ステラを放つその日まで   作:蓮太郎

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狂った神父と1/7の聖剣

 ぱんっ、と乾いた音が響いた。

 

 球技大会が終わり、オカルト研究部の扉を開けようとしたら一番先に聞こえた音だ。間違いなくグレモリー先輩が木場先輩にビンタを放ったのだろう。

 

 ずっと様子がおかしい木場先輩は球技大会でもぼーっとしており何の活躍も見せなかった。それはチームワークを崩していたとも言える。

 

 そろそろ話を聞こうと思っていたが、頃合いだな。っと、木場先輩が出てきた。

 

「あ、芦屋君、今の聞こえてたかな?」

 

「ひっぱたかれる音はバッチリ聞こえましたよ」

 

「はは、そうか…………」

 

 軽い会釈をしてからそのまま表情を変えて立ち去った。こりゃ相当きてるな、見るに堪えないぞ。

 

 開きっぱなしの扉から俺は入る。ああ、さっきの出来事のせいで何とも言えない表情の部員の方々がいる。理由なんて聞くまでもない。

 

 あそこまで見てると、流石にほっておけない。せめてああなる理由だけでも聞いて任せよう。

 

「芦屋君、やっぱり来たのね。あなたの性格上間違いなく来ると思ってたわ」

 

「伊達にお人好しとか言われてないですから」

 

「なんか頼りにされてるのがよく分かるぜ…………」

 

「ははは、友達はいないけどな」

 

「…………芦屋さんは頼られてる人なのに友達が居ないのは不自然だと思います」

 

「あー、そう見える?これでも避けられてる方なんだけどな」

 

 頼られているが避けられている、これは俺が手伝うものとしてもなんでも出来すぎる為にそう感じている。何でも屋みたいな扱いだが不満は無い。

 

「貴方、首を突っ込むつもりじゃないでしょうね?かなり複雑な事情なのよ?」

 

「いずれにせよ何らかの形で絡むんじゃないのか?ここにいる間に何が起きても不思議じゃない。訳も分からずドンパチやるなんてしたくも無いからな」

 

 嘘は言っていない。木場先輩の抱えてるものがこの町に関することであるからこの町に住む俺も巻き込まれる可能性を否定できない。ましてや俺は神器使いだ。何処からか情報が漏れてるのは確かだ情報が真っ先に神器を使える人間を排除しないという保証もない。

 

 ここは素直に話してくれる、何て俺の考えは甘かった。

 

「ダメよ。いくら貴方でも私の眷属の過去には触れさせないわ」

 

「っ、あのまま放置しておけと言うんですかね?」

 

「ええ、貴方はね。ここから先は私達の問題だから邪魔はしないで」

 

 そう簡単に話に介入させてはもらえなかった。これは自分の甘さでもあるし、何時ものように問題に入ってハイ解決、という事は許されない。

 

 俺は決して万能ではないと思っているけど…………無意識的な部分ではそうなのか?

 

 人の心、いや、ここは悪魔の心か?でも転生悪魔という事は元は人間だろうし、グレモリー先輩に策があるってなら何も言えないし邪魔できない。

 

 ったく、プライベートな所まで突っ込む事は出来ない。解決に協力はしたくても、何もできなきゃお手上げだ。ここは大人しく引き下がるべきだろう。

 

 流石に今日はこれ以上ここにいる訳にはいかない。空気を読んでさっさと退散しよう。人間である以上、今のここにいる俺は邪魔な存在だ。

 

 

 

 

〜●〜●〜●〜●〜

 

 

 

 

「ったく!傘持ってきてない俺の馬鹿野郎…………」

 

 既に雨が降っていたが、傘を持ってきてない俺は走って帰路を急いでいた。知っている細い路地を駆使して最短距離でアパートに向かっていた。

 

 流石に傘を貸してくれるのは誰もおらず、俺はびしょ濡れになりながら走って帰る他なかった。

 

 オカルト部に傘が余ってるか聞いとけばよかった…………っ何の音だ!

 

 雨よけ代わりの鞄を頭の上から降ろして立ち止まる。これは、鉄と鉄がぶつかり合う音、それもかなり激しく鳴っている。こんな住宅街で馬鹿な事をやる奴が…………

 

 いや、剣でいうなら一人だけ心当たりがある。木場先輩は剣に関係する神器持ちだって言っていた。出来れば予想が外れて欲しいんだが…………

 

 不吉な予感を覚えて雨の音が大きいが剣戟らしい音の方へ向かっていく。俺の予想通りにならないでくれよ!

