仕事の方も忙しい、厄介な状態が続くようで気力が上がらず筆も走りませんでしたが、ようやく
お送りできます。
では、どうぞ御ゆるりと。
私は、貴女の背中を何時も見ていた。
私は貴方に…憧れた。目標だった。好きだった。誇りだった。
そして、嫌いだった。憎んでいた・・・
とある日の放課後、ここ第四アリーナは貸切になっていた。
そこには、観客席に十千屋と一夏を含む彼らのいつものメンバー。管制室に千冬と山田先生の
教師二名。
そして、アリーナ内には楯無と簪の二人である。
「簪ちゃん、アナタ…私に挑む気なの?」
「ええ、そうよ」
「アナタは
「分かって…る」
楯無は久しぶりに対面する妹の雰囲気の違いに内心動揺を隠せなかった。それ故に自分がIS学園生徒会長-つまり、学園最強の称号を持っていると確認させるが彼女の気概は衰える事は無い。
姉妹間で今までにないパターンではあるが、彼女は内心を顔には絶対出さないようにし何時もの不敵な笑みを浮かべる。
そう、
負けるつもりはない。
これから始まる
何故こうなっているかは少し前に遡る。数日前に楯無は果たし状を受け取った。
見るからに時代劇に出てきそうな見た目であったが、開封し中身を見た時に一瞬言葉が詰まる。
差出人は自ら愛する妹-簪からだったのだ。自分と妹の仲は良いとは言えない。とある理由から彼女を自分から遠ざけた以降は、不干渉と言ってもいい。
それがどう言う心境となりコレを送ってきたのかは、想像もできなかった。
だが、自分は生徒会長…IS学園最強の者がこの肩書きを得られるのだ。
だから、それに挑戦する者が居れば答えなければこの称号は形骸化してしまう。
個人的には、どう接していいか分からない妹から逃げたい。嫌いではなく好きだから、
でもどうしていいか分からないから逃げ出したい。しかし、肩書き上は挑戦者から逃げ出せない。
結局、楯無は二律背反を胸中に秘めたまま今日に至った。
試合開始の合図と共に初手は二人共それぞれの近距離用武器をもってぶつかり合う。
楯無は四門のガトリングガンも装備され、特殊ナノマシンによって超高周波振動する水を螺旋状に纏ったランス『蒼流旋』簪は対複合装甲用の超振動薙刀である『夢現』だ。
どちらも超振動系の武器、周波数を互いの真逆に合わす事で振動を打ち消し合い凌ぎを削り合う。
この打ち合いで楯無は簪が自分の想定よりも腕を上げている事に驚きもするが嬉しくもあった。だが、そんな悠長な事は考えてはいられない。
ならば、自分もそれに答え倒しに掛かるのが礼儀だ。
近距離戦の小手調べは終わり、互いに距離をとり中~遠距離戦に移行する。
「…
「師匠、円状制御飛翔ってなんだ?」
遠距離戦に入った状態を見て十千屋がそう呟くと一夏から質問が入った。彼は試合から
目を逸らさずにそれに答え説明する。
それを不定期な加速をすることで回避する事を言うが、訓練にも用いることが出来る。
その場合は、上記の状況になったあと徐々に速度を上げながら、回避と命中の両方に意識を
向けることで、射撃と高度なマニュアル機体制御の訓練となる。
さて、試合の方に目を向けなおすと遠距離では簪の打鉄弐式の方が有利に見える。
楯無のIS『
だが、彼女の腕が距離の不利を縮めいつ均衡状態を破るかは予測ができない状態でもあった。
「なぁ、師匠。簪は勝てるんだよな?」
「わからん」
どう転ぶか分からない戦いに一夏は行き先を不安に感じ、また十千屋に尋ねるが彼は予測不能だと即答する。危うく椅子から転がり落ちる一夏であったが体勢を戻して彼に言い掛かろうとするが鈴が口を挟む。
「一夏、アンタねぇ。言いたい事は分かるけど、本来なら簪の圧倒的不利なのよ?」
「何でだよ、鈴」
「一夏さん…鈴さんと戦った事を覚えていないのですの?
