今回で『デュノア社襲撃編』は終わることになります。
では、どうぞ御ゆるりと。
神に逢ったらブッ叩き、悪魔にあったらブッ
大義名分なんぞ、後からどうにでもならぁあ!
今現在…ここフランス‐デュノア社本社ビルでは、空で地下で激闘が繰り広げられていた。
相対するはコトブキカンパニー:FA部隊+αとデュノア社社長夫人の私設部隊+援軍である。
一般的に見ればISが居る社長夫人側が有利に思えるが、状況は逆だ。コトブキカンパニー側に
戦況が傾いている。
この激闘の最中、メインターゲットであるデュノア社社長と夫人を捉えるべく彼等が居るだろう社長室に激走するモノ有り。
「総員!配置に着けー!」
「エレベーターが開いた瞬間に攻撃する。構え!」
本社ビルの上層階、ココでは婦人の私設部隊が動いているエレベーターに向かって出待ちをしている。
ビル下層階を守備している部隊からビルに来た侵入者達が二手に分かれて行動していると連絡を受けているからだ。本社ビルは高層ビルなのでエレベーターを使って移動しなければ厳しい。
その為、全階を貫いている唯一のエレベーターの前で待ち構えているのだ。
「撃っ」
「部隊長!後ろ!!」
「って!?なにぃい?!」
エレベーターがこの階に到着する寸前、攻撃指示を出す寸前に部下の一人が警告を発した。
その理由は身構えていたエレベーターホールの真後ろ、つまり部隊の後ろから件のバイクが突っ込んできたのである。
部隊は若干の混乱があったにしろ直様に前後を入れ替え対応するが、バイク=ウィルバーはその先を行く。バイクの前輪が浮き、ウィリー状態になった瞬間に後部のスラスターを全開にする。
すると車体が浮き様々なパーツがスライドして変形を始めた。後輪部のパーツは180°回転して脚部に、両サイドカバーはスライドし両腰のアーマーに、その下から腕がでてきた。
車輪自体が回転するインホイールモーター構造である
最後にバイクの背に当たるカバーは前後にスライドし、フロントカバーの下からはクリアパーツで覆われたヘッドが出た。
浮遊してからほんの数秒以下の出来事であるが、バイクから人型兵器への変形に私設部隊等は
度肝を抜かれる。
そして、その僅かな隙に跳んだままのウィルバーは、背面に装備されている長方形のブレードを束ねた武器《フィンガーマチェット》を両手に装備し部隊を蹴散らした。
バイクのジャンプからの本当に少しの間に敵を倒した彼は、また小さく跳んで今度は逆にバイクへと変形しさらに上を目指す。
そう、この変形するバイクこそがジャン・B・ウィルバー少尉のFA、
可変型FA『ウィルバーナイン』、正式名称『ジャイヴ』である。
元は偵察、輸送、戦闘といったあらゆる支援が可能なFAとして開発されたのだが、試作段階で様々な欠点が発覚しそのまま蔵入りになる予定であったが…ウィルバーがソレを発見し自分に宛てがわせたのである。
流石の十千屋もゲーム内で使うならともかく実際に使うのはどうかと尋ねたが、本機をいたく気に入って積極的に改修作業に関わり、純攻撃型FAとして生まれ変わらせてしまったのだ。
だが、ウィルバーの仕様変更と特に十千屋の努力の甲斐もなく…二輪形態時の旋回性能が低く、変形を含む操縦の難度が高いという欠点はほぼ据え置きとなってしまっている。
名前の由来は、彼がアメリカ軍兵士の訓練生時代から色んな機体を乗り換え(本人の機体使いが荒いため)、
大型の機材搬入が多いのか、広めに取ってあるビルの廊下や階段を爆走するウィルバー。
カーブは脚部に搭載されたベクタードスラスターで強引に曲がったり、前後合わせ4つになるG・ギアの回転数を調整したり、変形して壁蹴りする等の妙技でスピードはほぼ落とさずに走り抜けている。
無論、途中で出会う敵部隊は跳ね飛ばしたり、先程と同じように叩きつけたりして攻略していた。
そして、ついに社長室にたどり着き、廊下と部屋を隔てる扉を両腕のフィンガーマチェットで
×字に切り裂いて豪快に社長と夫人の前に現れた。
ここから、前回最終場面の続きとなる。
「…で?若旦那から聞いた若干腑抜けた駄社長よりも。どうする?意地悪なクソ
「ふんっ、態度からしてなってないわね。糞ガキと呼んであげるわ。逆に聞くわ、
糞ガキはどうして欲しいのかしら」
「オイオイ、質問を質問で返すのは0点なんだぜ?
