そんな中、赤司からの呼び出しが有り、黒子達は糸守へと向かいます。
そこで黒子達は、衝撃の事実を知る事になります・・・・
もう1週間くらい、三葉さんとの入れ替わりが無い。この間は赤司くんだったので、もし入れ替るのなら僕の番なんだけど・・・・もう、入れ替わりは無くなったのかな?入れ替わりの理由について、赤司くんは、何か分かったのだろうか?
桃井さんも、心配してよく電話を掛けて来る。赤司くんの話では、僕達と三葉さんの時間は3年ずれているらしい。だから、入れ替らない限り、僕達が三葉さんと連絡を取る術は無い。この時間の三葉さんには、いくら連絡しても繋がらない。多分、スマホのアドレスが変わっているのだろう。
その時、スマホの着信音が鳴った・・・・赤司くんからだ。
『黒子か?直ぐに、青峰と黄瀬に連絡して欲しい、桃井にもだ。』
「え?何をですか?」
『大変な事が分かった。詳しくは会ってから話すが、次の日曜日、昼までに岐阜県の飛騨古川駅まで来て欲しい。』
「な・・・何故ですか?」
『それは会ってから話す。俺達、全員に関わる話だ。緑間と紫原には、俺から連絡しておく。』
「は・・・はい、分かりました。」
赤司くんに言われた通り、青峰くん、桃井さん、黄瀬くんに連絡して、次の日曜日、僕達は飛騨古川に向かう電車の中に居た。
「で、赤司は何にも言わねえのかよ?」
「はい、会ってから話すって。」
「勿体つけやがって、用件くらい言えってんだ!」
「きっと、三葉っちの事っスよ。赤司っち、入れ替わりの後も調べてたみたいだし。」
「心配よね?何で、急に入れ替らなくなっちゃったのかしら?」
「お前は、入れ替らないからいいかもしれねえが、結構大変なんだぞ!あれ!」
「俺は、楽しかったっスけどね。」
「お気楽でいいな、てめえは・・・・」
飛騨古川駅に着くと、改札口の前で既に、赤司くん、緑間くん、紫原くんの3人が待っていた。
「あれ、紫原っち早いっスねえ?一番遠くなのに。」
「昨日の内に来させて、洛山の寮に泊まらせた。寝坊されては困るからね。」
「流石、抜かり無いわね、赤司くん。」
「そんな事より、こんなとこまで呼んで何の用だ?赤司?」
「百聞は一見にしかずだ。一緒に付いて来てくれ。」
「はあ?何処に行くんだよ?」
「糸守だ!」
『ええ~っ?』
飛騨古川駅から、タクシー2台で移動する。電車やバスは無いのかと聞いたところ、以前は走っていたが、今は廃線との事・・・・どういう事だろう?
タクシーで1時間弱、廃校となった学校の前で降りる。その学校名を見て、僕達は愕然とする。
“糸守高校”
「な・・・何で廃校になってるんだよ?3年で、そんなに過疎化が進んだってのか?」
赤司くんは、どんどん先を歩いて校庭の方へ行ってしまう。僕達も、慌ててその後を追う。
校庭の端、勅使川原くんや名取さんと昼食を取っていた辺りに行き、町を見渡して、更に僕達は驚愕する。
「な・・・何だよ?これは?」
「ひ・・・酷い・・・・」
そこに、町は無かった。糸守湖は、元の円にもうひとつ大きな円が重なった、瓢箪状に姿を変え、湖畔の町は、全て瓦礫の山と化していた。三葉さんの家や、宮水神社のあった所は、新しい円の中心辺りだ。その辺りは、町がごっそり無くなっている。
「な・・・何なんスか?これは?」
「ティアマト彗星だ。」
『え?』
僕たちの問いに、赤司くんが答える。
「黒子が言っていた、3年前に地球に最接近した彗星だ。その最接近の際に一部が分裂して、破片が日本に墜ちた。その墜ちた場所が、この糸守だ。」
