テイルズオブベルセリア 自由の代償   作:カウボーイ

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9話

―お義兄ちゃん、お姉ちゃんのこと、幸せにしてあげてね―

 

 

ライフィセット・・・・何を・・・・

 

 

―ごめんね―

 

 

 

 

 

「はっ!?・・・・ここは?」

 

カインは何処かの薄暗い場所で目が覚めた。

辺りを見渡してみても、暗くてうまく把握出来なかったが洞窟の中にいるということはわかった。

 

「どうして、こんなところに?」

 

よく目を凝らしてみると先に道が続いていた。風の音が聞こえてくるので、もしかしたら外に出られるかもしれない。

 

(早くベルとライフィセットの無事を確かめないと)

 

カインは外に通じているであろう道を走っていった。

 

しばらく行くと光が見えており、やはり外に通じていたみたいだった。カインがそのまま外に出ようとしたときだった。

 

「ぐっ!何だ?」

 

何か見えない壁のようなもので外に通じている出口を塞いでいた。

 

「これは・・・・まさか聖隷術?」

 

何故こんなものが洞窟の出口にかけられているか分からなかったが、明らかに自分を出さないために仕掛けられた仕掛けられたものだとわかった。そしてこれをかけた術者も容易に予想できた。

 

「まさか、義兄さんが?」

 

いや、そんなはずない。何故義兄さんが俺を?

だが、直感的に分かってしまうのだ、いつも義兄さんの力を毎日見ていたカインには。

 

「だが、今は・・・・!」

ここを抜け出すことに集中する・・・・!

 

カインは聖剣を出し、霊力を込めて思いきり壁に向けて剣を降り下ろした。

 

「光波刃!」

 

カインの術技によって壁はコナゴナに吹き飛ばされた。

 

「はぁはぁ・・・・やっぱり、術技使うとキツいな・・・・」

 

カインは体力を消耗しながらも、なんとか洞窟の外に出た。外に出てみると、もうすでに夜になっていた。

 

「なんだ?夜にしては明るいが・・・・」

 

カインは月の光によって周りが明るくなっているのに気づき、空を見上げると―

 

「な・・・・!?あれは・・・・!?」

 

赤い月が世界を照らしていた。

 

「まさか・・・・緋の夜?なんで・・・・?」

 

またあれが始まってしまうのか、あの悪夢が・・・・!

カインは胸騒ぎを感じ急いで村の方へ走って行った。

 

 

 

 

 

「なっ・・・・これは・・・・!?」

 

村はまさに地獄と化していた。辺りは真っ赤に染まり、死体が散乱し、異形の化け物が村を蹂躙していた。

 

「なぜ、こんなにも業魔が!?」

 

わけもわからずカインは村の中を駆け抜けた。

カインは走りながら考えていた。何故こんなにも業魔が溢れたのか、昼間には予兆すらなかったのに。

考えられるとしたら、この「緋の夜」が関係しているのは間違いない。そして業魔は元は人間、だとしたら

 

(まさかこの業魔たちは・・・・!)

 

「グルル!」

 

「!」

 

頭上から業魔が落ちてきてカインの行く手を遮ってきた。目の前にいる業魔はおそらく村の人間だ。何故業魔になったかはわからないが、殺すわけにはいかない。

 

「なら、ここは逃げの一手!」

 

カインは聖剣を出し、目の前の業魔を衝撃波で吹き飛ばした。業魔が態勢を崩した隙に一気に駆け抜けた。

 

「ライフィセット、ベル、ニコ・・・!皆どうか無事に・・・・!」

 

カインは村の中を駆け抜けながら、一人でも無事な人を探したが、一人も無事な人間はいなかった。そして3人の姿も何処にもなかった。

 

(死体がどこにもないってことは、3人は無事ってことだ。大丈夫、諦めるな)

 

カインはそう自分にそう言い聞かせながら、探し回った。カインはまず、自分の家に急いで向かった。もしかしたらまだ家にいるかもしれないと思ったからだ。

 

「ベル!ライフィセット!」

 

カインは家に入り、二人を探したが何処にもいなかった。やはりもう何処かへ逃げたのかもしれない。

 

(もしかしたら、二人も業魔に・・・・)

 

変わっているかもしれない。

そんな最悪なことが頭をよぎった。

 

(駄目だ!そんなことを考えるな!諦めるな、まだ希望はあるはずだ!)