まぁ、そうだなぁ…白旗振って大人しく捕まってくれればサイコーかねぇ。
若干、不完全燃焼ぽい気がするがよ」
「そう…だったら、油を注いであげるわ!アトラ!!」
「っ!?」
夫人が声を上げると、ウィルバーの勘と機体の動態センサーが警報を出す。今まで隠れていたのだろうか、黒を基調としオレンジをアクセントにしたラファールが彼に攻撃を仕掛けてきたのだ。
彼は無駄に広い社長室だと思ってはいたが、まさかココで戦うことになるとは思ってもみなかっただろう。だが、ウィルバーの行動は早い。
敵の銃撃からブレードの斬撃と繋ぐ連続攻撃を、銃撃は腰のサイドアーマーで受け斬撃はフィンガーマチェットで鍔迫り合いとなる。
「おいおいっ、こんな所で戦闘なんざ。俺とこの嬢ちゃんは良いがアンタら危ないんじゃねぇかなぁ!?」
「御心配なく糞ガキ。コチラはアリーナに使うシールドが張ってあり安全地帯となってるわ。さぁ…叩き伏せなさい!アトラ!!」
「分かっていますわ、お母様!」
鍔迫り合いの最中、悪態をつくウィルバーに皮肉たっぷりで答える夫人。彼女からの指示を受けるラファールのパイロットはどうやら娘らしい。
アムル・デュノア社長夫人の娘『アトラ・デュノア』は金髪の碧眼、腰まで届く髪は二つ分けのローテールであり勝気な表情とどこか品の良さが漂う女の子だ。
ただし、今の表情は戦闘の高揚感に飲まれているのか厳しい顔つきだが口元は笑っていると言う凄まじいものである。
鍔迫り合いで膠着する両者、先に動いたのはウィルバーであった。彼は開脚してワザとバランスを崩すとG・ギアを回しその姿勢のまま片足を振り上げる。
その動きに虚を突かれ、アトラは必死に避けようとしたが蹴りに当たりSEを削られる。更に彼の攻撃は続き、軸足のG・ギアを駆動し蹴り上げた足のスラスターを噴かせ斜め振り下ろしの回転蹴りに繋げた。
流石に早い繋ぎとは言えモーションの大きい攻撃だったので、中に浮けるISはスラスターを使い高速のスウェーバックで避ける。
一連の攻防を繰り広げた両者の間合いは空き、硬直状態を生み出した。
「(あっ、危ないですわね…此処まで一人で来たのは伊達ではなさそうですわ。
それよりも、SEの減少が予想よりも多い。一体何なのですのよあのタイヤは!?)」
「(ヒューっ、中々ヤルじゃないかあの嬢ちゃん。防ぎきれなかったとは言え、
若旦那と仲間内でも
クソババァの言う通り、ちょーっと油注がれちゃうかねコレは)」
ウィルバーナインのタイヤは特殊な
ウィルバーは脚部での攻撃の際にはホイールを高速回転させることによって相手を削ぎ落とす事が出来るのだ。
ここから、アトラの防戦一方となる。いくらこの部屋が広かろうともISが自由自在に飛び回れるほど高くはない。精々、約二~三人分くらいの高さしかないのだ。それ故にISの本領である飛行能力が十全に活かせないのである。
一方でウィルバーはその逆だ。FAは一般的な人よりも少し大きい位に収まり、ウィルバーはスラスターとG・ギアを巧みに使い壁や天井を土台として八艘飛びとも思える変態立体機動で彼女を追い詰めてゆく。
天井を蹴り飛ばし、その反動で突貫を行ったり、振り下ろしを空振りしたフィンガーマチェットを支えとして、棒高跳びのように飛んで彼女を飛び越しながら攻撃するなど、アクロバティックと褒め称えるよりも変態と蔑ます方がよさそうな動きだ。
このままではジリ貧だとアトラは感じたのだろう、多少のダメージを覚悟でウィルバーを突貫して掴み掛り…そのまま全面ガラス張りの壁を突き破り外へ彼ごと飛び出ていった。
「NoオォオォオオoOoooオオウウゥウ!?」
心底嫌な顔をしたアトラは外に飛び出た瞬間ウィルバーを放し、彼は宙に投げ出されてしまう。絶叫しながら彼はスラスターを噴かして何とかビルの構造物に着地した。
ココはツインタワー風の構造をしているデュノア社の高層階にある渡り廊下の上。つまり・・・
「ココからがISの本領発揮ですのよ!
