1.それ、ゆーかいって言うんだよね!
「あなたはもうすぐ過酷な運命を背負わなきゃいけなくなる。だから……」
小さい頃に読んだ絵本に出てくるようなとんがり帽子をかぶった女の人があたしの前にいきなり出てきて……
「私に殺されて?」
すごいことをお願いされました。
「ふえええええ!?」
「え、えーっと……」
「お願い、あなたに時間がないの」
「あたし知ってるよ、これってゆーかいって言うんだよね!」
「……は? い、いや違うわよ!」
「悪い人のお話は聞かないもん!」
そう思ったらすぐ行動!
とにかく逃げる!
なんだか、後ろですごい音がした気もするけど気にしないでとにかく走る!
全速力で走って私たちの秘密の通路とかも使ってとにかく走った。走って走ってふと後ろを見ると魔女みたいな人は追いかけてきてなかった。
よかったぁ、逃げ切れたんだ。
走り回って苦しい息と心臓が少し楽になるまで休憩してからお家に帰ろっと。ちょっと疲れちゃったよ……
でも、あの人なんであたしのこと……?
あたし、そんなに可愛いわけでもないし、背もちっちゃいし、胸も……ううん、きっとこっちはこれからだよね!
近くのドリンクスタンドバーに寄っ掛かりながらさっきの人のことを考える。
あれ? でもそう言えばあたしのこと殺すとか……も、もしかしてゆーかいじゃなくて人殺し!?
大変だよ、事件だよ!とにかく大人の人に知らせなきゃ……
「見つけたわよ」
1番近くにいた大人の人は今一番会っちゃダメな魔女みたいな人。
この人は大人の人に知らせて捕まえてもらわないと……って
「ええ!?!?」
魔女みたいな人!?
なんで?
ちゃんと逃げたはずなのに!
「なんでここに!?」
「私の力にかかればこんなもんよ……ぜぇぜぇ……」
あ、あたしが逃げた道を一生懸命走ってきたんだ……
この人面白いけど、余計怖いよ!
「なんでそこまであたしを狙うのよ! そんなに可愛くもないのに!」
「可愛い? 私は別にそんなこと関係ないし、どっちかって言えば可愛いほうじゃない」
「え? そ、そうかな……う、ううん! そ、そんな言葉で騙されないんだから!」
危ない、ここで喜んだらあの人の思うツボってやつだよね。
でも可愛いっていってもらえてちょっと嬉しかったなぁ……
じゃなくて!
とにかくまた逃げなきゃ!
足に力を入れて走る用意をする。
「ま、待って!」
あ、転んだ。
「……いったーい!」
「だ、大丈夫……?」
転んだ人をさすがにほっとけなくて振り返る。
「大丈夫よ、いつもの……って、それはどうでもよくて。とりあえずあなたセレイル・レッダローズであってるのよね!?」
びっくりして近づこうとしてたあたしはすこし後ずさった。
「どうしてあたしの名前知ってるの!?」
「あなたはもうすぐ過酷な運命を背負わなきゃいけないの。私はあなたにそんな思いさせたくない。だから、お願い、私に殺されて」
なんだか、嫌っていっちゃいけない気がしてここから動けなくなる。
そして魔女みたいな人はなにか小さな声で呟いて手に持ってる杖をあたしの方に振り下ろした。
…………
「え、えっと……」
「この世界、許容性は無駄に高いくせに魔法要素は皆無なのね……いえ、なんとなく気づいてはいたけれどもね」
なにそれ、魔法?
あれってゲームとか絵本とかに出てくる空想のものでしょ?
「まあいいわ」
杖を今度はかちゃかちゃいじって杖の先から鈍く光る何かを出した。
もしかして、それ、刃物……!
に、逃げなきゃ!
そう思ったのに足が鉛みたいに重くて動かない。
怖い、怖いよ……
「大丈夫よ、一瞬で終わるから。むしろ動いちゃう方が痛いからじっとしててね」
優しそうな笑顔であたしに刃物を向けてくる。
じっとしててって言われてもあたし動かないんだけど……
「そう、いいこね。……ごめんね」
迫ってくる刃物が怖くて私は目をつぶる。
あたし、殺されちゃうんだ。
まだ友達と色々したいことあったのにな……
まだ死にたくないよ……
痛いのも嫌だよ……
嫌だよ……!
目をつぶって待っているとなかなか痛いのを感じない。
もしかしてもうあたし死んじゃったの?
そう思って目を開けると鬼のような顔をしてあたしの首の寸前で止まっている刃物を押し込もうとしてる魔女みたいな人。
あ、目があった。
「「うわああああ」」
お互い慌てて飛び退く。
びっくりしたぁ……
でも、あれ?
あたし、死んでない……?
「あたし、生きてる……?」
「そんな、また……またなの……」
殺されなかったことを喜ぼうとした途端
ーードクンッ
「っ!」
凄く胸が痛い。
痛い、痛い。痛いよ……
「まさか、もう覚醒が始まってたなんて……」
「か、かくせい……?」
あ、すこし痛いの治ってきた……
「そう、あなたはフェバルとして覚醒した。あなたはもうすぐこの星を離れて星から星へと渡り続ける旅を続けなければならない」
この星を離れてって、みんなとお別れしないとなの……?
魔女みたいな人のお話を聞いてる間にもあたしの体が半透明になり始めている。
え、これなに……?
なんであたしの体……!
「星脈が動き出したのね。もうすぐあなたは別の星に行かなければいけない」
そんな……みんなと一緒にいろんなことしたかったなぁ……
もうさよならなんだね……
「フェバルはとても強力な能力を持つの。あなたの能力はなにかわからないけどね」
能力……?
そういうのって現実にあるんだ。
「ねえ、おばさん」
「お、おばっ……」
「あ、えっとお姉さん、お名前なんていうの?」
「私はエーナよ。ごめんなさい、あなたを助けられなかった……」
「えーなさん、ありがとうございます。でもあたし大丈夫だよ。みんなとお別れは辛いけど、またたくさん友達作るもん」
「……強いのね。あ、それからいってなかったけど……」
エーナさんの言葉は最後まで聞けなくてあたしは一瞬で星の外にいた。
これがあたしがいた星……きれい……
不思議と悲しくはなかった。
もちろんみんなとお別れは寂しいし、辛いけど……
なんだか違う星に行くのもなんだか楽しみだった。
あ、でもパパとママにはちゃんとさよならしたかったなぁ。
多分聞こえないと思うけど、パパ、ママ、さようなら。
どこに行くのかよくわかんないけど頑張ってくるね。