君のバスケ   作:JALBAS

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入れ替り後の会話の中から、ようやく黒子達は時系列のずれに気付いていきます。
三葉も、週刊誌に載る記事から、黒子達の時間と自分達の時間に3年の時差がある事に気付きます。
しかし、何故その時差があるのかを気付く前に・・・・




《 第八話 》

 

青峰くんと入れ替わった2日後、また緑間くんと入れ替わり、その2日後に黄瀬くんと入れ替わった。その日は日曜だったので、さつきちゃんに連絡を取り、また皆でこの間のファミレスに集まった。参加者は、私(黄瀬くん)、さつきちゃん、青峰くん、黒子くんの4人だ。

「はあ・・・・・」

会ってそうそう、私は溜息をついた。

「疲れてるみたいね?大丈夫、三葉ちゃん?」

「ま・・・また四葉が怒っちゃって、宥めるのに、大変で・・・・」

「大ちゃん、また、酷い事言ったんでしょ!」

「仕方ねえだろうが!入れ替わってるなんて、知らなかったんだしよ。」

「でも、周りの状況が違うんだから、少しは空気読みなさいよ!」

「俺ばっか責めるんじゃねえよ!緑間だって、怒らせたんだろ?あいつは、何で来ねーんだよ?」

「はい、“入れ替わりの事は理解したが、会って話してどうにかなる事では無いのだよ。”だそうです。」

「もう、ミドリンたらっ!」

「バスケ部や、運動部の勧誘も厳しくて・・・・」

「大ちゃん、少しは自重しなさいよ!」

「あのチャラ男のせいだろうが、やたらと突っ掛って来やがって・・・・そういや、あいつどうした?この間は、姿見なかったが。」

「ああ、松本・・・最近、えらく落ち込んでて、休む日が多いんよ。」

「緑間や、紫原にもやられたんだって?いい気味だ。」

「青峰くん、入れ替わってた時に、何か気付いた事無いですか?」

「はあ?・・・・ド田舎で、遊ぶとこもねえなって事くらいしかねえが・・・・何で、そんな事聞くんだよ?」

「赤司くんが、何でもいいから、気付いた事を連絡しろって。」

「テツは、何かねえのかよ?」

「ひとつ、思い出した事があるんですが・・・」

「何だよ?」

「彗星です。」

『彗星?』

3人でハモった。

 

 

 

翌日、僕は赤司くんに皆で話した事を連絡した。

『そうか?確かに、彗星接近なんてニュースは聞かないな。ありがとう、次に自分が入れ替わる時に、それも確認しておこう。』

「はい、お願いします。それで、黄瀬くんからは何かありましたか?」

『残念ながら、何も無いな。普通に学校に行って、帰って来ただけだそうだ。』

「え?日曜日に、学校に行ったんですか?」

『ん?そうか、確かに、昨日は日曜だ・・・・少し待ってくれ、黄瀬にもう一度確認する。』

食い違うニュース、曜日の違い・・・・これは、もしかすると・・・・

しばらく待つと、赤司くんから、もう一度電話が掛かって来た。

『もしもし、黒子か?黄瀬に確認した。曜日までは分からないそうだが、普通に授業があったそうだ。だから、日曜日では無い。』

「じ・・・じゃあ・・・」

『そうだ、時系列がずれている。』

 

 

 

翌日、私は、教室の窓にもたれ掛って、昨日黒子くん達と話したことについて考えていた。

彗星最接近のニュースは、こちらでは週に2~3回は流れている。それが、東京では全く流れないなんておかしい。だいたい、新聞にだって出てる。まさか、黒子くん達の世界と、私の世界が別世界なんて事は無いよね?

「お~い!宮水~っ!」

廊下から、隣のクラスの男子が声を掛けて来た。この間、バスケの名門校について聞いた、バスケ部の男子だ。

「何?」

彼に歩み寄って、私は尋ねる。

「お前って、本当にバスケ好きなんやな?中坊までチェックしとるなんてよ。」

「え?・・・何の事?」

「とぼけるなや、“奇跡の世代”の事や!」

「え?奇跡の世代?」

「週刊誌にも載っとったで、この記事!」

そう言って彼は、週刊誌の記事を見せてくれた。そこには、帝光中学バスケ部の“奇跡の世代”と呼ばれる、中学生プレイヤーの事が書かれていた。

レギュラーの5人全てが、“10年に1人”の逸材であり、彼らが入部して以降、帝光中学は一度も負けていない・・・・その名前は、“赤司征十郎”、“緑間真太郎”、“青峰大輝”、“黄瀬涼太”、“紫原敦”・・・・あれ?黒子くんの名前が、無い・・・・

ま・・・待って、この子達って・・・・中学2年生?じ・・・じゃあ・・・・私と黒子くん達の時間は・・・・3年ずれていたの?

「そういえば、この奇跡の世代やけど、奇妙な噂も流れとるらしいで。」

「え?ど・・・どんな?」

「何でも、誰も知らへんらしいけど、この5人の他に、5人が一目おいとる“幻の6人目”がおるって噂がな。」

ま・・・幻の6人目?・・・・まさか、それが、黒子くん?

