君のバスケ   作:JALBAS

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糸守住民を彗星の破片落下から救うため、帝光中学バスケ部“奇跡の世代”との親善試合を企画した三葉(黒子)達・・・・
かくして、奇跡の世代VS奇跡の世代の夢の対決が実現する。
果たして、勝つのはどちらか?そして、計画はうまく行くのか?




《 第十一話 》

 

今夜、糸守では豊穣祭が開催される。通常なら、祭典は宮水神社で行われ、神社の境内に出店が並ぶ。ところが、今年は祭典は糸守高校で行われ、糸守高校の校庭に出店が並ぶ。そして、祭典の目玉は、19:30より糸森高校体育館で行われる、帝光中学バスケットボール部と糸守選抜チームによる親善試合である。

いくら糸守町長の勅命とはいえ、祭典当日にこのような大幅な企画変更は普通通らない。何より、神社側が承諾する筈が無い。しかし、三葉達の素性を知っている、宮水神社神主でもある一葉が、難色を示す町の長老達を説得してくれたおかげで実現できた。逆に若者達は、週刊誌でも騒がれている“奇跡の世代”が見られると、喜び勇んで糸守高校に集まって来た。

夕方になって、糸守高校の校庭には出店が並び、大勢の人々が集まっている。空には既に彗星が大きな尾を引いて、綺麗な模様を描いている。住民達は、それも眺めながら楽しんでいる。

本祭りは講堂で行われる。そちらのしきりは、神主である一葉が行っており、三葉達は体育館で親善試合の準備を行っていた。

そこに、四葉(赤司)がようやく到着する。

「あか・・・四葉・・・」

「何とか、説得はできたみたいだね?」

「はい、結局、最後はサヤちんとテッシーが、バスケ部員を一蹴する事になりましたけど。」

「じゃあ、もうウォーミングアップは済んでいるな?」

「帝光中学とは、話はつきましたか?」

「大丈夫だ。もうそろそろ着く頃だろうから、出迎えの準備をしよう。」

「みど・・・お父さんは?」

「もう直ぐ来る。出迎えには、やはり町長が居ないと失礼だからね。」

 

体育館を出ると、丁度バスが学校内に入って来た。帝光中学の、遠征用のバスだ。

町中の人達がバスを囲み、体育館まで人混みの花道が出来上がる。そして、バスから選手達が降りて来ると、大きな歓声と拍手が沸き起こる。

糸守町長の宮水としき(緑間)が、先頭に立って帝光中学の選手達を迎える。引率者である真田監督と握手を交わす。

「今夜は、突然の要請に応えて頂いた上、遠い所からお越し頂き真にありがとうございます。」

「いえ、こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。」

しかし、としきは、真田監督の顔が決して笑っていない事に気付いていた。

“そうとう不満そうだな、監督は・・・・それはそうだろう。いきなり、こんな無名の田舎の学校に呼び出されては・・・・だが、それだけ赤司の発言力が、帝光を支配しているという事か?”

真田監督に続き、選手達は体育館の中に案内されて行く。そんな中、歓迎の人波の最前列にいる四葉を見つけ、赤司はその前で足を止める。

「・・・君が、そうなのか?」

「そうだ・・・良く来てくれたね。」

「君の思っている通り、僕は一度君と闘いたかった。そのチャンスが今日しか無いのなら、何を押しても逃す訳にはいかない・・・・だが、随分と可愛らしい姿だね。それで、満足に闘えるのか?」

「心配には及ばない。俺達のスキルに、対格差は関係が無い事は分かっているだろう?」

「ふっ、それはそうだが、限度というものがある・・・あんまり、幻滅させないでくれよ。」

「分かっている。」

まるで、“ラスボス同士の宣戦布告”が終わり、選手達は体育館に集まる。

 

