君のバスケ   作:JALBAS

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帝光中学校バスケットボール部、その輝かしい歴史の中でも特に“最強”と呼ばれ、無敗を誇った10年に1人の天才が5人同時にいた世代は“奇跡の世代”と呼ばれている。
今、その“奇跡の世代”に、3年後の彼らが借り物の体を使って闘いを挑む・・・・




《 第十二話 》

 

糸守高校のバスケ部員が、動けない松本をベンチまで運ぶ。代わって、三葉がコートに入り、四葉のところまで歩み寄る。

「すまない、もう少しベンチで観察させてやりたかったんだが・・・」

「いえ・・・」

「それで、どうだ?」

「もう少し、観察が必要です。」

「そうか、申し訳ないが、続きはプレイしながらやってくれ。」

「分かりました。」

“ピーッ!”

プレイが再開されるや否や、

「お返しっスよ!」

早々に、黄瀬がカウンターショットを決める。

それに対する、糸守選抜の反撃。四葉は、いきなり誰も居ないところにパスを出す。

『?!』

そのパスは、突然信じられない方向に軌道を変え、としきの手に渡る。としきは、すかさずロングシュートを決める。

「な・・・何や今の?」

「ボールが、変な風に曲がらんかったか?」

体育館内には、どよめきと歓声が入り混じる。しかし、これを見ても帝光は動じない。

「俺達本人って事は・・・」

「当然、テツも居るよな。」

「ふっ、そうで無くては面白く無い。」

三葉の加入で、帝光の猛烈な追い上げを多少は緩和できたものの、松本を欠いて得点力の落ちた糸守は、どんどん差を詰められていく。第1Q終了時には、得点は22-22のイーブンになっていた。

ベンチで休む糸守のメンバーを、四葉は冷静に分析する。

“やはり、相当に体力を消耗しているな。俺は小学生、緑間は中高年、黄瀬と黒子は高校生とはいえ女子だ。次の第2Qは、かなり厳しい闘いになる。”

一方の帝光ベンチでは、

「へっ、あっちの俺は早々にガス欠で退場か?ざまはねえな。」

「だからと言って気を抜くなよ。体力が無い事は最初から承知の上で、闘いを挑んでいる。何か、企んでいるかもしれん。」

「分かってるよ、久々に本気でやれるんだ。最後まで、楽しませてもらわねえとな。」

 

第2Q開始早々、帝光の攻撃は更に激しさを増す。

「おらよっ!」

「もらったっス!」

青峰と黄瀬の速攻で、どんどん加点して行く。これに対し糸守は、四葉のパスで帝光の隙を突くが・・・・

「甘い!」

「何?」

としきのシュートを、“天帝の眼”で赤司が遮る。赤司は、そのまま糸守ゴールに迫る。

「やらせない!」

テッシーが防ごうとするが、

「頭が高い。」

「なっ・・・」

“天帝の眼”によるアンクルブレイクで、テッシーは尻餅をつかされてしまい、難無く赤司はシュートを決める。

四葉は、赤司よりも優れた“魔王の眼”と同等の“天帝の眼”を持つが、圧倒的に身体能力の劣る小学生の体では、自分で切り込む事は出来ない。そのため、赤司に一歩遅れる事になっていた。

