かくして、奇跡の世代VS奇跡の世代の夢の対決が実現する。
果たして、勝つのはどちらか?そして、計画はうまく行くのか?
今夜、糸守では豊穣祭が開催される。通常なら、祭典は宮水神社で行われ、神社の境内に出店が並ぶ。ところが、今年は祭典は糸守高校で行われ、糸守高校の校庭に出店が並ぶ。そして、祭典の目玉は、19:30より糸森高校体育館で行われる、帝光中学バスケットボール部と糸守選抜チームによる親善試合である。
いくら糸守町長の勅命とはいえ、祭典当日にこのような大幅な企画変更は普通通らない。何より、神社側が承諾する筈が無い。しかし、三葉達の素性を知っている、宮水神社神主でもある一葉が、難色を示す町の長老達を説得してくれたおかげで実現できた。逆に若者達は、週刊誌でも騒がれている“奇跡の世代”が見られると、喜び勇んで糸守高校に集まって来た。
夕方になって、糸守高校の校庭には出店が並び、大勢の人々が集まっている。空には既に彗星が大きな尾を引いて、綺麗な模様を描いている。住民達は、それも眺めながら楽しんでいる。
本祭りは講堂で行われる。そちらのしきりは、神主である一葉が行っており、三葉達は体育館で親善試合の準備を行っていた。
そこに、四葉(赤司)がようやく到着する。
「あか・・・四葉・・・」
「何とか、説得はできたみたいだね?」
「はい、結局、最後はサヤちんとテッシーが、バスケ部員を一蹴する事になりましたけど。」
「じゃあ、もうウォーミングアップは済んでいるな?」
「帝光中学とは、話はつきましたか?」
「大丈夫だ。もうそろそろ着く頃だろうから、出迎えの準備をしよう。」
「みど・・・お父さんは?」
「もう直ぐ来る。出迎えには、やはり町長が居ないと失礼だからね。」
体育館を出ると、丁度バスが学校内に入って来た。帝光中学の、遠征用のバスだ。
町中の人達がバスを囲み、体育館まで人混みの花道が出来上がる。そして、バスから選手達が降りて来ると、大きな歓声と拍手が沸き起こる。
糸守町長の宮水としき(緑間)が、先頭に立って帝光中学の選手達を迎える。引率者である真田監督と握手を交わす。
「今夜は、突然の要請に応えて頂いた上、遠い所からお越し頂き真にありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。」
しかし、としきは、真田監督の顔が決して笑っていない事に気付いていた。
“そうとう不満そうだな、監督は・・・・それはそうだろう。いきなり、こんな無名の田舎の学校に呼び出されては・・・・だが、それだけ赤司の発言力が、帝光を支配しているという事か?”
真田監督に続き、選手達は体育館の中に案内されて行く。そんな中、歓迎の人波の最前列にいる四葉を見つけ、赤司はその前で足を止める。
「・・・君が、そうなのか?」
「そうだ・・・良く来てくれたね。」
「君の思っている通り、僕は一度君と闘いたかった。そのチャンスが今日しか無いのなら、何を押しても逃す訳にはいかない・・・・だが、随分と可愛らしい姿だね。それで、満足に闘えるのか?」
「心配には及ばない。俺達のスキルに、対格差は関係が無い事は分かっているだろう?」
「ふっ、それはそうだが、限度というものがある・・・あんまり、幻滅させないでくれよ。」
「分かっている。」
まるで、“ラスボス同士の宣戦布告”が終わり、選手達は体育館に集まる。
三葉達のところに、宮水としきが、似合わないバスケのユニフォームを着て現れる。
「ご苦労だったね。」
「お父さん、お疲れ様っス!」
「やめろ!」
「そんなおっさんの体で、本当にプレイできんのか?」
「流石に、走るのは辛いがな・・・シュートするぶんには問題無いのだよ。」
「あか・・・四葉達は、ウォームアップはしてあるんですか?」
「準備の合間に、多少は済ませてある。元々スタミナが無いから、これくらいが丁度良いだろう。」
そんな三葉達を、冷やかな目で、帝光中学の奇跡の世代達が見つめている。
「何だよ?あの相手は?高校生どころか、女やおっさんやガキの集まりじゃねえか!」
「赤司、かつて無い強敵だと聞いたから、従ってここまで来たが・・・・これでは、まともな試合ができるとは思えないのだよ。」
「ところで緑間っち、その“干し椎茸”は何スか?」
「今日のラッキーアイテムなのだよ。」