三葉達のところに、宮水としきが、似合わないバスケのユニフォームを着て現れる。

「ご苦労だったね。」

「お父さん、お疲れ様っス!」

「やめろ!」

「そんなおっさんの体で、本当にプレイできんのか?」

「流石に、走るのは辛いがな・・・シュートするぶんには問題無いのだよ。」

「あか・・・四葉達は、ウォームアップはしてあるんですか?」

「準備の合間に、多少は済ませてある。元々スタミナが無いから、これくらいが丁度良いだろう。」

そんな三葉達を、冷やかな目で、帝光中学の奇跡の世代達が見つめている。

「何だよ?あの相手は?高校生どころか、女やおっさんやガキの集まりじゃねえか!」

「赤司、かつて無い強敵だと聞いたから、従ってここまで来たが・・・・これでは、まともな試合ができるとは思えないのだよ。」

「ところで緑間っち、その“干し椎茸”は何スか?」

「今日のラッキーアイテムなのだよ。」

「向こうのおじさんも持ってますね。」

良く見ると、宮水としきも同じ“干し椎茸”を持っていた。

「まさか、あのおっさんまで“ラッキーアイテム”とか、言ってんじゃねえだろうな?」

としきの“干し椎茸”に、サヤちんが茶々を入れる。

「お父さん、何スか?その“干し椎茸”は?」

「わざとらしく聞くな!ラッキーアイテムに、決まっているのだよ!」

糸守側のチームを見て、真田監督は血相を変えて赤司に詰め寄る。

「赤司、こんな話は聞いていないぞ!何だ、向こうのメンバーは?こんな色物じみた試合ををしたら、帝光の評判はがた落ちだ!理事長に何と言われるか・・・・向こうには申し訳ないが、こんな茶番は断るんだ!」

しかし、赤司は氷のような目で、監督の提案を却下する。

「監督、この試合に関しては、一切口出し無用とお願いしてある筈です。」

「し・・・しかし・・・」

「責任は、全て僕が取ります。心配しなくても、帝光の評判が下がる事はありません・・・むしろ、後から賞賛される事になるでしょう。」

赤司は、もうひとりの自分から、この試合の本来の目的も聞いていた。

「お前達にも、一言だけ言っておく。」

赤司は、奇跡の世代のメンバーの方を向いて話す。

「実際にプレイを見るまでは信じられないだろうが、この相手は、今迄のどの相手よりも手強い。姿に惑わされていると、足元を掬われるぞ。」

『はあ?』

奇跡の世代のメンバーは、未だに赤司の言葉が信じられなかった。

 

試合開始の時間が近づく。四葉(赤司)の計画通り、この時間には糸守の全ての住民が糸守高校に集まっていた。お年寄り達は、本祭典の講堂に。殆どの住民は、親善試合の体育館に。バスケに全く興味の無い者は、校庭の出店に。体調の悪い者には、保健室や教室が開放されていた。町の消防団は、町長の命により、糸守高校から人が外に出ないように、学校の周りを固めていた。

「それでは、これより帝光中学と、糸守選抜チームの親善試合を開始します。」

糸守高校の体育教師の号令で、いよいよ親善試合が開始される。

帝光の先発メンバーは、赤司、緑間、青峰、黄瀬、紫原の5人。対する糸守選抜は、四葉、としき、松本、サヤちん、テッシーの5人だ。

ジャンプボールに飛ぶのは、帝光は紫原、糸守はテッシーだ。

“ピーッ!”

開始の笛で、紫原とテッシーが同時にジャンプする。当然、紫原の方が高く飛んだが・・・・

「何?」

確かに、高さでは紫原が上だった。しかし、ベストのタイミングで飛んだのはテッシーの方だった。紫原が降下し始めた頃にテッシーは最高点に達したため、ボールを奪ったのはテッシーの方だった。

「も~らい。」

テッシーが奪ったボールを、すかさず四葉が拾う。

「お父さん!」

ボールはとしきへ。

「その呼び方は止めろ!」

としきは、すかさず超ロングシュートを放つ。綺麗な放物線を描き、ボールはゴールリングの中央を通過する。

“ピーッ!”

「な・・・何だと?」

「あ・・・あのシュートは?」

驚愕する、奇跡の世代の面々。体育館内には大歓声が上がる。

「ちょ・・・町長凄え!」

「流石、宮水の父ちゃんや!」

「やってくれるじゃねえか!」

青峰が、高速ドリブルで反撃に出る。瞬く間にディフェンスを抜きゴール前に、すかさずシュートに行くが・・・・

「やらせないよ!」

テッシーの壁が立ちはだかり、青峰のボールを叩き落す。

「な・・・何だと?」

「ふん、何腑抜けたオフェンスやってんだ、こうやるんだよ!」

ボールを拾った松本が、お返しの高速ドライブで帝光ゴールに迫る。

「させないよ!」

こちらも、紫原がシュートコースを塞ぐ。

「へっ!」

松本は、完全に不安定な体勢から、そのままシュートを放つ。ボールはボードに当たってから、リング上を一周してそのままリング内に落ちる。

「な・・・あれは?」

「青峰っちの、型無しシュート?」

体育館内からは、またもや大歓声が沸き起こる。

 