「やられっぱなしは、我慢ならないっス!」

サヤちんが、痺れを切らして奥の手を出す。青峰が、行く手を阻むが・・・

「何だと?」

サヤちんのアンクルブレイクで、青峰は尻餅をつかされてしまう。ゴールに向かうサヤちんに、今度は紫原が迫るが・・・

「なに~?」

青峰のごときドライブで、これを交わす。そして、ダンクに飛ぶ。

「させないっスよ!」

黄瀬が、させまいと立ちはだかる。

「うおおおおおっ!」

しかし、サヤちんは“破壊の鉄鎚”で黄瀬を吹き飛ばしたままダンクを決める。

「ば・・・馬鹿な?」

「き・・・奇跡の世代の技は、俺だってコピーできないのに・・・・」

だが、第2Qで奇跡の世代が驚くのは、ここまでだった。ゴールを決めたサヤちんに、四葉が忠告をする。

「サヤちん、“完全無欠の模倣”はもう使うな。」

「え?何故っスか?」

「ゾーンまではいかないが、“完全無欠の模倣”も体力の消耗が著しく激しい。今の体で連発すれば、たちまち松本の二の舞だ。」

「しかし、このままじゃ離されてく一方っスよ!」

「俺に考えがある。今は我慢するんだ。」

“完全無欠の模倣”を封印されたため、以降のサヤちんは帝光に圧されて行く。それでも、中々点差は開かなかった。それは、糸守チームで唯一身体能力で劣らない、テッシーのディフェンスのおかげだった。

「何度もやらせないよ!」

中学時代の紫原に近い長身、バスケ部では無いが家業の手伝いで鍛えられた腕力、それに現在の紫原のスキルが加わったテッシーは、奇跡の世代の紫原に勝るとも劣らない存在だった。

そこで、帝光は黄瀬に変えて黒子を出し、かく乱も交えて攻撃して来た。単調な攻撃から連携による攻撃に代わり、徐々に差は開き始めた。第2Qが終わる頃には、50-32と大きく差をつけられてしまった。

第2Qの終了時に、赤司はすれ違いざまに四葉に話す。

「この程度とはね、幻滅したよ。ひょっとしてその姿は、負けた時の言い訳のためだったのかい?」

「ふっ、この程度は想定の範囲内さ。お前達のプレイが今のままなら、まだまだ恐れるに足りない。」

「何?」

そう答えて、四葉は飄々としてベンチに戻って行く。

 

「へっ、拍子抜けだぜ。やっぱり、体がおっさんや女子供じゃこんなもんか!」

「もう決まったっスね、この試合。」

「赤司、これ以上試合を続ける意味があるのか?向こうは、もう限界なのだよ。」

「そうでしょうか?」

もう相手に見切りをつけていた青峰達の言葉を、黒子が否定する。

「はあ?何言ってんだよ、テツ?」

「向こうの僕ですが、プレイの間中、ずっと僕達を観察していました。」

「だから何だってんだ?弱点でも、見つけたってのか?」

「それは分かりませんが・・・・」

「仮にそんなもんがあったって、そこを突く体力が向こうには残ってねえよ!」

 

一方、糸守側のベンチでは、

「どうだ、三葉?」

「はい、もう大丈夫です。」

「そうか、では、第3Q開始から行くぞ!」

「いったい、何をやる気なのだよ?」

「何と言ったらいいかな?“擬似魔王の眼”とでも言おうか?」

『はあ?』

としき、サヤちん、テッシーが首を傾げる。

 

第3Q、帝光中は糸守を速攻で下すべく、黒子を下げて再び黄瀬を入れて来た。だが、これこそ四葉の思う壺であった。

黄瀬は速攻でサヤちんととしきを交わす。テッシーのディフェンスも巧みに交わして、フリーになったと思った瞬間、ボールを三葉に奪われる。

「何?」

「やるな!」

直ぐさま、青峰が三葉に迫るが、

「なっ?」

青峰の視界から、三葉が消える。“消えるドライブ”だ。青峰を交わした三葉は、すかさず四葉にパスを出す。それに対し、赤司は既にとしきへのパスを読み動いていた。だが・・・

「何だと?」

としきは、ボールを持たずにシュートのアクションに入っていた。そして、シュートを放つ寸前のところに四葉のパスが入り、そのままシュートを放つ。ボールは吸い込まれるように、ゴールに突き刺さる。

「な・・・何だ?あのシュートは?」

驚く緑間。しかし、赤司はそれ以前のプレイに衝撃を受けていた。

“何故、向こうのテツヤは、涼太の動きを読めた?最初からあそこに来る事が分かっていなければ、涼太の動きに付いて来られる筈が無い!”

