あのオリエンテーリングから一週間後の休日。
毎週の最終日は自由行動日とされ、生徒によってはトリスタ近郊の町に鉄道を使って買い出しに出かけたり、トリスタ周辺の池や山に散策に行くなど思い思いに過ごしている。
かくいう俺も山に来ている。
目的は散策ではない。学院からの依頼で近隣の山などの生態調査に駆り出されたのだ。
まずは、森近くの導力灯の点検を行う。
つい一か月ほど前に交換したらしいのだが、俺が学院に入学する前に結構でかい嵐が来たらしく、それで故障してないかどうかの点検をしてほしいらしい。
俺は技術棟で受け取った説明書と導力灯の内部を確認しながら順繰りに回っていく。
数時間後
とくに故障らしい故障はなく中にある導力灯の光も正常通りだったのでよしとする。
もう一つは本題である生態調査だ。
近年、世界樹の迷宮の生物が各地でちらほらと出現しているらしく、もしいた場合は本国に連絡して討伐隊を派遣してもらう予定らしい。
まぁ、俺が討伐隊に組み込まれるのは確実だろう。
ここに入るときに帝国側はししょーのことを持ち出してきた。
「貴殿の師によってこちらの軍隊に甚大な被害をこうむった。それを償ってほしいのだが、金銭ではなく貴殿の国の魔物が発生した際貴殿の働き具合によっては金銭的な問題等はこちらが受け持とう」
要はししょーの尻拭いだ。
「なんで俺が・・・」とは思ったが、ししょーが素直に責任を取るかといわれると
『絶対嫌!』という光景しか見えない。
ししょーの仲間も拒否するだろう。
そもそも俺が住んでた国はつい最近までほかの国との交流を断絶していたからか、外交に慣れていない。
執政院や元老院のお歴々がいなかったら帝国に飲まれていただろう。
あいつら頑固だが、さすがは魔物の巣窟で生き抜いてきたやつらだから外交については丸投げでもOKだった。
姫様もこの時ばかりは感謝していた。
父親もやっと最近になって病から復帰したばかりだったからな・・・
ししょーたちのせいでこうして小間使いのごとく駆り出された生態調査だったが、結果は空振りに終わった。
特に世界樹の魔物が出現したような痕跡はなかった。
出現すれば、魔獣の生息域が大幅に変わることが報告されているのでその変化がなかったところを見ると問題はないようである。
上を見上げてみれば太陽はもう頂点に差し掛かっている。
今戻ってもトリスタの町にあるレストランは満杯だろうし、キルシェや学生食堂もほぼ満員に近いだろう。
そうなったら、あとは
「自炊か」
俺はオリエンテーリングの日に向こうから持ち込んだ食材で料理を振る舞ったのだが、それに目をつけられてか毎日晩御飯は俺が作っている。
俺の部屋には深海樹の幹で作られた冷蔵庫もどきが置いてあるから食料が腐ることはない。
のだが・・・
「もう食材がゲテモノ系しか残っていないのがなぁ・・・」
冷蔵庫の中身はシカの肉が少しとあとはマイマイの切り身や泥やら壁やらカエルの肉だったり蝙蝠の羽だったり普通の方法では調理できないものしか残っていない。
もしこれまでの食事の質を提供しようと思ったら、どこかで調達してこなければいかないのだが・・・
「あ、カマキリの肉があったか・・・でもなぁ」
俺はぼやきつつトリスタ街道を歩いて学院に戻ることにした。
オリジナルアイテム
深海樹:
海の都で伐採される青い幹が特徴の樹木。
老齢な樹木になればなるほど幹の色は濃くなり、最終的には深海のような色になることからこの名前が付けられた。
特徴としてはある程度の冷却効果が働くため部屋に加工したものを置くことで涼しくしたりできる。
老齢の樹木であれば冷却効果は極めて高く、たとえ炎天下にあろうとも深海樹でつくられた保冷庫の中は真冬並みの温度が保たれるという。