今までコケにされた分、ISの真の恐ろしさと力を見せてあげますわ!!」
「OK、じゃぁ…第二ラウンドと洒落こもうか!」
ウィルバー達が飛び出して行った後、壁には防災シャッターが下り社長室には静寂が戻る。
散々、暴れ回れた事に苛立ちながら添え付けのコンソールで各場所の現状を探る夫人は、何処もかしこも押されている状況に更に苛立った。
そんな中、今まで沈黙していたアルベール・デュノア社長が口を開く。
「もう、諦めたらどうだ。政略結婚の仮面夫婦だったとは言え、
君を止められなかった私にも責任はある。だから、」
「だから、何だってのよ。逃げたければ私に全部押し付けて一人で逃げなさい、腰抜け。
それに私は一切貴方を愛した事なんて一度もないわ。本当に愛しているのは、ただ一人だけ…」
「そうか…不躾だが最後にそれは一体誰なんだ?」
「…そうね。最後なら教えてもいいかしら。それは、」
最後の夫婦間の会話が行われていたが、核心に迫る場面で入室者があった。
それは、
「アルムさん…」
「セリシエ…」
「おお…」
ジョーとジェット、二人の00No.チームに守られてここまで来たシャルルの実母‐セリシエである。彼女がリロイと00No.チームに頼んだ事とは『直ぐにでも夫と社長夫人と話がしたい』という内容だった。
流石に作戦が終わった後ならともかく、作戦行動中では危険を伴う。ここは拒否するべきところだったのだが、彼女の強い眼差しに押されてしまったのだ。幸運だった事に上層階の敵部隊はウィルバーが散々暴れまわったせいか、かなり弱体化していたのだが。
リロイは彼女を社長室近くまで送り届けたら、護衛を付けて中層階での掃討にあたりに行ってしまってこの場には居ない。
「セシリエ、来てしまったのね」
「えぇ、もう遅いのね?」
「そうよ、行き着く所まで来てしまったわ。悔いはないけどね」
「そうね。貴女はそう言う子だものね…なら、
「なるほど、条件や報酬は言わなくても分かるわ。貴女と私の仲ですもの。
だから、私は私に賭けるわ」
「そうね、分かるわ。なら、私は私を助けてくれた人達に…私の全てを賭けましょう」
この場に居る誰も知らなかった事だったのだが、どうやら彼女たちは知り合いだったらしい。
そして、互いに分かり合っているからこそ…自身の全てを賭けた勝負を申し出た。
奇しくもこの時、各戦場が収束に向かって動き出していたのである。
「あのコンバット・パターンを試してみるかっ」
スティレットを操るロイはいったん敵との距離を取って止めの連続攻撃へと乗り出した。
引き離されて追従しようとする敵を更に振り切って、敵を中心とした円の動きに入る。
「円の動きで追い込み、そこへ集中させっ」
円の中心となった敵は何処へ逃れるか判断に迷い隙を晒してしまい。そこへロイからの集中攻撃を受ける。
ガトリングガンとACSクレイドルに付いている機関砲で牽制し、更に身動きがとれなくなった後にマルチミサイルランチャーと腕に添え付けられている空対地ミサイルの集中攻撃を浴びせられた。
「止めは一点集中突破!」
何度も攻撃を受け死に体のラファールにトドメとばかりに真っ向からガトリングガンを打ち続けながら接近し、最後は脚部のACSクレイドルからブレードを引き抜き回し蹴りの様な動きでブレードを打ち付ける。
「きゃああ!?」
「流石に戦闘機ではこうはいかんな」
最後の攻撃でラファールのSEはゼロとなり、制御力を失いビル内に墜落すると強制解除され
ラピエール=スミカの方も最後の仕上げに入ったみたいだ。
スミカはワザと敵を引き付け、とある方向に向かって上昇する。すると、敵の目には直射日光が突き刺さった。
ISの保護機能により眼にはダメージがないが、眩んでしまう。それをスミカは利用し、太陽を背にしながら敵機に向かって急下降した。
センサーによって彼女の位置を知ったラファールのパイロットは眩みながらもライフルで応戦する。が、スミカはそれを避けながら次々と発砲してきた。
片腕を支えにして撃ち、避けて足の間から同時撃ち、今度は身を捻って避けての背面片手打ち、身を捻り直し斜め下へと同時撃ちとスタイリッシュな曲芸撃ちである。
