君のバスケ   作:JALBAS

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さて、今回三葉が入れ替るのは・・・・
“奇跡の世代”の中でも、更に異端児である紫原敦です。
もう、糸守での三葉のイメージはぐちゃぐちゃです。
でも、一番被害を蒙るのは、今回も・・・・




《 第五話 》

 

「あれ?」

紫原は、朝起きて自分が見た事も無い部屋に居る事に、疑念を抱く。

「どこ?・・・ここ?」

虚ろな目で、辺りを見回す。すると、自分を見つめる少女の存在に気付く。

「あの~・・・・」

「いつまでも寝ぼけとらんで、ごはんやよ。」

それだけ言って、少女は下に降りて行ってしまう。のっそりと喋ったため、彼は、最後まで言葉を発する事ができなかった。

「何か・・・体が軽いなあ・・・・」

のっそりと立ち上がり、姿見の方まで歩いて行く。そして、そこに映っている自分の姿を見る。

「・・・あれ・・・これが、俺?・・・何で?」

しばらく、立ったまま考え込んでいたが、次第に考えるのが面倒になって来たため、彼・・・いや彼女は、壁に掛かっていた制服に着替えて下に降りた。

居間に行くと、先程の少女とお婆さんが朝食を食べていた。腹は減っていたため、三葉(中身は紫原)はそのまま席に座り、朝食を食べた。

食事の途中、四葉が何度か三葉に話し掛けたが、“あ~”とか“う~”とかの片言しか返って来ないため、まだ寝ぼけているのかと思い、呆れて先に学校に行ってしまう。

三葉が、いつまでもご飯を食べていて動かないので、お婆さんが、

「いつまで食べとるの?早よう行かんと、遅刻やよ。」

と言うが、三葉は、

「え~っ?今日は、何かおかしいから、行きたく無い。」

と言う。しかし、そんな我儘が通る筈も無く、最後には怒られて追い出された。

 

「は~っ・・・・どこ?ここ?」

やる気無さそうに、とろとろと歩く三葉。

「三葉~!」

その後ろから、テッシーとサヤちんが、いつものように自転車に2人乗りしてやって来る。

「おはよう、三葉。」

「え?・・・誰?」

『はあ?』

三葉の反応に、怪訝な顔をする2人。

「俺が分からんのか?勅使河原や!」

「早耶香やよ!」

「ああ、そう・・・てしチンと、さやチンね?」

「て・・・てしチン?」

「な・・何か、イントネーションが違うんやけど?」

今日の三葉の髪も、後ろで纏めただけの“侍モード”だったが、もう2人は、そこは突っ込まなかった。

しばらく歩いて行くと、右手に、この町唯一のコンビニが見えて来る。

「あの~~~」

「え?何、三葉?」

「ちょっと寄っていい?」

三葉は、コンビニを指差して言う。

「べ・・・別にええけど。」

待つ事数分、コンビニから出て来た三葉を見て、テッシーとサヤちんはまた驚く。彼女は、“まいう棒”を袋ごと買って来て、既に1本は、食べながら出て来た。

「お待たせ~」

「な・・何や、三葉!そ・・それ?」

「だって・・・・お腹が空くから・・・・」

「朝ごはん、食べて来たんやろ?」

「でも~~~~」

 

そんなやりとりをしながら、三葉達は、町営駐車場の前に差し掛かる。そこでは、三葉の父で現職糸守町長の“宮水としき”が町長選挙の演説をしている。

そんな彼の目に、見っともなく、お菓子を食べながら歩く娘の姿が映る。

「こら!三葉!何だ、食べながら歩いて、行儀が悪い!」

その声に、気だるそうに顔を向ける三葉。

「ん~?・・・・誰?あれ?」

「ちょ・・・ちょっと三葉、いくら喧嘩中やからって、お父さんに“誰?”は無いやろ!」

「え~?・・・でも、俺、三葉じゃ無いし・・・・」

そう言って、三葉は向き直って歩き出す。もちろん、食べ歩きは止めずに・・・・

「こ・・こら!三葉!止めなさいと言ってるだろ!おい、こら~っ!」

としきがいくら叫ぼうと、三葉は、2度と振り向きはしなかった・・・・

 

学校に来ても、テッシーとサヤちんは頭を抱えていた。

流石に教室内では“まいう棒”は食べていないが、三葉は、気だるそうに机に突っ伏して、殆ど動こうとしなかった。

「何なんや、今日の三葉は?」

「今迄の中でも、最悪やわ。」

そこに、クラスメイトの松本が寄って来た。

「み・・・宮水、きょ・・今日こそは、汚名返上したる!昼休みに、もう一度勝負せいや!」

「え~・・・やだ~・・・・」

「な・・・何やと?」

「めんどくさ~い・・・・」

「な・・・何言うとんのや!こ・・このままじゃ、俺の気が収まらへん!いいから、勝負せいや!」

「だから~、やだって言ってるじゃ~ん。」

「そ・・・そんなん、通ると思っとんのか?つべこべ言わずに・・・・」

次の瞬間、三葉の目が据わる。そして、勢いよく立ち上がった三葉は、松本の頭を鷲掴みにする・・・・と言っても、三葉の方が背が低く、手も小さいのでそのような描写にはならないのだが、三葉の発する異様なオーラが、周りにそのような錯覚を見せていた・・・・

