんじゃ無いでしょうか。





Episode.1『狂乱と慟哭の吸血鬼』
“哭す少女”のプロローグ


 あのスキマの世界に穴が開いて、視界が開けてくる。そこからだんだんと空間が裂けて、外界の景色が眼前に広がってくる。差し込んできた陽の光に思わず目を瞑ると、風が撫でるようにそっと頬に触れる。

 

 ――そこには、深い深い緑の森。

 

「あれ、ここって……」

 

 そこはどう見ても、魔法の森。俺が師匠と呼び慕った魔法使いと出会い、魔法の修行の日々を送ったあの森と全く同じ景色が、眼前には広がっている。……そう、まったく同じ景色。そこから導びかれたのは一つの疑問。

 

「――俺って本当に時間逆行(タイムスリップ)できてるのか?」

 

 その疑問を解決するには、身近に起こっている変化……具体的に言うと、一目でわかってしまうような変化があればいいのだが。

 右手には愛用の箒、ポケットの中には変わらずミニ八卦炉。見事なまでに何も変わっていない。先ほどまで持っていたものが欠けずにしっかりとある。しかも今この手に持っているこの箒……記憶が正しければ、スキマの中にこれらはもってきていないはずだったのだが。

 

 もしこれを丁寧に持たせてくれたのが紫だったとしたら、細かいところに気を配りすぎてもっと大事なことがあっただろうと言いたくなる。

 

 閑話休題。

 

 とにかく今の状況を把握しない限りは未来を変えるなんて夢のまた夢。出来ることも出来なくなる。

 そう思い、今この時間が本当に過去なのかを判断する一番簡単な目印を見に行くことにした。その場所とはズバリ、わが師匠である魔霧の住処であり、魔法の修行のために絶えず通ったオンボロ小屋のこと。

 

 本当にここが過去ならオンボロ小屋は無い、もしくはまだ綺麗な状態なはず……。そんな軽い気持ちで、そこへ向かったのだが。

 

 

「えっ、ちょっ……え?」

「――誰だお前?」

 

 あのオンボロ小屋の目の前。

 金の瞳の、白黒の洋服を着た少女がいた。

 

 ……白いエプロン、黒のドレスに大きな大きな三角帽を被った金色の髪に金色の瞳をした彼女が、そこにいた。ああ、まさか見間違えるはずがない。――あの特徴的な帽子を被った人なんて、他に誰がいるって言うんだよ! 

 

 あれは間違いなく過去の魔霧。……霧雨魔理沙だ。そんな意味のわからないこの状況を説明できるのは……ただ一つの、わかっているけどわかりたくはない、そんな現実。

 

 ――俺は、本当に過去の幻想郷にいるのだと。

 

「で。誰だよお前。初めて見る顔だな……魔法使いか?」

「な、なんでわかった!?」

 

 魔理沙の質問。と言うよりはすでに答え。なぜ? なんで俺が魔法使いだってわかる?

 

「いやだって、服装がな……」

「え?」

 

 自分の服装を改めて見ると……黒ずくめのローブに何故か所々白色の装飾がなされた、黒か白かはっきりしないデザインのローブ、極め付けとしては右手に持っている箒。それを客観的に見るとどうだろうか。

 

 ――それこそ、見ただけでわかるような魔法使いの格好。

 

 先程俺は彼女のことを内心で『わかりやすい服装をしている』などと評していたが……それはどうやら自分の方も同様だったらしい。……まあこの服装自体、師匠の物を意識してるから、自然とそうなっただけなのだが。

 

 しかし、俺の知る師匠よりもだいぶ幼い彼女は警戒を強めてどこからかミニ八卦炉――まだ俺のよりも随分と綺麗な――を取り出して、俺の方へ向ける。

 

 まあ、当然の反応だと思う。顔も知らない初対面の魔法使いが自分の家の前でうろついていたのだ。警戒しないわけがない。さてと……何か行動を起こさなければ。何と無くだが、このまま何もしないと状況がややこしくなっていくばかりな気がしてきた夜霧。

 

 それこそ、問答無用で撃たれたり。

それならば。そう思いついた夜霧の行動は――。

 

