IS×FA 遥かな空を俺はブキヤで目指す   作:DOM

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約一ヶ月近くご無沙汰しております…
5月病か仕事が慌ただしかったのか創作意欲が落ちてました。

そして、今回の話を考えて(妄想)いた頃にこじらせていたモノの影響が物凄く出てます。
注意です。冒頭の謎ポエム(若しくはデスポエム)で嫌な予感した人は…心してください。


では、どうぞ御ゆるりと。


IS×FA53ss:義兄…さん

 果てしない空、母なる海、それが交わり彼方まで続くような水平線。

 誰もがこの蒼と青の世界を美しいと思うだろう。

 だが、君は知るだろう…

 この美しさと同じくらい…世界は、残酷であると……

 

 

 此処は遥かな空と雄大な海原の境界、それを割って飛ぶ物体があった。

 

「…!目標、HS(ハイパーセンサー)で確認。30秒後に接触する。覚悟はいいか、一夏、箒?」

 

「「はいっ!」」

 

 超音速とも呼べる超スピードで飛ぶのは、幾つものプロペラントタンクとブースターを

取り付けた機兵(FA)と白と紅のISであった。

 それが目指すのは同じく超音速で飛んでゆく『白銀の福音』である。

 

 事の始まりは、緊急宣言を出した…今から約五十分くらい前の事だ。

 

 

「では、現状を説明する」

 

 旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷は臨時の作戦司令部になっており、そこに教師陣と

専用機持ちの面子が集められた。

 そして、司令官としての役目を果たすのは無論千冬であり大型の空中ディスプレイで事を説明する。

 

「現時刻より二時間前、ハワイ沖で試験可動にあったアメリカ・イスラエル共同開発の

 第三世代型の軍用IS、名称『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れ暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

 この内容に面を食らったのは一夏と箒だ。ISが暴走と言うのは勿論、『軍用IS』など自分らの

常識外の事であっただろう。しかし、彼らが横目で他の面子を見渡すと全員が全員、巖しい顔付になっている。

 特に軍所属であったラウラ、同じような立ち位置であるコトブキカンパニーの面子は特に

真剣そのものであった。これが本当の専用機持ち-国家代表候補生の重みであると納得してる間にも説明は続く。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域に五十分後に通過する計算が出た。それにより学園上層部から我々がこの自体に対処するように通達があった」

 

 淡々と続ける千冬であったが、一夏は何か小さな鈍い音を聞いたような気がした。その音は隣に座っている十千屋からの様な気がする。

 

「教員は訓練機を使用し空域の及び海域の封鎖を行い、目標(銀の福音)の制圧もしくは破壊を専用機持ちに担当してもらう」

 

 ガンッ!!

 

 一夏は作戦内容に頭が付いていかない。それもその筈、暴走した()()I()S()を自分たちで止めろと

言うのだから。しかし、頭の中が落ち着く前に大きな音に驚きそれどころではなくなってしまう。

 音の元は十千屋であり、彼が何時も被っているメカヘッドを床に叩きつけた音であった。

その行動に皆の注目が集まる。

 彼は(あら)わにした素顔で、一夏達が見た事のないような形相で千冬を睨みつけている。

 

「おい、分かってるのか?ガキに戦場(死地)に行ってこい…そういう事だな?」

 

「そうだ」

 

「国連からの応援とかは」

 

「ない」

 

「学園からの応援とかは」

 

「ない」

 

「軍…日本でも、諸元のアメリカとイスラエルでもいいが、それも」

 

「ない」

 

「あからさまな陰謀と悪意を感じるんだが?」

 

「貴様の言いたい事は私も分かっている。

 この作戦の成否に問わず遺憾の意を申し出るつもりだ…っ」

 

