復活信者の転生ログ。   作:夢いろは

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これは上下の下です。
上を読んでない方は前話からどうぞ。


No.8 少女は確かに姉であった。下

 

 

 

『次の一族の長はお前だ。わかったな』

 

 

 

 そう父親に言われた時

 

 一番始めに心に浮かんだのは、否定の言葉だった。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 その場は何時になく静かで、自分の呼吸の音だけが響いているように感じた。

 

 

 

「なんだか久し振りにあんたの顔見た気がするよ」

 

 

 

 乗っけから本題になど入れる訳はなく、とりあえず思ったことを口に出してみた。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 返事はなし、か。

 何となくそんな気はしてたけど、やっぱり悲しい。

 弟はさっきからずっと無言で下を見ている。

 私は今あんたの目の前にいるのにね。

 

 

 

「ねぇ、なんか言ってよ。久し振りの会話なんだからさ」

 

 

 

 そしてあわよくば、私に話してほしい。あんたが何に悩んでいるのかを。

 そう心の中で続ける。

 

 暫くの無言。

 

 きっと言ってくれる。そう信じてひたすら待つ。

 辺りはいつの間にか暗くなり初めていて、オレンジ色の光が私達の影を伸ばす。

 

 いつからか、弟が目を合わせなくなった。

 いつからか、喋る機会が減っていった。

 最後にあんたの笑った顔を見たのは何時だったかな?

 覚えてないくらいには前の話だ。

 

 戻りたい。笑ってほしい。

 辛いなら、相談くらい乗らせてくれたっていいじゃない。

 

 私に姉らしいことさせてくれないだろうか。

 

 助けさせてよ、あんたのこと。

 

 

 

 そして弟がゆっくり口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「別に、言いたいことは何もない。・・・先に戻ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにかがプチンと切れた音が、微かに、でも確かに聞こえたんだ。

 

 

 

 

 

 

 そのまま後ろを向く弟。

 一歩を踏み出そうと片足をあげる。

 

 待って、まだ行かないで。

 

 話は終わってないよ。

 

 まだあんたは助かってないでしょ!?

 

 今あんたは、なにを考えている?

 その顔は、今どんな表情を浮かべてる?

 

 

 

 

 

 ━━━きっと、あんたの想像以上にひっどい顔してるよ。

 

 

 

 

 

 

「そこに直れぇっっっ!!!」

 

 

 

 思いのままに勢いよく叫ぶ。

 私の大声が反響して、木々がザワザワと揺れた。

 はは、ここまで叫ぶのは前世を入れても初めてかも。

 弟も目を丸くしてこっち見てるし。

 でも私、これで終わらせる気は毛頭ないので。

 

 

 

「刀持って。手合わせしよう。私が勝ったら質問に答えてね」

「は」

 

 

 

 は、じゃないよ。

 あんたの腰にあるその刀を取れって言ってんの。

 

 

 

「あんた、最近の自分がどれだけ酷いかわかってる?気付いた時にはぼーっとしてるし、修行中も全然集中出来てないし。人の話は聞かないは失敗は増えるは、もう散々だよ。今も凄い顔してるしね。・・・その表情ほんとやめて。気持ち悪いし迷惑」

「なっ」

 

 

 

 嫌われたくない、とか。

 言ってくれるのを待とう、とか。

 もう、どうでもいいや。

 

 

 

「今の状態のままでいられたら、私だけじゃなくて周りの皆にも迷惑だよ。わかってる?」

「・・・っ好きでやってる訳じゃない」

「あ、そう。でもそんなの関係ないよね。剣の修行とかもやる気ないなら止めちゃえば?」

「・・・それ以上は、いくら姉さんでも許さない」

「いいんじゃない?私止める気ないから」

 

 

 

 あんたの意思なんて関係ない。

 

 

 

「ほんとマヌケ面晒しちゃってさ。いつまでバカやってるつもりなの!!!」

 

「ね・・・姉さんに何がわかる!!!」

 

 

 

 勝手に助ける。姉のプライドに懸けて。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 太陽は沈み、月が少しずつ顔を出す。