 

 音がどんどん近くなっていく。よし、まだ視界には入ってないが

この家を超えた先に二人がいる。肌で感じるのはやはり木場先輩が二人のうち一人だ。そしてもう一人の方は剣は光のエネルギーのようだが、それを持つ人物が邪悪な感じだった。

 

「木場先輩!」

 

「なっ、芦屋君っ!?」

 

「隙ありゃっ!うおぅっ!?隙潰すんじゃねぇよこのタコ!」

 

 一瞬だけこっちに気を取られた木場先輩を斬ろうとした神父らしき男に『射手の英雄(ザ・アーチャー)』を即座に放つ。神父は聖なるエネルギーらしきものを放つ剣で矢を弾いた。

 

 場所が場所だから手加減しなきゃ住宅に被害が出るからまともな力を出せない。ここは神父の剣に矢を当てて木場先輩のサポートに回るしかない。

 

 あの神父の男、明らかに狂気と殺意に満ちている。木場先輩とあの神父どっちが敵かと聞かれると100人中100人が間違いなく神父の方だと答えるだろう。

 

「あァン、なんですか増援ですかァ?全くチミっこいことしやがって!それに人間がクソ悪魔に絡むっつーことわー、テメェはクソ人間だな!」

 

「先輩!後ろから援護します!」

 

「いや、君や僕の武器は互いに邪魔になるだけだ!」

 

「そんな事はないっ!俺の弓を信じて攻めてくれ!」

 

 この時にタメ口になっていたのは仕方ない。だが、あの剣は明らかに悪魔特攻だしそんなのを見過ごすわけにもいかない。ちゃっかりあの神父の殺すリストに俺もちょうど入ったようだしな。

 

「くっ、もう好きにしてくれ!」

 

 俺を追い払うのを諦めたかのように言い捨て持っている魔剣らしき剣で神父に斬りかかる。これは剣の才能の差はそこまでなさそうだが武器の性能では木場先輩が圧倒的に負けている。

 

 だが、木場先輩の顔が憎しみに満ちている。明らかに冷静じゃないぞ。あの神父、いや、あの剣に対しての憎悪だ。いつもクールそうなあの人がこんなに憎悪を表に出すなんて知らなかった。

 

 剣戟から10メートルほど離れて『射手の英雄(ザ・アーチャー)』を構えて矢を放つ。矢は神父の振りかぶった剣の中腹に当たり砕けるが剣が受けた反動で振り下ろす速度がかなり落ちる。

 

 それを見て木場先輩も斬りかかるが、矢が当たった反動に合わせて剣を持ち変える神父の方が一枚上だった。木場先輩の攻撃は届かずまた剣と打ち合う。

 

「いい腕してんねぇ!でもそんなチンケな弓矢でこの聖剣エクスカリバーちゃんに傷一つ付けられないよーん!」

 

「今すぐその口を閉ざしてやる!」

 

「思ったより早い…………っ」

 

 まてよ、今あいつはエクスカリバーと言ったか?あのアーサー王が持っていたとされる聖剣の名を?

 

 じゃあ、あの手に持っているのが?いや、それはおかしい、本物の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』はあんなに弱くない。

 

 それじゃ、あれは『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の名を騙る偽物!

 

「あんれぇ?なんか君うおっと!エクスカリバーが弱いってほいっ!思ってないわっと!残念ながらこれぶっ壊れたエクスカリバー、うぉ!の7本のうち1本だから仕方ないよねっとと!」

 

 俺の矢を弾きつつ木場先輩の剣を捌きながら俺の思考を読んでんじゃねぇ!いや、聞き逃せない単語が聞こえたぞ。エクスカリバーが壊れた?は?

 

「あれま、お友達の支援止まったよ?大人しく死になよ?」

 

「くっ、ふざけるな!」

 

「おっと、そんくらいじゃご自慢の魔剣は当たらないぜ?そろそろ遊んでる時間ないし、次に殺す時に楽しむから生かしとくわ」

 

 ふざけて馬鹿にして蔑んで上から目線で侮辱して神父は高く跳躍し誰かの家の屋根に登る。

 

「ほな、ばいちゃ☆」

 

「待て!」

 

 あの神父は逃げ出したが木場先輩は追いかけていく。その追跡に俺は参加しなかった。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)が…………折れた…………?一体いつに…………」

 

 アーサー王ことアルトリア・ペンドラゴンの最強である剣が折れたという話に頭がついていかなかった。

 

 ただ、折れることがないと俺の中で思っていた聖剣の事だけ考え、雨に打たれながら歩いていたらいつの間にかアパートに着いていた。

 

 …………ネットじゃあ絶対にそんな神話レベルの話題が出るはずがない。そして木場先輩とエクスカリバーの関係、オカルト部から話を聞けない以上、謎が深まっていくばかりでその日は眠ることすら出来なかった。




 今までの中でまともな戦闘シーンがありますが主人公はまったく本気ではありません。木場と聖剣の関係がただならないということで聖剣を壊さないかつ弾くようにしています。戦闘描写が下手くそですみません……

 あとクソ神父の喋り方もあれでよかったのか自信がない!

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