 今の流れで本当にこの場にいる戦力、訓練機を操る教員と専用機持ちしかいない事を再確認される。

 今回の目標-軍用ISは余り表沙汰に出来ない話しなのは理解できる。

それが暴走した為に秘密裏に処理したいのも分かる。

 しかし、それの第一陣に当たるのが未成熟なISライダー達(IS学園生徒)なのは納得がいかない。足止めし、

本陣の応援が来ると言うのならば分かる。だが現実はそうではない。

成功の確率をワザと下げるような通達には()()()()が感じられた。

 それが分かるから彼はこの場の最高責任者である千冬に難癖をつけたのだが、当の彼女も理解はしている。だがしかし哀しいかな、教員と言うお役所仕事の為に自身の不満や不信感を押さえつけて当たらなければならなかった。

 その様子に取り敢えずの納得をしたのか十千屋はメットをかぶり直し、静かに息を吐く。

 

「分かったよ。お役所仕事はお(かみ)に逆らえないってのはよ。

 …入学させられてから、乗りかかった船だ。俺はどうすればいい?」

 

「…すまんな。さて作戦会議を始める」

 

 敵機-銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のデータが開示されたが、攻撃と機動に特化した広域殲滅を目的とした

特殊射撃型としか分からない。殆ど分からないが軍事機密なので、銀の福音がどんなタイプか

分かっただけでも御の字だろう。

 下手をすれば全部黒線の塗り潰しの様な書類を目にする事に成るのだから。

そして、福音は超音速飛行中であるためチャンスは一度きりという現状も分かった。

そこから導き出される答えは…

 

「お、俺が行くのか…!?」

 

「そうだ、たった一度きりのチャンスで落とすにはお前の零落白夜(れいらくびゃくや)しかない。

 と言っても、お前を運ぶのに一人とフォローにもう一人くらい必要だが」

 

 主力は一夏に決まった。たった一度きりの電撃戦で最大火力を持つのは白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)』だからである。

 だが、そのワンオフは著しくSE(シールドエネルギー)を消耗するので現場まで彼を運ぶ役目の人員が必要であり、十千屋はさらにフォロー役も要ると踏んだ。

 主力に抜擢された一夏は及び腰になっていたが、千冬の言葉で喝を入れ覚悟を決める。

 次に彼を運ぶ役目を決める事になったが、それには二名が名乗りを上げた。

 

「わたくしのブルー・ティアーズ用の試験装備の中に、

 強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』がありますわ」

 

「こちらはM.S.Gを組み合わせれば即席のV.O.B.-Vanguard Overd Boost(強襲用ブースター)を作成できます」

 

 セシリアはパッケージ-ISの換装装備があると言い、十千屋はこの場で強襲用ブースターを作成できると発言した。

 彼らが名乗り出た理由は超音速下で移動している目標に追いつける速度が出る装備がある事、

超高感度ハイパーセンサーを兼ね備えてる事だ。

 以上の理由から二人が候補に挙がり、千冬は次の事を確認する。

 

「オルコット、十千屋、超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「二〇時間です」

 

「実戦を何度か。あと、飛行だけだったら毎週末にやってます」

 

「そうか、ならばオルコットと十千屋で…ん?」

 

 確認したのは熟練度であったが、セシリアは及ばず十千屋はやはりと言うか問題が無かった。

その為に一夏を加えたこの三人でと思ったが、彼女は違和感を覚え口を止める。

 十千屋が超音速下での戦闘経験があるのはまぁ良いだろう。しかし、毎週末に強襲用ブースターを使ってるとは何ぞや?それをシャルロットが聞くと、こんな答えが返ってくる。

 

「あの、十千屋さん。なぜ毎週末に強襲用ブースターを使ってるんですか?」

 

「母国の()()()()()為にだな。いちいち飛行機で飛んでいくのは金も時間も掛かる。

 だから、IS学園から直近で飛んでいくんだよ」

 

「なぜ貴様が週末に専用に貸し出しているISの使用許可を取っているのかが分かったが、

 何と言うかな…」

 

 今さらの確認だが十千屋は()()を持っている。IS学園に居る娘分は平日構う事が出来るが、

実家に居る実の娘や他の家族とは学園に居る間は触れ合えない。その為、休日前になると学園から実家まで強襲用ブースターを使ってまで直帰し家族サービスをしているのであった。

