最初は夢だと思っていた体験も、周りの証言から夢では無かったのかと思い始めます。
そして、次に三葉が入れ替るのは・・・・秀徳高校の緑間真太郎です。
ん?・・・・スマホのアラームが鳴ってる・・・・?!
私は、思わず飛び起きた。そして、辺りを見回す・・・・私の部屋だ。
や・・・やっぱり夢だったのね。な・・・何で、こんな変な夢ばかり見るのかな?
ところが、着替えて下に降りて行くと・・・・
「・・・・」
四葉が、何も言わない。挨拶をしても、話し掛けても、目を瞑って、全く答えない。
「ねえ、四葉、何をそんなに怒っとんの?」
すると、冷やかな目で私を見つめて・・・・
「自分の胸に聞きい!」
そう言って、そそくさと出て行ってしまった。な・・・何なのよ?あの態度は?
私は、お婆ちゃんにも聞いてみる。
「お婆ちゃん、四葉は、何であんなに怒っとんの?」
「ん?そらあ、あんな言われ方したら、怒るやろ?」
「え?・・・どんな?」
お婆ちゃんの話によると、昨日、また私の様子がおかしかったようだ。四葉は心配して、私にいろいろ聞いてきたが、その度に私は“うるせえっ!”と言って突っぱねたそうだ。そんな覚えは、もちろん全く無い・・・・というより、また、昨日の記憶が無い。
更に学校に行って、サヤちん達に話を聞いてまた驚いた。
完全に“俺様”調で、男言葉で、話が詰まると“うるせえ!”を連発。しまいには、バスケで松本を、完膚無きまでに叩きのめしたそうだ。それも、ノーブラで胸をバンバン揺らしながら・・・・聞いていて、恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
「松本は、相当ショックやったようやな。今日は、休んどる。」
「三葉、本当に何も覚えとらんの?」
「うん、私、どうしちゃったんやろ?」
「やっぱ、狐憑きか?」
「あんた、そればっかやね?」
「ねえ、昨日の私、他に変な事言って無かった?」
「ん~っ・・・そういや、“俺は青峰大輝だ”とか言っとったな。」
「え?」
青峰大輝?それって、昨日の夢で、私がなってた男の子・・・・じゃあ、あれは夢じゃ無くて、私と青峰くん、入れ替って・・・・
「ん・・んんっ・・・・」
翌朝、目が覚めると・・・・な・・・ま・・また私の部屋じゃ無い!く・・・黒子くん?それとも、青峰くん?・・・・え?ここ・・・・ま・・・また、全然違う!
直ぐに、部屋の中を調べて、今の自分を確認した。
“緑間真太郎”、秀徳高校の2年生、またもバスケ部だ。主な友達は、同級生でバスケ部の“高尾和成”。
立ってみると、視点が全然違う・・・・背が、かなり高い。黒子くんは、私と大差無かったのに・・・・あれ?な・・・何か、視界がぼやけてない?
辺りを見回すと、ベッドの脇に眼鏡ケースが置いてある。そこから眼鏡を取り出して、かける・・・・あ、これで見えるようになった。
「お兄ちゃん、ごはんだよ!」
下から、女の子の声が聞こえる。この男の子も、妹が居るの?
下に降り、まず洗面所に行って、洗面台の鏡を覗き込む。
こ・・・今度は、眼鏡もあるせいか、インテリっぽい男の子だ・・・・凄く、背が高い。この間の、誠凛の火神くんくらいあるんじゃないの?こ・・・これも入れ替ってるの?で・・・でも、何で、毎回毎回違う男の子と?
朝食を終え、家を出る。学校に行かなきゃいけないんだけど・・・・
青峰くんの時は、さつきちゃんに連れてってもらったから良かったけど、黒子くんの時は、かなり迷った。今回は、大丈夫かな?東京って、本当に迷路みたいで・・・・
と、家の前で考え込んでいると・・・・
「あれ?何、突っ立ってんの?真ちゃん?」
「え?」
声のする方を見ると、自転車に乗った高校生がこちらに向かってくるが・・・ええ~っ?
何とその子は、自転車でリアカーを引いていた。何で?
「も・・もしかして、高尾くん?」
「もしかしなくても俺だよ、何言ってんの?」
「い・・いや・・・あの・・・・」
「そんな事より、早く乗って!急がないと、遅刻しちゃうよ!」
「え?」
「昨日の賭け将棋で負けて、今日俺が学校まで乗っけてくって事になったろ。」
「え?ま・・・まさか、そのリアカーに乗るの?」
「何言ってんだよ、いつも乗ってんじゃん?」
ええ~っ?ど・・どういう人なの緑間くんって?友達を、奴隷みたいにこき使って・・・・
「あれ?今日は、何も持ってないじゃん。」
「え?何もって?」
「ラッキーアイテム。」
ラッキーアイテム?な・・・何?それ?