「はあ?」

 

 手に持っていたものを地面に落として――両手を挙げる。……先程までの戦い(師匠との勝負の時)には意地でもやりたくなかった、降参のポーズ。

 

「降参だよ、降参。確かに俺は魔法使いさ……でも俺は、別に君と戦おうなんて思っちゃいない」

「……それがその行動の根拠だってのか?」

 

 相変わらずミニ八卦炉を構えたままの魔理沙が訊く。

 

「ま、そうなるな」

 

 しかし、夜霧からすればこの行動が一番最善策なのだ。この状況に陥って、ここが過去の幻想郷だということはよくわかった。

 

 ――だったらここの住人、ましては未来を変える過程で一番重要な立ち位置にいるであろう師匠、霧雨魔理沙に喧嘩を売るメリットがあるのだろうか。……否、微塵たりともありはしない。むしろデメリットが多すぎて寒気すらしてくる。そんなくらいならば、降参して自分に『そんなつもりはないんだ』という意思表示をする方が何倍もマシだ。

 

「……大抵の連中は何も言わずに魔法ぶっ放して来たりするから、ちょっと拍子抜けだぜ」

「ちょっと殺伐としすぎじゃないかな。それ」

 

 やっとミニ八卦炉を下ろして、夜霧への警戒を解いてくれる。というか今の話ってなんだ。一瞬で幻想郷へのイメージが変わったぞ。

 

「まあそういう奴は私が返り討ちにしてやるんだがな」

「……出来るのか?」

「は? 当然だろ、そんなの」

 

 魔理沙は、『何を言っているんだお前は』、とでも言いたげな表情をして、胸を張り答える。

 

「あ、そうだ。お前の名前聞いて――」

 

 魔理沙が何かを言いかけた、その時だった。――獣の咆哮が、辺りに響いた。

 

「ウガァァァァァ!!!」

 

 低く唸り、辺りの小鳥が一斉に空へと逃げ喚くように飛び立つ。それほどまでに強烈に森の木々を揺らしに響いた轟音は――近くから聞こえてくるのか?

 

「……近いな」

「やっぱりそうか。なあ、どうするお前。このまま放っておいたら間違いなくこっちに来るだろうけど」

 

 そうやって夜霧の方を向いて飄々と言い放つ魔理沙。この近くに妖獣がいるような危機的状況だと言うのに、その声からは微塵も焦りを感じない。

 

 ……それを言うなら俺もあまり動揺はしていないのだけど。師匠にこの手の訓練はみっちり仕込まれた。ナニ、妖獣? そんな自分で状況を整理する知能も持たない下級妖怪風情がどうだというのだ……というのは師匠、魔霧の談。しかし魔理沙は「こっちに来る」と言っているのにもかかわらず、全くと言っていいほどにこの状況に動じてない。

 

 ――まるで、いつも通りの師匠の立ち振る舞いのような。

 

「こっちに来るんだろ? だったら選択肢は二つ。逃げるか、戦うかしかないだろう」

「ふーん、なんかおかしいな……私には、選択肢なんてないんだけどな」

 

 ……ほら見ろやっぱりだ。

 

 ――やっぱり彼女は未来も過去も、どこの時代のどこにいようと……師匠は師匠なんだ。夜霧は口角をあげ、彼女の確信と自信に満ちた表情を確認し、自らも強く、断言するように言い放つ。

 

「じゃあ安心していいぞ……俺も心の中では一択だから」

「お? それは奇遇だな」

 

 ――ちなみに、夜霧は別に戦うことが好きなわけじゃない。妖獣との戦いだって、修行の一環でしかなかったことだ。彼に妖獣への害意は全くない。妖獣も命あるもの。それをむやみやたらに殺すことはないだろうというのが夜霧の考えだが、はっきり言ってそんなことを言あるほどの余裕ある実力が夜霧にあるわけではない。……かとか言ってその『不殺主義』を掲げるかのような発言に、大した意味があるわけでもない。『出来ることなら戦いなんてしないほうがいいに決まっている』それが夜霧の考えだ。

 