 

 

 

数日後、赤司は、三葉の体で目を覚ます・・・・

 

目覚めた後、俺は、真っ先にスマホを確認した。

“2013年”

間違い無い、俺達の時間の、3年前だ。迂闊だったな、スマホの画面は何度も見ていたのに、年号の違いに目が行かなかった。

3年の時差がある事は分かった。だが、それと入れ替わりがどう関係しているのか?それを調べるには、学校に行っている場合じゃ無いな。

その日は学校を休むつもりで、私服に着替えて下に降りる。

「おはよう、お姉ちゃん。お婆ちゃんが、朝ごはん食べたら、直ぐ出掛けるやて。」

「え?・・・何処に?」

 

今日は、山の上にある御神体に、口噛み酒とやらを奉納する日らしい。

そんな事をやっている場合では無いのかもしれないが、“御神体”という言葉が、どうも引っ掛かった。この入れ替わりの現状は、実際に神懸かりな出来事だ。その“御神体”とやらが無関係には思えなかった。

俺と四葉、お婆さんの3人で出かける。宮水神社の、裏手の山を登って行くようだ。

御神体が神社にでは無く、山の上にある事にも、何か意味があるのかもしれない。普通なら、神社の中か、そうでなくても直ぐ側に置く筈だ。

結構な山道を、ひたすら歩く。まだまだ、先は長そうだが、お婆さんには、この山道は辛いだろう。非常に、歩みも遅い。これでは、いつ御神体に辿り着けるか分からない・・・・

「お婆ちゃん!」

俺は、お婆さんに背中を差し出す。婆さんは、にっこり笑って、

「ありがとうよ。」

と言って、俺の背中におぶさる。

山頂までの道中、俺の背で、お婆さんが日本古来の“ムスビ”の事を語った。

糸を繋げることも、人を繋げることも、時間が流れることも、全部同じ言葉“ムスビ”を使う。それは神様の呼び名であり、神様の力でもあると。では、俺達と三葉の入れ替わりも、何かの“ムスビ”なのか?・・・・

 

ようやく頂上に着くと、そこには、大きなカルデラ状の窪地があった。その中央には、巨大な岩と一体化した巨木があり、それが御神体らしい。

これが御神体なら、神社と場所が離れているのも分かるような気がする。こんな場所に神社を建てても、通うのが大変だ。逆にこんな物を、町の近くまで運ぶのも困難だ。

 

俺達は、その御神体を囲むように流れる、小川の前まで行く。

「ここから先は、隠り世。」

お婆さんが、また語る。この先はあの世、つまりは死後の世界であり、戻るには、俺達の一番大切なものを、引き換えにしなければならないらしい・・・・その一番大切なものが、口噛み酒なのだと・・・・この酒は、三葉と四葉が米を噛み、唾液と共に吐き出したものらしい。これが、三葉達の半分なのだそうだ・・・・

御神体の前まで行くと、小さな入り口があり、下に降りる階段が付いていた。中まで降りて行くと、小さな祠があり、口噛み酒はそこに奉納された。

 

御神体を出て、山を降りると、もう陽が雲の後ろに隠れ掛かっていた。

「もう、カタワレ時やなあ・・・・」

お婆さんが呟く。カタワレ時とは何だ?聞いた事が無い。だが、入れ替わりとは関係は無さそうだ。

わざわざここまで来てみたが、結局何も分からなかった。

「もう、彗星見えるかな?」

四葉が、そう言う。

彗星・・・・そうだな、彗星について調べれば、何か分かるかもしれない・・・・

考え込んでいる俺に、お婆さんが横から声を掛ける。

「あんた今、夢を見とるな・・・・」

いや、これは夢では無いよ、お婆さん。

 

 

 

10月4日、自分の体で目が覚める。この間、赤司君と入れ替わって以降、入れ替わりは起こっていない。今日が、彗星が最接近する日。黄瀬くん辺りは、今日ここで、その天体ショーを見たかったんじゃないかな?あ・・・でも、向こうでも、3年前に見てるんだっけか?

 

夜、祭りもあるので、浴衣に着替えて、サヤちんとテッシーとの待ち合わせ場所に行く。

「遅くなってごめん。待った?」

「ううん、私らも、今来たとこやよ。」

「ほんじゃ、行こか!」

3人で、神社に向かって歩く。空には、彗星が大きな尾を引いて、巨大な紐のような模様を描いている。それはまるで、夢の景色のように、ただひたすらに美しい眺めだった。

「あれ?」

ふと、私は気付く。彗星の描く紐が、2つに分かれているのに。その間隔はどんどん広がっていき、その片方は、赤く大きな塊になっていく・・・・

 






毎回、入れ替わっているのが同じ人物なら、もっと早く3年の時差にも、彗星の破片落下の事も気付けたかもしれません。
結局、各自2回の入れ替わりだったので、流石の赤司も、全てを読み切れませんでした。
しかし、6人全員が入れ替わりを経験した事が、この後意味を持って来ます。

物語はクライマックスへ、次回はいよいよ最終回・・・・ではありません。この話は、まだまだ続きます。

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