どうやら腐女子がテイルズオブヴェスペリアの世界にまよいこんでしまったようです。   作:rimuku

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腐女子のトリップ

よし。とりあえず冷静になろう。

 

今までおこったことを整理するんだ。

 

まずわたしは、勉強していて寝落ちした。

それから起きて、ps3のコントローラーを持った。

 

そして今。なんかゲーム画面の空間にいる。あと浮いてる。

 

 

アイエエエエーーーー!?

どう考えてもおかしいじゃねーか!!

コントローラーを持ったところから記憶がないぞーーーー!?

 

「人の子よ。一旦落ち着くのだ。」

 

頭上からまた合成音声のような声が響く。微妙に呆れたような声色だ。

 

「ひょっ!すす、すみません!何が起こってるか分からなくて!」

 

わたしはおどおどしながら姿の見えない声の主におもいっきりお辞儀した。しかしわたしは浮いている。重力がないためわたしの体は縦にくるくると回転しはじめてしまった。

目が回るンゴォ!!

 

「…はぁ。人の子よ。一から説明してやるから本当に落ち着け。」

 

声の主がそういうや否や、わたしの体がピタッと回転を止める。

声の主さん…せめて止めるタイミングに気を使って下さいよ。

 

わたしの体は宙ぶらりんになり、本来とは逆向きの方向に停止していた。

Tシャツとスカートが容赦なくめくれるのを押さえつける。

 

 

ごほん。

 

声の主が咳払いし、早速説明をはじめた。わたしこのままなんか。ねえ。ちょっと。

 

 

「とりあえずだ。まずこの場所。

ここは世界の狭間。世界と世界をつなぐ場所だ。

 

この場所は、その者が望むものが見える。

お主になにが見えておるのかは分からんがな」

 

 

へぇ…

 

世界の狭間…

望むものが見える、てことは…

 

わたしは目の前のスタート画面に目をやる。

やはりあの画面だ。

 

だが間違いなく、それはわたしの望むものだ。

 

 

「お主は自分じゃ気付いてないかもしれぬが、世界を渡る能力を持った時空の旅人だ。

これからお主は、この先の世界、テルカ・リュミレースにトリップしてもらうぞ。」

 

「え、はぁ…」

 

時空の旅人?

新しい単語がいっぱいで、働きの悪いわたしの頭は状況を全く処理できないでいた。

わたしが時空の旅人なんて大層な者なわけ…

 

…というか、

 

え?

 

テルカ・リュミレース?

 

え?

 

「ま、待って下さい!!!!テイルズオブヴェスペリアの世界にいくんですか!!!??

わたしが!!?!?」

 

わたしは驚き過ぎて大声を上げてしまった。

 

まじで!?!?

テルカ・リュミレースと言えば、ユーリたちが住むテイルズオブヴェスペリアの世界だぞ!!!?

 

「そうだ。お主がいつも見ているゲームの世界は、この世界の数多ある未来の一つを見ているにすぎない。

お主が干渉すれば、この世界はゲームよりいい未来にも、悪い未来にもなり有る。

 

お主は選ばれたのだ。テルカ・リュミレースの断罪者に。」

 

「な、そんな、わたしがユーリたちの世界に干渉するだなんて、しかも未来を変えるだなんて…」

 

色々な意味で震えが止まらない。

ユーリたちと同じ空気が吸える。

だがわたしが干渉してしまえば最悪、世界を滅亡に導くかもしれない。

テルカ・リュミレースを滅亡に導くなんて絶対に嫌だ。

 

…というか。あそこ魔物とかいるよね。

わたし絶対生き残れないよね。

 

 

「あ、あの…でもわたし、運動できませんし、

わたしがテルカ・リュミレースに行ったら、魔物にワンパンで殺されるんじゃ…」

 

「もちろんお主は今のままテルカ・リュミレースに行くわけではないぞ。多少の肉体変化がある上に術式も使えるようになる。

というか、お主は時を操る能力があるではないか。」

 

「な、時間を操る力ですか!!!?ないですってそんな力!!!」

 

唐突な言葉に、また驚く。

時間を操ることなんてやったことないしできるはずもない。

 

 

「何を言っておる。お主いつもやっておるではないか。」

 

「いやいやいやいや、わたしにそんな神の所業できるわけが…」

 

 

 

…あ。

 

ふと思った。

 

わたしはいつもセーブやリセットをやっている。まさか…。

 

「そう。それだ。同じ要領で考えればよかろう。」

 

声の主は満足そうに言った。さらっとわたし心読まれてますね。はい。

 

「と、まあ一通り説明し終わった。

我はこの辺で失礼するぞ。」

 

そういうや否や、声が段々と遠くなっていく。

まてまてまて。急展開すぎる。あと色々雑すぎる。

全然説明終わってない。

意味分からん。

 

 

「待って下さい!あなたは何者なんですか!!それに、」

 

わたしは遠くなっていく声に、声を張り上げて聞いた。

 

 

「我が名はエルシフルだ。」

 

 

 

遠くから声が聞こえた。

 

次の瞬間、わたしは落ちるような感覚に襲われる。

 