 ――そう、少なくともそう本人は思っている。いや、考えないようにしている。というのが正しいのだろう。

 

 実際のところ、夜霧は心の奥の底で戦いを望んでいた。……現に、夜霧のポケットに入っている古ぼけた八卦炉が震えている。――持ち主(夜霧)の溢れて抑えきれていない戦意が、魔力という感じられるカタチになって八卦炉との共鳴反応を起こしているのだ。しかしそれを夜霧は頑なに認めようとはしない。魔霧に指摘された時にもだ。……自らの中で、「これ以上そう思ってはいけない」と、どこかで歯止めをかけているつもりなのだ。

 

 ――そしてそれは、魔理沙も同じ。いや違う。魔理沙は自分の好戦的な思考を自覚している。……この状況を、自分の魔法を試す絶好の相手が目の前に来たと以外に思っちゃいないのだ。

 

 両者が見つめ合う。一方は黒い瞳。全く動じず、平静を装っているが……その実、今にも暴れだしそうな自分の本能のような心を鎮めている。そして一方は金の瞳。森中に響き渡った咆哮の主を、今か今かと待ちわびる。――自らの研究成果を、妖獣という最高の実験台にぶっ放すのを楽しみにしているのだ。

 

 

 ――その瞬間、轟音が響いた。

 

 

 耳をつんざくような咆哮を上げながら、毛むくじゃらで鋭い眼光を持った獣のような妖獣が、木々の間を割って飛び出して来た。

 

「ガァァァァァ!!」

 

 ――その背中には尾が二本。大した力は持たない、だが人間一人を屠るのには過剰すぎる力を持った自我という自分の意思も持たずにただ本能のまま生きる下級妖獣。空腹に身を任せて、獲物を求めてこの森に入ってやっと見つけた獲物(人間)。しかも、二人だ。

 

 妖獣は大層喜んだ。――今日は大漁だと。

 

 ……しかし、相手が悪すぎた。

 

「なあ変なローブの男よ。私の答えとお前の答えを――()()に言ってみないか?」

「……いいよ、白黒の魔法使い。せーので言おう」

 

 二人は()()()()()。変なローブの魔法使いと白黒の魔法使いは、妖獣を前にして震えていた。そんな反応を見た妖獣は人間の恐怖を感じて、愉悦を感じて、ますます獰猛になる――はずなのに。

 

 なぜか妖獣も震えた。その理由を妖獣は知り得ない。なぜならそれは武者震いなどではなく、恐怖でもない。ただただ『この人間と戦うのはマズイ』という、本能からくる震えだったのだから。

 

 本能に従い動くこの妖獣は、脱兎のごとく逃げていく。――きっと理解したのだろう。ここにいたとしても食事どころでは無く……命が危ないと。

 

 しかし、もう遅い。二人が――潜在的戦闘狂と研究熱心な戦闘狂が――「せーの」と声を揃えて、自らのミニ八卦炉(必殺兵器)を掲げてその呪文を唱える。

 

 ――マスタースパーク!!

 

 そう。二人は震えていたのだ――戦いが始まるのを、今か今かと待ちわびて。そして、ほとんど同時に膨大な局地的魔力収縮が起きて……一斉放出がなされる。

 

 マスタースパーク。自らの魔力をミニ八卦炉と呼ばれる一山を軽く消し去る異常な火力を持った手のひらサイズの魔法媒体を利用して圧縮、そしてレーザーとして放射する文字通り一撃必殺。

 二つの八卦炉から繰り出された巨大なレーザーが、そのまま重なったそれを形容するのなら……砲撃。その全てを薙ぎ払い消し去る魔力の光は容赦なく辺りの木々を巻き込みながら、妖獣をまるで呆気なく消し飛ばしていく。

 

「ァァァァァァァ……!!」

 

 その妖獣の、断末魔さえかき消すほどの轟音とともに。……そうしてマスタースパークの一斉射殺が終わり、辺りを再び静寂が包んだ頃に……魔理沙は疑問に思う。

 

「なあ、お前……」

 

 ――どうしてこいつは私と同じ魔法を使ったのか、と。それだけじゃ無い。まだまだ疑問はたっぷりある。ざっと思いつくだけで何個でも。なぜお前はここにいたのか。お前のような魔法使いを私は一度も見たことが無いんだが、とか。その八卦炉はなんだ、とか。――ああ焦れったい! 気になったことはとりあえず聞く!