 

考えろ、いるとしたら何処だ。あの時、前の「緋の夜」の時はどう逃げた。

 

「村のはずれ・・・・岬か?」

 

逃げるとしたらあそこしかない。カインはそこに皆がいる可能性をかけ、すぐに岬へ向かった。

 

 

 

「はぁはぁ・・・・!!」

 

カインは森の中を駆け抜けていた。何体もの業魔を追い払いながら、岬の方角へ一直線に走っていた。

カインは既に霊応力を過剰に使っているせいで満身創痍だった。業魔を殺さず、追い払うだけにとどめているので余計に体力を、消耗していた。

 

「あと少し・・・・!もう少しで岬だ・・・・!」

 

きっとそこにいる!あいつらならきっと無事だ!

 

カインは諦めずに岬に向かった。そして森を抜け、岬に入った瞬間、満身創痍だったカインはその場で膝をついた。そして顔を上げると目の前にあったのは―

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・え・・・・・・?」

 

 

 

倒れ付しているベルベットと、ライフィセットの体を貫くアーサーの姿だった。

 

 

 

「義兄・・・さん・・・・?」

 

訳が分からなかった、何故こんなことになっているのか。何故ベルベットはシアリーズによって拘束されているのか。何故アーサーはライフィセットを刺しているのか。

アーサーはそのまま刺し貫いているライフィセットを祠の穴の中へ落とそうした。

 

「なっ!待て・・・・!ぐっ!」

 

カインは立ち上がろうとするも、すでに体は限界に近かく、そのまま地面に倒れてしまった。

 

(くそっ!体がもう!)

 

「あああああ~~~っ!!!」

 

ベルベットは無理やりシアリーズの拘束を引き剥がし、二人の所へ走っていった。

ライフィセットが穴の中へ落ちる瞬間にベルベットがギリギリの所へライフィセットの手を掴んだが、ベルベットも穴の中へ落ちようとしていた。片手でライフィセット手を掴み、もう一方の手でなんとか崖の所を掴んでいる状態だった。

 

「ベル・・・・!」

 

カインは立ち上がろうと、力を込めるがやはり体は動かなかった。

 

(くそ!!くそ!!動けよ!今動かないといけないんだ!今動かなきゃダメなのに!)

 

「放しなさい。"それ"は世界への捧げものだ」

 

アーサーは別人のような冷たい目でベルベットを見下ろしていた。まるで今までのアーサーが嘘のように。

 

「なんで・・・・!」

 

ベルベットはぶら下がった状態でアーサーのことを睨んだ。

何故こんなことを。なんで私たちを。ベルベットには目の前にいるのが自分の慕っていたアーサーには見えなかった。別人のようにアーサーは冷たい声でベルベットにいいはなった。

 

「もう絶対に助からない」

 

「うそだうそだうそだぁぁっ!!!」

 

嘘に決まってる。義兄さんがこんなのことをするはずがない。ライフィセットが死ぬはずなんかない。この状況のなにもかも嘘に決まってる。

 

「・・・・そうか。やはりお前は」

 

アーサーはゆっくりと剣をベルベットに向け―

 

「!!やめろぉぉ!!アーサー!!」

 

「感情に従うのだな」

 

 

ベルベットの腕を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

ベルベットとライフィセットはそのまま穴の中へ落ちていった。落ちる瞬間、ベルベットの目は苦悶と絶望の目をアーサーに向け、そんなアーサーの目は落ちていく二人をただ冷たい目で見下ろしていた。

 

 

 

「ああああ~~!!!」

 

カインは最後の力を振り絞り立ち上がろうとおきあがったが、背後から手で頭をわしづかみにされ、地面に押さえつけられた。

 

「うぐっ!」

 

「大人しくしていろ」

 

カインは自分の体を押さえつけている、男を睨んだ。そいつは茶色い分厚いローブを身に纏っており人相や体格は把握出来なかったが、声からして男のようだった。

 

「放せぇぇ!!」

 

カインはなんとか抜け出そうするが、すごい力で押さえつけられてびくともしなかった。

 

「そこで見ているといい、愛するものが失われていく様をな」

 

「ぐぅ!」

 

すると穴の中から光が現れ、黄金に輝く龍が天に昇っていった。

 

「これは・・・・あの時と同じ・・・・!」

 

そして、龍に突き上げられたようにベルベットが穴の中から現れ、地面に叩きつけられた。

 

「ベル!・・・・うっ!」

 

カインは急に胸に熱を感じ始めた。あの時と同じ感覚だった。あの時も急に胸が熱くなって―

 

「始まったな」

 

ローブの男がそう呟いたあと、ベルベットの方を見ると、ベルベットにも変化があった。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

