必死に関係改善に努める三葉ですが、四葉は取り合ってくれません。
ところが、そんな姉妹関係を修復してくれたのは、以外にも・・・・
「ごめんなさい、ね、反省してますから・・・許してっ!」
「・・・・」
「お願いやから・・・ね、四葉、四葉ちゃん、四葉様っ!」
「・・・・」
「四葉ってば~~~」
しかし、四葉は何も答えず、朝食を終えて、そそくさと居間を出て行ってしまう。
「うえ~ん、お婆ちゃ~ん!」
私は、お婆ちゃんに泣き付く。
「仕方あらへんねえ・・・・しばらく、放っときい。」
「そ・・・そんなあ・・・・」
黒子くん、青峰くん、緑間くんと続いた入れ替り。その間の彼らの、妹四葉に対する対応に怒り心頭の四葉は、私とは、全く口を聞いてくれなくなってしまった。まさか、“東京の男の子達と入れ替ってました”等と言っても、信じてくれる筈も無い。どうしたらいいの?
「はあ~っ・・・・」
学校に来て、溜息をつく私・・・・
「大丈夫?三葉?」
「全然、大丈夫やない・・・・」
心配するサヤちんに、私はそう答える。
学校内でも、落ち着いていられない。例の松本とのバスケバトルのせいで、今や私は校内で、注目度No.1の女子になってしまった。暇さえあれば、女子バスケ部が勧誘に来る。また、バスケ部だけで無く、その他の運動部までもが勧誘して来た。下級生の女の子には、サインを求められる程だ。
「例によって、何も覚えとらんのか?三葉?」
「うい・・・・」
テッシーの問いに、机に突っ伏して、力無く答える。
覚えている訳が無い。それをやったのは、私では無いんだから・・・・でも、何で、毎回毎回違う男の子と・・・・それも、全員バスケ部で、超一流選手で・・・・え?
私は、ふと思った。そんなに凄い選手なら、メディアでも騒がれているんじゃ?
バスケの事は、バスケ部に聞くのが一番だ。また勧誘されるのは嫌だったので、男子バスケ部の人に聞いてみる事にした。クラスメイトの松本がバスケ部なんだけど、こんな状況で松本に聞ける訳も無いので、隣のクラスの子に聞いた。
「ねえ、バスケの強い学校で、誠凛とか、桐皇とか、秀徳って知ってる?」
「おおっ!流石やな宮水、強豪高はしっかりチェックしとるやないか?桐皇も秀徳も、関東の超強豪高や!せやけど、誠凛ってのは知らんな。新鋭の注目高か?」
「え?そうやの?」
誠凛は、強豪じゃないの?そういえば、青峰くんと緑間くんは松本をボコボコにしたみたいだけど、黒子くんは、何もしなかったみたいだし・・・・
「じゃあ、その高校に、青峰くんとか、緑間くんっていう凄い選手がおるの?」
「え?青峰に緑間?・・・・知らんなあ、聞かへんで、そんな選手。」
「え~っ?」
結局、黒子くん達の事は分からず終いだった。
家に帰っても、四葉の機嫌はまだ直らなかった。お婆ちゃんの言うように、しばらくは放っておくしかない。それよりも、夜、寝るのが怖かった。また、誰かと入れ替ってしまうのか?そんな不安に駆られながらも、結局は寝てしまったのだが・・・・
「ん・・んんっ・・・・」
翌朝、目が覚めると・・・・やはり、私の部屋じゃ無い!またなの?
起き上がって、辺りを見回して、頭を抱える・・・・また、全然違う!
今回の私の入れ替わりの相手は、“黄瀬涼太”。海常高校の2年生、当然バスケ部だ。ただ、今迄の男の子と違ってかなりイケメンで、アドレス帳も、女の子の名前が異常に多い。かなり、モテるのだろう。
住所は、東京では無く神奈川県だった。かなり東京寄りではあるが。
東京では無いといっても、田舎の私から見れば殆ど同じで、学校まではかなり迷った。
黄瀬くんは誰とでも気さくに話すタイプのようで、やたらと声を掛けられたが、当然満足な対応は取れず、目一杯周りに不信感を与えてしまった・・・・自分も、黒子くん達の事を文句言ってられる立場じゃ無いなと、つくづく痛感した。
放課後は、逃げるように学校を後にした。当然、部活はサボりだ。黄瀬くんがどんな選手かは知らないが、まず間違い無く超一流選手だろう。私なんかに、代役が務まる筈が無い。
家に帰ると、今度はスマホに着信の嵐だった。
いきなり、バスケ部の主将から電話が掛かって来たが、
『こっ!なんでんしゅうこない?たんでぞ!』
「は?」
『そで、せいんにかてか!』
何の暗号か分からず、切ってしまった。
その後は、女の子からの電話が何件も、
『黄瀬くん?今から出て来れない?』
『リョー君、何で最近電話くれないの?』
『涼太、今から行っていい?ご飯作ってあげる!』
いちいち、断るのが大変だった。
変わったところでは、モデル会社からの仕事の依頼の電話まであった。流石、都会のイケメン・・・・モデルまでやってるんだ。
その日は、スマホの電源を切って、もう夜の7時には寝てしまった・・・・
「ん~っ・・・・え?」
朝起きると、見た事も無い部屋の中だった。
つうか・・・女の子の部屋じゃねえ?壁に掛かっている制服も、女子のだし、着ているパジャマまで・・・・って、ええっ?