代表候補生の実力を身に染みて感じた筈ですわ」
「あ?うん、確かに鈴は強かったけどさ」
鈴とセシリアに窘められて、彼女ら-代表候補生の実力を思い出す。負ける気はないが実際に戦ってみてかなり強いと感じたと返答すると、彼女らはそこまでは分かっているなと頷く。
「そう、簪もあたし達と同じ代表候補生だけど…」
「IS学園生徒会長-更識楯無は現役のロシア代表操縦者。候補生よりも格上。
つまり、世界に通用する腕前を持つ」
「にんじんに分かりやすく言うと、現役オリンピック選手とオリンピック練習生くらいの差があるよ~」
今度は鈴の言葉に轟とチェーロが続く。それによってようやく彼は楯無が有数の実力者である事を察することが出来た。
「(と、まぁ…実力差はそんな感じなんだけど。本当に簪ちゃんは強くなったわね!?)」
今の戦況は再び
ココでは武器の形状から簪の方が有利になっていた。すれ違い様に打ち合うということは、
切り捨てる様な攻撃だということ。つまり、
突撃槍は直線的な動きをする武器であり、なぎ払う様には出来ていない。
その為、蛇腹剣『ラスティー・ネイル』(剣形態)に持ち替えて対応しているのだがいかせん薙刀と剣ではリーチが違い過ぎる。
そして、
ガギィン!
「ぐぅ!(重ぉ!)せいっ!!」
加速が付いて両手持ちである薙刀の威力は十二分であり、その高威力の攻撃を喰らわない為に
楯無は来るたびに受け流し
が、この状況は不利だと彼女は感じていた。普通ならこのような全力攻撃は受け流していくたびに相手に疲労が溜まっていく訳だが、
「(一度でも完全に入れば、かなり良い具合に持ってかれちゃうのよね。なんたって私の
互いに離れる加速中にミサイルが楯無に襲いかかる。このミサイルは簪が打鉄弐式に搭載した
ミサイルアーマー(
加速中だろうが打ち合い中だろうが襲いかかるミサイルは鬱陶しいこの上ない。しかも、
(そして…何よりも薙刀の極意とは、)
「
「織斑先生なんですか、それ?」
「薙刀の極意を表した言葉だ。―――それすなわち、」
こちらは管制室、楯無を怯ませる見事な薙刀の振りに千冬はこの言葉を口にし山田先生がそれを訪ねた。
この文は薙刀の極意を表したもので、簪の一撃一撃がそれを体現している。動きは違うが薙刀の描く円の間合いを守り、相手の隙を見逃さずそこへ気合を込めて打ち抜く。
「「護身術 それゆえの極意――“捨て身”」」
今まで放たれている一撃一撃が必殺なのは『捨て身』故にだ。いくら
SEが削られようが全てを込めて打ち出さなければ楯無に届かないと簪は知っている。
より格上に勝つためならば、多少の
「それにしても、更識さん。あ、どちらも更識でした。え~と、簪さんは凄いですよね。
楯無生徒会長にあそこまで戦えるなんて」
「そうだな。だが、戦い方が
「アイツって?」
「十千屋だ。アイツの本来の戦い方は極端だからな」
千冬は簪の身を削る様な戦い方に十千屋の影を見出した。実は自身の訓練と表して何度か強制的に十千屋に相手させたことがある。
その戦い方は散発的な攻撃で相手の隙を作り、致命傷以外の全てを
「奴にとって自身の命…いや、そこまでじゃないな。どちらかと言うと安全とかか、
それらは関係ない。どのようにすれば相手を上手く、効率よく殺せるかが問題らしい」
「そ、それって…」
「あの時は驚いたぞ?何せ、腕に掛かるSEを解除してワザとブレードを貫かせ、コチラの動きを
一瞬封じた時に
飄々と千冬は話すが聞いている山田先生は引き攣った。いくら生身の腕が無いISの腕の部分を
ワザと貫かせるなんて正気の沙汰じゃない。
自分自身も戦いの材料として戦うことを前提にするなんて普通じゃない。
しかし、殺らねば殺られると言う精神は嫌でも伝わって来るのであった。
「そっソレはともかく!この後はどうなると思いますか織斑先生!」
「ふむ、奴が教え込んでいるとすると」
「どうなるか分からないが、お前らを特訓させる間に簪にも充分仕込んでいたんだ」
「じゃあ、簪は勝てるのか!?」
「そいつは分からないって言っただろうが。簡単な事じゃない。…一夏、相手より強くなるには
勝つためにはどうしたらいいと思う?」
「え、え~っと?」
再び観客席で簪の動きを解説していた十千屋から一夏に対して謎かけが行われた。この謎かけは一夏だけではなく、何時も特訓しているメンバーにも問いかけている様で一同に首を傾げ考える。
相手より強くなる、相手に勝つ、その方法なんてごまんと有りどの様な答えが正解など分かない。だから、一夏はストレートにこう答えた。
「とにかく一杯特訓をする!」
「「「・・・・・・・」」」
「(・・・ち、沈黙が痛い!?)」
「粗チ○、ツッコミ待ち?」
「ツッコミ待ちでも粗○ンでもねぇえよ!」
そのストレート過ぎる答えに皆が生暖かい目で一夏を見つめる。そして、素子のツッコミにより彼はツッコミ返しと同時に吠えるのであった。
そして、その妹からもボケ返しが・・・
「嫁よ、大丈夫だ」
「ラウラ・・・」
「男の象徴の価値は大きさだけではないと、ウチの副官と
参謀も言っていたからな!」
「もう、そのネタから離れろぉお!