その後、帝光は糸守に圧倒されっぱなしで、5-15と点差が開いたところで、1回目のタイムアウトを取る。

「これで分かっただろう?」

「赤司くん、あ・・・あの相手は、もしかして・・・・」

「そうだ!あのチームは僕達自身だ!」

『な・・何っ?』

「正確に言うと、3年後の僕達だ。訳あって、今日1日だけ、あのメンバーと体が入れ替っているんだ。」

それを聞いていた、真田監督が口を挟む。

「な・・・何を言ってるんだ?3年後の人間と入れ替ってるなんて・・・本気でそんな事を言っているのか?馬鹿も休み休み・・・・」

「いや!」

監督の言葉を、緑間が遮る。

「あのようなプレイができるのは、今現在では、俺達以外には有りえないのだよ!」

「信じられないっスけど、目の前であんなプレイ見せられたら、信じるしか無いっスね!」

「はっ、確かに、こんな相手は今迄に居なかった・・・最高に燃えて来たぜ!」

「どうでもいいけど・・・あいつらムカつく。」

「絶対に、負けたくありません。」

奇跡の世代のメンバーの闘志に、ようやく火が点いた。

 

一方の糸守サイドでは、

「へっ、あいつら面食らってやがるぜ。」

「いい気になるなよ。今迄は彼らは、完全にこちらを嘗めていた。ここからは、本気になって攻めて来る。今迄のようには行かないぞ。」

「望むところなのだよ。」

「このままじゃ、こっちだって拍子抜けっスからね!」

「ムカついたら~、捻り潰すだけだし~」

「松本、お前にひとつだけ忠告しておく。」

「はあ?何だよ、改まって?」

「この試合、どんな事があっても、ゾーンには入るな!」

「はあ?」

「いいな!」

「あ・・・ああ、分かったよ。」

「それから、三葉。」

「はい?」

四葉は、三葉のところに寄り、何かを耳打ちする。

「え?」

「頼んだぞ。これができないと、この試合、多分最後まで持たない。」

「は・・はい、分かりました。」

 

タイムアウト直後、奇跡の世代の本領が発揮され始める。

「ここからは本気でいくぜ!」

青峰の高速ドライブ、さっき同様にディフェンスを抜いてゴール真下へ。

「させないって言ってるでしょ。」

テッシーが、再びシュートコースを塞ぐ。

「へっ!」

体を完全に仰け反って、ゴールが見え無い状態でシュートを放つ。しかし、ボールは真っ直ぐゴールに向かって行き、見事にゴールに収まる。

体育館内に、驚嘆の声が上がる。

「す・・・凄え!」

「何で、あんなシュートが入るんや?」

更に、緑間の超ロングシュート、黄瀬のスーパープレーも炸裂し、一気に点差は詰まって行く。

「まだまだ行くぜ!」

「させるかよ!」

遂に、青峰と松本の1on1となる。

「へっ、俺に勝てるのは、俺だけだ!」

「だから、俺が相手してやってんじゃねえか!」

激しい高速ドリブルの攻防、スキルで上回る松本だが身体能力の差が物を言い、わずかに及ばず抜かれてしまう。青峰は、そのままテッシーも交わしゴールを決める。

「へっ、その程度か?」

「や・・・やってくれるじゃねえか!」

松本の目から、青い稲光が迸る。

「いかん!止めろ、松本!」

四葉の制止を聞かず、松本はゾーンに突入する。

「おかえしだ!」

ゴールポストの真下から、帝光ゴールに向かって突進する松本。

黄瀬も、緑間も交わし、再び青峰との一騎打ち。

「な・・・何だと?」

しかし、青峰ですら、その反応スピードに全く追い付けない。紫原も難無く交わした松本は、そのままダンクを決める。

その圧巻の光景に、体育館内は一時言葉を失う。が、一瞬の静寂の直後に、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。

「馬鹿が!」

そんな中で、四葉だけは叱責するような呟きを放つ。

「へへっ、どう・・・・え?」

突然、体中の力が抜けたように、松本はその場に倒れ込む。

「ま・・松本っち?」

「な・・・ど・・どうなってやがんだ?・・・か・・・からだが・・・」

体に全く力が入らず、松本は起き上がる事すらできない。そこへ、四葉が歩み寄る。

「だから、ゾーンには入るなと言ったんだ。ゾーンは心・技・体、全てが究極に高められて初めて発揮できる力だ。借り物の鍛錬の足りない体では、負担が大きすぎる。直ぐに体力の限界を通り越して、当分満足に動く事もできなくなる。」

「さ・・・先に、それを・・・言えよ・・・」

「交代だ、お前はしばらく休んでいろ。」

そうして四葉は、三葉の方を向く。

「お姉ちゃん、出番だ!」

 






遂に幕を開けた、奇跡の世代同士の夢の対決。
しかし、第1Qでいきなり松本(青峰)がガス欠になってしまい、糸守選抜は大ピンチ!
そこに、颯爽と秘密兵器、三葉(黒子)の登場・・・・果たして、三葉はこのピンチを救えるか?

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