目の前が暗転し、わたしの体はめちゃくちゃに振り回されたが

不思議と恐怖を感じることはなかった。

 

エルシフル?エルシフルって確か、人魔戦争の末裏切られて死んだ_________

 

 

そんなことを思いながら、わたしの意識は遠のいていった。

 

 

そうだ。これはきっと夢だ。

 

嬉しいなあ。妄想が夢になってくれるなんて。

 

 

こんな夢が見られるなら、わたしは目覚めなくたって_________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------

 

 

 

「ふぅ。」

 

わたしは町外れの広場にポツンとあるベンチに腰を下ろし、ため息をついた。

 

 

ここは潮風の香る港町、カプワトリム。

ウミネコの鳴き声と人々の話し声が交差する貿易の町だ。

五大ギルドのひとつ幸福の市場(ギルド・ド・マルシェ)の拠点がおかれている場所でもあり、

多くの貿易船が出入りしている。

 

 

え?

何が起こったかわからない?

わたしもわからないよ。

 

 

わたしが目を覚ましたのはついさっき。

わたしはこの町の裏路地で意識を失って倒れていたのだ。

 

トリップした地点が結界魔導器(シルトブラスティア)の中だったのは非常に幸運と言えよう。

 

 

「わたし、ほんとうにトリップしちゃったのかなあ。」

 

わたしは足をぷらぷらさせながら独り言を呟いた。

この町並みも住人も、みんなゲームで見てきたあの光景と全く同じだ。違う点があるとすれば、わたしがここにいることくらい。

 

まったく、エルシフルさんはちょっと言葉足らずすぎる。

なんか突然変な空間に飛ばされて気がついたらここって。困っちゃうよ。

 

そもそも、時空の旅人ってなんなんだろう。

わたしが突然ここにトリップしてしまった原因は?

 

訳がわからなすぎる。

 

わたしは髪を触りつつ目を細めて考えた。

 

 

それにしても困ったなあ。

 

なしにろわたしは今、武器もお金もなにも持っていない。

しかもわたしの服装はKAMABOKOという変なロゴが入ったTシャツに黒いスカート。

部屋着のまんまだ。

 

トリップものってこういう道具とか武器はご都合主義で神様から貰えるものかと思ってたよ…本当に身一つのトリップとか聞いてないンゴ…

 

時間を操る能力…?が使えるようになったみたいだし文句は言えないけどね。

近所のコンビニまでいくくらいならまだしも、さすがに異世界でこの服装は恥ずかしい。

 

 

わたしはあらためて自分の服装を見直す。

 

無地の真っ白なTシャツに黒字でKAMABOKOってシュールすぎるわ!!

お母さんどこで買ってきたんだこのTシャツ!!

 

 

わたしは一旦息を整えてやるべきことを整理することにした。

わたしは地頭が悪いのか、丁寧にひとつひとつのことを確認してから行動に移さなければ大体失敗する。

 

とりあえず、ユーリたち一行の行動を知ることは最優先であろう。

ゲームの世界では、彼らはこの世界の命運を左右する存在だ。

 

もしわたしがほんとうにこの世界の未来を決める断罪者としてここに飛ばされたのなら、

彼らを影からサポートしつつ観察するのはきっと必要なことであろう。

 

こんな大層な口実でユーリたちの冒険をストーカーできるなんて...フヒヒ...

 

 

と、すると...

 

やるべきこと。

 

 

 

・ユーリ一行のストーカー

 

・この世界に合った服を買う

 

・武器や装備品の入手

 

・ガルドの確保

 

・寝る場所の確保

 

武醒魔導器(ボーディブラスティア)の入手

 

 

 

こんなもんかな。

 

さすがに衣食住はなんとかしなければいけない。

いくら腐っているからといってわたしは生き物である。

 

うーん…

 

やっぱどれをみてもガルドがあることが第一条件だ。

どこの世界でもやっぱお金は重要だよね。

 

わたしは眉を下げて髪を触る。

髪を触るのは癖だ。心配になるとついついやってしまう。

 

ガルドを稼ぐ方法かー…

わたしコミュ障だし、できるだけ人と関わるバイトとかしたくないなあ。

 

かといって武器すらない今の状態で魔物を狩りにいくにも…

 

 

あっ。

 

そうだ。

 

わたしはふっとひらめいて顔を上げた。

 

わたしには時を操る能力がある。

これをうまく使えば魔物も倒せるかもしれない。

 

わたしは考えるや否や、ベンチから立った。

 

これは、能力をいろいろと研修する必要がありそうだな…

 

 

----------

 

 

 

わたしはカプワトリムから少し離れたフィールドマップの平野で、能力を色々試してみた。

さすがに町の中で色々やるのは不味いよね。うん。

 

試した結果、結構わかったことがある。

一言に時間を操るといっても自由に時間をどうこうできるわけではなく、できることはいくつか種類と条件があるみたいだ。

 

種類と条件は以下の通り。

 

<セーブ>

魔導書を召喚し、今までこの世界でやったことを記録することができるようだ。

運がいいと体力や精神力も回復できるみたい。

ただ時間がかかるから戦闘中は使えない。

 