ついでにソイツらと素子先輩の言葉をもう真に受けるんじゃねえ!!」
今度は魂の叫びを轟かせ項垂れる一夏を
「確かに一番シンプルな答えだが、普通に考えてこちらが強くなる間にも相手も強くなっている。同じ早さで走るのなら先を行っている方が有利なのは当たり前だな」
「では、どうすれば良いのですか」
「いくつか方法はある。一点特化しそれだけは相手を上回る方法。あとは、大体は奇策だな。
虚や弱点を突くような」
十千屋は正当法では暗に格上相手に勝ち目は少ないと説明しており、ならば裏ワザ的な方法しかないと言った。
それに微妙な顔をする一夏と箒だが、彼はため息をついて嗜める。
「お前らが真っ直ぐ過ぎなのは分かっているが、いい加減に慣れろ。戦いは非情だ」
「・・・そりゃ、分かるけどさ。なぁ、箒」
「うむ、性分と言うヤツだな・・・」
十千屋が意地でも考えを曲げたくない彼らに眩しい若さを感じで、今度は別の意味でため息が
出てしまった。
自分がどれだけ歳をとり汚れているかを示しているようである。
「はぁ、確かにコチラはアウトサイダー気味なのは理解している」
「ボク達は固いルール苦手でも♪」
「決して負けはしない・・・と言えばいいネタだたっけ?」
正統派から外れる宣言をし、
その間にも楯無と簪の間に新しい展開が始まっていた。
「ぬぬぬっぅ!」
「……っ」
今の状況は鍔迫り合いが始まっているところだ。真っ向から互いに斬り結び、切り捨てる様な
相手の力を逸らせてゼロにする―これが中国拳法で言う所の『
動きを読むことを『
読み切り、その方向に下がることで相殺したという高等技術を使ったのだ。
彼女の目的はもう一度至近距離から
こんな事に成るとは思ってもいなかったのである。
「簪ちゃん、結構デキる様になったじゃない?」
「…更識生徒会長」
「…ぅ (思いっきり他人行儀にされるのは結構クルわね(´;ω;`)) 何かしら?」
「最近…嬉ショ○癖が付いたのって本当?」
「……は?」
簪から他人行儀されるのに密かに傷ついている楯無だったが、彼女からの明後日の方向に向いた質問に頭が真っ白になってしまう。
だが、これは序章にしか過ぎなかった。
「他にも…だいしゅきホールドがマイブームだとか、子供心に戻って幼児プレイだとか、
その際にリアハさんの乳房に吸い付いているだとか、さらに・・・」
「(//д)▂▅▇█(声に成らない絶叫)▓▒░░」
楯無にとっては知られてはならないはずの恥部が赤裸々に妹の口から淡々と語られ、確認させられる。・・・これほどの羞恥はあるだろうか?いや、彼女にとっては無い。
見学者一同は一瞬思考が完全停止する。そして、気がついて次にとった行動とは・・・
「ぬがっ!?箒っ・・・何をするんだ!?!」
「ええいっ!今は我慢しろっ。
乙女の情けでこれ以上見せるわけにも聴かせるわけにもいかん!!」
「そう言う事!つー訳でアンタの頭をロックさせてもらうわ!!」
「では、わたくしは後ろにでも」
「ぬ・・・では、私は前にでも座るか」
「僕は・・・コッチかな?」
一夏を取り巻く女の子達は彼のあらゆる所に抱きつき、楯無の恥部を見せぬように聞かせぬようにした。
箒が右から彼の頭を胸の中にかき抱き、鈴はその反対である左から、セシリアは後ろ、ラウラは何故か膝に座り、ドサクサに紛れてシャルロットは腰に抱きつく。
この圧倒的女肉率に一夏は混乱する。
「見えない!?息苦しい!?なんかいい匂いがするような?