「何だと?」
「そ・・・そういえば、確かに、3年前にそんなニュースあったっス。」
「町は壊滅、住民の約1/3が巻き込まれて亡くなったそうだ。」
「じ・・・じゃあ、三葉ちゃんも?」
「その1/3に含まれている。」
「そ・・・そんな・・・・」
「本当に迂闊だった・・・・彗星の話を聞いた時に、思い出せば・・・いや、直ぐに調べれば良かったんだ・・・・済まない・・・・」
「もしかして・・・・あの入れ替わりは、この事を僕達が三葉さんや糸守の人に伝えて、皆を避難させるために・・・・」
「そう考えて、間違い無いだろう。」
「じゃあ俺達は、その期待に応えられなかったって事か?」
「そんな・・・三葉ちゃん・・・・」
とうとう、桃井さんは泣き出してしまった。他の皆も、唇を噛み締めている。
「も・・・もう、どうにもならないんスか?」
「入れ替わりは、もう無くなった・・・・万事休すなのだよ。」
「いや、まだ可能性は残されている。」
「何?」
全員が、赤司くんに顔を向ける。
「本当か?赤司?」
「ああ、皆を呼んだ、本当の理由はそれだ!・・・付いて来てくれ。」
そう言って、赤司くんはタクシーのところに戻る。僕達は、それに続く。
タクシーは、糸守の廃墟を迂回して、糸守高校と湖を挟んで反対側の山道に入る。かなりの悪路を進み、それ以上は車で移動でき無くなる所まで行く。そこからは歩きで、山を登って行く。頂上に付くと、そこはカルデラ状の窪地で、真ん中に岩と一体化した巨木が立っている。
「あれが、宮水神社の御神体だ。」
『御神体?』
「あの岩の裂け目から、下に降りられる。そこまで行くんだ。」
僕達は、赤司くんに続いて歩いて行く。御神体を囲むような円状の小川を渡り、岩の裂け目から、御神体の中に入る。そこには、小さな祠があり、瓶子が2つ供えられていた。
「これは、口噛み酒といって、糸守に古くから伝わるお神酒だ。三葉と四葉の姉妹が、米を噛み、吐き出して瓶子に入れた物だ。」
「噛んで吐き出した?おえ・・・・」
「ちょっと、失礼だよ!大ちゃん!」
「供えたのは俺だ。最後に、三葉と入れ替わった時にね。左が三葉の物、右が四葉の物だ。俺が供えたのは1週間程前だが、ここでは3年経っている。もう発酵して、お酒になっているだろう。」
「それで、これが何なのだよ?」
「あの日、お婆さんが語ってくれた。糸を繋げることも、人を繋げることも、時間が流れることも、全部同じ言葉“ムスビ”を使う。それは神様の呼び名であり、神様の力でもあると。俺達と三葉の入れ替わりも、何かの“ムスビ”だろう。入れ替わりが無くなったのは、それが強制的に切られたからだ、彗星の破片の落下によってね。」
『・・・・』
皆、真剣に、赤司くんの話に聞き入っている。
「もうひとつ、お婆さんが言っていた。この口噛み酒は、三葉と四葉の半分・・・2人の分身のような物だと・・・・だとすれば、これを飲む事により、もう一度俺達と三葉を“むすぶ”事ができるかもしれない。」
『?!』
皆、この言葉に衝撃を受ける。
しばしの沈黙の後、僕は、三葉さんの口噛み酒の入った瓶子に手を伸ばす。
「じゃあ、これを飲めば、もう一度三葉さんと入れ替われるんですね?」
「絶対では無い。その可能性がある、というだけだ。」
「ま・・・まさか?飲む気か、テツ?」
「はい、だって、これじゃ、三葉さんが可哀想すぎます・・・・本来なら、僕達は、三葉さんを助けなきゃいけなかった・・・・それが、彗星の破片落下に気付く事もできなかったなんて・・・・このままじゃ、悔いが残ります!」