 光が刀に反射して地面をキラキラと照らす様はとても綺麗で、何故かいつかの朝に見た光景を思い出した。

 

 

 

「ねぇ、もう終わり?ちょっと情けなさすぎない?」

 

 

 

 そう言って目線を向けた先には、刀を杖がわりにしてしゃがみ、肩で息をしながら私を睨み付ける弟の姿があった。

 

 弟の身体には所々傷があって、私は無傷。

 今までの手合わせがどんなものだったかなんて、言わなくても解るだろう。

 

 ・・・嫌だなぁ、その目。

 前世でよく見た目。私の大っ嫌いな目だ。

 あんたも私にその目を向けるんだね。

 私のこと、本当に嫌いになっちゃったのかな。

 辛いなぁ。もうやめちゃおうかな。

 

 でも、弟が辛いほうが嫌だなんだよなぁ。

 

 なんという矛盾。

 前世であんなにも嫌で嫌で堪らなかったものがあって、それなのにもっと嫌な事ができてしまった。

 それはきっと大切なものが増えた証だ。

 

 そうだ、大切なんだ。

 大嫌いな目を向けられようと、この弟は私の大切なモノだ。

 

 だからまだ頑張れる。助けるまで止まらない。

 

 

 

「あーあ、ねぇ何時まで座ってんのさ。早く立ってよ」

「・・・こんなことに、何の意味がある」

「さぁねー。無いって思ってたら無いんじゃない?少なくとも私には、あんたから話を聞くっていう大事な意味があるけどね」

 

「・・・姉さんなら、スキルを使えばすぐ解るだろう。なんでそうしないんだ?」

 

 

 

 少し間を置いて弟が聞いてきた。

 

 

 

「・・・わからない?結構単純な答えなんだけど」

 

 

 

 現在の私の愛刀である黒い双剣の片方の刃の腹を指でなぞる。

 相変わらず綺麗な刀だ。

 最近は二刀流も大分モノになってきたと思う。

 頑張ったからね、弟がうだうだしてる間にも。

 

 

 

「・・・俺は、姉さんが思ってるほど強くないし、賢くもない」

「・・・」

「だから、姉さんが今なにを考えているかもわからないし、スキルを使わない理由だってわからない」

「・・・」

「こんな手合わせを仕掛けてきた理由も、態々嫌われるような発言をしてる意味も」

 

 

 

「俺はもう、なにもわからない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーに当たり前なこと言ってんの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

「私の考えてることがわからない?そりゃそうだよ。だって私は考えてること何も言葉にしていない」

 

 

 

 少しずつ、弟との間を詰める。

 一歩ずつ、一歩ずつ。

 

 

 

「でも、それはあんたも同じだよね。いつからかよく考えこむようになって、一人辛そうな顔して。あんたが悩んでる理由、私もずっと考えてたけど、結局答えは出なかった」

 

 

 

 あと三歩。

 

 

 

「さっきの質問の答えだけど、それは私にとってあんたが大切な存在だからさ。スキルで結果だけを知るんじゃなくて、あんたの口から、あんたの意思で選んだ言葉で聞きたかった。それが理由」

 

 

 

 あと二歩。

 

 

 

「辛いときは側にいる。道がわからなくなったのならちゃんと教えてあげる。そうして支えあって生きていけるのが、"姉弟"ってモノなんじゃないの?」

 

 

 

 あと、一歩。

 

 

 

「ねぇ、話してよ。私、あんたの言葉が聞きたい」

 

 

 

 さぁ、着いたぞ。

 しゃがんで、目線を合わせて。

 

 その心に、どうか届け。

 

 

 

 

「力になりたいんだ。他の誰でもない、大切な弟のために」

 

 

 

 そして、安心させるように笑った。

 

 

 

 静寂が訪れる。

 でも、最初の時より苦しくない。

 弟の目は嘗てないほどに見開かれていて、ちょっと痛そうだ。

 ・・・目の下、よく見たら隅になってる。

 寝れなかったんだね、辛かったね。

 そんなに悩んだんだ、もうそろそろ楽になってもいい頃だよね。

 