胸には、盛り上がりと谷間がある・・・・触ってみると・・・・感じる、本物だ!
「ほんまに、自分のおっぱいが好きやね。」
「え?」
気付くと、右手の襖が開いていて、小さな女の子が、冷やかな目でこっちを見ている。
「ごはんやよ・・・・」
それだけ言って、下に降りて行ってしまう。誰だ?あの女の子は?
部屋を見渡すと大きな姿見があったので、その前まで行って自分の姿を映す。
「え?」
そこに映ってるのは、同い年くらいの女の子の姿だった。
お・・・俺、女の子になってるの?
俺は、制服に着替えて下に降りた。夢だか何だか知らないけど、女の子になるなんて中々経験できる事じゃない。せっかくだから、少しこの生活を満喫してみようかと思った。
「おはよう!」
居間で朝食を取っていた、さっきの子と、お婆さんに挨拶する。お婆さんは返事をしてくれたが、少女の方は無視だ。さっきの様子もそうだったが、何か機嫌が悪いのかな?まあ、ここは深入りせずに、流しておこう。
テレビでは、“彗星最接近まで、あと3週間”とかいうニュースをやっている。あれ?そんな話あったっけ?でも、最近はモデルの仕事も復活させて忙しかったから、あんまりニュース見れて無かったけど。
朝食を終え、学校へ田舎道を歩く。建物も少なく、殆ど車も走っていない。かなり山の中のようだ。都会育ちの俺には凄く新鮮で、何だか楽しい気分になって来る。
「三葉~っ!」
後ろから呼ぶ声がする。出る前に、最低限の確認はして来た。今の俺は“宮水三葉”、糸守高校の2年生の女子。友達は、今声を掛けてくれた2人組、勅使河原克彦と名取早耶香。
「おはよう、三葉。」
「おはよう、勅使河原っち!名取っち!」
「勅使河原っち?」
「名取っち?」
2人は、怪訝そうな顔をする。まあ、そんなの俺は気にしない。
「み・・・三葉、その髪・・・」
「ああ、似合うっしょ?」
髪が長かったんで、ドラマ“カインとアベル”の倉科カナ風に纏めてみた。
「いつもの結い方と違うやん。」
「組紐使っとらへんし。」
「たまにはいいっしょ!」
まあ、初めてなんだけど。
「ちょ・・・ちょっと、三葉!」
名取っちが、俺の指を見て驚く。
「ネイル塗っとるの?」
「ああ、一度やってみたかったんス。せっかく、女の子になったんスから・・・」
「女の子になった?」
「あ・・いや、こっちの話っス。」
「だめやよ!校則で、禁止されとるやろ!」
「ええ~っ?」
やっぱ、田舎はそういうの厳しいのか・・・・うちの学校じゃ、自由なのに・・・・
昼休みは、勅使河原っちと名取っちと、3人で校庭の隅で昼食を取る。
「いや~、大自然の中で食べるランチ、最高っスね!」
「ね・・・ねえ?」
「ん?何っスか?名取っち?」
「あんた・・・ほんまに三葉?」
「そうっスよ。」
「いや、全然そうに見えないんやけど・・・・」
俺は、そんな2人の事は気にせず、大自然の中の女子高生ライフを満喫していた。
「ただいま~っ!」
家に帰ると、例の妹はまだ怒っているようで、全く返事をせずむくれている。
「四葉、いい加減に仲直りしいや。」
お婆さんがそう言っても、無視して行ってしまう。
名前は“四葉”っていうのか・・・・勿体無いなあ、あの子、笑えばとっても可愛いと思うのに・・・・ん?そうだ!
俺は、四葉ちゃんの後を追って、声を掛ける。
「ねえ、四葉ちゃん?」
「・・・・」
凄く機嫌の悪そうな顔で、四葉ちゃんは振り向く。
「何か、食べたい物無い?何でも、好きな物作ってあげるよ。」
「え?ほんと?」
四葉ちゃんは、やっと笑った。やっぱり、笑うとすごく可愛い。
・・・・ん?・・・携帯の、アラームが聞こえる・・・・
「?!」
私は、慌てて飛び起きた。直ぐに部屋の中と、自分の体を確認する・・・・自分に戻ってる・・・・?!
気付くと、右の襖が開いていて、四葉が立っていた。
ま・・・まさか、黄瀬くんも、四葉を怒らせるような事を・・・・
自分の顔から、血の気が引くのが分かった。“何か言わなければ”と思うが、言葉が出ない。
「どうしたん?お姉ちゃん?・・・ごはんやよ。」
四葉は、にっこり笑ってそう言って、下に降りて行った。
「え?・・・・」
私は、しばらく放心状態で動けなかった・・・・
青峰と緑間がメチャクチャにしてしまった、三葉と四葉の姉妹関係を、黄瀬が見事に修復してくれました。流石、奇跡の世代の中では、赤司に次ぐ常識人だけの事はあります。
ただ、その次に控えるのが、最も常識の通じない男なんですが・・・・・