 無論、登校も強襲用ブースターを使って学園に戻ってくるのだ。

ちなみにリアハはSEで保護された補助席を彼に括りつけて一緒に登下校している。

 

「まぁいい、とにかく今作戦は一夏・オルコット・十千屋で行うが異論は無いか?」

 

「織斑先生、一つだけございますわ」

 

「何だオルコット」

 

「そのパッケージですが…まだ量子変換(インストール)されてないのです」

 

「…所要時間は」

 

「量子変換に二十分、調整に十分くらいかと」

 

「十千屋の方はどうだ」

 

「製作含め全部で十二分、いや一〇分で済ませます」

 

「時間が惜しいな。

 だが、代案も思い浮かばない「あの~、ちーちゃん。チョッといいかな?」なんだ束?」

 

 ほぼ決まりかけた所で大問題が発生する。なんと、セシリアはこのままでは出撃不可という事であった。それもその筈、必須であるパッケージにまだ換装し終えてないのである。

 出撃可能に掛かる時間は大まかに見て三〇分程度、今回は出来るだけ迅速に進めなければならない為このタイムロスは痛い。時間が惜しく代案が浮かばない千冬は顎に手を当て思案するが、

束から催促が掛かった。

 

「チョッと不安なんだけどさ。スペック上なら紅椿ならものの一〇分足らずでいけるよ?」

 

「なに?」

 

「束さん言ったじゃん。紅椿は()()()()、『パッケージ換装を必要としない万能機』。

 即ち、即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)なんだよ」

 

「…超音速下での性能は?」

 

「う~ん、と…この装甲をこうイジって、と…こんなもんかな?」

 

 束の提案とは紅椿の本来の特徴である特殊兵装を使った作戦である。()の健やかな成長を願って紅椿にはリミッター(制限)が掛けられているが、本来は第四世代のISであり、その本質は万能機。

特殊兵装である展開装甲を使えば超音速機動が可能になる、との話であった。

 彼女が試算したスペックは十分に今作戦への参加が可能なものであった。この事からセシリアに代わって箒が出る流れになったのである。

 

「姉さん!これでは制限を掛けた理由が!?」

 

「う~ん、でも緊急時だけどいい機会だよ?その(紅椿)が持つ本来の力の一端を感じておいで。

 明確な目標が出来るのは良い事だよ」

 

「だが、しかし…」

 

「箒、不安になったり反古され感情的に納得がいかないのは分かる。

 だが今はお前も紅椿も為すべき事、出来る事をこなすんだ。それにコレは一時的開放だ。

 束も言ったが目指すべき頂きを感じるのは悪い事じゃない」

 

「そして、箒さん。このわたくしの代わりに出るのですから確りなさっておいでなさい」

 

「…分かりました。一心一意で挑ませて(いただ)きます」

 

 第四世代機をアテにした作戦に箒は反発するが、十千屋と束はそんな彼女を宥める。

今回は一時的に機能を開放する事、そして第四世代の力の一端を知るチャンスである事を告げると渋々納得し始め、セシリアの一喝で彼女は覚悟を決めた。

 

「よし。では本作戦では織斑・十千屋・篠ノ之(しののの)の三名よる目標の追跡及び撃墜を目的とする。

 作戦開始は三十分後。各員、直ちに準備に取り掛かれ!」

 

 各員は千冬の掛け声でそれぞれの作業に移ってゆく。

箒は紅椿を起動させ、束が超音速機動形態へと調整し、一夏は白式の点検とエネルギーチェック兼補充、他の面子は臨時作戦司令部の拡張にあたった。

 少しすると手持ち無沙汰に成った一夏に対して、十千屋がセシリアに高速戦闘のアドバイスを貰った方が良いと助言すると彼女が簡単なレクチャーを始める。

 