・・・てっ、誰だ!尻を触ってるのは!?!」
カンパニーサイドの方は「あぁ、なんか可哀想」とか思いながら遠い目をしていると、
管制室から放送が流れる。
「十千屋、貴様・・・この試合が終わったら楯無と共に生徒指導室に来い」
「・・・拒否h「など、有ると思ったか?」デスヨネー」
千冬は米神をヒクつかせながら放送を流し、通信を繋いでいない十千屋に対し先読みして
逃げ道を潰す。流石に、この内容は教職員として見過ごせなかったらしい。もう一人の教員である山田先生は、顔を真っ赤にし耳を塞ぐ様な仕草をしながらも確り痴話を聞いていた。
「おじ様、もしかして・・・コレも貴方の仕込みですの?」
「いやぁ・・・な?相手を揺さぶるのに攻撃だけではなく精神的にもヤってしまえ、
と言ったがこうなるとは思ってなかったよ・・・実際に」
一夏の後ろ側から抱きついているセシリアはジト目をしながら十千屋に問い質すとこのように返ってきた。
実際に、ただの攻撃だけでは楯無に隙を作らせる事は出来ないと予測しており、精神的にも
何かしらの
まさか、彼女の性事情を赤裸々に言い放ってくるとは思ってもみない出来事であった。
だが、効果は抜群である。現に楯無は正気を失っており、簪が語る痴話にギャーギャー、
ワーワー叫んで駄々っ子の様にランスを振り回しており先程の見事な戦いをしていた影はない。
どれだけ叫んでも、彼女がオープンチャンネルで話し観客席まで筒抜けであるゆえに無意味であったが・・・
「簪ちゃん!何で知っているかは聞かないし、聞きたくないけど・・・
それよりもそんなに私のこと嫌い!?(`;ω;´)」
「そんな事、『嫌いだった』に決まっている・・・」
今度は簪がワザと鍔迫り合いに持ってこさせ、ようやく追いついた妹に楯無が問い質すが
完全なる拒絶にいま一度、頭が真っ白になった。
今、自分がどんな表情でどんな事を言い返せば分からない彼女に簪は軽蔑の目で見つめている。彼女が永遠とも感じた数秒後に何とか力なく聞き返す。
「か、簪・・ちゃ・・・ん。わ、わた・・・私の事がききき・・・嫌い、なの?」
「ええ、嫌いだった」
楯無のランスに力が入っていない事が分かった簪は彼女を弾き出し、ここから物理的にも精神的にも攻勢に入った。
一方の楯無は無意識的に防御体勢に入るが、彼女の拒絶によって引き起こされた思考の
低下により体が動きが追いついていかない。
「な、なんで・・・」
「・・・っ、貴女は私に何を言った?」
「な・・・なに・・・を?」
「貴女は私に言った・・・『無能でありなさい』」
簪が言った言葉に確かに彼女は覚えがある。そして、その言葉をかけた時から姉妹の不和がより感じられるように成ったのも。
更識家は『対暗部用暗部』と言う国の裏側を支えてきた家系である。
若くしてその頭領-『楯無』を襲名した彼女はその闇を知っていた。
それ故に、味方からも敵からも目を付けられないように、関わらないように簪に向けこの言葉を掛けたのである。だが・・・
「貴女は私の憧れだった、目標だった、誇りだった。
何時か貴方に追いつき側に立てるように色々と頑張った」
昔から何でもこなし輝かしいまでの記録を残す楯無に簪は尊敬と意念を抱き、
その妹として恥じぬように努力を重ねてきた。
勉強も例年全国模試に常に上位に入るぐらいに努力したし、運動も色々と人並み以上にできるようにしたし、取れる資格や検定も次々と取っていった。
だが、どれもこれも更識楯無を知っている者にとっては何もかも劣っている結果に過ぎず
下にしか見られない。その事に挫きかけたが、
「貴女は私に『無能であれ』と言いつけた」
「・・・・わ、わたしはっ」
「ねぇ?私は頑張ってはイケナイの?何もしちゃイケナイの?言いなりで居なくちゃイケナイの?