「べ・・・・ル・・・・?」

 

ベルベットの左腕には禍々しいほどの黒い腕がついていた。まるで獣のような大きく、そしてベルベットの怒りや憎しみがそのまま具現化したようだった。

 

「・・・・・・・・」

 

そんなベルベットをアーサーは黙って見つめていた。

すると周りに業魔が群がり始め、二人の周りを囲んでいた。

 

「ま・・・・ずい」

 

カインは今も襲ってくる胸の痛みに耐えながら、二人を見ていた。こんな時に自分はなにもできない。カインは歯を血が出るまでくいしばりながらなんとかここを抜け出そうとしていた。

 

すると業魔の一体がベルベットに飛びかかってきた。

 

「ベル!」

 

ベルベットはその黒い腕で業魔の頭をわしづかみにするとそのまま地面に叩きつけた。

 

「ふうううっ!!」

 

すると業魔がベルベットの腕に吸い込まれていった。

 

「あれは・・・・?」

 

「やはり"喰魔"か」

 

ローブの男から聞きなれない言葉が聞こえてきた。この男はあの力のことを知っているようだった。

 

「"喰魔"?」

 

「"彼の主"の力の一部を宿したものだ、命を喰らう力をな」

 

"彼の主"?何だ?どこかできいたような・・・・?

 

「ようするに・・・・"あれ"も化け物だよ」

 

カインはベルベットのことを化け物と呼んだこの男の言葉に怒りを感じた。カインは男の言葉を否定した。

 

「ベルは化け物なんかじゃない・・・・!」

 

「そうか?ならあれを見ろ」

 

男がベルベットの方へ顔をむけ、カインもそれにつられて見た。

 

「うおおおお~~!!」

 

ベルベットは業魔をそのその禍々しい腕で切り裂いていた。憎しみのままに、ただ殺していた。獣のように、その身を血で真っ赤に染めながら。

 

「ベル・・・・」

 

「なんで殺した!」

 

「あの子の血がこんなに・・・・!」

 

「なぜなぜなぜぇぇぇ!」

 

一方的だった。

 

「ライフィセットが!ラフィが!」

 

「何をしたって!!」

 

「どけぇぇぇっ!」

 

ただ目の前の男を殺すために、憎しみのあまりベルベットは殺しつづけた。

 

 

ようやく全ての業魔を殺し終えたベルベットは、その牙を今度はアーサーに向けようとしていた。

 

「周りを見てみろ」

 

アーサーがそう言うと、ベルベットは周りを見渡してみた。

 

「!!」

 

そこには村の人達の死体があった。

 

「人間に・・・・戻ったのか・・・・!」

 

さっきまで戦っていたのは、村の住人だったのだ。そしてそこには変わり果てたニコの姿もあった。

 

「あ・・・・あ・・・・」

 

ベルベットは自分が殺したのが村の人達だと知り、茫然自失となり立ち尽くしていた。

 

「村に業魔病が広がったのだ。だが、案ずるな。この痛みは、私がー」

 

「うあああ~~っ!!」

 

ベルベットは怒りのままにアーサーに向かっていった。

 

「よせっ・・・・!ベル!」

 

カインの言葉はベルベットに届くことなく、ベルベットはアーサーに斬りかかった。

 

「対魔士アルトリウス・コールブランドがとめる」

 

「ぐあっ!」

 

ベルベットは炎の壁によって勢いよく吹き飛ばされ、叩きつけられた。

すると、アーサーの隣から女性が出現した。

 

「シアリーズ・・・・!」

 

周りに何体もの聖隷が出現し始め、ベルベットの周囲を取り囲んだ。

アーサーがベルベットの所へ近づき見下ろしながらいった。

 

「『鳥がなぜ空を飛ぶか?』これが俺の答えなんだよ、ベルベット」

 

アーサーは剣を再びベルベットへ向けた。

 

「やめろ・・・・」

 

カインは体に力を振り絞り拘束をとこうとした。

 

「よせ、大人しく―」

 

ピリッとカインの体に電気がはしったように、変化がおき始めた。

 

「やめろぉぉ!!」

 

「!!」

 

カインはローブの男を霊応力で吹き飛ばした。

男はアーサーの隣に飛び、移動した。

 

「これは・・・・」

 

「カ・・・イ・・・・?」

 

アーサーは興味深そうにカインの変化を見ており、ベルベットも満身創痍の状態になりながらもカインの方をみていた。

 

「やはりな、"彼の主"がきっかけだったか」

 

