あー……まー……いや、前回、強制パジャマ状態だったから、こうなりそうな気はしていたんだが……
「だったら言ってよ!」
言えるか! 起きたら忘れちまうんだし。
「ともかく……うーん……やっぱり脱げないね、コレ」
眠った時点の服装がそのまま反映されて、固定されるみたいだな。
「仕方ないから、明日からは全裸で寝てね」
風邪引くわ!
「そのくらい気合で跳ね飛ばしなさい。私とヤリたくないの?」
ナニ言ってんのお前!?
「だって……少なくとも夢の中では私たち恋人同士なんだし……」
ま……まぁ……そうなんだよな……。この記憶を昼まで持ち越せたらいいのに。
「ホントに。覚えてないのに、気分だけザワついちゃって変な感じよ」
あんなに面倒だった入れ替わりが、何だか楽しみになってきてるもんな。三葉とやり取りするには、それしかないから。
「うん。これが瀧君の文字だー、ってメモを見ただけで浮かれちゃったりしてるもん」
俺も……まあ……ウン。
「あと、オナニーも激しくなったし」
そゆことゆーなって!
「何でよ。瀧君は私でオナニーしてないの?」
それはまぁ……その……三葉のことが気になって……つい……
「でしょ? 私だって、瀧君の身体が見たくて、やたらと全裸になったりしてるし」
……ちょっと待て。少し論点がズレてる気がするぞ。
「そう?」
相手を妄想して自分の身体でナニをしたか、って話じゃなかったか? それだと、俺の身体にイタズラしているように聞こえるんだが……
「ナニ言ってんの。相手の身体にナニをしたかに決まってるじゃない」
オイ! こっちには見るな触れるなと約束させておきながら!!
「え? 守る気あったの?」
信用ねぇなぁ……。だったら、最初からそんな約束させるなっての。
「約束はさせるわよ。女のコなんだから。でも、破ってるでしょ?」
破るような約束させて、何が楽しいんだよ。
「女のコだから、って言ってるじゃない。で、守ってないのよね?」
お……俺がそんな男に見えるのか?
「見える。とゆーか、男がそんな約束守るなんて端から思ってない」
……………………
「これは、瀧君が――なんて言うつもりはないの。男のコが女のコの身体になって、何もしないなんてあり得ないから。常識的に考えて」
手厳しいな……
「もし私に何もしてなかったら、涸れてるかホモかどっちかね」
自分の彼氏にもっと自信持てよ!
「冗談よ。本気で心配してるわけじゃないって。だから重要なのは、ナニをしたかであって……まさか、自撮りなんてしてないでしょうね?」
するかよ!? 流出したらヤバイだろ。
「懸命な判断に感謝するわ。あと……指入れは? 傷とかできたら怖いんだけど」
してねーって! 何なら起きてから自分で確かめてみろ!
「嫌よ。何で自分のそんなとこ覗かなきゃなんないの」
…………
「ま、何かあってもガッカリするのは瀧君だから構わないけど?」
三葉だって嫌じゃないか? 知らないうちになくなってるのは。
「まー……自分の指で済ませちゃいましたー、ってのはちょっと味気ないかもね。でも初めては痛いって聞くし…………あ」
オイ、もしかして……その痛みを俺が変わっといてくれれば……なんて考えてないだろーな?
「えっ!? うん……まあ……」
ちょっと味気ない、はどうした。
「軽く言わないでよね。男子のオナニーは楽だからって」
それは認める。女子と比べれば。
「というか、男ってイクの早すぎない? 自分でしてみてビックリしたわ。野生動物なの?」
むしろ、女のが時間かかりすぎなんだよ。しかも、力入れると痛くなるし。
「女のコはデリケートだからね」
ホント難しいよな。多分、女が一回イク間に、男なら三回はイケる。
「だからって、一緒の時は自分だけ先にイッたらたらダメだからね。私がイクまで我慢すること」
そうは言うけど、そもそもナカイキできるのか?
「知らないわよ。入れたことすらないんだから」
まあ、それもそうか。
「とはいえ、少なくともソコではイケるワケだから……イキそうになったら腰を止めて、クリクリ~って頑張ってくれればいいから」
ォ……ォゥ……
「……さすが、私の身体を隈なく観察しているだけはあるわね。女のコの秘密の場所なんだから、もう少し無知を装ってくれても良かったんだけど」
ス……スマン……
「まあ、気持ちはわかるけど。私も瀧君シコシコしながら、こんなの入れるの? ってドン引きしたもの」
イクのかヒクのかどっちかにしてくれ。
「ヒキながらイケるのよ。男は年中発情中でいつでも準備オッケー、みたいなもんなんだから」
ヒデェな。そこまでサカってないだろ。
「ううんっ、サカッてる! というか、何で毎朝立ってんの。瀧君寝る前に抜いてる? ……私で」
最後の付け足しはナンだ。
「あーっ! 他の女で抜いてたの!? 浮気よ浮気!」
無茶言うなっ! っつーか、最近はお前以外で抜いてねーっての!
「正直で宜しい」
まったく、ナニ言わせんだよ……
「勿論、私も瀧君に抱かれる妄想しかしてないからね、毎晩」
よく飽きないよな、お互い。
「同棲するようになったらどうなっちゃうのかしらねぇ……」
とはいえ、快眠には困らないだろうな。イッた後はよく眠れるし。
「だからこそ、一緒にイケた方が、一緒に眠れていいでしょ?」
な、なぁ……そこまで言うのなら、いっその事、実際に逢ってみたくならないか……?
「瀧君とは逢いたい。でも、エッチは夢の中でしたい」
そ、そうなのか……
「だって、夢の中なら諸々の心配もいらないでしょ? 安心して楽しめるもの」
確かに……そう言われると……
「だから、ちゃーんと寝る前には裸になっといてね! 私、楽しみにしてるから♪」
***
……この目覚めだけで何となく判ってしまう。今日は、三葉と入れ替わっているんだろうな、と。
どうやら俺は……彼女のことが好きになってしまったようだ。三葉の身体の中に入っている、と自覚しただけで、胸の動悸が収まらない。よくも、こんな精神状態で眠れたものである。
ただ……モヤモヤした想いをしていたのは俺だけではなかったようだ。これまでの取り決めが一つ緩和されたのは、その証左に違いない。
“お風呂とか入ってもいい。止めても無駄だろうから”
三葉のノートに、三葉の文字で書かれているのだから、そのとおりに受け取って良いのだろう。
止めても無駄――というのは少し癪だが、これで言い訳が立つこともある。
仮に裸で眠っていたとしても、それは風呂上がりだったから、と。
実際のところは、
彼女の裸を眺めながら、
彼女の身体を
その果てに、睡魔に負けてしまったとしても。
勝手に妙なことをしてしまって、三葉に悪い……とは思わない。
きっと、あっちも同じようなことをしているだろうから。
しているからこそ、このようなことを言い出したのだろうから。
ならば、今夜は楽しませてもらおう。
そしてそのまま眠りに落ちたなら――
夢の中でも三葉と逢えるかもしれない。