「テーピングもしてないし・・・・」
テーピング?だめ、全然訳が分かんない・・・・
そんな問答を繰り返していると遅れるので、“いいから乗れ”と言われて、リアカーの後ろに座らされた。でも、メチャクチャ恥ずかしかった。おかげで、学校には迷わずに行けたけど・・・・
授業中は、できるだけ大人しくして、休み時間には席を外してやり過ごした。
でも、部活の方はそうはいかず、サボろうとしたら高尾君に見つかってしまった。
それでも、基礎練習は何とかこなしたんだけど、問題はその後。緑間君は別メニューになってるようで、シュート練習をやるハメになった。
また高尾君が“賭けに負けたから”といって準備をしてくれたんだけど、いきなりコートの端に立たされて、その位置から、反対側の端のゴールにシュートを入れろというのだ!
何?これ?ひょっとして、いじめ?こんなところから、どうやったらあんな遠くのゴールに入るのよ?冗談じゃ無いわ!
「あれ?どうしたの真ちゃん?打たないの?」
高尾君、ひょっとして、リアカー引かせた報復をしてるの?で・・でも、悪気がありそうな顔には見えない・・・・
「緑間!何をしている!さっさと始めろ!」
いつまでも突っ立ったままなので、主将の激が飛んでしまう。仕方が無いので、覚悟を決めて、打ってみることにする。
「ていっ!」
遠いから、思いっきり投げてみるが、投げ方も良く分かって無いので、ボールはコートの真ん中にすら届かなかった。
「え?・・・何やってんの?真ちゃん?」
高尾君が、とんでも無いものでも見たような顔をする。
「い・・いや・・・今の、なし・・・無しね・・・」
ちょっと手投げだったかな?・・・・もっと、腰を落として・・・・
今度は、腰を落として反動を付けて投げる・・・・でも、やっとコートの真ん中辺りに届いた程度だ・・・・
「まじめにやってる?真ちゃん?」
大真面目ですよっ!こんなの、出来る訳無いじゃない!
心の中で叫びながら、3投目・・・・遠くに投げるんだから、高く上げなくっちゃっ!
今度は、思いっきり高く投げる・・・・ボールは真上に上がって、そのまま、自分の頭の上に落ちて来た。
「い・・・痛ったあ~っ!」
高尾君が、私の肩に手を置いて言う。
「ごめん、真ちゃん・・・・」
え?
「いつも俺が、“ユーモアが無い!堅すぎる!”って言うから、必死に考えてくれたんだね。」
い・・いや、そうじゃ無くて・・・
「よ~く分かった、真ちゃんには、ユーモアのセンス全く無いから、もう、無理に笑い取ろうとしなくていいよ。」
そうじゃ無いの!私はこれでも、必死なんだってば~!・・・・もう、いや~っ!
アラームの音で目が覚めたが、目覚ましの音では無い・・・・
目を開け、体を起こして、部屋の中を見る・・・・何処だ?ここは?・・・・ん?何故、こんなに視界がはっきりしている?眼鏡をかけていないのに・・・・
ふと、体の違和感にも気付く。胸が、やけに重い。下を見ると・・・・胸に凹凸が・・・・
「何だ?これは?」
思わず、声を出してしまった。
「・・・・」
ふと、視線を感じて横を見る。襖を開け、ひとりの幼女が、じっと俺を見ている。
「・・・・ごはんやよ・・・・」
それだけ言って、下に降りて行ってしまう。何だ?あの幼女は?いや、そんな事より、今は体の異常を確認するのが先だ。
目の前に姿見を見つけて、俺はその前に立つ。そこに映っていたのは、完全に女の姿だった。
こ・・・これが、俺だと?ど・・・どういう事なのだ?
部屋の持ち物で確認した限り、俺は“宮水三葉”という女になっているようだ。いつまでも動揺していてもどうにもならないので、とりあえず壁に掛かった制服を着て下に降りた。
さっきの幼女と婆さんが、既に朝食を食べている。家族は、この2人だけか?
空いてる席に座って、俺も飯を食べる。横の幼女は、この女の妹なのか?さっきから、何も言わずに黙々と食べているが・・・・
「いい加減に、仲直りしない。」
婆さんがそう言う。何だ?喧嘩でもしているのか?