超電磁砲クラスの銃撃を次々と撃ち込まれ、行動不能直前となった敵にトドメが入った。
敵と交差する直前、スミカは両方のハンドガンから手を離し鋭く尖った手:
「っかはっ!?」
「まぁ、たまにはカッコ付けさせて貰うさ」
スミカの手放したハンドガンを空中でキャッチすると同時に、ラファールは保護機能なのか地面へと軟着陸したあと強制解除され戦線離脱となった。
最後に残ったのはトルースが相手する敵リーダー機だ。こちらのSEはシールドを素通しする
攻性干渉弾のせいで、防御システムに反応しないのかSEの減りは抑えられている。
だが…
「タフだな。いい加減、諦めたらどうだ。ISスーツの防弾性が良くとも衝撃は消せない。
骨の二~三本は折れているはずだ」
「ぐっうぅ…はぁはぁ、そうだとしても私は引けない!」
そう、干渉弾が非致死性弾となっていてもその衝撃は傷害の可能性を十分には否定はできない。特に近距離から受けた事もあるので楽観視は出来ないのである。
しかし、敵リーダーは戦意を消失する事もなくトルースを睨みつけている。最後に残ったのは彼女一人だけというのに、何が彼女を駆り立てるのだろうか。
「き、貴様は危険だ。
「何?」
「ISに追従する機動性。ISでないからこそ搭載できる搭乗者への直接攻撃手段。
こんな…こんなっ!対IS用兵器を逃すわけにはいかない!!」
どうやら、トルース…いや、彼の機体を対IS用兵器だとして危険視しているようだ。だが、そう言い放つ彼女に彼は冷めた目で見ている。
「何が可笑しい!」
「対IS用兵器?そんな物が作られるのは時間の問題だ。早いか遅いかのな。それよりも、
もうこの戦いは無意味だ。残存勢力はお前のみ。地上の戦力は既に瓦礫と化している。
お前の戦う理由はなんだ?」
「そんなものっ、ISが敗北することなど有り得んからだ!故に私は勝たなければならない!
選ばれし
「…仕事だからだ」
「…っ!もういい、死ねぇえ!!」
どこまでも冷めているトルースにIS至上主義であり女尊男卑の敵リーダーは癇に触れたのか今まで以上に敵愾心をむき出しにし、殺気立って襲いかかってくる。
だが、怒りで我を失っている状態ではトルースには通じるわけがない。ライフルを撃っても、
ミサイルを射出しても彼には届かない。その事実がますます彼女を怒り狂わす。
トルースは怒り狂う敵にこれ以上の干渉弾は無意味だと判断した。理由は興奮状態に依るアドレナリンの大量分泌のせいで痛覚が麻痺していると予測したからである。
万が一の為に用意してきたタダの通常弾に切り替えると反撃に転じる。敵の残SEを予測すると
通常弾を全て当てないとダウンに持ち越せないだろうが、まぁやるしかないとトルースは思いながらライフルを握る手に力を入れる。
「少しキツいがやるしかないか。マニュアル操作開始、リミッター30秒解除」
避けていたトルースのスピードが上がり敵は付いてこられなくなる。その理由は機体の
通常なら出力制限は機体やパイロットを守るために付けられる物だが、無論無い方が機動性や
出力が上がる。が、それに比例して負荷も上がってゆくのでオススメは出来ない。
一時的に制限を取り外したバーゼラルドは通常では有り得ない速度と楕円軌道のバレルロールで敵を撹乱し、その中でも確実に攻撃を当ててゆく。
「締めだ。ブーストっ…!」
トルースはフォトンブースターが焼き切れるかと思われるほどアクセルを入れ、最短直線距離で攻撃を続ける。互いの位置が交わる直前で弾丸は切れ、咄嗟にイオンレーザーカッターで抜き打ちをした。
「がぁあぁああ!?」
「悪く思うなよ。仕事だからな」
これまでのダメージが蓄積していたリーダーのSEはゼロとなり、彼女は屋上に墜落したと同時に意識を失いISも強制解除され敗北を身に刻む事となった。
一方でウィルバーは思わぬ苦戦を強いられる事となっていた。理由は単純明快、ウィルバーナインには射撃武器が無いからだ。
アトラは自由自在に空を飛び、彼の
「(さて、どうすっかねぇ?