「わ、私はっ・・・」
「だから、この戦いで証明する。私は貴女を倒し、力無き者《無能》ではない事を!
逆に貴女が勝って証明するといい・・・私が貴女の
「私はっ・・・!」
簪の悲痛な叫びがアリーナに響き渡り、言った方も言われた側もどこか泣き出しそうな顔で刃を交える。その姿にふざけ合っていたような観客も心を打たれ押し黙った。
特に十千屋は、どちらとも自分に関わっていた為に彼女らが互いに互いを思いやっている事を知っている。その深さも知っている。すれ違いからくる不和も。
この戦いは避けれた事かもしれない。だが、始まってしまった。だからこそ願う、この戦いの
先にきっと互いが望んでいた事が有ると。そう思っている彼の手を隣に座っていたリアハが
握り締め、二人は戦う二人から片時も目を離さなかった。
楯無はもう説き伏せる事は無理と判断をせざえるしかなかった。と、同時に分かった事がある。これは
何時も一人で頑張っているのは知っていた、自分にコンプレックスを感じているのも何処となく感じていた。そして、そこから救い出して欲しいからヒーローと言う存在を待ち望んでいる事も
何となく。
しかし、彼女は一歩踏み込んだ。コンプレックスの元である楯無と自分の弱さに決着を付ける為に
もう、簪と戦うのは嫌だ。けど、立ち向かってきてくれた妹を受け止められないのはもっと嫌だ。そう思い楯無は今まで目を背けていた
戦いはますます熾烈を極める。今のSEは楯無の若干有利、だが攻撃力と防御力、それらを支えるアクア・ナノマシンの残量が心持たなくなっていた。
これにより殆どのパーツにナノマシンで構成した水を使用しているため、水を自在に操ることができる。だが、逆に水が尽きれば最低限の機能を持ったISに引き下げられてしまう。
戦いの場はアリーナの底に移行していた。残存SEと水の量を考えると無理矢理にでも大技を当てる必要がある。楯無はたった数拍の間で勝機を手繰り寄せようとした。
射撃攻撃からの接近戦への強襲、それらを巧みに躱し斬り合いの際に自分と相手の得物ごと腕を絡みつかせる。
「ふふっ、だいぶ熱くなってきちゃったわ。でもっ、熱し過ぎには注意よ!!」
「・・・想定済み」
絡まれた腕はISの部位だったので簪は部分的に解除し、生まれた隙間からその場から退避した。上手く抜け出したと楯無は感心するが、もう仕込みは終わっている。
ナノマシンで構成された水を霧状にして攻撃対象物へ散布し、ナノマシンを発熱させることで
水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こす、その衝撃や熱で相手を破壊する戦闘能力・・・その名は、
「
「・・・それも想定済み。自爆して?」
「え?」
散布していたナノマシンは思った以上に飛んでゆかず自分の周りへと沈下したまま、一度指令を受けたナノマシンは止まることは出来ない。
抜け出した一瞬後に起こった水蒸気爆発だが、
爆破の衝撃を受けずに済んだ。爆心地は今も蒸気が立ち篭めているがコレで終わる楯無でないと簪は知っている。
煙が薄くなり、ソコには肩で息をしていている楯無の姿があった。しかし、表示される相手の
残存SEはかなり減っており、水のタンク兼装甲の元である左右一対で浮いているアクア・クリスタルも試合当初よりもかなり縮小している。
これから察するに、クリア・パッションの誤作動を瞬時に察知した楯無は間一髪で水の装甲を
形成&増量し爆発に耐えた。が、流石に無傷といかずに多量の水とSEを失う結果になったのであろう。
「ふふ・・・流石は私、何とか耐えたわ。でも、何故誤作動を?」
「教えてあげようか?」
耐え切り自画自賛していた楯無に多数のミサイルのロックオンと銃撃が襲いかかる。彼女はそれを避けながら今度は簪のネタばらしを聞くのであった。
「簪ちゃんの仕業だったのね。じゃあ、お言葉に甘えてトリックを教えてもらいましょうか?」
「今の
「は?」
「下水処理施設には沈殿池と呼ばれる部位が数箇所ある。微妙な違いはあるけど、
目的は同じゴミを沈めて取り除くこと」
「ま、まさか・・・」
「水に含まれるアクア・ナノマシンを沈殿池で使われる沈殿凝固ナノマシンで沈めさせてもらった」
「私のアクア・ナノマシンがまさかのゴミ扱い!?」
「ありがとう、
簪のとった手段とは、端的に言えばナノマシンの除去である。
構成されたパーツはナノマシンに因って構成されているのは説明した。
ならば、そのナノマシンの行動を
操ると言ってもナノマシン自体が水である訳ではない。水の中に浮かんでいるだけだ。
そこに微細なゴミに取り付いて塊となるナノマシンを注入したらどうなるだろうか?
