三葉も、週刊誌に載る記事から、黒子達の時間と自分達の時間に3年の時差がある事に気付きます。
しかし、何故その時差があるのかを気付く前に・・・・
青峰くんと入れ替わった2日後、また緑間くんと入れ替わり、その2日後に黄瀬くんと入れ替わった。その日は日曜だったので、さつきちゃんに連絡を取り、また皆でこの間のファミレスに集まった。参加者は、私(黄瀬くん)、さつきちゃん、青峰くん、黒子くんの4人だ。
「はあ・・・・・」
会ってそうそう、私は溜息をついた。
「疲れてるみたいね?大丈夫、三葉ちゃん?」
「ま・・・また四葉が怒っちゃって、宥めるのに、大変で・・・・」
「大ちゃん、また、酷い事言ったんでしょ!」
「仕方ねえだろうが!入れ替わってるなんて、知らなかったんだしよ。」
「でも、周りの状況が違うんだから、少しは空気読みなさいよ!」
「俺ばっか責めるんじゃねえよ!緑間だって、怒らせたんだろ?あいつは、何で来ねーんだよ?」
「はい、“入れ替わりの事は理解したが、会って話してどうにかなる事では無いのだよ。”だそうです。」
「もう、ミドリンたらっ!」
「バスケ部や、運動部の勧誘も厳しくて・・・・」
「大ちゃん、少しは自重しなさいよ!」
「あのチャラ男のせいだろうが、やたらと突っ掛って来やがって・・・・そういや、あいつどうした?この間は、姿見なかったが。」
「ああ、松本・・・最近、えらく落ち込んでて、休む日が多いんよ。」
「緑間や、紫原にもやられたんだって?いい気味だ。」
「青峰くん、入れ替わってた時に、何か気付いた事無いですか?」
「はあ?・・・・ド田舎で、遊ぶとこもねえなって事くらいしかねえが・・・・何で、そんな事聞くんだよ?」
「赤司くんが、何でもいいから、気付いた事を連絡しろって。」
「テツは、何かねえのかよ?」
「ひとつ、思い出した事があるんですが・・・」
「何だよ?」
「彗星です。」
『彗星?』
3人でハモった。
翌日、僕は赤司くんに皆で話した事を連絡した。
『そうか?確かに、彗星接近なんてニュースは聞かないな。ありがとう、次に自分が入れ替わる時に、それも確認しておこう。』
「はい、お願いします。それで、黄瀬くんからは何かありましたか?」
『残念ながら、何も無いな。普通に学校に行って、帰って来ただけだそうだ。』
「え?日曜日に、学校に行ったんですか?」
『ん?そうか、確かに、昨日は日曜だ・・・・少し待ってくれ、黄瀬にもう一度確認する。』
食い違うニュース、曜日の違い・・・・これは、もしかすると・・・・
しばらく待つと、赤司くんから、もう一度電話が掛かって来た。
『もしもし、黒子か?黄瀬に確認した。曜日までは分からないそうだが、普通に授業があったそうだ。だから、日曜日では無い。』
「じ・・・じゃあ・・・」
『そうだ、時系列がずれている。』
翌日、私は、教室の窓にもたれ掛って、昨日黒子くん達と話したことについて考えていた。
彗星最接近のニュースは、こちらでは週に2~3回は流れている。それが、東京では全く流れないなんておかしい。だいたい、新聞にだって出てる。まさか、黒子くん達の世界と、私の世界が別世界なんて事は無いよね?
「お~い!宮水~っ!」
廊下から、隣のクラスの男子が声を掛けて来た。この間、バスケの名門校について聞いた、バスケ部の男子だ。
「何?」
彼に歩み寄って、私は尋ねる。
「お前って、本当にバスケ好きなんやな?中坊までチェックしとるなんてよ。」
「え?・・・何の事?」
「とぼけるなや、“奇跡の世代”の事や!」
「え?奇跡の世代?」
「週刊誌にも載っとったで、この記事!」
そう言って彼は、週刊誌の記事を見せてくれた。そこには、帝光中学バスケ部の“奇跡の世代”と呼ばれる、中学生プレイヤーの事が書かれていた。
レギュラーの5人全てが、“10年に1人”の逸材であり、彼らが入部して以降、帝光中学は一度も負けていない・・・・その名前は、“赤司征十郎”、“緑間真太郎”、“青峰大輝”、“黄瀬涼太”、“紫原敦”・・・・あれ?黒子くんの名前が、無い・・・・
ま・・・待って、この子達って・・・・中学2年生?じ・・・じゃあ・・・・私と黒子くん達の時間は・・・・3年ずれていたの?
「そういえば、この奇跡の世代やけど、奇妙な噂も流れとるらしいで。」
「え?ど・・・どんな?」
「何でも、誰も知らへんらしいけど、この5人の他に、5人が一目おいとる“幻の6人目”がおるって噂がな。」
ま・・・幻の6人目?・・・・まさか、それが、黒子くん?