「向こうのおじさんも持ってますね。」
良く見ると、宮水としきも同じ“干し椎茸”を持っていた。
「まさか、あのおっさんまで“ラッキーアイテム”とか、言ってんじゃねえだろうな?」
としきの“干し椎茸”に、サヤちんが茶々を入れる。
「お父さん、何スか?その“干し椎茸”は?」
「わざとらしく聞くな!ラッキーアイテムに、決まっているのだよ!」
糸守側のチームを見て、真田監督は血相を変えて赤司に詰め寄る。
「赤司、こんな話は聞いていないぞ!何だ、向こうのメンバーは?こんな色物じみた試合ををしたら、帝光の評判はがた落ちだ!理事長に何と言われるか・・・・向こうには申し訳ないが、こんな茶番は断るんだ!」
しかし、赤司は氷のような目で、監督の提案を却下する。
「監督、この試合に関しては、一切口出し無用とお願いしてある筈です。」
「し・・・しかし・・・」
「責任は、全て僕が取ります。心配しなくても、帝光の評判が下がる事はありません・・・むしろ、後から賞賛される事になるでしょう。」
赤司は、もうひとりの自分から、この試合の本来の目的も聞いていた。
「お前達にも、一言だけ言っておく。」
赤司は、奇跡の世代のメンバーの方を向いて話す。
「実際にプレイを見るまでは信じられないだろうが、この相手は、今迄のどの相手よりも手強い。姿に惑わされていると、足元を掬われるぞ。」
『はあ?』
奇跡の世代のメンバーは、未だに赤司の言葉が信じられなかった。
試合開始の時間が近づく。四葉(赤司)の計画通り、この時間には糸守の全ての住民が糸守高校に集まっていた。お年寄り達は、本祭典の講堂に。殆どの住民は、親善試合の体育館に。バスケに全く興味の無い者は、校庭の出店に。体調の悪い者には、保健室や教室が開放されていた。町の消防団は、町長の命により、糸守高校から人が外に出ないように、学校の周りを固めていた。
「それでは、これより帝光中学と、糸守選抜チームの親善試合を開始します。」
糸守高校の体育教師の号令で、いよいよ親善試合が開始される。
帝光の先発メンバーは、赤司、緑間、青峰、黄瀬、紫原の5人。対する糸守選抜は、四葉、としき、松本、サヤちん、テッシーの5人だ。
ジャンプボールに飛ぶのは、帝光は紫原、糸守はテッシーだ。
“ピーッ!”
開始の笛で、紫原とテッシーが同時にジャンプする。当然、紫原の方が高く飛んだが・・・・
「何?」
確かに、高さでは紫原が上だった。しかし、ベストのタイミングで飛んだのはテッシーの方だった。紫原が降下し始めた頃にテッシーは最高点に達したため、ボールを奪ったのはテッシーの方だった。
「も~らい。」
テッシーが奪ったボールを、すかさず四葉が拾う。
「お父さん!」
ボールはとしきへ。
「その呼び方は止めろ!」
としきは、すかさず超ロングシュートを放つ。綺麗な放物線を描き、ボールはゴールリングの中央を通過する。
“ピーッ!”
「な・・・何だと?」
「あ・・・あのシュートは?」
驚愕する、奇跡の世代の面々。体育館内には大歓声が上がる。
「ちょ・・・町長凄え!」
「流石、宮水の父ちゃんや!」
「やってくれるじゃねえか!」
青峰が、高速ドリブルで反撃に出る。瞬く間にディフェンスを抜きゴール前に、すかさずシュートに行くが・・・・
「やらせないよ!」
テッシーの壁が立ちはだかり、青峰のボールを叩き落す。
「な・・・何だと?」
「ふん、何腑抜けたオフェンスやってんだ、こうやるんだよ!」
ボールを拾った松本が、お返しの高速ドライブで帝光ゴールに迫る。
「させないよ!」
こちらも、紫原がシュートコースを塞ぐ。
「へっ!」
松本は、完全に不安定な体勢から、そのままシュートを放つ。ボールはボードに当たってから、リング上を一周してそのままリング内に落ちる。
「な・・・あれは?」
「青峰っちの、型無しシュート?」
体育館内からは、またもや大歓声が沸き起こる。
その後、帝光は糸守に圧倒されっぱなしで、5-15と点差が開いたところで、1回目のタイムアウトを取る。
「これで分かっただろう?」
「赤司くん、あ・・・あの相手は、もしかして・・・・」
「そうだ!あのチームは僕達自身だ!」
『な・・何っ?』
「正確に言うと、3年後の僕達だ。訳あって、今日1日だけ、あのメンバーと体が入れ替っているんだ。」
