ーーー(視点:???)ーーー
一日目を迎え、隆国軍と対峙している俺は奴を大分押し込んでいた。
奴を押し込んだなら、主攻であろう騰の軍は孤立せざるを得なくなるからだ。
この戦、恐らくはこちらの勝ちに終わるだろう。
玉鳳隊と飛信隊は……………5000か。
5000規模であれば、主攻とするには脆弱。
恐らくは助攻であろうから、この際は気にする必要は無い。
ん?
何やら急ぎの使者が来おったわ。
「殿っ! 」
「どうかしたか?」
「大変です。 弟君の早様が…………。」
「? 愚弟がどうかしたか?」
「敵に捕縛されました!!」
「何っ」
あの愚弟…………その戦術眼は決して凡庸な訳ではない。
王騎や廉頗には劣るかもしれぬが、そんな化け物連中を幾度となく寄せ付けなかった。
そんな堅実な用兵をする男だ。
「敵は…………確か飛信隊。」
「左様で御座います」
飛信隊か…………意外にやるようだな。
「それで、戦況はどうだ?」
「は! 飛信隊・玉鳳隊共に、味方の第一陣の前線部隊を撃破。
二隊が凱孟様・紫伯様の陣を抜けられたならば、鳳明様の本陣を抜けられてしまいます!」
紫伯様に限るならその恐れはない…………が、凱孟様ご本人は戦下手だ。
奇策に出られたら抜けられぬこともないし、抜けたとして予備隊に絡め取られるだけだから、まあ心配には及ばんが、警戒するに越したことはない。
「凱孟様の陣へ向かう。 直ちに支度せよ」
「はっ!」
ーーー(視点:主人公・章覇)ーーー
著雍争奪戦は2日目を迎え、僕等は敵本陣への道まであと少しというところまで来ているが、如何せん、この日に敵本陣に到達する訳にはいかない。
今日の作戦はより少ない味方の戦力でより多くの敵兵力を削るのが主旨だ。
「敵軍師は捕縛して味方の陣にいる。
だからといって、決して油断してはならない。
今日は、敵軍14000を出来るなら10000程に削っておきたい。
飛信隊、殺るぞ!」
「「オーッ!」」
河了貂さんの檄のもと、飛信隊、総勢4000程が敵に突っ込む。
今日は昨日とは異なり、本陣に突っ込ませる精鋭の半分以上を後方に休ませ、比較的弱い兵士を主とした消耗戦を展開する。
信さんは凱孟に狙われるため、精鋭を持たない。
かといって羌瘣さんも昨日でその部隊の恐ろしさを警戒されているので、今日は精鋭を率いていない。
今日、精鋭を率いているのは、麃公将軍の兵の一部で編成された飛信隊の最精鋭・飛麃の岳雷千人将だ。
飛麃のうち250人が今日の前線に参加している。
攻撃部隊の右翼に田有さん、左翼に僕がつき、全体的に左側に密集しているのがそれだ。
そして今日の先鋒は羌瘣さんで、右翼は信さん自らがこれを率い、脇を竜川さんと渕さんが固めている。
昨日で深刻な被害を受けた楚水さんは後方で待機していた。
やはり、凱孟本人は戦下手なようだ。
中央に敵の精鋭騎馬4000が固められており、動く気配が無い。
左翼右翼両方に弱兵が集中しており、凱孟本陣がかなり前方にあるため、遊兵率も極めて高い。
これならば、安心して両翼を削れる…………。
そう皆が安堵していた、次の瞬間、僕等の左翼後方に、異変が起きた。
突如出現した敵の部隊が、僕等のいる左翼の攻撃部隊を孤立化させるべく、分断しに動き出したのである。