「うるさいなあ・・・・あんまりしつこいと、捻り潰すよ!」

「な・・・何すんのや!」

松本は、直ぐに三葉の手を振り解こうとするが・・・・

「い・・・痛い!いたたたたたたたた!」

とても女のものとは思われない、凄まじい力で頭を締め付けられてしまう。

「捻り潰すよ!いい?」

「や・・・やめて・・・わ・・・分かった・・分かりましたから・・・離して!」

そこでようやく、三葉は手を離す。松本は、その場にへたり込んでしまう。その松本を、冷ややかな目で三葉が見下ろす。

「分かったら・・・・どっか行って。」

「は・・・はいいいいいっ!」

完全にたじたじの松本は、脱兎のごとく教室を出て行った。

それをずっと見ていたテッシーとサヤちんは、更に頭を抱えるのであった。

「あかん・・・キャラが、全然違う!」

「ほんまに、どないしたんや?三葉・・・・」

 

 

 

最近は、朝起きるのが怖い。目が覚めると、また別の見た事も無い部屋で、また別の男の子になっているんじゃないかと、心配で夜は寝付けない。

でも、結局は寝てしまい、目が覚めると・・・・まただ!

今日は、こじんまりとした、狭い部屋で目が覚める。ベットを降り、立ち上がると・・・

「え?」

視点がメチャメチャ高い、緑間くんの時よりも更に。ど・・・どれだけ大きいの?この人?

部屋には鏡が無いので、洗面所に行こうと部屋を出る・・・・

「痛っ!」

入り口に、頭をぶつけて・・・いや、ほぼ顔をぶつけてしまった。背が、高すぎるのよ、この人・・・・

部屋を出ると、長い廊下になっていて、同じようなドアがいくつも並んでいる。寮か何かのようだ。多分、バスケ部の寮なんだろう。この男の子も、バスケ部に違い無い。

洗面所を見つけ、鏡を覗き込む。

「こ・・・これが、今日の私?」

身長は2m以上有るだろう。長髪の、あまり目付きの良くない男の子の顔が、そこにあった。しかし、これで、本当に高校生?姿を見ただけで、町の不良も逃げ出しそうだ・・・・

「やあ、おはよう、敦。」

声を掛けられ、振り返る。そこには、この男の子程では無いが、背の高いイケメン男子が立っていた。同じ寮の、バスケ部の子だろう。

「お・・・おはよう・・・」

愛想笑いをしながら、挨拶を返す。すると、思いっきり怪訝な顔をされた。

またか・・・・どうして私が入れ替わる子達って、普通に挨拶をしないの?

 

部屋に戻って分かった事だが、彼の名は“氷室辰也”、私と同じ高校2年生。そして今の私は“紫原敦”。共に、秋田県の陽泉高校のバスケ部員で、寮で生活している。

しかし、何で秋田?いきなり、関東から離れちゃったんですけど・・・・

 

寮から学校は近いので、歩いて移動する。まだ9月とはいえ、秋田は結構寒い。

紫原くんは口数の少ない人で、人付き合いも苦手なようなので、話し掛けられる事が無くて助かる。最も、こんな怖そうな巨人に、気さくに話せる人も少ないと思うけど・・・・

但し、氷室くんには、かなりおかしく見られた。

「敦、今日は、何も食べないんだね?」

「え?ちゃんと、朝ご飯食べたけど・・・」

「そうじゃ無くて、“まいう棒”とか?」

「まいう棒???」

どうも、紫原くんは、暇さえあれば“まいう棒”等のお菓子を摘まんでいるらしい・・・

紫原くんて、お菓子が好きなんだ・・・・それとも、体が大きいから、食べる量が半端じゃ無いだけかな?

 

授業中は問題無かったんだけど、やはり、部活ではそうはいかない。サボろうとしても、帰るところが寮なので、そういう訳にもいかない。しかし、流石2mの巨人、普通に動くだけでも、大抵の人は太刀打ちできない。

本当は、私がうまくできていないだけなんだけど、多少失敗しても手を抜いているようにしか見えないようで、“もっと本気でやれ”くらいの激で済んだ。

ところが、会話の方は違和感だらけだった。

特に監督(綺麗な女性の監督さんだった)に指示されて、

「はい、監督!」

と返事をしたら、何か恐ろしい物を見たような顔をされ、おでこに手を当てられ、

「お前、本当に大丈夫か?」

とまで言われた・・・・普段、いったいどういう受け答えしてるの?この人は?

 

それは、翌日に分かった。

四葉や、サヤちん達に聞いたところ、昨日の私は何を聞かれても、

「あの~」

とか、

「え~」

とか、

「めんどくさ~い。」

等、歯切れの悪い、無気力な言動ばかりだったと・・・・それなら、逆にはきはき答えれば異常に見られるだろう。

あと、人の名前を短縮して後ろに“チン”を付けて呼んでいたらしい。確かに私は、サヤちんはそう呼んでるけど、いったい、あの監督を何と呼んでるんだろう?

気が滅入っているところに、松本が声を掛けて来た。

「お・・おい、み・・宮水?」

「はあ~?」

ちょっと落ち込んでいたので、溜息交じりの歯切れの悪い返事になり、目も少し据わっていた。すると・・・

「ひっ、ひいいいいいいっ!」

松本は、突然悲鳴を上げて教室を出て行ってしまった。

・・・・あれ?何で?

 






青峰同様、周りがどうであろうと、あくまで自分のペースでしか行動しない紫原。
おたおたするのは、サヤちんとテッシーの2人ばかり・・・・
一方、いきなり2mの巨人になってしまった三葉。あまりにも控え目な行動に、周りは違和感を感じるばかり・・・・
ただ、どんなに自分のイメージを変えられても、紫原は何も気にしないでしょけど・・・・

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