 

 でもそれを問おうとするその前に。

 

「あ、あれ?」

 

 ……いない。あの変な白黒ローブの男の姿は、すでに跡形もなく消えていた。

 

「ああもう……どういうことだよ?」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「あ、危なかった……!」

 

 魔法の森の上空、冷や汗を垂らしながら飛んでいるのは、霧雨夜霧だ。

 

 ……あのまま魔理沙のところにいたのなら、俺は絶対に正体を誤魔化せなくなっていた。賭けてもいい。もし仮に魔理沙に正体を説明するとしよう。もしかしたら未来から来たことは信じてもらえるかもしれない。だが『どうして同じ魔法を使えるんだ?』なんて聞かれたら詰み。……未来の貴女に師事しました、なんてことを言われたところで余計警戒されるだけだろう。

 

「師匠に怪しまれるようなことがあったら……もうそれだけでアウトだ」

 

 だから逃げた。魔理沙がちょっと目を離した隙に箒を手にとって全速力で飛び上がったのだ。おかげでバレずに済み、現在夜霧は魔法の森から離れてある場所に向かっている。

 

「やっぱり……紅魔館かな」

 

 湖に浮かぶ、小さな小島にそびえ立った悪魔が住まう赤い紅い館、紅魔館。さっきは『バレたら終わり』なんて言っていたが……やっぱり未来を変えるなんていう大事に協力者は欠かせない。そのために事情をわかってくれそうな人物に会いに行くことにする。

 

「そして、あの人しかいないよな……」

 

 ――動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジに。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ――彼女は、ただ一人救いを求めていた。

 

 

 一人、独り、ひとり、ヒトリ。誰もいないこの部屋でただ一人、数えるには気の遠くなる年月をここで過ごし過ぎた。泣き叫んで孤独を嘆いたことも、ここから出られないことに絶望したことも、何もかもがもう慣れた慣れた慣れた慣れた……。

 

 

 ――彼女は、根本的に壊れていた。

 

 

「アハ、ハ。ハハハハハハ……」

 

 

 ――何でも壊すことが出来て、何も許されなかった少女は、壊れていた。

 

 

 ……イヤ、それは訂正しよう。壊されていたのだ。まずは自らの能力に。何でも壊すその力が、自分の理性すらもコナゴナにしていってしまったのだ。

 

 

 何をどうしたって何も改善しない彼女のその状態を一言で表すのなら、狂気と言う名の袋小路に閉じ込められた少女、と言った具合か。

 

 何が彼女をそうさせてしまったのだろうか。それは自らの置かれた状況によるもの。次に自らが過ごした長い孤独の時によるもの。それらのことが、フランドールの(おのれ)を残酷に、確実に、着実と壊していったのだ。

 

 そんな彼女を憂う姉、レミリア・スカーレットとその従者、十六夜咲夜。……そして食客、魔法使いのパチュリー・ノーレッジ。

 

 三人は、紅魔館の一室のとある応接間に集合して、地下室に幽閉中の妹――フランドールの狂気に対する対抗策についての会議中だった。

 

 まず姉が切り出す。

「何とかしてフランを外に連れ出すことは出来ないのかしら」と。

 

 魔法使いは答えを返す。

「ダメね。現状フランの狂気に対する案が何もない。彼女の能力が暴走した際のリスクへのリカバリーは誰がするのよ、誰が。……とにかく今のままではどうにもならない。何か新しい打開策が必要ね」と。

 

 そして従者は「はっ」と思いついたような表情で姉と魔法使いの両者の方を向いて言う。

 

「それなら……妹様を私たちではない第三者と関わらせてみるのはどうでしょうか」

「ねえ、あなた正気? もし彼女の能力で破壊されたらいくら妖怪でも……」

「――パチュリー様、まずは()()()()を合わせてみるのです。判断はそれからでも……遅くはないのではないでしょうか?」

「咲夜、それ採用」

 

