翌日。
私はエリサさんに着せ替え人形にされかけていた。
「私の小さい頃の服、まだ残っててよかったぁ! さ、セレちゃん、着てみて?」
一山になっている服。
え、この中から選ぶの……?
あと呼び方変わってる……懐かしいな。
元いたところでよく呼んでもらってたあだ名……
ちょっと嬉しい。
「え、えっと……」
今日って確か壁の向こうの……ぐずみあ? だっけ? に行くんだよね……?
「せっかく向こうに行くんだからオシャレしなきゃ。あ、せっかくだから私と似た格好でも……」
「え、エリサさん、ちょっと……」
「いいからいいから早くそれ脱いで着替えて? ううん、脱がしてあげちゃう!」
「え、いや、あの流石にそれは……」
ピンクのリボンワンピース。
ターコイズのフリルワンピース。
オレンジのリボンシャツにチェックのスカート。
……他にもたくさん着たけどたくさんすぎてもうよく覚えてない。
「うん、これにしよう!」
ようやく胸に細いリボンがついている青いワンピースに水色のカーディガンに決まった頃にはもう日が高くなり始めていた。
「エリサさん……」
「あはは……ごめんね? あんまり身近に女の子がいないから楽しくなっちゃって」
「私もいろんなお洋服着れて楽しかったけど……」
「ならおあいこってことで!」
「んもう……」
「さて、少し遅くなっちゃったけど行こっか!」
遅くなっちゃったのはエリサさんが私で遊んでたせいじゃん!
でもあんなたくさんのお洋服から選べるのは初めてだったから楽しかったけど……
う〜……なんか悔しい……
森を歩きながら私は気になってたことを質問してみる。
「ねえ、エリサさん、あの壁の近くって近づいちゃダメなんじゃなかったっけ?」
「基本的にはね。でも危険なガスが出てないところもあってそこから私たちは行き来することができるの」
「へえ、そうなんだ」
「でも壁の外に住んでる私たちは本当は入っちゃいけないことになってるんだけど……」
「えー! どうして! せっかく隣同士なのに……」
「……ほんとにね」
なんだかすごく寂しそうにポツリと言った。
なんでだろ……
仲悪いのかな?
「まあそんなことはどうでもいいじゃん! 向こうなら服とかもお買い物できるから一緒にやろ?」
「え、あ、う、うん……」
またさっきみたいに着せ替え人形されちゃうのは嫌だなぁ……
お洋服を選ぶのは好きだし、買うのも好きなんだけどね?
でもちょっと楽しみになっっちゃってるのがちょっと悔しい……
お世話になってるし少しくらいなら着せ替え人形にもなってあげてもいいかな。
「ここから中に入れるよ。向こう側に人がいると危ないから慎重にね」
「え、ここ……?」
エリサさんが指差したところに穴なんてなくて、ただ丸が書かれてるだけ。
あ、もしかして……
「エリサさん、また私をからかってるんですか?」
「あ、そっか。セレちゃんは知らないよね。あのね、ここをこうしてみると……」
エリサさんはそういうと丸の中心に手を触れた。
え、ええ〜!!
「え、エリサさん! 手! 手が!」
壁に飲み込まれちゃったよ!?
大丈夫なのかな!?
「そう、ここ実は向こう側に繋がってるの」
「ど、どういうこと……?」
「えっとね、なんて説明すればいいかな……この丸の中は壁になってなくて中に入れるようになってるの」
「んー……よくわかんないけど向こう側にここから入れるんだね!」
「あはは、ちょっと難しいかな? とりあえずその解釈で大丈夫だよ」
よくわからないけどとにかく通れるみたいだからそれでいいかな。
ためらいもなく穴を通るエリサさん。
ちょっと怖いけど目をつぶって私も穴に入ってみた。
一旦暗くなってまた明るくなったから目を開けてみる。
そこに広がってるのはたくさんの大きい建物が並んでるキラキラした街。
「エリサさん、ここが……?」
「……そう、ここがグズミア。この国の首都だよ。さ、とりあえず頼まれた仕事をこなしちゃおっか」
「はーい!」
エリサさんは慣れたように歩き出す。
私も置いて行かれないように気をつけなきゃ。
それにしても綺麗なところだなぁ……
なんかキラキラしてるし、あっちもこっちもキラキラしてるし……
って、キラキラしてる以外の言葉使ってない……
でも本当にクリスタルみたいで綺麗だし、なんか綺麗な線とかあるし……
キラキラしてるって一番あってると思う!
「あ、あっちの穴も入れるのかな?」
「セレちゃん、そっちは入っちゃダメ!」
「え? きゃっ」
強く手を引かれて私はエリサさんに抱きとめられる。
「そこはワープトンネルって言って一瞬で反対側の出口に行けるんだけど、危ないから生身では入っちゃいけないことになってるの」
「そ、そうなんだ……」
危なかった……
そんな危ないところなんだ……
「だから気をつけてね? 私が行かないところには行かないこと」
「は、はーい……」
なんて怒られていたら。
ワープトンネルの入口に丸い光が出てきた。
「グズミア警備隊だ。お前に不法退出の容疑がかけられている。大人しく同行してもらおう」
「え、私……?」
「いいから来るんだ!」
「え、た、助けて、エリサさん!」
「……ごめんね」
え……
「さあこい!」
「え、エリサさん! 嘘だよね……」
黙って目をそらされてその間に私は何かの機械に乗せられた。