<ロード>

過去に戻ることができる。ただし、戻ることができるのはセーブした瞬間の地点からである。こちらも時間がかかるため戦闘中は基本使えない。

 

<ポーズ>

この世界の時間を停止できる。ただしこの世界の時間はすべて止まるので、ひとつの物体だけにこの能力を使用したりするのは不可能。

わたしはこの世界の者ではないから、ポーズを使っている間も動けるようだ。

また、ポーズ画面のときは自分や他人のステータスを数字として見ることができる。

 

 

どう考えてもチートですほんとうにありがとうございました。

 

ポーズを使って行けばうまく戦闘も切り抜けられるだろう。

 

 

ここまで試してわかったけど、だいたいゲームのシステムと同じと考えていいらしい。

なんとメタ的な能力。

 

 

わたしの世界でもこんな能力があったら、あんな日陰者として生きなくてすむのに…

ふと思ってしまった。

 

せっかくテルカ・リュミレースにこれたのに元の世界のことを考えていてはもったいない。

 

今わたしはユーリたちと同じ空気を吸えている。これを存分に楽しむべきだ。

ん、待てよ。ほんとだ。

やばみ。尊い。

ユーリたちと同じ空気だぁ…デゥフヒヒ…フヒッ

 

 

「はっ…」

 

わたしは気がついたら四つん這いになってにっこりしていた。

くっ…また禁断症状が…

 

 

 

我に帰ったわたしは地面から手を離し、

手についた砂をはらった。

 

とにかく、ポーズで時間を止めて魔物たちを倒しつつガルドを稼ごう。魔物よ申し訳ない。

卑怯とかいうなや。こっちは丸腰なんや。せめて時間止めさせてくれや。

 

わたしは時間を止め、魔物をちまちま攻撃する作戦でいくことにした。

 

いくら時間を止められる能力があろうが、わたし自身の強さは変わらない。

わたし弱っちいからなあ…

一匹倒すのに何時間かかるんだろう。

 

わたしは自分の非力さにため息をつきながら少し歩く。

さっきから魔物にまったく会わないのは運がいいのか悪いのか。

 

「おっ」

しばらく魔物を探して歩いていると、

砂浜のほうにクラブマンを見つけた。

 

クラブマンは赤いカニ型の魔物で、大きな体格とハサミ、硬い殻が特徴だ。

いきなり素手じゃ倒せそうにないんですがそれは。

 

わたしはさっそくポーズを使い、魔物の動きを止めることにした。

わたし特有のこの術は武醒魔導器(ボーディブラスティア)を必要としないのがありがたい。

 

「ポーズ!」

 

わたしがそういうと、わたしの足元に紫の魔方陣が出現した。

よくわからない文字列が入った立体的な魔方陣が、わたしの周りに組上がっていく。

 

なんとも美しい光の乱舞。

さすがテイルズ世界。無駄に厨ニ心をくすぐる演出だ。

 

キュイイン、という音とともに

テルカ・リュミレースの時間が動きを止めた。

さっきまで聞こえていた波の音も、風に揺れる木も。

全てが停止している。

 

辺りの物音が消えるとこうも静かなのか…。

この静けさは、一種の不気味さを含んでいる。

 

わたしはとりあえずクラブマンに殴りかかった。

慣れていないのでフォームがなんともマヌケだ。

 

「せいっ」

 

力いっぱい殴る。

わたしの拳がクラブマンの硬い殻に当たった。

 

 

 

バキャアァ!!

 

 

 

 

ファッ!?

 

クラブマンの殻が、ものすごい音をたてて砕ける。

わたしは状況が理解できず、口をぽかんと開けた。

 

なんだこれ。なんか余裕で殻砕けちゃったぞ…

魔物ってこんな軟弱な生き物だったのか?

 

 

...まさか。

 

わたしは自分のステータスみてなかったことに気がついた。

 

自分のステータスメニューを開こうとわたしが手をかざすと、

それに呼応するように光が集まって、パーティーメンバーのステータスがみられるあの画面が宙に現れた。アニメ調の自分の絵があって恥ずかしい。

 

というか無個性だな。まさにモブって感じの見た目じゃないすか。

さてわたしのステータスは…

 

 

 

 

よだか

 

Lv326

HP9999 MP9999

 

…あ…察し

 

 

HPもMPもカンストしてるや!!わあああい!!!

 

わたしはMPのあたりまで見て色々察した。

 

わたしのレベルはなんと、わたしがやっていたテイルズオブヴェスペリアの最新データのユーリと

同じレベルだった。

 

 

わたしは確実に理解することができた。

 

 

わたしがプレイしたヴェスペリアの“ゲームデータ”が、今のわたしに影響しているんだ。

 

 

 

いやでもこれ、わたし今のところ技なんて大層なもの覚えていないぞ。

 

ただ腕力つよいだけじゃねえか。ゴリラかな?

腐女子からゴリラ系腐女子に進化かな?

 

 

 

わたしは嬉しいのか悲しいのかよくわからない心持ちで、

魔物狩りに励んだ。




森園よだか…腐女子の主人公。たまにネットで使われるような変な口調になる。

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