「たっだいま~」
「ただいま、ラフィ?」
二人は家に入ると、ライフィセットが机の上で慌てて何かを隠す素振りをみせると、椅子に座ったまま、慌てて振り向いた。
「・・・・・・お帰り、二人とも」
「ラフィ!寝てなさいって言ったのに!」
「ちょっとだけだってば」
ベルベットはライフィセットに怒鳴ると、そのままおでこをつけた。
「ほら、熱下がってない!すぐご飯の支度するから横になりなさい」
「・・・・ごめんなさい」
「ライフィセット、こんな時間になにしてたんだ?」
「あ、うん!これなんだけど」
ライフィセットは机の上で書いていたものを二人に見せた。
「なにこれ?」
「羅針盤!磁石を利用して方向がわかる道具なんだ」
「そんなの、太陽や星を見ればいいじゃない」
「バカだなぁ、ベルは、それじゃあ天気が悪かったらわからんじゃないか。そのための羅針盤だろ、なぁライフィセット」
「なんでアンタが知ったかぶってんのよ」
カインは得意気にそういうと、ベルベットは顔をひきつらせながら、カインの方を睨んだ。
「うん、そんなんだ、そこがこの羅針盤のすごい所で、これがあれば長い航海でも可能になったんだ」
ライフィセットは紙に書いた羅針盤を指差しながら、楽しそうに熱弁した。
「ほら、船が揺れても正確に測れるように、ここが動いて水平を保つようになってるんだよ!すごいでしょ!」
「・・・・さっぱり、わかんない」
ベルベットはあまりこういうことにはあまり興味がないようで、ライフィセットの言っていることの凄さがあまりわかってないようだった。
それに対してカインはうんうんと頷きながらライフィセットの話を聞いていた。どうやら彼はライフィセットと同じ気持ちだったようだ。
「冒険の必須アイテムだよ?なんでわかんないかなー・・・・」
「ベルベットには男のロマンというのが分かってないみたいだな」
「はいはい、分かったから、ライフィセットはこっち」
そういうとベルベットはライフィセットをベットの方へ誘導した。
「二人ともケガしなかった?」
「ああ、むしろ大猟だったぜ」
カインは自信満々にライフィセットに自慢気に話した。
「そろそろ俺も免許皆伝じゃないかな。何せ俺は義兄さんの一番弟子だからな」
「いつからアンタが一番弟子になったのよ、あたしだって相当強くなったんだから。いっとくけどね狩りならあたしのほうが大猟だったんだから」
「強さの証は量より質だから」
「なによ、それ」
二人はどっちが一番弟子かいい争っているが、どこか楽しそうにしていた。ライフィセットはそんな二人を見てクスクスと笑うと、二人は照れくさそうに顔をそむけた。
「そ、そうそうアーサー義兄さんだけど、今日はもう帰らないらしいぜ。何か用があるらしいから」
「うん、知ってる。シアリーズに聞いた」
「義兄さんの聖隷・・・・」
(・・・・・・シアリーズ、来てたのか)
ライフィセットにはカインやアーサーと同じく高い霊応力を持っており、聖隷の姿を認識することができた。
「あんた、本当に聖隷の声が聞こえるのね」
「うん、対魔士の才能なんだって」
ベルベットはベットに座っているライフィセットの隣に座り込むと、優しい表情をしながら言った。
「あんたなら、義兄さんに負けない対魔士になれるかもね」
「おいおい、俺だっているのも忘れるなよな」
「アンタは無理」
「即答!?」
「あはは・・・・」
「・・・・そうなりたい、お姉ちゃんやお義兄ちゃんと一緒に旅をして、不思議なものをたくさん見たい」
ライフィセットは病気が治ったらしたいこと、やりたいことを二人に話始めた。
「狩りだって薪集めだって、僕がやるし、業魔が来たって守ってあげる」
(ライフィセット・・・・)
カインはライフィセットの病気のことは詳しくは知らなかった。ただ定期的に熱を出したり、寝込むことがあった。ここ最近は特にひどくなり、ベットから出られないということもあった。こんな話をしたのはそんな自分の状態を察したせいなのかもしれない。