数日後、赤司は、三葉の体で目を覚ます・・・・
目覚めた後、俺は、真っ先にスマホを確認した。
“2013年”
間違い無い、俺達の時間の、3年前だ。迂闊だったな、スマホの画面は何度も見ていたのに、年号の違いに目が行かなかった。
3年の時差がある事は分かった。だが、それと入れ替わりがどう関係しているのか?それを調べるには、学校に行っている場合じゃ無いな。
その日は学校を休むつもりで、私服に着替えて下に降りる。
「おはよう、お姉ちゃん。お婆ちゃんが、朝ごはん食べたら、直ぐ出掛けるやて。」
「え?・・・何処に?」
今日は、山の上にある御神体に、口噛み酒とやらを奉納する日らしい。
そんな事をやっている場合では無いのかもしれないが、“御神体”という言葉が、どうも引っ掛かった。この入れ替わりの現状は、実際に神懸かりな出来事だ。その“御神体”とやらが無関係には思えなかった。
俺と四葉、お婆さんの3人で出かける。宮水神社の、裏手の山を登って行くようだ。
御神体が神社にでは無く、山の上にある事にも、何か意味があるのかもしれない。普通なら、神社の中か、そうでなくても直ぐ側に置く筈だ。
結構な山道を、ひたすら歩く。まだまだ、先は長そうだが、お婆さんには、この山道は辛いだろう。非常に、歩みも遅い。これでは、いつ御神体に辿り着けるか分からない・・・・
「お婆ちゃん!」
俺は、お婆さんに背中を差し出す。婆さんは、にっこり笑って、
「ありがとうよ。」
と言って、俺の背中におぶさる。
山頂までの道中、俺の背で、お婆さんが日本古来の“ムスビ”の事を語った。
糸を繋げることも、人を繋げることも、時間が流れることも、全部同じ言葉“ムスビ”を使う。それは神様の呼び名であり、神様の力でもあると。では、俺達と三葉の入れ替わりも、何かの“ムスビ”なのか?・・・・
ようやく頂上に着くと、そこには、大きなカルデラ状の窪地があった。その中央には、巨大な岩と一体化した巨木があり、それが御神体らしい。
これが御神体なら、神社と場所が離れているのも分かるような気がする。こんな場所に神社を建てても、通うのが大変だ。逆にこんな物を、町の近くまで運ぶのも困難だ。
俺達は、その御神体を囲むように流れる、小川の前まで行く。
「ここから先は、隠り世。」
お婆さんが、また語る。この先はあの世、つまりは死後の世界であり、戻るには、俺達の一番大切なものを、引き換えにしなければならないらしい・・・・その一番大切なものが、口噛み酒なのだと・・・・この酒は、三葉と四葉が米を噛み、唾液と共に吐き出したものらしい。これが、三葉達の半分なのだそうだ・・・・
御神体の前まで行くと、小さな入り口があり、下に降りる階段が付いていた。中まで降りて行くと、小さな祠があり、口噛み酒はそこに奉納された。
御神体を出て、山を降りると、もう陽が雲の後ろに隠れ掛かっていた。
「もう、カタワレ時やなあ・・・・」
お婆さんが呟く。カタワレ時とは何だ?聞いた事が無い。だが、入れ替わりとは関係は無さそうだ。
わざわざここまで来てみたが、結局何も分からなかった。
「もう、彗星見えるかな?」
四葉が、そう言う。
彗星・・・・そうだな、彗星について調べれば、何か分かるかもしれない・・・・
考え込んでいる俺に、お婆さんが横から声を掛ける。
「あんた今、夢を見とるな・・・・」
いや、これは夢では無いよ、お婆さん。
10月4日、自分の体で目が覚める。この間、赤司君と入れ替わって以降、入れ替わりは起こっていない。今日が、彗星が最接近する日。黄瀬くん辺りは、今日ここで、その天体ショーを見たかったんじゃないかな?あ・・・でも、向こうでも、3年前に見てるんだっけか?
夜、祭りもあるので、浴衣に着替えて、サヤちんとテッシーとの待ち合わせ場所に行く。
「遅くなってごめん。待った?」
「ううん、私らも、今来たとこやよ。」
「ほんじゃ、行こか!」
3人で、神社に向かって歩く。空には、彗星が大きな尾を引いて、巨大な紐のような模様を描いている。それはまるで、夢の景色のように、ただひたすらに美しい眺めだった。
「あれ?」
ふと、私は気付く。彗星の描く紐が、2つに分かれているのに。その間隔はどんどん広がっていき、その片方は、赤く大きな塊になっていく・・・・
毎回、入れ替わっているのが同じ人物なら、もっと早く3年の時差にも、彗星の破片落下の事も気付けたかもしれません。
結局、各自2回の入れ替わりだったので、流石の赤司も、全てを読み切れませんでした。
しかし、6人全員が入れ替わりを経験した事が、この後意味を持って来ます。
物語はクライマックスへ、次回はいよいよ最終回・・・・ではありません。この話は、まだまだ続きます。