1話
7年前のあの日、世界が赤く染まった。
空も大地も森も家も人も何もかもが。
その日何人もの野党が村を襲ったのだ。野党は家に火をはなち、村の人々を何人も切り裂き、焼き払った。
そう、まるで地獄のようだった。
そこから息をきらせながら森をかけぬけていく若い男とまだ幼い3人の少年少女が村から離れようと逃げていた。
「くっ!・・・・奴らはすでに業魔に・・・・!」
男は歯噛みしながらそう呟いていた。男は奴等がただの野党達ではないと知っているようだったが今は、少年は少女ともう一人の幼い少年のことを自分が守らなければとただそれだけを考えるようにしていた。
とそのとき二人は途中で転んでしまう。
「ベル!ラフィ!」
少年はすぐに少女ともう一人の少年―ベルベットとライフィセットのそばに行った。
前を走っていた男も3人の所に駆け寄った。
「カイン!こっちだ!」
男は二人を抱き抱え、大きな空洞のできた木の陰に隠した。少年―カインと呼ばれた少年もすぐに男の側に走っていった。
「3人ともここに隠れろ、俺はセリカを助けに行く」
「こ、こわいよ・・・・アーサー義兄さん・・・・」
アーサーと呼ばれた男は優しく微笑むと、近くにあったリンゴを拾った。
「これを持っていれば大丈夫だ。」
拾ったリンゴをベルベットに手渡した。
「セリカが魔法をかけてくれた"生きる勇気をくれるリンゴだ"」
「本当?」
ベルベットは心配そうにアーサーにたずねた。
「本当さ、俺が嘘をついたことがあるか?」
ベルベットは首を横にふった。
アーサーはカインとライフィセットにもリンゴを渡すした。
「セリカを助けたら迎えにくる」
ライフィセットはアーサー胸のなかにかけよると、アーサーは優しく抱き寄せた。
「カイン、二人を頼んだぞ。お前が二人を守ってやるんだ」
アーサーはカインの目をみてそうつげた。
「うん、分かった。俺が二人を守るよ」
カインは力強くそう答えた。
「いいか、怖くても挫けるな。なにがあってもあきらめるじゃないぞ」
ライフィセットを抱きながらカインとベルベットに答えた。
ベルベットとカインはアーサーの言葉に勇気をもらい、怖い気持ちを押さえ込んだ。
「うん、あきらめないよ。あたしはラフィのお姉ちゃんで、義兄さんの弟子でカインの友達だもん」
「俺も絶対にあきらめないよ。二人はなにがあっても俺が守るから、兄さんもセリカ義姉さんと一緒に戻ってきてね」
二人はアーサーに力強くそう答えると、アーサーは安心したように微笑むと、ライフィセットをおろし、セリカのもとに走っていった。
それから3人は木の陰に息を殺してずっと隠れていた。
ベルベットはライフィセットを怖がらせないよう、抱き寄せ、カインは二人の前に隠すように座っていた。
「ねぇ、カイ」
ベルベットは怖い気持ちを必死におし殺して、カインに喋りかけた。
「何?ベル?」
「義兄さんとお姉ちゃん・・・・大丈夫かな?」
ベルベットはアーサーの前では強がっていたがやはり二人のことが心配のようだった。
「大丈夫さ、義兄さんは俺達の師匠なんだぞ。きっと義姉さんを助けて帰ってくるさ」
「そう・・だよね・・・」
カインはベルベットにはそう言ったがやはり自分も心配だった。カインは必死に自分の心にいいきかせた。
大丈夫、義兄さんと義姉さんはきっと帰ってくる。
大丈夫。きっと大丈夫なはずだ。
「きゃあああー!!」
そんなことを考えていると森に女性の悲鳴が響きわたった。
それは聞き間違えようがない。セリカ義姉さんのものだった。
「セリカお姉ちゃん!?」
ベルベットは悲鳴に気づくと、木の陰から出ていってしまった。
「ベル!」
カインはライフィセットと一緒にベルを追いかけ、森の道にでると、目の前に光がさしこんだ。
「なん・・だ・・あれ・・・?」
それはまるで黄金の竜のようだった。その竜はとても大きく、森の方向―アーサー義兄さんが走っていった方角から現れた。下から勢いよく空へ上っていった竜はしばらくその長い尾は続いていた。
「うっ・・・!」
突然胸の奥が熱くなるのを感じたカインか胸を押さえつけて苦しみだした。
「カイン!?大丈夫!?」
ベルベットが心配そうに、カインの側に駆け寄った。
(何だこれ・・・!?熱い・・・!?)
突然の異変に混乱しているとき、背後からうめき声がした。
「うぐぐ・・・・!」
背後を見ると、男が森から苦しみながら飛び出してきた。男は頭をおさえながらどんどん苦しみだし、体がまるで狼男のような姿に変貌してしまった。
「きゃあああ!」
ベルベットとライフィセットが悲鳴をあげると、カインはとっさに二人の手を掴んだ。
「二人ともこっち!」
カインは二人の手を引っ張り急いであの狼男から逃げた。
3人は必死に逃げた。がむしゃら逃げて、気がついたら、森をぬけていた。そしてその先にいたのは
「アーサー義兄さん!」
ベルベットはアーサーの名を叫ぶ。カインも安堵の表情を浮かべ、3人と一緒にアーサーのもとに走っていった。
だがそこにはセリカ義姉さんの姿はなく、アーサーの表情は今まで見たことがないくらいに、冷たい目をしていて
ライフィセットの体を剣で貫く瞬間だった。
「はっ!?」
ずいぶん昔の夢をみていた。
そう、とてもとても昔の夢を。
友達を失い、義弟を失い、皆を失ったあの日から俺の世界が変わった。
「ぐるるる・・・・!」
そこは地獄のようだった。いや、実際地獄なのかもしれない。空も大地も真っ赤に染まり、草木は荒れ果て、化け物どもが蠢くこの世界。ここに堕ちてどれくらいたったのかもうわからない。今もこうして化け物どもに囲まれている状況も何度も経験した。
「があああ!」
化け物どものうちの一匹―狼男のような―が飛びかかってくると、てにもっている剣で化け物を切り裂いた。
上と下が真っ二つになった化け物はそのまま地面に転げ落ち、地面に溶けていった。
青年―カインが持っている剣はこの世界とは不釣り合いのような剣だった。柄が青く刃は黄金に輝いており、まるで聖剣のような見た目だった。
青年は飛びかかってくる化け物どもを紙一重でかわしながら、そのまま切り伏せていった。
そして、一瞬にして化け物を全滅させてしまった。
しかし、闇の中から新たに何十という化け物が出現し、カインの周りを再び囲んでしまった。
そんな絶望的な状況にも関わらず、カインは不適に笑い化け物どもを嘲笑うかのようにいった。
「こいよ・・・化け物ども・・・・!」
カインは剣を両手で構え、その切っ先を化け物に向けて
いいはなった。
「俺はなんとしても元の世界に帰り・・・・!どうしても会いたいやつがいるんだ・・・・!!」
こんな状況でもカインはまったくあきらめてはいなかった。彼の思いを繋いでいるのはたった一人の女の存在だった。
「そこを・・・・どけ!!」
―ベルベット・クラウ―彼が置いてきてしまった、守ると誓った愛する人。
―彼女にもう一度会うために、彼はあがき続ける―