 一に、高速戦闘用に調整された超高感度ハイパーセンサーによって感覚が鋭敏化し、

全てが遅くなった気がするがすぐ慣れるので慌てないこと。

 二に、高速戦闘ゆえに何時もよりエネルギー消費が激しいため、ブーストの消費量及び残量に

注意すること。特に瞬間加速(イグニッション・ブースト)を多用し、エネルギー管理が下手な一夏は特に注意すること。

 三に、凄い速度で動いているので何かに当たったら甚大なダメージが入るため気を付けること。

 

 と、簡潔に纏め話す彼女に一夏は呆然としながら聞き入っていた。

 

「と、まぁ…詳しく話せばまだまだありますが、今のところコレぐらい覚えておけば

 何とか成るでしょう。…聞いてらっしゃいますの?一夏さん」

 

「あ、ああっ!大丈夫だ!!でも、随分と分かり易くなったなぁ…って」

 

「ふぅ、わたくしも一夏さんが分かる様な説明の仕方がようやく分かってきたところですわ。

 けど、ちゃんと一夏さんも専門的な勉強は確りと身に付けるべきですわ。

 IS装着者としての義務ですから!」

 

「分かった!分かったから!!ちゃんと勉強も頑張るからっ。

 とにかくアリガトなっ、セシリア!」

 

 チョッと小言で小突いてしまったセシリアであったが、一夏の謝礼に機嫌が良くなる。

その後、ちょうど回りいいた面子が集まってきて作戦会議となり、自身のために

一生懸命になってくれている人達を見て彼は決意を新たにしたのであった。

 

「…ユウさん」

 

「リアか、どうした?」

 

「あの子達も動かすのですよね?」

 

「あぁ、キナ臭いし嫌な予感が離れない。だったら手札は多い方が良い」

 

「…私も嫌な予感が離れないんです」

 

 自身のISとV.O.B.のチェックをしていた十千屋にリアハが何処か不安げな表情で彼に近づいてきた。十千屋側の手札(カード)を切るという提案から話が入り、互いに不安を感じているとの話題になってしまう。

 すると、彼女も同意し言葉に詰まり不意に彼に抱きついた。彼女は今回の作戦に異常な恐怖を

抱いている様である。それ故の行動であった。

 

「リア、確かに嫌な予感が止まらないが…死ぬ気は更々無い。

 何度も心配かけたり泣かせちまったりしたけど、絶対に帰ってきただろ?」

 

「それでもです…」

 

 傍から見れば百戦錬磨の彼が愛する妻にそう優しく語り掛けるが、彼女の不安は晴れない。

彼は先程よりもより強く抱きしめられた細腕に繋がる肩に手を添える。

 そして、仮面を脱ぎ去った彼は彼女の不安を吸い出すように深いキスを結ぶ。

 

「…っ。あ、ユウさん?」

 

「大丈夫だ。俺の帰る場所は唯一、お前の傍しか無い。それだけは絶対に約束できる事だ。

 何せ、どんなに離れていても…リア、ここ()が繋がっているのは事実なんだからな」

 

「…はいっ!」

 

 彼の約束が違わぬよう、今度は彼女からキスを返し契りを結ぶ。こんな映画の様なワンシーンに生徒-一夏達は大人的なアレに当てられたのか思考停止し耳まで真っ赤になっていた。同じように純な教職員-代表して山田先生らへんも同じ様な反応である。

 既婚者や余裕が有る人たちは「熱いなー」「吐くなー」と扇いだり、死んだ目をして砂糖や砂を吐いている。一番ひどいのは…まぁ、アレだ。清姫や橋姫や炎の装飾が施されたマスクを付けそうな人たちである。「リア充爆発シロォ…」「憎しみで人が殺せたらぁ…」と怨嗟の声が唸る様であった。

 

 そんな中でちょうど箒と一夏が調整を終え出揃った所で十千屋が話しかけてきた。

 

「一夏、箒…今回の作戦前に伝えておきたい事がある」

 

「なんだ、師匠」

 

「何ですか」

 

 何時も通り素顔の見えないロボ頭だが、何時になく彼の張り詰めた雰囲気に自然と二人は

身を引き締め耳を傾ける。

 だが、次の彼が言った言葉は耳を疑うものであった。

 