失敗したら真っ逆さまのお陀仏だ…あれ?史上最大のピンチか?)」
ウィルバーはこんな事を思いながら戦闘を続けていた。彼が取れる手段は限られている。
①.相手が痺れを切らして近づいてくるのを待つ ②.イチかバチかで跳んでみる
③.援軍がくる ④.他に手段を思いつく ⑤.
「(俺としちゃぁ、①が一番楽だが…もっと良いのは③か④、⑤は流石に勘弁だけどよう
現状を変える手っ取り早い方法は②かぁ?でも、失敗したら即⑤なんだよな)」
攻めあぐねていると現実逃避なのか日が差してきたなと思ったら、突如の突風が吹きあられ
ウィルバーとアトラは体勢を崩しかけた。
かなりの突風だったので両者とも驚いているが、彼には一筋の光明が見えた気がしたのである。
「おい、嬢ちゃん。次に跳んだ時には嬢ちゃんの上を飛び越してやるぜ?」
「へぇ、それは楽しみだこと…でも、それまで待ってあげませんわ!!」
「しゃくらせぇ!」
ウィルバーは会話が終わると上空から撃ってくるアトラに対して引き続き回避行動を取る。暫くすると、また日が差し始めてきた。彼女には見えないがヘルメットの中でニヤついた彼は、
「せいっ!」ブゥン!
「きゃあ!?って、ええ!?」
アトラの隙を突く為か片手のフィンガーマチェットを振り抜くと同時にパージし、彼女に投げつける。その間にウィルバーはG・ギアとスラスターを全開にし、渡り廊下から飛び出していった。
「無謀な男ですわ…くぅっ。えっ!?」
ジャンプに失敗し投身自殺になったかとアトラは思ったが、次の瞬間また突風が吹き荒れ体勢を整える。だが、その時にハイパーセンサーに上へ飛んでゆく影を見つけた。その正体は…
「う、うそ…」
「獲ったぜ?せりゃああ!!」
「このっ!?うっ!!」
彼女の上から現れたのは、飛び降りたはずのウィルバーであった。彼は彼女の肩から胴の位置で脚部のG・ギアを挟み込む様に押し当てながら食い違うように回転、さらに残った片手のマチェットでこれでもかと叩きつける。
「(なんで、何で飛び降りたこの男が私の上に居る!?冗談にも程がある。
風になって逝ったというのに!…風、ビル風?まさか!?)」
振りほどけないアトラは心の中で悪態を付くが、その中でウィルバーが現れた一つの可能性に気づいた。
コイツは風に煽られて自分の上を取ったのではないかと。…正解だ。
ウィルバーは吹き荒れた風、つまりビル風によって起きた上昇気流に乗ったのだ。
日が差すと言うことは、風が吹き始めたということ。
そのタイミングでウィルバーは助走を付けて跳躍し、更に上昇気流に乗りながらG・ギアをビル壁面に押し当てスラスターを噴かしながらさらに上へと登っていったのである。
マチェットでの滅多打ち、G・ギアでの挽砕攻撃、終いにはそれなりの高度をとっていたので
渡り廊下に
その事が分かったのか彼女は戦意を喪失する。
「やれやれだぜ…とっおぉぉお!?」
「あっ・・・」
最後の墜落した位置が悪かったのだろう。SEがゼロになり戦いが終わったと思った瞬間、アトラとウィルバーは宙に身を乗り出してしまった。
廊下の端だったのだ。ほんの少しの体重の動きで体勢を崩し滑落したのである。
「きゃぁああ!!」
「くそっぉお!」
ウィルバーは咄嗟にアトラを掴み、スラスターを全力で噴かした。だが、ウィルバーナインは
陸戦専用機。二人分の体重を支えて100m以上の高さから軟着陸できる性能はない。
彼もそれが分かっているのかスラスターを使ってビル壁面へと移動、マチェットを突き刺すことによって一応落下は止まった。
「ふぅぃぃ…セーフ!」
「はっ!何で私は貴方に抱き抱えられていますの!?」
「暴れんな!落ちるだろうが!!あと、重たいんだよっ。とっととISくらい外せよ!!」
「失礼な!レディにむかって重いとは!!それにISだったらSEゼロでもうすぐ消えますわよ!」
「ああっ、うっせ…」ピシィッ
「「え?」」
ピシィピシピシピシ…バキィインン!!
