君のバスケ   作:JALBAS

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さて、最後に控えしは、奇跡の世代のリーダー、天帝赤司征十郎です。
冷静沈着、頭脳明晰の彼なら、いきなりの入れ替りにも苦も無く対応できるでしょう。
しかし、その赤司になってしまった三葉の方は・・・・




《 第六話 》

 

朝起きて、直ぐに体の違和感に気付く・・・・これは、俺の体では無い。部屋も、俺の部屋では無かった。

部屋の姿見で自分の姿を見て、自分が女子になっているのには、流石に驚いた。

「お姉ちゃん・・・あ、今日は早いんやね?」

小学生くらいの女の子が、襖を開けて、部屋を覗いてそう言った。

「ごはんやよ。」

そう言って、階段を降りて行く。

これは、夢だろうか?いや、意識ははっきりとしているし、この感覚は夢では無い。となると、今のこの状況は何だ?

考えられるとすれば、2つ・・・・ひとつは、何かの要因で前世に飛ばされたか、もうひとつは、良くドラマ等であるが、何処かの他人と入れ替ったか・・・・

見たところ、俺の時代とほぼ同じようだから、前世という可能性は低い。やはり、誰かと入れ替っているのだろう。原因は不明だが・・・・

 

制服に着替えて、下に降りる。居間では、先程の妹とお婆さんが、朝食を食べている。

「おはよう。」

挨拶をして座り、一緒に朝食を食べる。

この入れ代わりが、一時的なものか?継続的なものなのか分からない。今は、この環境に合わせておいた方が無難だろう。

 

朝食を終え、妹は先に学校に行かせて、俺は部屋に戻る。この女子の持ち物を確認し、できるだけの情報を得る。そして、机の上にあった組紐を持って、また居間に行く。

「お婆ちゃん、お願いがあるんだけど・・・・」

 

その後、学校に向かい通学路を歩く。住所を見たところ、岐阜県の糸守町というところらしい。かなり山の中の田舎だ、家もそれ程多く無く、人口も少なそうだ。

「三葉~っ!」

後ろから、自転車に2人乗りした男女が近づいて来る。多分今の俺、“宮水三葉”の親友の“名取早耶香”と“勅使河原克彦”だろう。

「おはよう、三葉。」

「おはよう、サヤちん、テッシー。」

あだ名は、スマホのアドレス帳に書いてあった。

「良かった、今日は普通やね。」

名取が、俺の髪を見て言う。部屋にあった写真では、この三葉という女子は髪を結っていた。やり方は分からなかったが、大概そういうものは親から習うものだ。だから、お婆さんに頼んで結ってもらった。

これで、それ程怪しまれる事は無いだろう。ただ、この地方の方言は真似できない。口数は、できるだけ抑えておいた方が良さそうだ。

 

学校に行き、しばらくは何事も無かったが、休み時間に、ふと自分を見つめる視線に気付く。何列か横の席の男子が、じっとこちらを見ている。だが、目が合うと、顔を背ける。

「三葉、気にしたらあかんよ。松本の奴、まだこの間の事、根に持っとるみたいやけど。」

彼は、“松本”というのか?この間の事とは、何だ?

 

昼休みは、名取達に誘われて、校庭の隅で昼食を取る。

「ほんまに、今日は、三葉が普通で良かったわ。」

朝も言っていたが、“今日は普通”というのは、どういう意味だ?入れ替っていない時の方が、おかしいと言うのか?

「この間の、“捻り潰すよ”は酷かったでな。」

何?

「ね・・・ねえ、テッシー?私、いつも、そんな事言ってた?」

「ああ、また、覚えとらんのやろ?1日だけやったけど、何か無気力で、ぬぼ~としとったのに、いきなりキレて“捻り潰すよ!”とか言って、怖かったわ。」

「その何日か前は、異様に陽気で、“○○っス”の連発やし。」

「“招き猫”抱えて、“ラッキーアイテムなのだよ”も酷かったな。」

な・・・何だ、それは・・・・まさか、俺だけで無く、紫原や緑間も入れ替っていたのか?

 

家に帰り、名取達に聞いた内容を整理する。

どうやらこの三葉という女子は、黒子、青峰、緑間、黄瀬、紫原、そして俺の6人と入れ替わっていたという事になる。今のところ、同じ相手と2度入れ替わってはいないようだ。

これは、何を意味するのか?どうにも情報が少なすぎて、皆目見当が付かない。

まあこれで、2度と俺との入れ替わりが無いのであれば、特に気にする必要は無いだろうが・・・・

しかし、多分今、俺の体にはこの三葉という女子が入っているのだろうが、さぞ混乱しているだろう・・・・後のフォローが大変だ。葉山あたりは“まさか、3人目が出て来たのか?”とか言いそうかな?