「今回の作戦では俺はお前たちと目標以外、切り捨てる事にしている

 

「「え」」

 

「よく分からなかったか?例え作戦海域に乱入者が現れようが要救助者が出ようが、

 お前たちの安全と作戦の遂行以外は全て無視する、と言ったんだ」

 

 この言葉は、特に一夏にとっては聞き捨てならない事であった。今まで何があろうと自分の身に危機が迫ろうとも助けてくれた、厳しくも優しい頼り甲斐がある人物が()()()()と公言したのである。

 一夏は喉が急に渇き、掠れるような声で尋ねた。

 

「なぁ、師匠…一体、何を言っているんだ?」

 

「はぁ…今回の戦いは今までとは違う。何があっても即座に誰かが助けてくれるなんてありえない。自分の身は自分で守るのが前提条件だ。戦いの最中は一体何が起きるか分からない。

 だからせめてお前たちを守り、作戦を遂行するので精一杯だ」

 

「っ。ほ、箒も何か言ってくれよ!こんなの何時もの師匠らしくないって!!」

 

「一夏…私も納得はいかないが、理解は出来たつもりだ。十千屋さんの言う事には一理ある」

 

「な、なんだよそれ…っなぁ!何なんだよ!!」

 

 正真正銘の実戦に挑むため、十千屋は自分の中の線引きを同行する二人に伝えた。

自身に託されたのは目標(銀の福音)の制圧もしくは破壊。その中で二人を無事帰還させる事も彼の役目である。

 だが、今回は敵と実行メンバーである三人しか居らず、実戦では何が起きるかわからない。

故に十千屋の手の届く範囲以外は伸ばさないと彼が言ったのであった。

 理由は分かるが納得できない、そんな一夏は回りに同意を求めるが誰も賛同はしてくれない。

彼も分かってはいる。極限の戦闘状態では何が起こるか分からないくらいの事は、その中で

自分たちを守ってくれるのがどれほど大変な事が。しかし…

 

「師匠…師匠、そんな事は言わないでくれよ。目的以外はどうでもいいって、そんな事で俺は師匠を嫌i…「フッ そうだ、お前はそれでいい」へ?」

 

 一夏は俯き握り締めた拳と同じように声を震わせながら喋るが、急に十千屋の優しい口調が聞こえ顔を上げる。

 

「そう、一夏。昨日言ったばかりだな、『俺の様には成るなって』。

 確かに割り切って行動することは必要だ。時には切り捨てる事もな。

 だが、お前はそいつは嫌なんだろ?」

 

「ああ、強いからって要らないからって、それだけで見捨てるのは嫌だ」

 

「そうだろうな。だから、お前はお前のまま強くなれ。優しさも甘さも弱さも

 全部包み込んだまま、それを超えられる様に成れ。俺が傍に居る間は助けてやるさ」

 

 一夏はようやく気づいた。彼は自分に現実を教えるためにワザと突き放すような事を言ったのだと。けど、その上で自分が成したい事を助けてくれるのだと。

 そう答えてくれる彼に一夏は嬉しく思うと同時に情けなく思う。自分の理想とも思える強さと

優しさを向けられ胸の内が温かく思うが、未だ彼の手助けがなければ満足に何もできない自分の

不甲斐なさに腹が立つ。

 だから、一夏は誰よりも強く優しくなれるように、(十千屋)(千冬)に並び立ちそして追い抜き、

逆に守れるようになる事を強く胸の奥に刻む。

 

「そして、最後に二つ。正確には三つか。コレから戦う二人に伝えることがある」

 

「なんだ、師匠?」

 

「実戦の心構えと言うヤツかな。一つ目は『己の最優先事項を決めとけ』だ。

 戦いってのは極限状態での選択の連続…と、いうのはだいたい察しが付くな?」

 

「はい」

 

「自分が最も大事にしてる事は人によりけりだ。命、使命感、金、闘争への欲求、矜持(プライド)、仲間、恋人などなどだが、何故これらの優先順位を決めとくのかは後悔しないため」

