ベルベットはカインより一足先に村へ戻っていた。
(カイ・・・・置いてきちゃったけど、大丈夫かな?)
ベルベットは森に置いてきてしまったカインのことを考えていた。
カインがあの時言おうとしていた言葉、それがずっとベルベットの頭のなかにあった。
(カイは、あたしのことが・・・・)
カインが自分のことをそんな風に見てくれていたことが嬉しいという気持ちがベルベットにはあった。
自分もカインと一緒に暮らしていく中で彼にたいする気持ちが変わっていくのを感じていた。
(あたしは・・・カイと・・・・どうなりたいんだろ)
カインとはずっと家族として一緒に暮らしていたし、これからもずっと続くものだと思っていた。
けど、もしも私とカインがそう言う関係になったらと思うと、今までのような家族にはなれないかもしれない。
そんな気持ちがしていた。
なにより、自分たちが一緒になったら、ライフィセットはどうなるのだろう。自分が弟のそばを離れたらあの子に淋しい思いをさせてしまうのではないか。
それが一番の心配だった。
「・・・・ベット・・・・ベルベット!」
「うぇ!?な、何!?」
などと考え込んでいると背後から自分を呼び掛ける声が聞こえたので、ベルベットはすっとんきょうな声をあげて振り向くと、そこには赤みがかかった茶髪をツインテールにした少女―ニコが立っていた。
「どうしたのよ?ボーっとして」
「う、ううん、なんでもない!」
ベルベットはあわてて首を横にふった。
「ふ~ん」
「な、何よ」
するとニコは意地悪そうにこちらをみていた。
「もしかして、カインのこと考えてたでしょ」
「な、なんでわかっ・・・・はっ!」
図星をつかれてついベルベットもなんでわかったのかと口にだそうとし、あわてて両手で口を覆った。
「あはは!だって分かりやすいんだもの。ベルベットは」
「うぅ・・・・」
そんなに顔に出てただろうか。急に恥ずかしさが込み上げてきて、頬が熱くなるのを感じた。
「何かあったの?カインと」
「うん、ちょっとね・・・・」
「よかったら、話、聞こうか?」
ニコが心配そうにベルベットに訪ねた。
ベルベットもまだ自分の気持ちの整理がついておらず、ニコにならどうすべきかがわかるかもしれない。
そう思いニコに何があったか話すことにした。
「ふーん、そっか。カインが・・・・」
「どうしたらいいと思う?」
「あんたはどうしたいの?」
「あたしは・・・あたしにはラフィがいるし、あの子を一人になんてできない」
ベルベットは顔を俯きながら答えた。
「はぁ~あんたは、そんなことで悩んでたの?」
「そ、そんなことって何よ!」
「だいたい、何であんたとカインが一緒になったら、ライフィセットが一人になるのよ?」
「だ、だって、それは」
あたしがカインと一緒になったら、きっとあたしはカインの側を離れなくなる。もしそうなったら、ラフィの側にいられないかもしれない。そうベルベットは考えているのだ。
「いい、ベルベット」
ニコはベルベットの両肩をグッとつかみ、ちゃんと目を見つめて言った。
「あんたたちは家族。例えあんたとカインが一緒になっても離ればなれになるわけじゃない。」
「ニコ・・・・」
「それともあんたたち家族は、そんなことで壊れてしまうようなものだったの?」
「そんなこと・・・・!」
「でしょ?だから、きっと、大丈夫」
ニコは笑いながらそういった。
「だから、あんたも自分に正直にね」
「うん・・・・ありがとね・・・・ニコ」
ベルベットは微笑みながら、ニコにお礼をいった。
そうだ、あたしたち家族はそんなことで崩れたりしない、あたしもカイをラフィもアーサー義兄さんも皆大切な家族。なにがあっても壊れたりなんかしない。
ベルベットは自分の胸に手を当てながらそう心に刻んだ。
「なにが正直なんだ?」
「「うひゃう!」」
突然横からカインが現れ、その不意討ちに二人ともが変な声を上げながらはねあがった。
「な、何だよ!こっちまでビックリするとこだろうが!」
「カイン!あ、あんた、いつからそこに?」
「もしかして、さっきの話聞いてた?」
ニコとベルベットがさっきの話を聞かれたのかと思いカインに聞いてみると
「自分に正直にねってとこからだ」
どうやら最後の所しか聞いていなかったようだ。それを聞き、二人ともホッと安心していた。
「なんの話だったんだ?」
ベルベットとニコはふふふと笑うと満面の笑みでカインに向き合うと
「「なーいしょ!」」
「なんだそりゃ」
「そう言えば、ニコは食料の買い出し?」
ベルベットはニコにそう訪ねた。
「そ、そっちは狩りの帰り?」
「あぁ!大猟だった!」
カインは自信満々にそう言った。
「頼もしいね~、将来いい旦那になるんじゃない?ね、ベルベット」
「ちょ、ニコ!」
ニコは茶化すようにベルベットのことをこつくと、ベルベットも顔を赤くしていた。
「なによ、まんざらでもないくせに」
「茶化さないでよ、まったく」
するとニコがベルベットの側までいき耳打ちをしてきた。
(なに言ってるのよ、お互い好き同士ならこれくらいいかないと)
(だからって、いきすぎでしょ!)
二人がこそこそやっていると、カインがそんな二人のやりとりが気になって話にわって入った。
「なに話してるんだ?」
「いや、なんにも!ベルベットがまんざらでもないってさ!」
「はぁ!?そんなこと言ってないでしょ!あんたも見てないでビシッといってやって!」
「ビシッと?」
「そうよ」
「まんざらでもない」
カインは真顔でベルベットに向かって言った。それを聞いたベルベットは顔がトマトのように赤くなっていった。
「あ、あああんたまで、なにいってんのよ!」
ベルベットは思いきりカインの腹を蹴り飛ばし、その様子をニコはニヤニヤしながら眺めていた。