結果は、アクア・ナノマシンが身動きがとれずに沈むだけである。その為、先程のクリア・パッションは目標までの散布が届かず自分の周りで誤爆したのである。
沈殿凝固ナノマシンは簪が度々使っていたスモークミサイルの煙に含まれおり、この空間には
沈殿凝固ナノマシンが充満しており彼女が言った通りによくかき混ぜられ満遍なく満ちていた。
これらの説明を受けて楯無は驚愕した。自らのISの特性を逆手に取られ弱点にされたのだから。今も沈殿凝固ナノマシンがアクア・ナノマシンを捕まえ落ちていっておりそのエラーがISに伝えられている。
戦闘に使用していたので微細な変化に気づかなかった。と、言うよりもこんな方法で自分の戦法を付き崩されるとは思ってもみなかったのである。
しかし、簪の猛攻は止まらない。呆然としている楯無に向かって多量の粉が降りかかった。
その量はザバァではないダバァアッと形容できる程に多量である。
気を取り直し何かと思った次の瞬間、アクア・クリスタルもナノマシンで構成された水のヴェールも縮小またはゲル化して落ちてゆく。この事態に楯無は慌てるが襲いかかってくる簪によってそれどころではなくなる。
「今度は各種、乾燥剤、脱水剤、高吸水性高分子を当ててみた」
「簪ちゃんの鬼!鬼畜!!悪魔っ娘!!!」
楯無の周りにはもうアクア・クリスタルも水のヴェールも無い。蒼流旋に付いたガトリングガンの弾も心もたない。残存SEも逃げ切るには足りない。
無い無い尽くしの彼女はもう
掴まれており絶対に逃さないという意思が見えた。
「更識生徒会長、一緒にイって貰う。まぁ、逝くのは貴女一人だろうけど」
「ちょっ、ちょっと待ってくれないかしら?」
「待たない」
拘束された楯無のハイパーセンサーに表示されるのは、学年別タッグトーナメントで見られた
あのミサイルポッドである。あの時よりも数は少ないが自分の左右と後ろに展開していた。
引き攣った顔でタンマを言う彼女であったが、無情にもソレは却下される。そして、地獄の蓋が開かれた。
「イヤァアアアア!?!」
「くっ・・・」
無情にも抵抗できな楯無に向けミサイルは左右と後ろから一斉に放たれた。恐怖によって彼女は叫び、簪は彼女越しに来る衝撃とミサイルの巻き添えを喰らい声が漏れる。
次々と爆発するミサイルに爆煙が立ち篭め彼女らの姿が見えなくなる。その中で楯無のSEがゼロとなり簪の勝利となった。
数拍後、煙が晴れたそこにいたのは目を回している楯無と煤だらけになり煙にむせているが
何処か晴れ晴れとしている簪である。
試合後は簪と同じピットに戻った、と言うより連れてかれた楯無であったがその頃にはもう意識を取り戻していた。
「更識生徒会長、どう?私は貴女の望んだ通りに無能だった?」
「・・・いいえ、貴女は強くなった。決して無能なんかじゃない。
そして、私が嫌いと言うのもよく分かったわ。もう、
「・・・? お姉ちゃん、そこの
「はい?」
問いかけて来た簪に楯無はその答えを返す。有言実行し、自分という存在が必要ない寧ろ嫌われていると確認したら彼女から指摘を受ける。
そこでよ~く思い出してみる。彼女は何といった嫌いと言ったけど、「嫌い
「か、簪ちゃん ヽ(;▽;)ノ」
「うん、今では昔の通りにお姉ちゃんの事は好きだよ。
あの言葉の真意は十千屋さんに教えてもらった・・・けど、他に言いようはあったと思う」
「ウッ・・・」
簪の実質上の仲直り宣言に楯無は感涙を流すが、不和の原因となった言葉を指摘されると言葉に詰まる。
まぁ、今思えば妹に対してカッコつけたがりで年齢的に中二病の最盛期であっただろうから、