 

「後悔…」

 

「回りに流されるまま決めた、どれも選べず終わってしまった。

 それよりも俺は、()()()()()()後悔したほうが良いと思う」

 

 彼の心構えに誰もが耳を澄ませる。誰でも考えつきそうなアドバイスだが、彼の雰囲気により

何とも言えない説得力が伝わってきた。特に向かい合ってる二人にはより強く感じるだろう。

 

「そして、『躊躇うな、いざって時は迷わず行動しろ』

 決めたのなら、為すべき事があるのならば躊躇わず迷いなく行動しろ。いいな?」

 

「「はい!」」

 

 十千屋の激励とも思えるアドバイスに一夏と箒は力強く返事し、今作戦が開始された。

…これが冒頭より十分前の出来事である。

 そして、現在――三人は銀の福音と交戦状態にあった。

 結果的に強襲は失敗。十千屋の高速ミサイルでの牽制し、本命の零落白夜で切り捨てる攻撃は…

 

「敵機確認。迎撃モードへ移行。『銀の鐘(シルバー・ベル)』、起動」

 

 一夏の光の刃(零落白夜)は銀の福音に当たる直前に紙一重で避けられたのだ。これは慣性制御機能(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)

標準搭載されているISであっても高度な操縦技術を要する動き。それを()()()()である福音がした。

 この急な制動を可能にしているのは福音に備えられた大型スラスターであるが、高出力の多方向推進装置(マルチスラスター)と言うのは他にも多く存在するものだ。しかし、ここまでの精密な急加速を

可能にしたものは見たことがない。改めて任務に当たる人員は『重要軍事機密』の意味を思い知らされる。

 だが、怯むわけにはいかない。今作戦は一撃必殺(ワンアプローチ・ワンダウン)、つまり時間が掛かれば掛かる程にコチラが不利となる。

 

「箒、追いかけてくれ!師匠っ、ゴメン!フォロー頼む!!」

 

「承知!」「任された!」

 

 一夏は移動用の土台と成ってくれている箒と、V.O.B.を切り離し別の後付け高出力ブースターを取り付けた十千屋に声を掛け、一団となって銀の福音を追いかけた。

 一夏はまるで舞うかの様に自在に動く福音に翻弄され、フォローとして弾幕を張った十千屋に

対しては()()で応戦する。

 銀の福音のまるで銀翼の様なスラスターはただのスラスターではない、これは砲口の役割も

果たしていた。翼を広げるかのように動き、そこから放たれる羽型のエネルギー弾は着弾と同時に爆発する性質を持ち、弾幕を形成できる十分な連射性を持つ驚異的な性能である。

 一進一退の攻防戦、だが先程も書いた通りに時間が掛かるほどコチラの不利。

攻撃の要となる零落白夜の使用限界が刻一刻と迫る。

 

(クソっ、メガスラッシュエッジを電池替わりに使って、最小容量にしたプロペラントタンクも

 使い切って、後は自前のSEのみ!)

 

 一番焦りを感じているのは要を持つ一夏であろう。

彼が言った通りに少しでもSEの水増しとして付けた装備は既に空となり、高速戦闘も合わさって急激に減少していくSEに危機感を覚える。

 そして、更に自体は悪化した。

 

「 !? 何でアソコに船が居るんだよ!!」

 

「此処は既に封鎖された筈、密漁船か何かか!」

 

「二人共、俺はヤツを追う!15秒以内にどうするか決めろ!!」

 

 そう、この戦闘区域を掠める様に一隻のボロ船が航行している。

この場はIS学園の教員らによって封鎖され普通の船や飛行機などは近づけない。

即ち、普通の船じゃない()()()船。それから連想させられるのは密漁船だ。

 一夏と箒は突如の事態に攻撃の手を緩めてしまう。だが、それに喝を入れたのは十千屋だ。

彼は銀の福音を追うと言い、一夏らには何を選ぶのか強制する。

 一夏は彼から伝えられたアドバイスを思い返す。自分が最も後悔しない行動をし、躊躇わない。そして、彼が取った行動は…

 