「ん~、まあ、そうだけどよ・・・・」
「気付いてても、青峰っちじゃ救えなかっただろうっスけどね。」
「うるせえ!一言多いんだよ、てめえは!」
僕は、瓶子の蓋を開け、その蓋に中の口噛み酒を注ぐ。
「待て、黒子。」
僕が、蓋を口に近づけようとしたところを、赤司くんが制止する。
「お前ひとりでは大変だろう、俺も一緒に行く。」
そう言って、赤司くんは、もうひとつの瓶子を手に取る。
「ちょっと待って、赤司っち、それは・・・・」
「三葉の妹、四葉の口噛み酒だ。」
「あの、ガキと入れ替るつもりか?」
「仕方が無いだろう。口噛み酒は、この2つしか無いんだ。人口が少ないとはいえ、1500人を避難させるんだ。人手は、ひとりでも多い方がいい。」
「ありがとうございます。お願いします、赤司くん。」
「ちょっと待て、テツ!」
「はい?」
今度は、青峰くんが僕を制止する。
「お前じゃ不安だ、俺が代わる!」
『え~っ?』
周りの皆が、驚きの声を上げる。
「お前じゃ、影が薄くて、皆が気付いてくれないと困る。その点、俺なら目立つ!」
「それなら、俺の方が目立つっスよ!俺が行くっス!」
「でしゃばんな、引っ込んでろよ、黄瀬!」
「なんでっスか?俺だって、三葉っち助けたいっスよ!」
「待て、どうもお前達は遊び半分に思えていかん。俺が行くのだよ。」
「え~っ?何言ってんスか、緑間っち?」
「だいたいてめえは、全然非協力的だったじゃねえか?」
「何にも分からない状態で、議論しても無駄だと思っただけなのだよ。目的がはっきりしているなら、ここは副主将の俺が適任なのだよ。」
「そんなの中学時代の話だろ!今は関係ねえ!」
「そうっスよ!」
3人で、口論を始めてしまった。
「ムッくんは参加しないの?」
「だって~、めんどくさいし~」
しかし、3人共全く譲らないので、いつまで経っても決着はつかない。
「俺だ!」
「俺っスよ!」
「俺なのだよ!」
「あ~もう、ストップ!」
痺れを切らして、桃井さんが口を挟む。
「それなら、三葉ちゃんに選んでもらいましょ!」
「え?」
「いねえ奴が、どうやって選ぶんだよ?」
「だから~・・・・」
そう言って、どこから出したのか、桃井さんは、お猪口を4つ取り出す。それぞれに三葉さんの口噛み酒を注いで、青峰くん達にひとつずつ渡す。
「これで、皆で飲むの!」
「はあ?」
「そんな事したって、入れ替れるのはひとりっスよ?」
「そう、きっと、一番三葉ちゃんと“むすばれてる”人が入れ替るわ!」
「何で、俺まで~?めんどくさいんだけど~」
「文句言わないの!さあ、飲んでっ!」
そこで、じっと待っていた赤司くんが、ようやく口を開く。
「話は決まったようだね・・・・桃井、うまくいけば、三葉と四葉が入れ替ってここに来る筈だ。多分混乱するだろうから、君が説明してあげてくれ。」
「は・・はい!」
「では、皆、行くぞ!」
「はい!」
「おうよ!」
「いいっスよ!」
「いいのだよ!」
「めんどくさいのに~」
全員で、口噛み酒を一気に飲み干す。
「何だ?この変な味は?」
「まず~い!」
「いまいちっスねえ。」
皆、文句が多い・・・・
しばらくすると、徐々に意識が遠のいていく・・・・こ・・これは?・・・・
既に、三葉が亡くなっていた事を知り、衝撃を受ける黒子達。
今度こそ、三葉と糸守を救うために、口噛み酒を飲みました。
赤司は四葉と入れ替る事になりますが、三葉と入れ替る事ができるのは、黒子か?青峰か?黄瀬か?緑間か?はたまた紫原か?・・・・