「「うそぉお!?」」
「あああああ!?」
「きゃあぁああ!!」
今までの戦闘の負荷が溜まっていたのだろうか、ビルへと突き刺したマチェットは折れて再び
二人は落下を始めた。
ウィルバーはマチェットの基部を排し、何とか落ちて擦れながらも指がビルの僅かな出っ張りに引っかかるが、状態は先程よりも悪化している。
こんな体勢など何時までも保てるわけがない。すると、アトラが口を開く。
「もう…いいですわよ」
「はぁ?」
「私を放せば助かる確率は上がりますわ。私は負け、社からも追われる。
もう生きてるか意味など」
「はぁ?何言ってるんだお前。そんなもの俺には関係無いっての。俺に指図するな」
「何言っているの!?こんな私など見捨てれば!」
「だから、うっせぇんだよ。若旦那のマイフェイバリットで言えば『俺は俺の自由の旗の元で』だ。俺は俺の好きにヤらせて貰う!(そうだ、何時もそうじゃねぇか)」
絶体絶命のウィルバーが思うことは今まで好きに生きてきた人生だ。仕方なしの指図は受けるが、それ以外は自分勝手にやってきた。例外としては、今の
「(そうだ、女を見捨てて生き延びたなんてカッコ悪い所…若旦那に見せられるかよ!)くっぅ!」
唯一自分の認めた
だが、指は限界に来た。
「ちくしょうっ!」
「……っ!」
待たしても自由落下に身を委ねる二人、助けは未だ来られない。実はこの時、ようやく空中戦の決着が付いたそばの出来事なのだ。つまり、空戦FAの三人とは距離が空いており間に合わない。
ウィルバーは悪あがきで何かを掴もうとするが、重さと速度が思いのほか有り上手くいかない。指の装甲も禿げかかってきたその時、
ドガァン!!
「ナイスだぜ!」
突如、ウィルバー達の下のビル内から鎖付きハンマーが飛び出してきた。飛び出して垂れ下がった鎖をウィルバーは掴み、九死に一生を得た。
その事にホッとしていると、ビル内から声が掛けられる。
「まったく…無茶ばかりするのですから貴方は」
「へへっ、ありがとよ。リロイ」
声の正体はリロイである。リロイはレヴァナントアイ・イーギルに装備されていたハンマーショットガンでビル外壁を破壊、それに付いていた鎖をロープ替わりにしたのだ。
ハンマーショットガンとは、ハンマーのショットガンではなくハンマーをショットするガンである。巨大なトゲ鉄球を発射する武器であり、見た目の通り色々と無理のある武器だが彼女は何が役立つかわからないと思った。
こうして、デュノア社で行われた作戦はコトブキカンパニー側の勝利と終わった。
そして、コレが示す通りにもう一つの勝負も決着が付いたのである。
「あーあ、負けちゃったわ」
「ええ、私の勝ちです」
「学生時代から何一つ勝てなかったわ
「…そうね。ねぇ、聞いてもいいかしら。今までの事は全部…」
「ええ、
全部愛している
決着が付き、まるで憑き物が落ちた様に今までの動機をアムル・デュノア‐社長夫人は語りだした。
二人の関係は学生時代の百合的義理姉妹から始まる。その時に色々と良くしてくれたセリシエにアムルは想いを募らせていったらしい。
そして、大人になり政略結婚の話が上がった時に相手を調べていると、セリシエの名が出てきた。彼女はコレを好機と睨み、セリシエを愛人として呼び込みデュノア社を盛り上げた後にアルベールから彼女を寝取って、彼女を何一つ不自由ない自らの愛で溢れた世界へと招く予定であった。
だが、セリシエはアルベールの事を思い、自分の存在が邪魔になると考え姿を消したのである。