それを聞いていた、真田監督が口を挟む。
「な・・・何を言ってるんだ?3年後の人間と入れ替ってるなんて・・・本気でそんな事を言っているのか?馬鹿も休み休み・・・・」
「いや!」
監督の言葉を、緑間が遮る。
「あのようなプレイができるのは、今現在では、俺達以外には有りえないのだよ!」
「信じられないっスけど、目の前であんなプレイ見せられたら、信じるしか無いっスね!」
「はっ、確かに、こんな相手は今迄に居なかった・・・最高に燃えて来たぜ!」
「どうでもいいけど・・・あいつらムカつく。」
「絶対に、負けたくありません。」
奇跡の世代のメンバーの闘志に、ようやく火が点いた。
一方の糸守サイドでは、
「へっ、あいつら面食らってやがるぜ。」
「いい気になるなよ。今迄は彼らは、完全にこちらを嘗めていた。ここからは、本気になって攻めて来る。今迄のようには行かないぞ。」
「望むところなのだよ。」
「このままじゃ、こっちだって拍子抜けっスからね!」
「ムカついたら~、捻り潰すだけだし~」
「松本、お前にひとつだけ忠告しておく。」
「はあ?何だよ、改まって?」
「この試合、どんな事があっても、ゾーンには入るな!」
「はあ?」
「いいな!」
「あ・・・ああ、分かったよ。」
「それから、三葉。」
「はい?」
四葉は、三葉のところに寄り、何かを耳打ちする。
「え?」
「頼んだぞ。これができないと、この試合、多分最後まで持たない。」
「は・・はい、分かりました。」
タイムアウト直後、奇跡の世代の本領が発揮され始める。
「ここからは本気でいくぜ!」
青峰の高速ドライブ、さっき同様にディフェンスを抜いてゴール真下へ。
「させないって言ってるでしょ。」
テッシーが、再びシュートコースを塞ぐ。
「へっ!」
体を完全に仰け反って、ゴールが見え無い状態でシュートを放つ。しかし、ボールは真っ直ぐゴールに向かって行き、見事にゴールに収まる。
体育館内に、驚嘆の声が上がる。
「す・・・凄え!」
「何で、あんなシュートが入るんや?」
更に、緑間の超ロングシュート、黄瀬のスーパープレーも炸裂し、一気に点差は詰まって行く。
「まだまだ行くぜ!」
「させるかよ!」
遂に、青峰と松本の1on1となる。
「へっ、俺に勝てるのは、俺だけだ!」
「だから、俺が相手してやってんじゃねえか!」
激しい高速ドリブルの攻防、スキルで上回る松本だが身体能力の差が物を言い、わずかに及ばず抜かれてしまう。青峰は、そのままテッシーも交わしゴールを決める。
「へっ、その程度か?」
「や・・・やってくれるじゃねえか!」
松本の目から、青い稲光が迸る。
「いかん!止めろ、松本!」
四葉の制止を聞かず、松本はゾーンに突入する。
「おかえしだ!」
ゴールポストの真下から、帝光ゴールに向かって突進する松本。
黄瀬も、緑間も交わし、再び青峰との一騎打ち。
「な・・・何だと?」
しかし、青峰ですら、その反応スピードに全く追い付けない。紫原も難無く交わした松本は、そのままダンクを決める。
その圧巻の光景に、体育館内は一時言葉を失う。が、一瞬の静寂の直後に、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。
「馬鹿が!」
そんな中で、四葉だけは叱責するような呟きを放つ。
「へへっ、どう・・・・え?」
突然、体中の力が抜けたように、松本はその場に倒れ込む。
「ま・・松本っち?」
「な・・・ど・・どうなってやがんだ?・・・か・・・からだが・・・」
体に全く力が入らず、松本は起き上がる事すらできない。そこへ、四葉が歩み寄る。
「だから、ゾーンには入るなと言ったんだ。ゾーンは心・技・体、全てが究極に高められて初めて発揮できる力だ。借り物の鍛錬の足りない体では、負担が大きすぎる。直ぐに体力の限界を通り越して、当分満足に動く事もできなくなる。」
「さ・・・先に、それを・・・言えよ・・・」
「交代だ、お前はしばらく休んでいろ。」
そうして四葉は、三葉の方を向く。
「お姉ちゃん、出番だ!」
遂に幕を開けた、奇跡の世代同士の夢の対決。
しかし、第1Qでいきなり松本(青峰)がガス欠になってしまい、糸守選抜は大ピンチ!
そこに、颯爽と秘密兵器、三葉(黒子)の登場・・・・果たして、三葉はこのピンチを救えるか?