「そうしたい・・・・だけど」
そんなライフィセットをベルベットが優しく抱き寄せた。
「なってくれなきゃ困るよ、ライフィセット」
「そうだな、きっとなれるさ、ライフィセットなら」
二人は信じていた。いつかライフィセットの病気が治り、家族四人で毎日を過ごせることを。そして、世界を一緒に見られることを。
「あと二十年後くらいで」
「そんなにかからない!」
ベルセリアがそう茶化すと、ライフィセット頬を膨らませながら、反抗した。
「じゃあ、しっかりしてることを証明して」
ライフィセットをベットに寝かせ、ライフィセットにちゃんと薬を飲むように言うと、ベルベットは夕飯の支度をするためにキッチンに向かっていった。
「俺も手伝おうか?」
「いいわよ、あんたはラフィについてやって」
ベルベットはカインにそういうとすぐに料理の支度を始めた。
「分かった、なんかあったら言えよ」
「うん、ありがとう」
「お義兄ちゃんはお姉ちゃんのこと好きなんだよね?」
「なんだよ、いきなり」
今日は二回も同じことを聞かれるとは。そんなに自分はわかりやすいだろうか。
「お姉ちゃんってあんまり素直じゃないから、僕も心配になっちゃうんだよね」
「ま、確かにそうかもな」
ライフィセットは少し暗い表情になりながら、話始めた。
「でも、それも僕に気を使っているせいなんだよね」
「ライフィセット・・・・」
ライフィセットも気づいていた。カインとベルベットがお互いに想っているということも。それが自分のせいで妨げになっていると感じていた。
「お義兄ちゃん、もし自分がいなくなったら、お姉ちゃんのこと幸せにしてあげてね」
真剣な顔でカインに向き合いながら言った。
ライフィセットはまるでもうすぐ死んでしまうかのような言い方をしてきた。
「冗談でもそんな遺言みたいな言い方をするな、お前はいなくなったりしない」
カインはそんなライフィセットの様子がひどく心配になり、ライフィセットの手を強く握りながら言った。
「俺もベルベットもお前がいなくちゃ、幸せになんてなれない」
「お義兄ちゃん・・・・」
「俺の夢は家族皆で世界を見ることなんだ。ライフィセットだって同じだろ?」
カインは自分の夢がライフィセットの同じく、皆で世界をみて回ることだった。カインもよくアーサー義兄さんの本を見て、まだ見ぬ世界に心踊らせていた。ライフィセットと同じように。
「だからさ、俺に夢を叶えさせてくれよ」
「・・・・うん、ありがとう・・・・お義兄ちゃん」
するとカインは急に立ち上がって自分の部屋から、一冊の本を持ってきた。
「これは?」
「昨日村の外から来たのを手に入れたんだが、これには恐らく、オメガエリクシールについて記述された古代書だ」
「えっ!それって」
オメガエリクシール―どんな病や傷も治すことができるという、伝説の秘薬とされている。
かつては存在していたらしいが、現在はその製造方も失われてしまったとされていた。
「まだ解読しきれてないが、もしこの製造方がわかれば、お前の病気も治せるかもしれない」
「・・・・そうなんだ、治せるんだね・・・・」
「あぁ、まだ希望は残ってる。だから、お前も諦めるな」
「・・・・うん」
ライフィセットは少し元気のない返事をしながら、頷いた。治せるかもしれないというのに、何故かあまり嬉しそうな様子を見せなかった。やはりまだ半信半疑なのだろうか。
「カイ!ラフィ!夕飯できたわよ~!」
部屋の外からベルベットの声が響いてきた。
「ああ!今行く!」
カインはライフィセットと一緒に行こうとすると
「ごめん、先にいってて。僕なら大丈夫だから」
「そうか?あまり無理するなよ」
「うん、ありがとう」
カインはそのまま部屋から出ていくと、一人になったライフィセットはベットに俯きながら、苦い表情をしていた。
「・・・・・・ごめんね」
ライフィセットはそうポツンと呟くと、ベットから立ち上がり、部屋をあとにした。