 ――それだよ、あの紅白と白黒ぶつけちゃおうぜ。

 

 そんな風に言って姉と魔法使いは準備を始めた……フランドールがあの二人組と弾幕ごっこをするための準備を。

 

 ――ちなみにこれは、彼女たちが起こした紅霧異変から一ヶ月も経たぬ日の話。

 

 そしてその三日後、主人レミリアに呼ばれた博麗の巫女と普通の魔法使いが、()()二人ともフランドールの部屋に迷い込んできて館を地盤から崩してしまうのでは思えるくらいに激しい弾幕ごっこを繰り広げていった。……もちろん、ただの偶然なわけがない。レミリアが自身の『運命を操る程度の能力』で運命を仕組んだのだ。

 そうした結果、効果は覿面(てきめん)だった。特にあの白黒の魔法使い……彼女との接触が大きかった。彼女はフランドールに、『外の世界』を教えた。

 

 未だ彼女が知らない、広い広い御伽噺のような広大な世界のことを。

 

 それはレミリアは大いに喜んだ。

「とうとう彼女も狂気から解放されるかもしれない」と。

 

 ――しかし彼女は知らなかったのだ。自分の妹の本質……と言うよりもフランドールとしての人格の在り方がとっくに壊れてしまっていたことを。

 

 そう、彼女は壊れている。それを一番理解しているのも彼女自身。何とかできるのも何とかするのも自分自身。だからどうなるもどうするも自分自身が決めること。……彼女はそれさえ許されていないのだが。

 

 ――ねえ、私は助けて欲しかった。四百九十五年の地獄の果てに、私は未だに何かを求めている。

 

 お姉様の優しさは知っている。彼女がどうにか私の狂気(こと)を直したいと思っているのも知っている。魔女の、パチェの努力も知っている。私の狂気(こと)を戻すため、日々自分の研究の合間にわざわざ考えてくれていることを。まだ見たこともない従者の……咲夜の献身も知っている。私が暴れまわって疲れ果てて眠った時、目覚めて最初に見るのは散らかっていたはずの部屋がいつの間にか綺麗になった光景だ。……そんな時、いつも思うのが「咲夜がやってくれたんだ」ってこと。

 

 

 みんなが……私のことを想ってくれているのを知っている。――でも、それでも、ダメなんだ。

 

 私は壊れている。……それも、根本から。

 

 こんな壊れた私を愛してくれる人たちを知っている。でも私が持ったこの力は、その愛をもいとも容易く壊すことができる。そんなことはしたく無い。でも私にはそれが出来てしまう。……してしまいそうなの。

 

 ――きっと私は、その気になれば狂気さえ抑え込んで外を自由に歩くことだって出来るんだろう。

 

 でもそれは解決では無い。だんだん一人でいるのに慣れてきたころ、気づいたんだ。この狂気は私にはどうにも出来ないことを。

 

 ――その能力は、壊すためのもの。ならばそれを持つ者の在り方も、壊すためのものであるべきなのだ。なのに私は、壊すことを嫌った。

 

 少女は一人、赤く塗りたくられた壁に向かって呟いた。

 

 ――ああ、誰か私をこんな世界から助けてほしい。

 

 誰か、私を、――助けてよ。

 

 

 紅い悪魔の妹は、いまも尚助けを乞い続ける。何もない、赤塗りの壁に向けて。

 

 

 Episode.1 『狂乱と慟哭の吸血鬼』

 

 

 

 

 

 




夜霧くんはチキン(確信)。
まあ魔理沙の夜霧くんへの警戒度が一定量になると未来を変えることは実質不可能になるので、この判断は最善だったりします。
次回は紅魔館編!

軽い次回予告。

――時を超え流れてきた星は、悪魔の住う紅き館へと流れ着く。

待ち構えるは華人小娘、虹彩の少女。紅美鈴。
不敵にそれに答えるは、未来の魔法使い。霧雨夜霧。

二人は向き合い、守る為、押し通るための戦いが、今始まる。

次回ッ、第七話! 『紅き門の呼び鈴』

――乞うご期待!

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