「第一回、君と私の夢会議~ パフパフドンドンドンパフパフ~! ……パフ」
こ……ここは一体どこなんだ……?
というか、何なんだこのノリ。
「……ああ、うん。自分でもこんな上手くいくとは思ってなかったからついテンション上がっちゃって……」
ということは、これはお前の差し金か、三葉。
「差し金、って失礼ね。これでも気を利かせてやったんだから」
……ほう? だったら話くらいは聞いてやろう。
「ナニを偉そうに……ま、いいケド。えーと……最初に言っとくけど、コレ、夢だから」
ああ、うん、それは何となく判る。いきなりこんな場所にパジャマで放り出されるなんて、どう考えてもおかしいからな。ここは、三葉が作った世界ってことか?
「まあね。実際は、祈祷に使った祭壇がベースになってて――」
繭五郎……だったか?
「よく知ってるわね」
口噛み酒を供えに行ったからな……辛かったぞ、あの山道。
「そっかぁ、ちょうどあの日に入れ替わってたのね。……助かったわ」
テメェ……
「あっ、そうそう! 私が作れたのは見えてる部分だけだから、山頂からは出ないでね。多分その先は断崖絶壁だろうし」
怖っ……で、何のためにこんなことを。
「あのねぇ……入れ替わることでしか意思の疎通が取れないってのは不便でしょ?」
入れ替わり自体が不便で仕方がねェ。
「身も蓋もないことゆーな。これでも巫女の力使ってアレコレ頑張ったんだから」
その結果が、就寝中の対話か。そういうことなら、もうひと頑張りして、入れ替わり自体を止められなかったのかよ。
「……ぅ、ま、まぁ……そこまでは色々難しくて……」
何とも中途半端だな……
「でも、こうして顔を合わせて話し合うのも悪くないでしょ?」
確かに、こういう場の方が決め事も捗るかもしれん。
「あ、でも夢だけに起きたら忘れちゃうから」
……ホント、意味ねェな……
「うるさい。ここで言いたいこと吐き出したら、目覚めもいいかもしれないでしょ」
でもさ、俺、結構言いたい放題書いちゃってるぞ。三葉は何か溜め込んでることあるのか?
「モチロン! えーと……んー……ほら……瀧君、バイト入れすぎ!」
それは、お前が無駄遣いしすぎるから――って、何度目だ、このやりとり。全然溜め込んでないぞ。
「だったら、そうねー……テッシーとあんまり仲良くしないで!」
それも何度も聞いてるっちゃー聞いてるんだが……いい機会だし、普段話してなかったこと、訊いていいか?
「何? あんま変なコトならスルーするけど」
てかさ、お前、テッシーとも友人なんだろ? 何でそんなとこ気にすんだよ。
「だって……入れ替わりから戻ってくると、サヤちんションボリしてるもの」
あー……どうやらあのコはテッシーのことが気になってるみたいだしな。
でも、重要なのはお前たちの気持ちだろ。
「は? それってどういう――」
ようするに、お前自身がテッシーのことをどう思ってるか、ってことだよ。
「そんなの、ただの友達に決まってるじゃない」
冷てェなぁ。試しに付き合ってみてもいいんじゃないか? 楽しくやっていけそうだし。
「サヤちんがいるのに、試しに……なんてできるワケないでしょ」
うーん、そうか? アイツいいヤツだし、何だかんだでこれまで通り三人で仲良くつるんでいけると思うんだが。
「……ねぇ、さっきから何で執拗に私とテッシーくっつけようとすんの? もしかして、瀧君自身が惚れ込んじゃったとか? ホモなの? いま話題の腐女子なの?」
性別まで転換するな。
別に自分の趣味がどうこうではなく……俺なら、お前の力になれると思ってな。
「何の。意味わかんないんだけど」
つまりだ、俺ならお前に彼氏を作ってやれる、ってことだ。
「……バカじゃないの」
バカってナンだ。実際、俺になった時のお前のモテっぷりは知ってるだろ。もし、テッシー以外に好きなヤツがいるなら、ソイツとくっつけてやってもいーぞ。
「瀧君には無理よ」
何だよ、そんなに高望みしてんのか?
「自惚れるな」
どっちが。
「……ハァ、もういい。夢だし。この際だから言わせてもらうわ」
オゥ、言っとけ言っとけ。
「私が好きなのは瀧君だから、テッシーとは付き合えないの。わかった?」
……?
…………。
………………!?
「ナニその反応。ビックリするわ」
驚いてんのはこっちだ。
「で、返事は?」
な……なんの……
「だから、私、瀧君のこと好き、って告ったんだけど」
ほ……本気で?
「こんなトコでウソ言ってどーすんの。ま、起きたら忘れちゃうから、瀧君も正直に言っちゃえば?」
軽いなぁ……お前。
「……これでも内心、恥ずかしくて死にそうだっての。もし断られたら、起きたとき訳もわからず泣いちゃうんだろうな、ってくらいには」
プレッシャー掛けんな!
「あ、だからといって、変に気を利かせて心にもないことで取り繕うのはやめてね。無駄に浮かれても、後で余計に沈むし」
……そ、その心配はねェよ。
「なら良かった。じゃあ、ちゃんと言葉で聞かせてくれる?」
も、もういいだろ。伝わったし。
「ダメ。私だってちゃんと言ったんだから」
あー……まあ、俺も、その、ずっと、そうだったらいいなー、とか、頭の隅で密かに考えたり考えなかったり――
「回りくどい。男らしく結論から入りなさい」
チクショウ……なら、言ってやる! 俺も三葉のことが好きだッ!
「あ……あぁ……ウン、ありがと。そのー……ホントに言われると、どう返していいか、ちょっと困っちゃうね」
俺の勇気を返せ!
「や、や、や、いやいや、本気で嬉しいんやよ!? やけど、嬉しすぎて……この気持ち、どうしたらええの!?」
と、言われても……
「じゃあ、瀧君はナニしたい? あ、でも変なこと言い出さんでね。私いま、とんでもなく浮かれてるから……多分、シちゃうと思う。アレでも」
ま、待て! いきなりそんなこと――
「相変わらずヘタレやね。夢なんやから無理矢理押し倒しちゃってもええのに」
そ、そんなことしたら、お前の目覚めが悪くなるだろ……
「ならんわよ」
…………
「ほらー……瀧君がまごついてるから時間切れ。そろそろ朝よ」
お、俺の所為なのか……?
「そうよ。こういうのは男から迫るもんなの」
かもしれないけど……
「ということで、今夜はもうおしまい。次はちゃんと襲ってもらうつもりで、もう一度夢で逢えるように頑張ってみるから」
じゃあ、もしまた上手くいったら……
「その時は、女のコに恥かかせないでね。それじゃ」
***
けたたましい電子音が鳴り響き、俺は微睡みから叩き起こされた。
さすがにもう慣れたもので、この和室を見れば、ここが糸守だということはすぐにわかる。
だが……
何だか今日は、目覚めがいい。
というか、むしろ落ち着かない。
妙に胸がざわつくというか……どうしたんだろうな、我ながら。
見慣れたはずの三葉の身体に、何故だか気分が高揚してくる。
もしかすると、変な夢でも見ていたのかもしれない。
三葉で変な夢……それはマズイな。いくら――だからといって。
無意識下なんて制御できるものでもないが……今後はなるべく、夢には出てこないで欲しい。
妙な妄想を繰り広げていると、次こそはマズイことになりそうだから。