 

 

 

今朝は、京都の洛山高校のバスケ部の寮で目が覚めた。

今日の私は、“赤司征十郎”身長はそれ程高く無く、黒子くんと同じくらい。

かなりのイケメンであるが、黄瀬くんとは違う。何か、威厳があるというか、非常に威圧感の高い目をしていて、この目で見つめられて命令されたら、何の抵抗もできずに従ってしまうんじゃないか?そんな事を感じさせる人だ。

でも、いったい、いつまで続くんだろう?この入れ替わりは・・・・いったい、何人の男の子と入れ替ればいいの?・・・・そもそも、何で全員バスケ部なのよっ!

 

朝食を食べようと食堂に向かっていると、背の高い男の人がこちらに向かって来る。

「おはよう、征ちゃん。今朝は遅いのね?」

「え?」

な・・・何か、おネエっぽいんですけど、何なの?この人?

なんて思いながら、食堂に入って行くと、

「おばちゃん!おかわり!」

何かゴリラのような、黒くてゴツイ男が、物凄い勢いでご飯を食べまくっていた。テーブルの上には、空の容器が山積にされている。な・・・何て食欲?紫原くん以上?

「また、朝から食べまくって、限度ってもんを知らねえのかよ。」

後ろから声がしたので振り返ると、少し小柄な(と言っても赤司くんよりは大きいが)陽気そうな男の子が立っていた。

「赤司、主将からも言ってやってくれよ。」

え?赤司くんって、主将なの?だ・・・だって、2年生でしょ?

 

背の高いおネエの人は“実渕玲央”、ゴリラのようなゴツイ人は“根武谷永吉”、陽気な彼は“葉山小太郎”、3人共バスケ部のメインメンバーで、赤司くん共々、昨年からレギュラーだったらしい。しかも、赤司くんは昨年も主将だったそうだ。多分ここもバスケの名門高なんだろうけど、そんな学校で1年生から主将って・・・・どこまで凄いの?赤司君って・・・・

 

学校へは、この3人と一緒に行った。名を呼ぶ時に“くん”付けで呼んだら、物凄く怪訝そうな顔をされた。いつもは、呼び捨てなんだろうか?

皆、同級生なのだと思っていたら、学校に着いたら、彼らは3年の教室に行ってしまった。

ええ~っ!いくら主将だからって、上級生を呼び捨てなの?も・・・もしかして、凄い独裁者タイプなの?

 

教室では、ボロを出さないように、できるだけ大人しく無口でいた。元々、気楽に声を掛けられないような、上流貴族のようなオーラを持ってる人だったので、話し掛けて来る人も少なくて助かった。

 

問題は部活だ・・・・いざ、体育館に集まって、皆の前に立たされたが、何を言って良いのか分からない。バスケ未経験者の私が、強豪高のトッププレーヤーに何を指示できるっていうの?

「え~・・・・今日は・・・・」

皆、黙って真剣に私を見つめている。皆のこの態度を見れば、赤司くんの威圧感の凄さが伝わって来る・・・・だから余計に、それを私がぶち壊したら・・・・だめ!も・・・もう限界!

「・・・今日は、各自考えて・・・じ・・・自分の・・・に・・・苦手なところを、重点的に練習するように・・・・以上!」

それだけ行って、体育館を飛び出す。皆の間では、ざわめきが起こっている。

「おい、赤司、何処に行く?」

監督と思われる人に呼び止められたが、

「ちょ・・ちょっと体調が悪いんで・・・りょ・・・寮で休んでます!」

そう言って、寮に飛んで帰った。

以降は部屋に籠り、殆ど外には顔を出さなかった・・・・

 

翌朝、自分の体で目覚め、着替えて居間に行く。

また、昨日何か異常な行動をとって、その事で何か言われるかとビクビクしながら朝食を食べたが、四葉もお婆ちゃんもいつも通りで、何も変な事は言われなかった。

学校に行く時も、途中サヤちんとテッシーと合流したが、反応は普通だった。

 

そして、お昼。

「今日も、三葉が普通で良かった~。」

「これが当たり前なんやが、普通な日が続くと、心が落ち着くで。」

普通の日が続いてるって事は、昨日は普通だったって事?昨日は、赤司くんに入れ替わってた筈だけど?

「きっと、三葉、ストレスが溜まってたんやね?お祭りの事とか、町長選挙の事とか、気苦労多いに。」

「それか、やっとお狐様から解放されたか?」

「あんたは、そればっかやな?」

う~ん・・・お狐様じゃ無くて、入れ替わりなんだけど・・・・解放されたのかな?また、明日になったら、別の男の子に・・・・

 






周りに何の違和感も感じさせず、入れ替わりの1日を乗り切る赤司・・・・流石です。
一方三葉は、“名門、洛山高校バスケ部の主将赤司”のプレッシャーには、耐えきれず逃げ出しました。
もっとも、赤司の代役なんか、他の奇跡の世代でも務まりませんが・・・・

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