キングダム別伝   7人目の新六大将軍   作:魯竹波

6 / 50
第六話 蕞防衛戦一日目

大王様は僕たちの南壁にいる。

 

僕は飛信隊の百人将・田有さんの部隊ということで、民兵の中でも期待されている部類なのだろう。

 

「おう。 さっきのチビスケじゃねえか。」

 

田有さんは僕にそう言ってきた。

 

「よろしくお願いします。」

 

僕は田有さんにそう挨拶した。

 

 

 

 

蕞の城壁には趙の兵士ばかりがたくさん登ってきた。

 

李牧め 虚勢張ったな。趙兵しかいないじゃないか

 

「うらぁあああっ! 」

 

田有さんの矛は威力があり、趙兵の首を一気に4、5人は切り裂いた。

 

「す、すげえ」

 

僕をはじめとする蕞の民兵は圧巻されるばかりだ。

 

「おらどうした野郎共! もうへばってんじゃねえぞ!」

 

田有さんの叫びに僕たちは

 

「「おう!」」

 

と叫び、趙兵に矛や槍を突き立てる。

 

 

「うりゃあああっ!」

 

僕も矛で趙兵の腹を割く。

 

「ぐっ!」

 

趙兵の腹から腸と、そして血が飛び出てくる。

 

気持ちが悪い。

 

「うわああああっ!」

 

僕は趙兵を腸に矛を突き刺してすくい上げて南壁から下に放り込んだ。

 

「うっ」

 

「ぎゃぁあああっ」

 

2名ほどその死体に巻きこまれ、梯子から落とされたようだった。

 

「……………。」

 

趙兵の死体から出てきた腸が脳裏に焼き付いた。

 

その後も僕は10~20人くらいの趙兵を殺した。

 

どんどん人を殺せば殺す程、心がすり減っていく気がした。

 

 

 

 

 

 

そうして蕞防衛戦一日目は夕暮れを迎えた。

 

李牧をよく知らないが、僕の予想に比べればあまり力を入れてない気がした。

咸陽の攻略に割く戦力を考えて、戦力を温存しているのかもしれない。

 

そして、そんなことを考えていてもやはり脳裏によぎるのは、兵士の腸だ。

 

他の民兵は蕞防衛戦一日目を乗り切った興奮のが勝っているようだけど、僕にはそう簡単には割り切れない………。

 

 

「どうしたチビスケ」

 

そんな呆然としていた僕に田有さんが話しかけてきた。

 

「田有さん…………。」

 

「どうだ? 初めての戦は?」

 

「僕…………。」

 

「ふっ  そうだろうな。

初めてだろうな 人を殺したのは。

 

初めて人を殺した日にはな、その日の夜は夢にそいつの顔が出てくる。

 

そして、それが薄れてくるころには、もう何百人も葬ってるって寸法だ。

それが、戦ってもんだ。」

 

「……………。」

 

「だが、だからって逃げてもいらんねえぞ。

明日に備えて今日はせいぜい休め」

 

「……………はい。」

 

 

 

 

夕暮れからすっかり夜になった。

 

僕は夜目が大変よく利く。

 

僕は戦の初日にも関わらず蕞の城壁から城下を眺めていた。

 

すると

 

「「「うおおおお」」」

 

大声が城の下から聞こえてきた。

 

ついでに矢も射こまれた。

 

趙兵の夜襲だ。

 

 

 

しかしながら、変だ。

 

城下から見える人数はやたら少ない。

 

てか、真下には殆ど兵士がいない。

 

「……………本気ではないのか。」

 

多分こちらを疲労させるつもりだろう

 

大王様達は気づいているのだろうか?

 

急いで知らせに行こう。

 

すると

 

「迎撃態勢だ野郎共っ!」

 

飛信隊・信が迎撃態勢を取ろうとする。

 

全弓兵が暗闇に向かって矢を放とうとしている。

 

「いけないっ」

 

僕は大王様のいる高楼に向かった。

 

 

 

 

「大王様に至急、お知らせしたい儀がございます!」

 

「何者だ お前は 大王様に何の用がある!」

 

衛兵に止められたが。

 

「構わん 通してやれ」

 

大王様は僕を通してくれた。

 

「確か章覇とかいったな。

何かあったのか?」

 

「直ちに弓兵を半分休ませ、残りの弓兵には1回で2本の矢を射させるようにしてください!

これは敵の作戦です

我々を疲れさせようとしているんです。

そして敵は戦力を温存する気です!

 

城壁の下、およびこちらの矢の射程圏内には敵はほとんどいません!」

 

「それ、本当なの?」

 

妙な服を着た少女が食い入るように近づいてきた。

 

「……………どちら様でしょう?」

 

「河了貂だ。 飛信隊の軍師をしている。」

 

大王様から紹介が入る。

 

「よろしく。 それで、今の話は本当?」

 

「はい。 間違いありません。 

蕞の城の真下には敵はほとんどいません。

僕は夜目が利くので分かります。

お疑いなら、火矢を大地に向かって射込んでみて下さい。」

 

「やってみて。」

 

河了貂さんは近くの衛兵に命じて火矢を射こむ。

 

火矢に照らされた地面にはやはり兵士は映り込まない。

 

10本うった結果、河了貂さんは完全に信じてくれた。

 

「……………確かにいない…………。

教えてくれてありがとう。」

 

河了貂さんは僕に頭を下げた。

 

「弓兵の半分は休ませて、残り半分には大声を出させ、1射で2本射させるようにしてほしいと信や壁、昌文君と介億先生にも伝えて。

敵の夜襲がこちらを疲れさせる作戦だとも。」

 

「はっ」

 

河了貂さんは伝令兵にそう伝えた。

 

大声を出すようにすることと、1射で2本の矢を射させるようにするのは、矢数の減少・声量の減少により蕞の兵士が休みに入ったことが明白となった結果、敵の作戦が露見したことを敵に悟らせないようにするためだ。

 

蕞は南道の武器庫と言われており、矢数も尽きる心配が無いからこそ出来る芸当だ。

 

「そなたにはまた救われたな 礼を言う。」

 

「いえ。 信じてくれただけで嬉しいです大王様。」

 

憧れの大王様を前にして、僕はそれだけ言うのがやっとだった。

 

「では、そなたも休め。

明日に備えて。」

 

「失礼致します。」

 

 

 

こうして、蕞防衛戦一日目は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日目・夜明けくらいに僕は目を覚ました。

 

正直、あまり寝た気がしないが、周りは敵の喚声で寝られない人たちだらけであっただけ、僕は神経が図太いのかもしれない。

 

だが、寝た気がしない最大の要因はやっぱりあの腸が夢の中にも出てきたからだ。

凄く迷惑な腸だ。

 

 

 

 

そして僕は城の真下を見た

 

「やっぱり…………。」

 

弓兵の射程圏内に趙兵はやはり殆どいなかった。

 

空振った矢が大量に地面に突き刺さっていた。

 

だが、2本同時に射たことで生まれた、不自然な程飛距離が短い矢が多すぎた。

 

多分李牧に、こちらの弓兵が半分休んだことは露見しただろう

 

 

 

 

 




李信 最終能力値 想定

武力98
知力47
政治力31
魅力97
采配98
 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。