ローブの男は予想通りだと言わんばかりの様子だった。

カインは今までとは比べものにならないほどの霊応力を宿しており、体から出ている霊力が視認できるほどだった。そしてカインの腕には先程までにはなかった刻印が刻まれていた。

 

「そうか・・・あれが・・・」

 

「あぁ、"カインの刻印"だ」

 

カインはベルベットの前に立ち、アーサーに剣をむけた。

 

「お前らは・・・・絶対に許さねぇ」

 

「そうか・・・・やはり、お前も感情で動くか」

 

「光波―」

 

カインは剣を構えながら、剣に霊力を込めると一瞬で間合いを詰め―

 

「刃!」

 

アルトリウスに剣を降り下ろすが、その剣をローブの男が押さえ込んでいた。

 

「邪魔だ!」

 

「悪いが、この男を殺らせるわけにはいかないんだ」

 

二人は一度距離を取り、再び構えた。

 

「ライトニング」

 

ローブの男は掌から電撃をカインにむけて放った。

 

(こいつ!後ろにベルがいるのも見越して!)

 

カインは避けられずにその身で攻撃を防いだ。

 

「くっ!」

 

「カイ!」

 

ベルベットが叫んだ、自分のせいでカイが傷ついてしまったことを気にしたのだろう。

 

「大丈夫だ!」

 

「いや、そうでもないさ」

 

ローブの男は一瞬でカインの背後にまわっていた。

 

(なっ!?いつのまに―)

 

「獅子戦吼」

 

カインはものすごい衝撃を真横に食らわされ、そのまま壁に突っ込んでいった。

 

「ぐはっ!」

 

「やはり覚醒したばかりではこの程度か」

 

「くっ!この―」

 

カインは立ち上がり反撃しようとするも、またすぐ目の前に男が現れ、カインの肩に触れた。

 

「ジャッジメント」

 

体に直接雷光を流しこまれ、カインはそのまま膝をついた。

 

「がぁぁぁっ!!」

 

「まだ足りないようだな、そうだな・・・・目の前でもう一度大切なモノを失えばわかるか」

 

ローブの男は手にカインとは異なる剣を出現させ、ベルベットの方へ向かっていった。

 

「よせ!」

 

ベルベットの体は先程の戦いで身動きが取れない状態だった。

 

(よ、避けきれないっ!)

 

ベルベットはとっさに目をつぶって、伏せると顔に生暖かいものが飛び散るのを感じると、一瞬自分の血かと思ったが痛みがないのでゆっくり目をあけると―

 

「・・・・え・・・・?」

 

そこには剣で貫かれた、カインがいた。

 

「べ・・・・ル・・・」

 

「カイ・・・・どう・・・・して」

 

「ふん、その身をていして庇うとはな」

 

ローブの男は剣を引き抜き、カインはそのまま地面に崩れていこうとしたが、ベルベットがそのまま抱きつくようにカインを支えた。

 

「カイ!カイ!」

 

「ごめんな・・・・ベル・・・ライフィセットを・・・・守れなくて」

 

「カイのせいじゃない!それは!」

 

「お前らには・・・今まで・・・・大したこと・・・してやれたかった」

 

カインの体がどんどん冷たくなっていくのを感じるとベルベットは左手で触らないように抱きしめる力をもっと強くした。

 

「そんなことない!一緒に居てくれるだけであたしたちは・・・・あたしは!」

 

「そう・・・だな・・・・俺も・・・もっと・・・皆と・・・一緒に・・・いたか・・・・」

 

「カイ・・・・?」

 

ベルベットはカインの体を支えきれなくなり、地面に倒れ、カインはそのまま動かなかった。

 

「ねぇ・・・・カイ?・・・起きてよ・・・」

 

ベルベットはカインの体を揺さぶったが彼の体はひどく冷たく、瞼が開くことはなかった。

 

「お願い・・・・起きて・・・・あたしを一人にしないで・・・」

 

ベルベットは大粒の涙を流し、その涙がカインの顔にポタポタと落ちていった。

 

「カイ!!」

 

ベルベットはカインの体にうずくまりながら、必死に呼び掛けていた。そんなベルベットをみていたアルトリウスがゆっくり近づいていき、こういいはなった。

 

「カインは感情に従ったためこうなった」

 

ベルベットはアルトリウスを睨み付けた。

そしてベルベットに剣を向け―

 

「これがお前たちの結末だ」

 

「アー・・・サー・・・」

 

「許さなくていい。すべては私の罪だ」

 

「アルトリウスッ!!」

 

降り下ろし、ベルベットの意識を闇の中に落とした。

 

 

 

 


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