今度は、青峰が糸守ゴールに攻め込む。高速ドライブでディフェンスを抜いていくが、

「何だと?」

またしても、三葉にボールを奪われてしまう。

攻撃を悉くカウンターで返され、点差は徐々に詰まって行く。痺れを切らした赤司が、今度は自ら切り込んで行く。その行く手を、四葉が遮る。

「無駄だ!君の身体能力では、僕の動きを読めても止められない!」

「俺ひとりならな!」

「何?」

四葉を交わした先に、既に三葉が回りこんでいた。赤司のボールを奪った三葉は、すかさずサヤちんにパス。そのままゴールと決め付けて、青峰と黄瀬はディフェンスに飛ぶ。

「テッシー!」

だが、サヤちんは囮で、ボールはテッシーへ、

「させないよ!」

「捻り潰すよ!」

紫原を押し退け、テッシーがダンクを決める。

糸守チームの脅威の追い上げに、体育館には割れんばかりの大歓声が湧き起こる。

三葉(黒子)の“擬似天帝の眼”これは、長い間培った仲間との絆があって、初めて可能になる連携プレイである。本来なら誠凛の仲間との間でしか使えない技であるが、昔からの仲間であり、ライバルであり、共に“Jabberwock”とも闘った今の奇跡の世代との間では使えるようになっていた。

更に、今の敵である帝光中学の奇跡の世代も、三葉は長年観察して癖を知り尽くしていた。それでも、3年の時差があるため、試合の前半を使って細かい誤差を修正した。今の三葉は、相手の帝光中学の動きも予測できる。つまり、この試合に限っては、本家“天帝の眼”と同様の能力を持つ事になった。

これに、四葉の“天帝の眼”によるサポートも加える事により、三葉・四葉の姉妹は、現在の帝光の全ての攻撃の先回りができるようになっていた。

但し、これが可能になったのは、現在の帝光がチームプレイを捨て、個人のスキルに頼った力押しの攻撃に終始していたためだ。もし彼らがチームワークを駆使して、お互いを信頼して連携を取っていれば、こううまくはいかなかっただろう。

 

敵陣に中々切り込めない帝光は、強引なシュートが多くなり、ミスが目立ち始める。

緑間が、超ロングシュートを放つが、わずかに軌道がずれてリングに弾かれる。

「ちっ!」

リバウンドをテッシーが奪う。すかさずサヤちんにパス。ドリブルで敵陣に切り込んで行くが、マークが付いたところで敵に向かってパス。これを三葉が捻じ曲げ、ボールは四葉に渡る。四葉から後方のとしきに戻され、そこからロングシュート。ボールは吸い込まれるようにゴールに収まる。

「くそっ、何であのおやじのシュートは外れねえんだ?もうへばってるくせによ!」

それは、四葉の“完璧なパス”による物だった。しかも、ゾーンに入らないように、微妙な微調整も入れてパスを出していた。

 

この糸守のプレイを、ひとり興奮気味に凝視している者がいた。帝光の“幻の6人目”、黒子テツヤだ。

“む・・・向こうの僕達は、お互いを信頼しきってプレイしている。だから、あんな凄い連携ができるんだ・・・・あの人達は、3年後の僕達と言っていた・・・・という事は、今はバラバラな僕達だけど、3年後には、また昔のように・・・・“

 

“ピーッ!”

ここで、第3Qが終わる。20点近く開いていた点差は無くなり、この時点で、得点は58-58のイーブンになっていた。

ところが・・・・

「み・・・三葉っち、だ・・大丈夫っスか?」

第3Q終了と同時に、三葉が倒れてしまった・・・・

 






完全に形勢逆転していたところで、まさかの三葉のリタイア。
第4Qを残し、メンバーをひとり欠いてしまった糸守チームの運命は?

ここ2話ばかり、三葉本人が全く出て来てません。(体は出てますが)まあ、出て来ても御神体の頂上で、おろおろしてるだけなんですけど・・・・
原作ではカタワレ時に頂上で会って元に戻るんですが、この話ではもうカタワレ時過ぎちゃってますので・・・・それに、戻ったらボロ負けするだけですし・・・・

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