 

 

「・・・一つ、聞いてもいいか」

 

 

 

 静寂を破ったのは弟のほうだった。

 

 

 

「いーよ。答えてあげる」

 

 

「・・・・・・、姉さんにとって、俺はどんな存在なんだ?」

 

 

 

 ・・・何を言い出すかと思えば。

 

 

 

「大切な弟ってだけじゃ足りない?」

「そういうわけじゃ、」

「はいはい。そうだねー、なんて言おうかな」

 

 

 

「んー・・・家族で、負けたくないライバルで、仲間、かな」

 

「ーー!!」

 

 

 

 家族も。

 ライバルも。

 仲間も。

 もちろん、弟も。

 

 前世では、何一つなかった。

 何度だって言おう。

 私は、貴方が大切なんだと。

 

 

 

「・・・俺は、まだ、強くなれる、だろうか」

 

 

 

 本当にちっぽけな声。少しでも邪魔が入っていたら絶対聞こえてなかった。

 でも、ちゃんと聞こえたよ。

 たった一文、ほんの少しだけだけど。

 あんた自身の言葉が。

 

 ポン、と。

 弟の肩を叩く。

 それからちょっと強めに頭を撫でた。

 

 

 

 言葉にしないとわからないって、さっき私は言ったね。

 

 でも、声に出さなくたって伝わる想いってのも、確かにあるのさ。

 

 

 

 

 

 久々に、本当に久々に弟の笑った顔を見た。

 今までとは違う、憑き物が取れたような穏やかな表情だった。

 

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 それは、劣等感というものだったと思う。

 

 

 

 俺の姉は本当に凄い。

 里一番の剣士である師匠に、スキルありとはいえ唯一勝てる存在。

 いつも修行に真剣に取り組んでいて、常に前を見据えている。

 困っている者がいるとほっとけない、優しい鬼。

 それが俺の姉だ。

 姉さんは俺にとっての憧れで、目標で、でもそれと同時に届かない壁のようにも感じていた。

 

 いくら修行に励んでも、いくら勉強しても。

 何時までも近づく所かどんどん開いていく差に、俺は焦っていたんだろう。

 

 

 

 だからだろうか。

 あの日、早朝に楓の木の下で見た、若と姉さんの600回目の手合わせ。

 あの姉さんに本気を出させ、「楽しかった」とさえ言わせた若に、なにかモヤモヤしたものを感じた。

 

 俺が一族の長になると伝えられた日、はじめに思ったのは「俺なんかでは到底無理だ」ということだった。

 「なんで姉さんじゃないんだ」、とも思った。

 

 

 

 昔、まだ修行をはじめたばかりだった頃、若と二人で立てた「いつか必ず姉弟子を超える」という誓いは、今だって忘れた訳じゃない。

 

 けれど、何時までも背中の見えない姉と、強くなっていることが目に見えてわかる若を見て、とにかく不安になったんだ。

 

 

 

 俺では一生姉に追い付けないのではないか、それどころか若にも置いていかれてしまうのではないか、と。

 

 

 

 姉さんにはこんなこと話せるわけがなかった。

 自分の弱さを見せたくなかった。

 貴女の弟はこんなにも弱いだなんて、知ってほしくなかった。

 

 

 

 だけど。

 

 

 

 

『辛い時は側にいる。道がわからなくなったのならちゃんと教えてあげる。そうして支えあって生きていけるのが、"姉弟"ってモノなんじゃないの?』

 

 

『力になりたいんだ。他の誰でもない、大切な弟のために』

 

 

『んー・・・家族で、負けたくないライバルで、仲間、かな』

 

 

 

 

 なぁ、姉さん。

 

 俺はまだ、諦める必要はないのだろうか。

 頑張れば貴女の隣に立てるようになれるって、信じていてもいいのだろうか。

 

 

 

 

 姉さんが俺の力になりたいと言ってくれたように。

 

 俺も、何より大切な貴女の力になりたいから。

 

 

 

 




次から話が進んでいきます。
とりあえずまずはアイツを出さねば。

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