「お姉様がコイツを思っていたのは分かったわ。
けど、けど!どうして私を頼ってくれなかったの!!」
「アルムさん…」
アルムは悲しみと思慕の涙を流しながらそう言った。ココに狂乱の愛で始まった事件は終着を迎えたのであった。
作戦行動が全て終わり、今は撤収の準備が成されている所だ。
あの後、主犯格であるアムル・デュノアは護送され、社長であるアルベール・デュノアは別の時に取り調べを受ける事となった。
FA運搬用の装甲車にFAを丁度置いて出てきたリロイとウィルバーの元にアトラが訪ねて来る。
「あの、あのバイクのパイロットの方ですわよね?」
「あ~、嬢ちゃんか。何の用だ?」
「いえ、あの…貴方のお名前をお聞きしたくて」
「名前ぇ?」
何故か戦った時とは違い、彼女がとてもしおらしくなっておりウィルバーは調子が乱れる。
どこかモジモジとして居座りが悪そうな彼女に対して、彼は頭を掻きながらぶっきらぼうに答えた。
「ジャン、ジャン・B・ウィルバーだ」
「ジャン…ジャン様///」
「あ~…そうだ。コレをやる」
「これは?」
やはり調子がおかしいアトラにウィルバーは何か思ったのか、ある名刺を渡した。
受け取った彼女は名刺と彼を交互に見て尋ねる。
「一応、あんなんでも両親をブタ箱に押し込んじまった原因はコッチにあるからな。
なんかあったりしたらソイツを尋ねれば、悪いようにはしないはずだ」
「はい、ありがとうございます」
「ガシガシガシ…じゃあな」
「あ…」
要件が済んだと思ったのかウィルバーは素っ気なく別れの挨拶をして離れていってしまった。
それに対してアトラは引かれるモノが有ったみたいだが、これ以上引き止める理由はなくその背を見送った。
「少尉、ロリコンにでも成りましたか?」
「はぁ?何言ってんだよ、リロイ」
「ジャン様…///」
どうやら、ココに新たなるフラグが立ったようだ。
それはともかくとして、今後デュノア社はナナジングループの傘下の一つとして動く事となった。
しかしコレは、ISシェア第三位のデュノア社が知る人ぞ知る影のIS経済を担うナナジングループの傘下になった事を示し、世界経済界に波紋を広げたのは…また別の話。
アルムが護送される前にセリシエ対して忠告を言ってきた。その内容とは…
「そうそう、お姉様の娘…今はシャルルって名乗らせてIS学園に居るけど。
私の
「何故かって?あの子は私自身みたいなモノなの。だから、きっとあの子もね…」
どうやら、こちらでも別のフラグが立っていたようである。
はい、今回で『デュノア社襲撃編』は終わりになります。次回からはIS学園へと舞台が戻ります。
今回は普段出番がないFAのエースパイロット達を活躍させるための話でしたが…ちょっと難産でした。
完全にオリジナル状態ですし、自身がコレを始めた時に決めた『分かっている範囲内でIS勢をあまり不幸にしない』って目標があるのですが…
セシリアは両親健在、ラウラは原作始まりから部隊の仲が良い、鈴は…ゴメン、思いついてない。
と、まぁ…こんな感じで改変してましたけど。シャルルの母健在。しかし、継母は
あと、書くのに時間が掛かるようになってきました。自分でも不定期に成ると思っていますし、タグにもあります。
けど、なるべく早く書けるように頑張りたいです。
では、今回は此処まででございます。
そして、感想や誤字脱字・ここが文的におかしい等のご報告も謹んで承ります。
では、もし宜しければ次回お会いしましょう。