少女は目の前の敵に肉薄した。
敵は背を向けており絶好のチャンスだった。
振られた刃は―――受け止められた、あっさりと。
驚きに目を開かせた次の瞬間、ぞぶりと彼女の腹に長剣が突き刺さった。
長剣はそのまま腹を掻き回し、臓腑を抉った。
彼女は血を吐きながら叫んだ。
「□□□ーーーーーーーーーー!」
そしてそのまま
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
煙草を取り出して一服した俺はちゃっちゃと迷宮の奥に進むことにした。
ここでちょっとばかし裏技を使う。
取り出したのは淡い紫色の結晶、それに触れながら俺は言葉を口にする。
【ステルス】
瞬間、俺の身体は不透明になる。
この結晶はグリモア、樹海の生物の技を封印した不思議な結晶だ。
持っているだけでいろいろな技を使えるようになり戦術の幅が増えるのだが、デメリットも存在する。
雑魚の能力ではそこまで問題ではないのだが、深層や高層のモンスターの技となれば事情が違ってくる。
人間の身で発動すればごっそりと体力が削り取られるのだ。
自分も少し前までは樹海にて強敵と戦う際に慎重に使わなければならなかったが、今ならその負担も気にならない程度には抑えることができている。
さて、この【ステルス】の効果はおおよそ3分前後。
今のうちに入り口でたむろしているあいつらの間を抜けていくことにする。
◇
「いきなりどこへ……。一人で勝手に行くつもりか?」
迷宮に行こうとしたユーシスにマキアスが声を掛ける。
「馴れ合うつもりはない。それとも”貴族風情”と連れ立って歩きたいのか?」
自分の発言を皮肉で返されマキアスは「ぐっ」と言って返答に詰まってしまう。
それを見たユーシスは明らかに挑発するような物言いで
「まあ――魔獣が怖いのであれば同行を認めなくもないがな。武を尊ぶ帝国貴族としてそれなりに剣は使えるつもりだ。貴族の義務として、力無き民草を保護してやろう」と言い放った。
それに対してマキアスは
「き、貴族に守られなくても僕は魔獣を蹴散らせる!!!」
と怒って叫び、肩を怒らせながら迷宮へと走って出て行ってしまう。
ユーシスはマキアスの発言に鼻を鳴らして迷宮へと去って行ってしまった。
残された7名は呆然としていたが、ラウラが再起しある提案をした。
「とにかく我々も動くしかあるまい。念のため数名で行動することにしよう。」
アリサ、エマ、フィーに顔を向けながらこう言った。
アリサとエマはこれに対して
「え、ええ。別に構わないけれど。」
「私も…正直助かります。」
と賛同したが、フィーはラウラたちの制止を聞かず一人で行ってしまった。
何かを追いかけるかのように。
そのあとはラウラたち女子三人は迷宮の中に入っていき、広間にはガイウス、エリオット、リィンの三名が残っていた。
彼等はそれぞれ自己紹介と自らが使う武器について簡単な説明をしあって、迷宮に入っていった。