「箒、すまないけどあの船をどっかにやってくれ!俺は福音を追う!!」

 

「それがお前のしたい事なのだな、無理するな!アレを追っ払ったら直ぐ戻る!!」

 

「ゴメン、箒!恩に着るっ」

 

 例え犯罪者だろうとも見捨てる訳にはいかない。

それが一夏の本心であると分かっている箒は船に向かい、彼は一足遅れて銀の福音を追った。

 ボロ船の前にたどり着いた彼女は罵声の様な叱咤を浴びせ領域から撤退するように叫ぶが、

ボロ船ゆえかエンジントラブルが起きていてスピードが出ない。無意識のうちに歯軋りをしてしまうが、彼女は流れ弾から船を守る。

 本心は不本意だが、一夏の望んだ事を叶えるため怒りを飲み込み守備へと回った。

 

 銀の福音を追う二人の攻撃は僅かながらであるが当たり始める。

しかし、足止めを主とする十千屋の攻撃では決定打に成らず、その決定打としての一夏の攻撃も

掠るばかりだ。

 その時、別方向からの援護攻撃が来た。件の船を逃し、再び戦闘に参加した箒である。

彼女は試作ベリルショットカノン『ナカトリ』と紅椿の自動支援攻撃を使い銀の福音に迫った。

 

 だが、あぁ…悪い事とはこうも続くのだろうか。三対一となり戦局がこちら側に傾いた時に突然箒の攻撃が止んでしまう。

 

「どうしたっ!?紅椿!?!」

 

「これは…具現維持限界(リミット・ダウン)!? マズイ――!!」

 

 箒の紅椿が攻撃を停止させ、彼女が握っていた細身の火縄銃―ナカトリは光の粒子となり消えてしまった。ISは量子を操りデータ化した武装を具現化し扱っている。それが光となり消える、

具現化が出来無くなる――具現維持限界、即ちエネルギー切れ。

 今の紅椿は必要最低限の力しか残っていない。SEが無いISはタダの空に浮かぶハリボテでしかない。そして、今は()()だ。

 

 銀の福音は三体となった敵に対し全方位攻撃を仕掛けた後、いま一番最弱と成った箒へと攻撃を絞った。紅椿が絶対防御分のエネルギーを確保していたとしても、銀の福音の連射攻撃を受けたらひとたまりもない。

 一夏は残っているSEを全て瞬間加速に回し、箒に当たりそうなエネルギー弾は零落白夜で

斬り払い彼女を庇う様に抱きしめる。その瞬間に後続の攻撃が届いた。

 

 「ぐあぁああああ!?」

 

 一夏の背にあの爆発エネルギー弾が突き刺さり、彼を削ってゆく。白式に僅かに残ったSEでは

焼け石に水だろう。その事を知ってか知らずか、銀の福音はエネルギーの連射から()()へと変化させた。

 目が焼けるような光が二人に降り注ぐ、箒は死を直感し目を塞いだが…死を告げる光は一向にやって来ない。彼女は恐る恐る目を開けると、

 

「…スマン、遅れた。無事か?」

 

「あぁ、私は一夏のお陰で。一夏は傷ついているが白式が守ってくれた様だ。

 今は気を失っている」

 

「そうか…それは良かった」

 

「だが、だがっ…」

 

「どうしたんだ、箒?」

 

 「貴方の腕がぁあぁああぁ!!」

 

 彼女の目の前に立っていたのは十千屋である。彼が光線を防いでくれたのだ。きっと身を顧みずコチラに来たのであろう彼のISの装甲はどれもヒビが入りボロボロである。そして、光線を防いだと思われる左腕は…肘の上くらいから焼失していた。

 自分のせいでまた庇われ、彼に取り返しのつかない事をしてしまった。

その思いと一夏が傷ついた現実に彼女は前後不覚に陥りそうになる。

 

「…作戦は失敗だ。箒は一夏を連れて撤退しろ」

 