そのような言葉選びに成ってしまったのであろう。
しかし、それで簪は傷ついてしまったし遠回し過ぎの分かりにく言葉のフォローがなかった点についてはヘタれていた楯無が悪い。
「でも、コレでお姉ちゃんの側に立てるように成れたと思う。もう、切り捨てる必要はないよ」
「簪ちゃん! (T▽T)」
いつの間にかこのピットに集まっていた観客達は姉妹の仲直りに感動し、暖かい目で見守っていた。
だが、ここから楯無の
「うん、私は強くなれた。後ろとか色んな処を弄られて可愛がられてお姉ちゃんがアヘアヘ言っている間に、私は基本的にボッチであるお姉ちゃんと違って皆の力を借りて此処まで来れた」
「だから、そこまでイってないってば!何とか未だに、『トロ顔 らめぇ…』くらいよ!って…か、簪ちゃん・・・やっぱり、お姉ちゃんの事嫌いなの!? o(TヘTo)」
「ううん、違うよ?」
また楯無の痴情を指摘し、その合間に強くなれたと貶す簪に彼女は別の意味の涙を流しながら
抗議すると・・・今まで自分が見たことのない笑顔で
その笑顔は本当に楽しそうで普通じゃない意味でイイ笑顔であった。
―――もし、言うなれば
「そう、真っ赤になって、恥ずかしそうで、泣きそうな顔になっているお姉ちゃんは
もっと好きだよ?」
「か・・・」
「か?」
「簪ちゃんが、かん
▂▅▇█▓▒░(TωT)░▒▓█▇▅▂」
今までの良い雰囲気は吹き飛び、妹がドSの愉悦に目覚めたと察した楯無は滝の様な涙を流し
逃走する。
この光景に皆が
その中で一人、簪の目の前に出て来る人が居る。
「簪お嬢様」
「虚さん?」
「仲直りおめでとうございます。そして・・・」
その人物とは楯無の付き人である虚であった。彼女は姉妹の仲直りを祝福すると、
簪が浮かべたような愉悦の笑みを浮かべ手を差し出す。
「ようこそ、コチラ(お嬢様をイジリ隊)へ」
「よろしく、(お嬢様をイジリ隊の)先輩」
ガッシリと握り合った握手はコノ後の楯無の有様と比例するほど力強いものであった。
もう、どうにも出来ない雰囲気に周りの人たち皆は自然解散の流れとなり一人、もう一人と帰路へつく。
簪との確執は解消されたが・・・お察しの通りこの後は妹までにイジられ逃走する楯無の姿がよく見られるようになった。
それ故に甘えさせてくれて慰めてくれる十千屋の元へ来る回数が増えたのはもっぱらの余談である。
さて、今回は今度は姉妹のケジメ付けです。
更識姉妹の出番は原作でも二学期目からなので、早く出番を出していた為に仲直りも早くしたかったので今回のオリジナル話となりました。
けど、その結果が…
簪のミサイル・マスター化、
楯無の
…と、言う謎の現象が起きてしまいましたが、まぁコレはコレで美味しいのでしょうか?
次回は、今回のオマケとして入れる予定であった楯無の完全なる十千屋
それ故に文字数は少なるかもしれませんが、楽しみにしている方がいらっしゃるならお気長にお待ちください。
それにしても、何とか年明け前に書き途中の話を上げられてよかったです。
前書きに書きましたが、仕事が何か忙しい&厄介な事になっており気力が湧かなかったのです。
しかも、その状態が暫くの間続くようで…しかも、仕事始めからさらに厄介に成りそうです(^_^;)
今まで以上に更新速度が落ちると思いますが、続けては行きたいと思います。
では、今回は此処まででございます。
そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。
最後に皆様方、良いお年を!