そんな時、テレビのニュースが耳に入って来る。
『1200年ぶりの彗星の接近まで、ひと月を切りました・・・・』
ふと、時間が気になって、部屋の時計を見る。時間を見て、俺はテレビのチャンネルを変える。
「ああっ、何で変えるん?」
「おは朝の、占いの時間なのだよ。」
「はあ?何なん、それ?もう知らん!」
そう言って、妹は怒って席を立って行ってしまった。何を、そんなに怒っているのだ?
朝食の後、学校に向かう。
しかし、凄い田舎だ。紫原の居る陽泉は、こんな感じだろうか?
「三葉~っ!」
後ろから声を掛けられ、振り返る。自転車に2人乗りした男女が、走って来る。おそらくあれが、勅使河原と名取だろう。この女の持ち物で確認した限り、主な友人はあの2人だけだ。
「おはよう、三葉。」
「ああ、おはよう。」
一応、挨拶を返しておいた。
「あれ?また、髪が・・・・」
「ま・・・また、狐憑きか?」
髪?・・・長いので後ろで纏めただけだが、それがどうかしたのか?それに、狐憑きとは何だ?
「ん?・・・な・・・何や?それ?」
勅使河原が、俺の持つ“招き猫”に疑問を持つ。
「ラッキーアイテムなのだよ。」
「ラッキーアイテム?」
「・・・なのだよ?」
余計に、疑念を持たれてしまった。しかし、説明しても理解されるとは思えなかったので、何も答えなかった。
学校に行くと、今度は別な男から声を掛けられた。
「おう宮水、この間は、ようもやってくれたな?」
何だ?この男は?この女の友人は、さっきの2人だけでは無いのか?
「松本、何言うてんの?元は、あんたから絡んだんやろ!」
「引っ込んどれ、名取!俺は、宮水と話しとんのや!」
“松本”というのか?唯の、クラスメイトか?
「リベンジマッチや!今日の昼、つきあえや!」
何の事だか分からないが、断ると余計にこじれそうなので付き合うことにした。
昼休み、体操服に着替えて体育館に行く。
松本は、バスケットボールを持って待っていた。何だ、俺にバスケ勝負を挑むつもりなのか?身の程知らずもいいとこだな。
「だ・・・大丈夫か?三葉?」
勅使河原と名取も、心配して付いて来た。それだけでは無く、他の生徒も大勢見にきていた。おそらく松本が、呼び寄せたのだろう。
「問題無いのだよ。」
糸守高校など、聞いた事が無い学校だ。こんなところに、俺と対等に闘える選手がいるとも思えん。
「ドリブルは、得意なようやな?せやけど、バスケの花は3Pや!今日は、3Pで勝負や!」
フリースローラインのところに、籠に入れられボールが沢山置かれている。
「まず俺からや!お手本やから、よう見とけ!」
松本は、フリースローラインから、3Pを放つ。
なってないな。フォームが汚い。あんな投げ方じゃ、3回に2回は外す。それに、ろくに練習もしていないようだ、足腰が不安定だ。
ボールは、リングに当たってふら付いたが、何とかゴールに入った。しかし、美しくない!美の欠片も無い、低俗なシュートだ!
「さあ、お前の番や!やってみい!」
あの程度のシュートで、得意そうな顔をするな!虫唾が走る!適当に手を抜いてやろうと思っていたが、こいつは許せん!
俺は、ボールを持ってコートの中央に立つ。
「な・・・何やっとるんや?ま・・・まさか、そこから打ついうんか?」
「うるさい!黙って見ているのだよ。」
慣れない体だから、この辺が限界だろう。だが、体は柔らかいし、反応は悪くない。何より、今日の蟹座の運勢は最高だ、外す懸念は微塵も無い。
俺は、そこからシュートを放つ。ボールは綺麗な放物線を描き、リングの中央をすり抜ける。うむ、初めての体にしてはいい方だ。
『おお~っ!』
「な・・・なんやと?」
周囲からは歓声が、松本からは、情け無い言葉が発せられる。直後に、体育館中から拍手が沸き起こる。
「み・・・三葉・・・」
「す・・・すげえ・・・」
勅使河原と名取も、驚嘆の声を上げているが、俺にとっては日常の事だ。別に驚く事では無い。
「さて、お前の番だが、まだやるか?」
腰を抜かしてへたり込んだ松本は、言葉を発することができず、首を思いっきり横に振るだけだった・・・・
前回に引き続き、奇跡の世代の引き立て役にされた松本くん・・・・
一方三葉は、スーパープレイで、一躍糸森高校のスーパースターになってしまいます。
でも、本当の三葉は、奇跡の世代のスキルを強要される環境下で、散々な目に合っています・・・・
また、入れ替わりのせいで、四葉との姉妹関係にも危機が・・・・