「あ、あぁ…分かった」

 

「お前たちを安全圏に撤退するまで俺が殿(しんがり)を務める」

 

「馬鹿な事を言わないで下さい!十千屋さんも一緒にっ!!」

 

間違うな!戦闘不能なお前が残ってどうする!いま抱えている大事な者を忘れるな!!」

 

 十千屋が撤退を指示し箒はそれに賛同するが、次に言った彼の言葉には反対した。

戦闘不能である箒と一夏を逃すために殿-敵の足止めをすると言ったのである。

 無論、全員で撤退すると思っていた彼女は反論するが彼から叱咤を受け縮こまる。

確かに彼の言う事は分かる、今は間合いを計っているのか銀の福音は攻撃をしてこない。

だが、全員が逃げる最中で追撃を受けたら全滅するだろう。

 戦闘可能なSEが残っていない箒、戦闘不能と成った一夏、

ボロボロで重症だが何とか戦える十千屋…この中で殿を務められるのは十千屋だけだ。

理解は出来る、怒られたのも分かる、でも…しかし、と箒は思い詰めるが急に十千屋から優しく声が掛けられる。

 

()にさ、義兄(にい)ちゃんの良いところを見せさせてくれよ」

 

義兄(にい)…さん……くっ!」

 

 彼女に振り向いた時に彼のメットが剥がれ落ち、安心できる優しい笑顔と眼差しが覗き込むことができた。

 箒は溢れそうになる涙を堪え、十千屋を置いて撤退を始める。だが、それを逃す銀の福音ではない。

 

 ズガンッ!

 

「待てよ、行かす訳ないだろ?」

 

 彼は満身創痍ながらも不敵な笑みを浮かべ、銀の福音と対峙する。

 

 

 

私は思い上がっていたのかもしれない

 

「うぅ…あ、ほ…箒?」

 

「一夏っ、気がついたのか!?」

 

 

お前が居れば、皆が居れば、どんな事も乗り越えられるのだと…

 

「うっ、くぅ…どぅ・・なっ…」

 

「無理に喋るな、傷に触る。…作戦は失敗、撤退中だ。十千屋さんは殿を務めている」

 

「そっかぁ…また…し・・しょうに助け・・られちまった…か」

 

 

分かっていたはずなのに、世界は残酷であると…

 

 残っている僅かなエネルギーを頼りに撤退している箒の腕から微かな声が聞こえた。どうやら、まだ意識ははっきりしないが一夏が気がついたらしい。

 彼女は現状を伝え、彼はそれを理解し言葉を綴る。

 

 

大事なもの程、まるで水の様に手の内からこぼれ落ちてゆく

 

「強く・・なり…たい・なぁ…だれ…より・・も、み…んな・・を・・守れる・・よぅ…」

 

「あぁ、成れるさ…お前なら」

 

 

だから…

 

 一夏がまた気を失った時に、一際輝く光りが満ちた。そして、箒は今ほどISの性能に恨んだ事はない。良く見えすぎるハイパーセンサーで見てしまった。

 銀色の何かの近くから、海原へと落ちてゆく()()()()()()()を…

 

 

コレだけは、この温もりだけは離すまいと

 

 「っっ!」

 

 一瞬、息を呑み込んだ彼女から慟哭が響く。それはこの果てしない蒼穹の彼方まで響くようであった。

 

 

抱きしめる事しか、出来なかった

 




さて、今回は何も申し開きはありません。これがヤリたかった。ただ、それだけです。
そして、オススメBGMは…
箒が十千屋の腕を見て叫んだところから『オルフェンズ〇涙』『フリ〇ジア』
終盤、謎ポエムが始まったところから『Separati〇n[Pf]』『〇夜行路』
これらが作者からのオススメです。
他にも皆さんが考えるBGMがあったらあててみてください。きっと、(別の方向で)盛り上がるでしょう。

うん、まだ形に成ってない頃に妄想して、やりたい場面を作ってたら当時の観てたものの影響なんだ…すまない。


そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。

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